ペットの遺灰もOK！ 衝撃のアイデアで、ビジネス賞も受賞
葬儀も埋葬の仕方も多様化してきている中、花火を上げて故人を見送る人たちがいる。しかも、花火に遺灰を混ぜて夜空にまくというから驚かされる。
集まった遺族や友人らは、シャンペングラスを手にし、故人の好きだった音楽をバックに遺灰を詰めた花火を見つめる。そんな日本では到底考えられない｢花火供養｣が、イギリスで少しずつ広まりつつある。
出席者全員が忘れられない夜を過ごせる
ロンドン近郊のエセックス州エッピングにあるHeavens Above Fireworks社（ヘブンズ・アバブ・ファイヤーワークス社）は、イギリス国内で花火供養を請け負っている。2004年に設立した。
同社サイトで紹介している花火供養のビデオを見たとき、目を疑った。競馬が大好きだったという女性が、死後に競馬場で花火供養をしてほしいという願いを残した。遺族は遺言通りに、同社で花火供養を企画した、その模様をテレビ番組が放映したのだった。
故人の遺志ではなく、遺族が企画する場合もある。10代の若さで亡くなった少年の両親は、息子が迎えるはずだった誕生日に、同社で花火供養を企画した。少年の遺灰は花火とともに空に舞い散った。親族や友人220人が集まるという盛大な催しになった（花火供養の様子はこちらから）。
花火供養は葬儀後、日を改めて数週間後、数カ月後に行う。サイトには、同社に花火供養を依頼した人たちからのコメントがズラリと挙がっている。
「花火は最高でした。出席者の誰もが忘れられない夜を過ごしました」「妻の人生をとてもよく表現してくれたと思います」「亡くなった主人も、あの花火を気に入ったに違いありません」「スタッフの心遣いは最初から最後まで、本当に素晴らしかったです」「同社のサービスは、ほかのみなさんにも絶対にお勧めします」
「わが社では、遺灰を花火に混ぜる供養だけをご提供しています。類似のサービスはいろいろ知っていますが、花火で散骨することに特化しているのは世界中を探してもわが社だけです」
そう強調するのはファーガス・ジェイミーソン（Fergus Jamieson）同社経営責任者だ。花火供養というと、遺灰を花火に混ぜずに花火だけを観賞する会をオーガナイズしてくれる企業はたくさんある。私は、同社で遺灰を花火に混ぜる顧客はごく一部で、多くが遺灰なしで花火だけなのではと思って、氏に問い合わせたのだ。
｢故人の最後の願いだから｣と自治体も供養に理解を示す
それにしても、こうして個人で大がかりな花火を上げたり、遺灰を空中にまくという散骨が、なぜ割合簡単にできるのだろうか。
「花火を上げる場所の自治体には、書面を提出しなくてはいけません。安全面に関してと保険の証明です。これは、祭りなどのイベントで花火を上げる場合でも同じです。イギリスでも、そして、おそらくほかのどこの国でも、個人が花火の打ち上げの許可を得るのが難しいことは確かです。
ですが、わが社に対しては自治体は理解を示してくれます。花火供養は故人の最後の願いだし、故人はそこに住んで地域と深いかかわりがあったわけです。亡くなった家族からの希望に対して、自治体も最大限のことはしようという姿勢ですね」
ヨーロッパに暮らしていると、個人がきわめて尊重されていると肌で感じるとはいえ、役所がこんな柔軟な態度を示しているとはとまたびっくりさせられる。
打ち上げ場所は様々だ。公共の土地、ゴルフ場、競馬場、海辺、崖の上、大きなホテル敷地内、私邸などで、常に安全な所を選んでいる。
「ご家族の希望場所が花火打ち上げには小さすぎたり、あまり安全ではないということもあります。でも、ご希望にできる限り沿うような場所を探します。土地所有者からの許可も必要で、お客様ご自身で手続きをしてもらってもいいですが、サービスの一環として私たちが請け負うことが多いです」
遺書に「花火供養を」と残したい人たちが増えてきた
ジェイミーソン氏が同社を設立したきっかけは、ラジオ番組だったという。番組を聞いていたある女性が、「花火に遺灰を混ぜてもらえたらどんなにかいいのに」と語った。その願いを聞いて、氏はハッとした。そして花火供養について深く考えるようになったという。
人々の意識について、下調べもした。ほとんどの人が、伝統的な葬儀やお別れに代わるものとして、遺灰を花火に混ぜて打ち上げるということは思いつきもしていなかった。当時は、一般の花火業者らでさえ、お別れとして遺族たちに普通の花火を使ってもらうといったこともまったく行っていなかった。
起業後、同社のことがイギリスの人たちに知られるようになったのは、地元エセックスで行った男性のための花火供養だった。ロンドン・イブニング・スタンダード紙がこの花火供養を紹介したことで、ほかの新聞が次々と同社について報道し始めたという。それはそうだろう。こんなに変わったことが、マスコミの注目を集めないはずがない。
そして同社は、いまや多くの人たちから「花火供養をしたいと遺書に残したいが、どう書くべきですか」といった問い合わせを受けるようになった。
「こう書いたらよいでしょう、というアドバイスは差し上げています」とジェイミーソン氏。
花火供養で、家族の意見が合わないことも
同社では、顧客の宗教に関係なく花火供養を提供している。ジェイミーソン氏によると、まだそれほど多くはないが、イスラム教やユダヤ教の信者からも問い合わがあるという。宗教的に供養の仕方を決められていても、花火供養は魅力的に映るのだ。
ただし、ジェイミーソン氏は、花火供養に対して客観的な視点も持ち合わせている。
「花火供養は、皆さんが考える選択肢の1つになったとはまだ言えないと思います。わが社は何百という花火供養の実績を持っていますが、1年間に亡くなる人全体の数から見たら、普通とは違う選択としては、まだ芽を出したばかりの状態と言えるでしょう。
でも、普通とは違うアプローチというカテゴリーの中で見れば、わが社の花火供養はかなりの注目を集めているでしょうね」
同社に花火供養を依頼した人たちは非常に満足している一方で、残された家族の中には花火供養を躊躇する人たちもいるという。
「故人が遺書や何かの書面に花火供養をしてほしいと書き残した場合は、家族たちは遺志に従います。でもそうではない場合は、花火供養をしようという案が出たとき、1人だけ反対するケースもありますね。
私はいつも、全員の方々の意見を踏まえて決断してくださいとご家族に申し上げています。ご家族は、普通はご夫婦、お子さんたち、ご両親だと思いますが、ほかのご親族を含める場合もあるでしょう。そのご家族は、通常の話し合いとは違うこととして花火供養について相談すると思います。デリケートな問題で熟慮が必要です。誰が反対か、またどの程度反対かということを踏まえ、最終的に、花火供養をあきらめるといったケースも時々あります」
死者のために空に舞い散るあでやかな花火を、というのは、いまの常識から見たら、やはり少し行き過ぎの感じを受ける人もいるのだ。
しかし、Heavens Above Fireworks社は「故人自身が人生の終わりを飾れるように、そして残された家族や友人たちもより印象深いお別れを告げられるように」と非常に真剣に事業に取り組み続けている。
筆者：岩澤 里美
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