そんなやつをとっ捕まえたのだから、こいつの身柄と引き換えに、北朝鮮に拉致されている日本人を即時解放させりゃいいじゃねえか――、と思ったものだが、何故か、どういうわけか、日本国政府はいとも簡単に、あっさりと金正男を退去処分に処した。
ときの与党は自民党で、内閣総理大臣は小泉純一郎。外務大臣は田中真紀子だった。中国人船長を逮捕したとき、民主党は、かつての自民党のこのやり方に倣ったのだろう。金正男ほどの重要人物ではないが、逮捕した漁船の船長を起訴もせずに釈放したのだから。
中国政府が用意したチャーター機で帰国した船長は、まるで英雄のような扱いを受けていた。そういえば、寸又峡の温泉宿に立て籠もり“ライフル魔”と謳われた金嬉老も刑期三〇年を経ての仮釈放で韓国に渡航した際、扱いは英雄そのものだった。
なめられたものだと思わないか、日本国。というより、外国で犯罪を犯したやつの帰国を英雄として受け入れる国って何なのよ。日本人は重信総子や田中義三を英雄になんか祭りあげないぞ。
尖閣諸島問題は、二年前の漁船体当たり事件を機にいよいよ焦臭くなる。
中国側はこれ見よがしの領海侵犯を繰り返し、今年の夏には魚釣島に強制上陸した活動家も出た(逮捕後に強制送還)。それに対抗するかのように、日本の地方議員らも魚釣島に上陸を試みたりもした(事情聴取のみで逮捕はなし)。
領土問題に台湾を巻き込むあたり、中国のやり方は巧妙で陰湿だ。船団を繰り出せば、中台の漁師さんたちは中国当局から“お手当”をもらえるらしい。
中国側を大きく刺激したのは、煮え切らない政府に業を煮やした石原慎太郎都知事(当時)による尖閣諸島の買い取り案だ。都知事の呼びかけに十五億円近い寄付金が集まり、都が諸島所有者と交渉をはじめた途端、政府が尖閣諸島の“国有化”を宣言した。今年九月十一日のことだ。