酒を飲んだ翌日に酒気帯び運転で摘発されたことを理由とする懲戒免職処分は重すぎる、とする判決が長野地裁であった。
飲酒運転が許されないのは言うまでもない。一方で、直ちに懲戒免職にするのは厳しすぎると感じる人もいるだろう。悩ましい問題だ。
同種の裁判は全国で続いている。処分が取り消されるケースも多い。画一的な処分では対応できなくなりつつあることを前提に、対策を考えるほかない。
飲酒運転の職員に対し、自治体はいま厳しい処分で臨むことが多い。きっかけとなったのは6年前の福岡市での事故である。市職員が酒を飲んで車を運転し一家5人の車に追突した。一家の車は海に転落、幼児3人が死亡する痛ましい事故になった。
この事故のあと、長野県と県教委も処分基準を見直している。酒酔い運転で摘発されたら免職、酒気帯び運転の場合でも原則免職とすることを決めた。
今度の裁判では、長野市の元中学教諭が懲戒免職の取り消しを求めて訴えていた。酒を飲んだ翌朝、なくし物の届けをするため車で交番に出向き、アルコールが検出されて摘発された。
こうしたケースでの免職は裁量権の乱用であり重すぎる、というのが判決の趣旨である。
処分が取り消された同種の裁判の判決を読むと、個々の事情に丁寧に目配りしていることが分かる。例えば2006年11月、福岡高裁が中学教師の免職処分に対して下した判決だ。
この教師は仕事熱心で校長から高い評価を得ていた。子どもからも慕われていた。飲酒運転で摘発されたことを自分の方から学校に報告してもいる―。判決はそんな事情をくみ上げつつ「免職は厳しすぎる」と述べている。
こういった判決を受け、自治体には処分基準を見直す動きが広がっている。判例が重なるにつれ、処分にはますます幅広い判断が求められるようになるだろう。
罪刑均衡という言葉がある。罪と刑罰はつり合っていなければならないという考え方だ。この問題でも考慮せざるを得ない。
飲酒運転は減ってきたとはいえなお深刻だ。事故を起こさなければ処分は軽く済む、といった風潮が広がるようでは困る。
飲酒運転は悪―。このことをあらためて確認し、違反者への専門的な講習、アルコール依存症対策の強化といった取り組みを強めたい。社会の総合力が問われる。