ちょっと言葉を交わしただけなのに、鮮やかな印象を残す女性が希にいる。中国人留学生の房満満さん(22歳)は、そんな女性の一人である。
彼女は北京にある中国伝媒大学日本語学科を卒業し、早稲田大学大学院のジャーナリズムコースで学ぶ。3ヵ月前、私がそこでメディアの病理について話したら「でも私は日本のメディアに就職して日中友好に役立ちたい。それが私の夢なんです」と真剣な眼差しで言った。
物怖じせず、意思をはっきり表す。といって押しつけがましさが微塵もなく、涼やかな笑顔で人を和ませる。記者に最も必要な、相手の胸襟を開く才能に恵まれた娘さんだ。
彼女ならきっと夢を叶えるだろう。と思っていたら、尖閣諸島を巡る緊張が急に高まり、日本人の反中感情が噴出した。彼女はそれをどう感じているのか。嫌がらせされたりしていないだろうか。
胸の内を知りたくて、新橋の居酒屋で話を聴いた。
「嫌がらせはまったくないです。むしろ皆さん、すごく優しくしてくれます。『いま大変だろうから一杯ご馳走するよ』と言われたり、励ましメールをもらったり。昨日も母から『虐待されていないかい?』と電話があったので、そう言ったら安心してくれました」
それを聞いて、私も少しホッとした。房さんはつづけて言う。
「同じことを中国人に言ってるんです。『君たちが反日デモやってるのに、日本にいる私に日本人が優しくしてくれるんですよ。これは何なんだ。考えてくれ』って」
彼女にとって、中国と日本は母と父のようなものだ。両国がもめると、両親が夫婦喧嘩をしているように感じる。子どもとしては何とか仲裁したいのだという。
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