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新聞・週刊誌「三面記事」を読み解く
【第12回】 2012年11月30日
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降旗 学 [ノンフィクションライター]

大阪で中国人留学生が暴行被害
日本人なら誇りをなくすな、と私は思うぜ

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 またやっちまったかという思いで私は記事を読んでいたが、女性が大声をあげて抵抗したため、犯人は凶器のカッターナイフとスプレー缶をその場に残し、自転車で逃走したとある。

 逃げた犯人は“女”だった。年齢は三〇~四〇歳くらいで、体型は細身らしい。

 そこで、おや、と思う。てっきり、反日デモの報復として中国人女性を襲った事件だと私は思い込んでいて、だとすれば卑劣極まりないとしか言いようがないが、女性を襲った犯人は、女なのだ。

 反日デモの報道を見て感情的になった女性が日本にいる中国人女性を襲うこともないわけではないだろうが、その可能性は低いように思えて私は考え込んでしまった。この事件は、最初から中国人を狙った事件なのだろうかと。

 殺傷事件を起こした犯人の論理が破綻しているケースがときおりあって、そういうとき、たいがいは幸せそうな人が妬ましかったとか、襲うのは誰でもよかったという動機を吐く。通り魔的な事件は、標的が無差別なのだ。

 中国人の反日感情は相も変わらず強固なもので、日本人の多くも、決して中国人に好感情を持っているとは言えないのが現状だろうと思う。朝日新聞が日中両国で行なった世論調査(八月八日~九月二〇日)では、いま日中関係が“うまくいっている”と応えた人は、日本人五%、中国人十四%という割合で、そうは思わないと応えた人は日本九〇%、中国八三%だった。

 十年前の同じ調査では、四一%の日本人がうまくいっていると応え、中国は五〇%の人がうまくいっていると回答していたにもかかわらず、だ。十年一昔とは言うが、たった十年で国民感情というのはこうも激変してしまうものなのか。

 だが、両国の関係がよくないからと言って、それぞれの生活を脅かすような行為はあってはならない。日本人が嫌いという理由で日本企業を襲う、中国人にやられたからという理由で中国人に危害を加える……、それこそが蛮行であり、愚の骨頂だ。

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降旗 学[ノンフィクションライター]

ふりはた・まなぶ/1964年、新潟県生まれ。'87年、神奈川大学法学部卒。英国アストン大学留学。'96年、小学館ノンフィクション大賞・優秀賞を受賞。主な著書に『残酷な楽園』(小学館)、『敵手』(講談社)、『世界は仕事で満ちている』(日経BP社)他。


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三面記事は、社会の出来事を写し出す鏡のような空間であり、いつ私たちに起きてもおかしくはない事件、問題が取り上げられる。煩瑣なトピックとゴシップで紙面が埋まったことから、かつては格下に扱われていた三面記事も、いまでは社会面と呼ばれ、総合面にはない切り口で綴られるようになった。私たちの日常に近い三面記事を読み解くことで、私たちの生活と未来を考える。

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