ダイヤモンド社のビジネス情報サイト
新聞・週刊誌「三面記事」を読み解く
【第12回】 2012年11月30日
著者・コラム紹介バックナンバー
降旗 学 [ノンフィクションライター]

大阪で中国人留学生が暴行被害
日本人なら誇りをなくすな、と私は思うぜ

previous page
2
nextpage

 そんなやつをとっ捕まえたのだから、こいつの身柄と引き換えに、北朝鮮に拉致されている日本人を即時解放させりゃいいじゃねえか――、と思ったものだが、何故か、どういうわけか、日本国政府はいとも簡単に、あっさりと金正男を退去処分に処した。

 ときの与党は自民党で、内閣総理大臣は小泉純一郎。外務大臣は田中真紀子だった。中国人船長を逮捕したとき、民主党は、かつての自民党のこのやり方に倣ったのだろう。金正男ほどの重要人物ではないが、逮捕した漁船の船長を起訴もせずに釈放したのだから。

 中国政府が用意したチャーター機で帰国した船長は、まるで英雄のような扱いを受けていた。そういえば、寸又峡の温泉宿に立て籠もり“ライフル魔”と謳われた金嬉老も刑期三〇年を経ての仮釈放で韓国に渡航した際、扱いは英雄そのものだった。

 なめられたものだと思わないか、日本国。というより、外国で犯罪を犯したやつの帰国を英雄として受け入れる国って何なのよ。日本人は重信総子や田中義三を英雄になんか祭りあげないぞ。

 尖閣諸島問題は、二年前の漁船体当たり事件を機にいよいよ焦臭くなる。

 中国側はこれ見よがしの領海侵犯を繰り返し、今年の夏には魚釣島に強制上陸した活動家も出た(逮捕後に強制送還)。それに対抗するかのように、日本の地方議員らも魚釣島に上陸を試みたりもした(事情聴取のみで逮捕はなし)。

 領土問題に台湾を巻き込むあたり、中国のやり方は巧妙で陰湿だ。船団を繰り出せば、中台の漁師さんたちは中国当局から“お手当”をもらえるらしい。

 中国側を大きく刺激したのは、煮え切らない政府に業を煮やした石原慎太郎都知事(当時)による尖閣諸島の買い取り案だ。都知事の呼びかけに十五億円近い寄付金が集まり、都が諸島所有者と交渉をはじめた途端、政府が尖閣諸島の“国有化”を宣言した。今年九月十一日のことだ。

previous page
2
nextpage
Special topics
ダイヤモンド・オンライン 関連記事


DOLSpecial

underline
昨日のランキング
直近1時間のランキング

話題の記事

降旗 学[ノンフィクションライター]

ふりはた・まなぶ/1964年、新潟県生まれ。'87年、神奈川大学法学部卒。英国アストン大学留学。'96年、小学館ノンフィクション大賞・優秀賞を受賞。主な著書に『残酷な楽園』(小学館)、『敵手』(講談社)、『世界は仕事で満ちている』(日経BP社)他。


新聞・週刊誌「三面記事」を読み解く

三面記事は、社会の出来事を写し出す鏡のような空間であり、いつ私たちに起きてもおかしくはない事件、問題が取り上げられる。煩瑣なトピックとゴシップで紙面が埋まったことから、かつては格下に扱われていた三面記事も、いまでは社会面と呼ばれ、総合面にはない切り口で綴られるようになった。私たちの日常に近い三面記事を読み解くことで、私たちの生活と未来を考える。

「新聞・週刊誌「三面記事」を読み解く」

⇒バックナンバー一覧