地図を見ていると飽きない。見知らぬ街の気配を想像する至福の時。山里なら、なおときめく。頭で立体地形を組み立て北へ南へ。次の出立に思いをはせる。見るだけで実景が描けるようになれば、免許皆伝▲
ただ、ある約束事がその前提に立つ。「上が北」である。失礼ながら、地図では高知の「上」に愛媛がある。アジア大陸の「下」に日本がある。いわく。北上する。南下する。「南北問題」の言葉さえ。刷り込まれた錯覚▲
それが、知らぬ間に政治や経済、文化、県民性にさえ影響を及ぼしていないだろうか。南の途上国に対する日本の姿勢に。北の中国やロシアに抱く国民の思いに。地図に刻まれた歴史が、地域の生い立ちをも規定してきた▲
既成概念を破る地図がある。富山県が、日本海を軸に南を上にした「逆さ地図」を改訂した。日本の重心は富山沖、との分析を契機に「環日本海の拠点」をPRしようと作成。評判になり、国内外の情勢変化を受けて刷新▲
じっくり見る。脳が追いつかない。もちろん、高知は愛媛の上。日本の下がアジア大陸だ。ふと思う。上下は相対的概念。自由な発想で描いてみよう。左右も前後もない世界を▲
ますます飽きない。逆さにして、やけに新鮮な世界の魅力。地図上で可能なのだから、現実の国も、社会も、よりしなやかな発想を―。そうすれば「南北問題」も解消だ。