技術講座

[技術分野■ADSL■無線■光ファイバー■衛星通信■CATV■伝送技術■交換技術■データ通信■ネットワーク技術■ルーティング技術]
【技術講座(光ファイバー3)】             (2001/11/18作成)

 光ファイバーケーブルの接続、分岐に関連するコネクター、スプライス、カプラーなどについてまとめました。コネクターは、ファイバーを光源、受光器他のファイバーと接続・切り離しを行うデバイスです。スプライスは、ファイバー同士を永久接続するものですが、着脱可能な非永久接続のものもあります。

13. コネクター、スプライスの要求条件

 コネクター又はスプライスに要求される条件は次の通りです。

(1)低損失:接続箇所で、光パワーの損失を殆ど生じないこと。
 (a) 長距離通信のスプライスは0.2dB以下
 (b) LANや工場内配線用のコネクターは0.3dBから0.75dB
 (c) 低コスト優先で使用するコネクターは1dBから3dB。これには通常、プラスチックファイバーが使用される。
(2)取り付けが容易:特別な工具や訓練なしでも容易に取り付けできること。
(3)反復性:着脱を反復しても損失が変化しないこと。
(4)一貫性:使用箇所によらず損失に変化がないこと。
(5)経済性:アプリケーション・ツールを含めて経済的であること。

14. 接続損失の原因

 コネクターの接続損失には、次の3種類の要因があります。

(1) ファイバーに関連する内部要因として、ファイバー自体のばらつき
(2) コネクターに関連する外部要因として、コネクター自体の問題
(3) システムに関連する要因

15. ファイバーに関連する内部要因

 ファイバーは表1に示すように、公称仕様規定の許容誤差内で形状がばらついています。損失の原因となる要素としては図25に示すように、開口数、コア、クラッドのミスマッチがあります。光を送る側のNAやコア径が受ける側より大きいとき、ミスマッチによる損失が発生します。クラッド径が異なるとコアが一致せず、損失が発生します。偏心による損失は、クラッドの中心にコアがないことから発生します。コア中心とクラッド中心の距離を偏心誤差と呼びます。楕円による損失は、コアまたはクラッドが楕円形になることで発生し、ファイバーの向きによって損失が変化します。

   表1ファイバーの許容誤差
変化のタイプ
許容誤差
コア径(62.5μm)
±3μm
クラッド径(125μm)
±2μm
開口数(0.275)
±0.015
偏心
≦3μm
コアの楕円性
≧0.98
クラッドの楕円性
≧0.98



   図25 ファイバーに関連する接続損失の要因

16. コネクターに関連する外部要因

 ファイバーをコネクターで連結するとき、中心軸で完全なアラインメントがとれないと、ファイバー自体にばらつきがなくても損失が発生します。コネクターまたはスプライスの接続損失の主な原因は、横方向へのずれ、ギャップ、接続角度、表面あらさの4つです。
(1) 横方向へのずれ
 コネクターの軸方向アラインメント不良により、ファイバー相互の中心軸が不一致となり損失が発生します。図26に示すように、損失はずれ幅とコア径の比で与えられ、コア径が小さくなるほど一定損失に対するずれの許容範囲も小さくなります。コネクターメーカーは、横方向のずれを5%以内に収めようとしています。



   図26 横方向のずれによる損失

(2) ギャップ
 ファイバー接続時、間にエアギャップがあると、図27に示すように二つのタイプの損失が発生します。一つはファイバーと空気の屈折率の違いによるフレネル反射損失です。この損失は、エアギャップにファイバーと同等の屈折率を持つ透明な液体又はゲル(インデックス・マッチングオイル)を入れることで、大幅に低減できます。
 もう一つは、マルチモードファイバにおいて、多くのモードの光線が次ファイバーの受け入れコーンの中に入らず、円錐形に分散することによる損失で、ファイバーのNAが影響します。


   図27 ギャップによる損失

(3) 角度のミスアラインメント
 図28にファイバーが角度を持って嵌合するときに発生する損失を示します。正しく装着したコネクターであれば、角度のアラインメントは簡単に管理できるので、角度のミスアラインメントによる損失は、横方向のずれによる損失ほどには発生しません。



   図28 角度のミスアラインメントによる損失

(4) 表面仕上げ
 ファイバーの端面は、ギザギザの切り口、ばり、割れ、キズなどがないスムースな研磨仕上げであることが必要です。荒い端面では、光線の幾何学的なパターンが混乱して屈折するため、次のファイバーへ入らなくなります。

17. システムに関連する損失の要因

 コネクターの性能は、モードの状態とシステム内のコネクターの位置によっても変化します。光源からコネクターまでの距離とコネクターから受光器までの距離の大小関係には4つの場合があり、これらによって他の条件が同じでも損失が異なります。

18. 接続損失

 コネクターまたはスプライスの性能は、接続損失によって規定されます。ある長さのファイバーの光パワーを測定し、次にそのファイバーの中心を切断して、コネクターまたはスプライスを取り付け、そのファイバーの端で再度パワーを測定します。このとき、接続損失は次の式で与えられます。

     loss = 10log(P1/P2)
    ここで、
      P2:最初に測定した光パワー
      P1:コネクターで接続したときの光パワー

19. カプラー

 カプラーは光を合配するデバイスで、重要なアプリケーション分野はLAN、FTTHなどで多用される波長分割多重です。

(1) カプラーの基礎
 一例として図29に4ポート指向性カプラーを示します。矢印は光が進むことができる方向を示します。ポート1を入力ポート、ポート2および3を出力ポートとし、ポート2の出力はポート3と同等以上と仮定します。このとき、ポート2を貫通ポート、ポート3を分岐ポートと呼びます。これらの用語は、貫通ポートの方が分岐ポートよりも強い光パワーがあることを示唆するためです。



 図29 4ポート指向性カプラー

 貫通ロス、分岐ロス、指向性ロスは各々次の式で与えられます。

     loss(THP) = 10log(P2/P1)
     loss(TAP) = 10log(P3/P1)
     loss(D) = 10log(P4/P1)

    ここで、
      P1:ポート1への入力
      P2 ,P3,P4:ポート2、3、4からの出力

 過剰ロスは次の式で与えられ、カプラー内部のファイバーの分散、吸収、反射、ミスアラインメント、不完全な分離などによって生じます。

     loss(E) = 10log{(P2+ P3)/P1}

 カプラーの出力側の全損失は、各ポートでのロスと過剰ロスの合計で与えられます。カプラーの分割比は貫通ポートと分岐ポートのパワーの比(P2/ P3)で与えられます。

(2)T-カプラー
 T-カプラーは3ポートのカプラーで、図30に示すように数台のノードを持つバスネットワークによく使われます。ノード数をNとすると、分配ロスは次の式で与えられます。

     L = (N-1)loss(THP) + loss(TAP) + 2NL(C) + loss(E)

    ここで、
      L(C):コネクターの接続ロス



    図30 バスネットワーク

(3) スターカプラー
 スターカプラーは、Tカプラーの弱点(ノード数による損失の急増)を補うものです。図31に入出力ポートが同数の送信用スターカプラーを示します。任意の入力ポートからの光パワーは、すべての出力ポートに均等に分配されます。スターカプラーの分配損失は、次の式で与えられます。

     L = 10log(1/N) + 2L(C) + loss(E)



     図31 スターカプラー

 図32に溶着スターカプラーを示します。ファイバーを巻き付け、中心部を加熱溶融して一つの塊に成形します。一方の光ファイバーから入った光は、他方のすべてのファイバーから出ていきます。伝送スターカプラーは、各ファイバー端が溶着部の両側に分かれ、反射スターカプラーは、すべてのファイバーはループバックしています。加熱方法や引張力の加え方によって、光エネルギー分布が異なります。溶着カプラーは、溶着部分が2.5mm程度であるため、小型化できます。



    図32 溶着スターカプラー

(4) 中央対称反射(Centro−Symmetrical Reflective : CSR)カプラー
 図33にCSRカプラーの原理を示します。入力ファイバーから出た光は分散し、凹面鏡で反射した後、収束して出力ファイバーに入ります。凹面鏡をピボット(方向変換)すると光の経路が変わり、入力ファイバーからの光は、別の位置にある出力ファイバーに入ります。つまり、光スイッチの機能を持つことになり、光ファイバーのアプリケーションに対応する各種のデバイスを作ることができます。



    図33 中央対称反射カプラー

(5) 波長分割多重(WDM)カプラー
 使用波長が異なる二つのトランスミッターから信号をWDMカプラーへ送り、WDMカプラーは二つの信号を結合して1本のファイバーへ送ります。リンクの他端では2番目のWDMカプラーが、受信した光を元の2波長の光に分離して、レシーバーへ送ります。WDMカプラーで重要なのは、クロストークとチャネルの分離です。クロストークは、WDMカプラーのポート間の分離性能を示します。チャネル分離は、カプラーの波長識別性能を示します。現状の実用的なWDMデバイスで多重化できるチャネル数は2〜3に限定されています。それは、狭い範囲に制約されている使用波長において、光源のスペクトル幅が多チャンネルWDMに使えるほど十分に狭いものがないためです。

 WDMデバイスを作成方法としては、回折格子、干渉フィルター、CSRの3つがあります。回折格子は、屈折率が周期的に変化した極細の反射を生じさせる平行ラインを波長の間隔で配列したもので、光を当てると格子との干渉で回折をおこす光学素子です。干渉フィルターは、2色性物質により光の波長を選別して、ある波長の光は反射し、ある波長の光は透過させます。

 CSRのWDMは、一体構造のアセンブリーの中に重なった2枚の鏡を使用します。最初の鏡は2色性物質でコーティングした平凸面レンズで、1550nmの長波長は透過させ、1300nmの短波長は反射させます。長波長の光は1550nmの波長に整列させている次の鏡で反射し、最初の鏡を再度透過します。この機構により、CSRに入力された波長の異なる二つの光は、対応する各々の鏡で反射し、同一の出力ファイバーから出て行きます。

20. 新技術

(1) エルビウム添加ファイバー増幅器
 製造工程で少量のエルビウムを添加した短いファイバーは、増幅器として機能します。エルビウム添加ファイバー増幅器(EDFA)は、長距離通信の新技術として注目されています。仕組みは次のようになります。
波長1550nmで運用中のファイバーに、短いエルビウム添加ファイバーを3ポートWDMを使って分岐接続し、波長980nmまたは1480nmのレーザー光をエルビウム添加ファイバーに注入して、エルビウムを励起します。励起したエルビウムが基底状態に戻るとき、励起エネルギーを波長1550nmの光に与えて30dBも増幅します。注入光の波長は信号の波長とは異なるので、干渉することはありません。EDFAを使った実験では、伝送距離を100倍も伸ばすことができたといわれています。

(2) ソリトン
 ソリトンは、伝播中に分散しない特殊な光のパルスです。ソリトンは、分散によってパルスが広がろうとするのに対し、光のKerr効果がそれを圧縮しようとする二つの現象のバランスによって、同一のパルス形状を維持するものです。Keer効果とは、一定レベル以上で、同一波長でも強度によって進行速度が異なる現象をいいます。Keer効果を生み出すには非線形性の強い特殊な光ファイバーが必要です。実験では、約1万kmの伝送距離でパルスの広がりはほとんどなかったと言われています。ソリトンとEDFAを組み合わせれば、ギガビットクラスで何千kmの距離を、元のパルス形状を維持したまま伝送できる可能性があります。

[出典]
1. 光ファイバーネットワーク構築入門:ドナルド・スターリング,リックテレコム(1999-11)
2. 石原:実務に役立つ光ファイバー技術200のポイント,電気通信協会(2001-6)

 光ファイバーシステムについて記述すべき事項はまだ多くありますが、基礎講座としてはこのあたりでひとまず筆を置くことにします。次回は別の技術テーマを取り上げたいと考えます。



【技術講座(光ファイバー1)】            (2001/08/20作成)

 ブロードバンド通信の本命と目される光ファイバーシステムについてまとめてみました。郡部では電話局までの距離が5km以上あってADSLを使えないところが多く、ブロードバンド化にはアクセス系として光ファイバーシステム、または光ファイバー+高速無線LANシステムが必要になります。無線だけによるブロードバンド通信は、10年後に実用化される第4世代携帯電話(100Mbps)を待つしかないでしょう。

1.光ファイバーシステムの概要

 光ファイバーシステムは図1に示すように、基本的に二つの電子回路を結ぶリンクで、主要部分は下記のものから構成されています。

(1)トランスミッター(送信機)
   入力電気信号を光源が要求する形に変えるドライブ回路と、発光ダイオードまたはレーザーダイオードの光源から成ります。
(2)光ファイバーケーブル
   ファイバーは光を送る媒体で、ケーブルはファイバーとそれを保護する被覆及び補強材から成ります。
(3)レシ−バー(受信機)
   光信号を電気信号に変換する受光器と、信号を増幅し、必要に応じて波形を元の形に戻す出力回路から成ります。
(4)コネクター
   ファイバーを光源、受光器、その他のファイバーと接続します。

 以上4つのコンポーネントの他に、より複雑なリンクまたは通信ネットワークを構築するために、カプラー、マルチプレクサー、ディストリビューション用ハードウェアなどがあります。


2.光ファイバーの長所

 光ファイバーの長所としては、広帯域、低損失、電磁に対する免疫性、軽量、小型、安全性、機密保持などがあり、最も重要な長所は広帯域と低損失です。

(1) 広帯域
 情報伝送容量は、伝送媒体の帯域とキャリアの周波数によって決まります。キャリアとしてのレーザーの周波数は100THzのレベルで、伝送媒体としての光ファイバーの実用可能帯域は1THz程度と考えられています。
 ディジタル電話の伝送レートで比較すると、同軸ケーブルは最大のDS-3でビットレート44.736Mbps 、音声チャネル数672、リピータ間隔1〜2kmであるのに対し、光ファイバー(ソネット)は最小のOC-1でビットレート51.84Mbps 、音声チャネル数672、最大のOC-192ではビットレート9953.28Mbps 、音声チャネル数129024、リピータ間隔25km(レーザー)と桁違いです。

(2) 低損失
 メタルケーブルの場合、信号の周波数が高くなると急激に損失が大きくなり、減衰しますが、光ファイバーの場合は、信号の周波数がかなり高くなるまで損失は一定です。
 図2に電話システムで使われている光ファイバー、同軸ケーブル、ツイストペアケーブルの信号周波数と減衰の関係を示します。光ケーブルの損失は、広い範囲の周波数で一定であり、超高周波での損失は光パワーの減衰というより、ひずみによる情報信号の損失が大きいのです。性能の良い低損失の光ファイバーを使用すれば、200Mbpsで80〜100kmをリピータなしで送れる可能性があります。



                    図2 周波数と減衰の関係


(3) 電磁障害に対する免疫性
 メタルケーブルと違って、光ファイバーは電磁放射をしないし、電磁放射の影響を受けることもありません。従って、信号が電磁障害(EMI)によって変形されることはなく非常に高い基準でエラーなしに信号を伝送できます。
(4) 軽量
 光ファイバーのガラス繊維は、メタルケーブルの銅の導体に比べてかなり軽いのです。例えば一芯の光ケーブルの重さは304mあたり約4kgですが、同軸ケーブルでは約9倍の36kgです。
(5) 小型
 ディジタル電話に使用されている同軸ケーブルと光ファイバーケーブルを比較すると、前者は直径11.4cmで4万300回線、後者は144芯の直径1.3cmで174万回線となります。光ファイバーケーブルは1/10の直径で、同軸ケーブルの容量をはるかに超えています。
(6) 安全性
 ファイバーは絶縁体であり、電気を通しません。光ファイバーケーブルはスパークなどを発生しないので、メタルケーブルのように火災の原因になることはありません。また、落雷にたいしても雷電流を導通させません
(7) 機密保持
 光ファイバーは電磁エネルギーを放出しないので、EMI電波の検知など電磁的方法による盗聴を心配する必要がありません

3.光ファイバーの構造

 光ファイバーは、コアとクラッドの同心二層からなり、内側のコアが光を搬送する部分、外側のクラッドはコアと異なる屈折率を持ち、コアの中の光を全反射させる役割を担っています。コアとクラッドの屈折率の差は1%以下です。典型的な屈折率の値は、コアが1.47、クラッドが1.46です。クラッドの外周は、通常1層または2層のポリマーでコーティングされ、ファイバーの特性を損なう衝撃から守られています。
 図3にファイバーの中を通る光の概念図を示します。ファイバーに注入された光は、臨界角よりも大きい角度でコアとクラッドの界面に当たり、全反射を繰り返してファイバーの長さだけジグザグに進みます。光の伝搬におけるファイバーの特性要因としては、ファイバーのサイズ、組成、注入された光などがあります。



               図3 光ファイバーの全内部反射


 図4に一般的なファイバーの断面を示します。コアの直径は8〜100μ、クラッドの直径は125〜140μと極めて小さい値です。人毛の直径は約100μと言われています。ファイバーのサイズは、通常、コア直径(μ)/クラッド直径(μ)で表されます。従って、50/125はコア直径が50μ、クラッド直径が125μのファイバーを意味します。



             図4 ファイバーのコアとクラッドの直径

4.光ファイバーの分類

(1) ファイバー材料による分類
 (a) グラスファイバーは、ガラスのコアとガラスのクラッドから成っていて、最も広く使用されています。ガラスの種類は、ごく純度が高く透明度の高い二酸化シリコン、またはシリカです。望ましい屈折率を得るために、不純物を意図的に加えます。ゲルマニューム、燐などを混ぜると屈折率が大きくなり、ホウ素やフッ素は屈折率を小さくします。

 (b) プラスチック・クラッド・シリカ(PCS)ファイバーは、ガラスのコアとプラスチックのクラッドから成っています。性能はグラスファイバーほど高くありませんが、信頼性は高いものです。クラッドのコーティングはありません。

 (c) プラスチックファイバーは、プラスチックのコアとプラスチックのクラッドから成ります。他のファイバーに比べ、損失、帯域などの性能面で制約がありますが、低コスト、取り扱いやすさが利点です。クラッドのコーティングはありません。

(2) コアの屈折率と伝搬モードによる分類
 図5に3種類のファイバーの主な特徴を示します。ファイバーへの入出力パルス、ファイバー中の光線経路(モード)、コアとクラッドの相対屈折率の違いがあります。パルス高さの減少は信号パワーの損失を示します。パルス幅の広がりは、ファイバーの帯域あるいは信号伝搬容量を制約します。
 モードはマルチモードとシングルモードがあり、コアとクラッドの屈折率のプロファイルは、ステップインデックスとグレーデットインデックスがあります。モードと屈折率プロファイルの組み合わせで、ファイバーは3つのタイプになります。



     図5 ファイバー伝搬の種類


(a)マルチモード・ステップ・インデックス・ファイバー(SIファイバー)
 コアの直径が970〜100μで、材質はガラス、PCS 、プラスチックがあります。光は色々な経路(モード)を通り、出口端までの通過長さ即ち通過時間が異なるので、光は時間によって分散したことになります。これをモード分散と呼びます。典型的なモード分散値は、15〜30ns/km です。モード分散によってパルス幅が広がり、パルス間の重なりが生じるため、ファイバーの帯域を制限する主要因子になります。

(b)マルチモード・グレーデット・インデックス・ファイバー(GIファイバー)
 モード分散を抑えるために考案されたもので、コアの中心軸から外の層に向かって、少しずつ屈折率を低くしてあります。光の速度は屈折率の低い方が大きいので、中心軸から離れた経路(長い経路)を通る光の方が、中心軸近くの経路(短い経路)を通る光よりも早く進みます。その結果、色々なモードの光線は同時にファイバーの端に達します。GIファイバーの分散は、1ns/km 以下です。
典型的なコア径は50、62.5、85μで、クラッド径は125μです。広帯域を要求する通信、LAN 、コンピュータなどでよく使われます。

(c)シングルモード・ステップ・インデックス・ファイバー(SMファイバー)
 モード分散をなくすために、コア径を小さくして伝搬が一つのモードでしか起こらないようにしたものです。コア径は5〜10μと極めて小さく、クラッドは125μが標準です。
 SMファイバーは50〜100GHzの潜在的帯域性能を持っています。現有のファイバーは数GHzで数十km の伝送ができます。
SMファイバーでは、光のモードの一部はクラッドを通過し、出口端の光の直径(モ−ドフィールド径)はコア径よりも大きくなります。

5.光ファイバーの特性

(1) 分散
 分散とは、光のパルス幅がファイバーを通過するにつれて広がることです。分散によってファイバーの帯域または情報伝送容量が低くなります。分散には「モード分散」、「材料分散」、「導波路分散」三つのタイプがあります。
 (a) モード分散
 モード分散はマルチモードファイバーのみで発生します。経路の違いによって出口端での光の到着時間が異なるために起こる現象で、抑制方法としては、コア径を小さくしてモードの数を減らす方法、グレーデット・インデックス・ファイバーにする方法、シングルモードファイバーを使う方法の3つがあります。

 (b) 材料分散
 物質の中を通る光は、波長によって速度が異なり、真空中と物質中の光の速度の比で定義される屈折率も波長によって変化することになります。この現象に基づく分散は、ファイバー材料の特性によることから材料分散と呼ばれます。分散の度合いは、二つの要因によります。
 ●ファイバーに注入される光の波長の幅(発光スペクトル幅
 光源は一つの波長だけではなく、ある幅の波長で発光しています。この波長の幅を発光スペクトル幅(両側の波長強度が中心波長の強度の1/2になる幅)と呼び、nmで表します。LEDの発光スペクトル幅は約35nm 、レーザーは2〜3nmです。

 ●中心の波長
 波長領域によって、中心波長の短波長側と長波長側で速度差が逆転する波長があり、これをゼロ分散波長と呼びます。図6に典型的なシングルモードファイバーの分散特性を示します。1300nm以下の波長では短波長の方が遅れ、1300nm以上の波長では長波長の方が遅れます

 材料分散はシングルモードのシステムで問題とされます。マルチモードのシステムではモード分散が大きな問題であり、材料分散は無視することができます。



            図6 材料分散とゼロ分散波長


(c) 導波路分散
 導波路分散はシングルモードファイバーで顕著であり、光エネルギーが少しだけ異なる屈折率のコアとクラッド両者の中を伝搬することから発生します。これによって両者を通る光エネルギーの速度も少し異なり、分散を生じることになります。

(2) 帯域と分散
 光ファイバーのメーカーは、マルチモードファイバーについては分散特性を規定しないが、帯域―距離の数値は規定しています。帯域400MHz-kmは、帯域と距離の乗数が400以下(帯域×距離≦400)であればよいことを意味しています。
他方、シングルモードファイバーは、分散特性が規定されています。この分散は発光スペクトル幅1nmにつき1km先で何ピコセコンドの差が出るか(ps/nm/km)で表されます。

 シングルモードファイバーの分散と帯域の関係は、概略次の式で表されます。

   BW=0.187(Disp)(SW)(L) ×106

 ここで、
   BW:帯域(MHz)
   Disp:中心波長の分散(ps/nm/km)
   SW:発光スペクトル幅(nm)
   L:ファイバーの長さ(km)

(3) 減衰
 減衰とは、光がファイバーを通過するにつれてパワーを失うことです。減衰は1km当たりの損失をデシベルで測定します。減衰は光の波長によって変化し、減衰が小さくなる低損失の波長領域(ウィンドウ)があります。第1ウィンドウは約820〜850nm、第2ウィンドウは1300nm(ゼロ分散領域)、第3ウィンドウは1550nmの領域です。減衰の主原因は散乱と吸収です。

(4) 散乱
 散乱とは、ファイバーの不完全性及び基本的構造に起因する光エネルギーの損失を言います。レーリー散乱は、ファイバー製造過程で発生する材料の密度や組成の変化によって発生します。散乱は波長の4乗に逆比例し、長い波長ほど散乱は急速に少なくなります。
散乱は減衰の理論的下限を意味し、波長820nmでは2.5dB、1300nmでは0.2dB、1550nmでは0.012dBになります。

(5) 吸収
 吸収とは、ファイバーの不純物が光エネルギーを吸収し、小さい熱として消散させることです。光を吸収するものとして、水酸分子(OH)の他、鉄、銅、コバルト、バナジウム、クロミウムなどのイオンがあります。しかし、現代の製造技術における不純物コントロールにより、吸収の心配は殆どしなくてもよくなっています。

(6) マイクロベンド損失
 マイクロベンド損失とは、ファイバーのマイクロベンドから発生する損失で、マイクロベンドとは、コアとクラッドの界面が小さいコブを作ることです。マイクロベンドがあると、多くのモードが反射を繰り返すことができなくなるような角度で反射を起こし、光が失われてしまいます。
 マイクロベンドは、ファイバーの製造過程または配線の際に発生します。要因はケーブルに加わる側圧、引っ張りによるファイバー径の縮み、温度低下による材料の収縮、座屈などです。製造具術の進んだ今日では、製造過程の要因を心配する必要はなく、むしろ配線を注意深く行うことが重要です。

(7) 平衡モード分布(EMD:Equilibrium Mode Distribution)
 EMDとは、光を搬送するモードが平衡に達した状態を言います。注入された光エネルギーは、モード間移行を繰り返しながら遂にそれ以上のモード間移行を起こさない平衡状態(EMD)に達します。

 EMDとなる前のファイバーは、オーバーフィルドまたはアンダーフィルドファイバーと言われます。オーバーフィルドファイバーとは、周辺のモードでも光エネルギーが搬送されている状態を言います。このエネルギーは短い距離で減衰するか消滅します。アンダーフィルドファイバーとは、光が少数のモードのみで伝搬される状態を言います。この場合でも進む距離につれて多くのモードに移行し、EMDとなります。

 EMDとなる距離はファイバーの種類によって異なり、プラスチックファイバーでは数メートル、高品質のグラスファイバーでは何十キロにもなります。
 EMDの理解が大切な理由は二つあります。第1は、光ファイバーの損失(減衰)がモードの状態によって変わることです。例えば、EMDに達していないファイバーの損失は長さに比例しますが、EMDに達したファイバーの損失は長さの平方根に比例します。第2に、モードの状態でファイバーの特性条件が異なることです。例えば、オーバーフィルドファイバーの光エネルギーを測定して750μWであった場合、EMDに達した状態で測定すると500μWくらいに減衰しているはずです。
     
 今日では、光ファイバーの製品テストは、EMD状態で行うことが普通になっています。

(8) 開口数(NA:Numerical Aperture)
 開口数(NA)とは、ファイバーの"光を集める能力"のことです。ファイバーを伝搬することができる光線の注入角度は、臨界角度との関係で決まります。図7に示すように、最大の注入角度(受入角)を頂角とする円錐を受け入れコーンと呼びます。受入角とNAの関係は次式で表されます。

  NA= sinθ
ここで、θ:受入角の1/2




           図7 開口数

 ファイバーへの光の反射角は進む距離につれて変化し、EMDになるとNAよりも小さくなります。つまり、ファイバー出口において光の束の直径は、入り口よりも小さくなっています。光源と受光器もNAもっており、ファイバーのNAとマッチさせることが重要です。

(9) ファイバーの強度
 ファイバーの引張り強度は、同じ太さの鉄のフィラメントより勝っています。しかし、鉄のような延性がない脆性材料であるため、ファイバーの表面や内部のキズがあると、引張荷重によって脆性亀裂が進展し、破断に至りやすいという弱点があります。

(10) 曲げ半径
 ファイバーには破断に至らない最小の曲げ半径があります。ファイバーを曲げると減衰が少し増加し、引張強度を低下させます。原則として、ファイバーの曲げ半径は、ケーブルの直径の5倍以上とします。ファイバーに張力がかかった状態では、ケーブルの直径の10倍以上とします。

(11) 核に対する堅牢さ
 核に対する堅牢さとは、核の影響に耐える能力のことです。ファイバーは非導電体であるため、放射線にさらされても静電荷を作らず、高熱でケーブルジャケットが溶けても、短絡事故を起こす心配がありません。
 ファイバーは、連続した高レベルの核の放射を浴びると、減衰が増加することが知られています。3700ラドの放射線を3ナノ秒照射するだけで、ファイバーの減衰は何千dB/kmものピークに達します。しかし、10秒後には10dB/km以下、100秒後には5dB/km以下になります。従って、グラスファイバーは核爆発にさらされても、数分後には情報を伝達できることになります。また、メタルの導体のように、核爆発で発生する電磁パルス(EMP)を拾って伝導することもありません。

6,光ファイバーケーブルの構成

 図8にシンプルな単芯の光ファイバーケーブルの構造を示します。ケーブルの主な構成部品は、光ファイバー、バッファー、補強材、ジャケットです。



  図8 光ファイバーケーブルの構造


(1) バッファー
 最も単純なバッファーは、クラッド上のプラスチックコーティングです。これはファイバーの一部として、ファイバーのメーカーが付けます。追加のバッファーはケーブルメーカーが付けます。殆どのケーブルメーカーは、自身ではファイバーを製造していません。
バッファーにはルースバッファーとタイトバッファーの2種類があります。ルースバッファーには、ファイバー径の数倍の直径を持つプラスチックチューブを使用します。このチューブでファイバーを他の部分から分離し、それに作用する機械的荷重から保護します。

 タイトバッファーは、ファイバーのコーティングの上に直接付着しているプラスチックです。この構造は、押しつぶし、衝撃などに対する抵抗力が高く、柔軟性があり、曲げ半径を小さくできるという特徴を持っています。しかし、温度変化に対しては、ファイバーとの線膨張係数の差によって生じる熱応力が、マイクロベンドを作って損失を高くすることがあります。従って、温度変化が少なく、小さい曲げ半径が要求されるオフィスでの使用に適しています。

(2) 補強材
 補強材(抗張体)は、ファイバーに機械的な強度を与えるものです。補強材は敷設作業中や敷設後の引張応力からファイバーを保護します。一般的に使用されているのは、ケブラー・アラミド・ヤーン、鉄、グラスファイバー・エポキシ・ロッドなどです。単芯ファイバーがジャケットに納まる場合、ケブラーが最もよく使われています。鉄線やグラスファイバーロッドなどは、多芯ファイバーケーブルに使われます。

(3) ジャケット
 ケーブルジャケットは、メタルケーブルの絶縁被覆のように、摩擦、オイル、オゾン、酸、あるかり、溶剤などからケーブルを保護するためのものです。ジャケット材料としては、PVC、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリウレタン、ナイロン、テフロンなどがあります。

7.屋内ケーブル

 屋内用光ファイバーケーブルは、含まれるファイバー本数によってシンプレックス・ケーブル(1芯ケーブル)、デュプレックス・ケーブル(2芯ケーブル)、多芯ケーブルに分類されます。通常、双方向通信には2本のファイバーをペアとして用います。(最近では二つの波長を使い1本のファイバーで双方向通信することもできます。)

 ケーブル構造としては、ライトデューティー、ヘビーデューティー、プレナム、ライザーの4つの基本形があります。ヘビーデューティーは、通常ライトデューティーよりも厚いジャケットをもっています。プレナムは、不燃性のコンジットに納めるか低煙の自己消火性のジャケット材料で被覆されたものです。ライザーは、ビルの各階を垂直に走るもので、プレナムと同様不燃性が要求されます。また、いくつかのシンプレックス・ケーブルを、外被ジャケット(シース)内部にまとめたものをブレークアウト・ケーブルと呼びます。

8.屋外ケーブル

 屋外ケーブルは、架空、埋設(直接、間接)、海底などの過酷な環境条件に耐えなければなりません。そのため、殆どの屋外ケーブルは鉄、ゲル状コンパウンドなどの追加のシースを持っています。また、屋外ケーブルはたいてい大きな多芯ケーブルで、補強材として、太い鉄線あるいはファイバーグラスロッドが、ケーブルの中心で使われています。図9に代表的な屋外多芯ケーブルの断面を示します。
 多芯化の別の方法として、図10に示すリボンケーブルがあります。平行に並ぶ12芯が上下から粘着ポリエステルのテープでサンドイッチにされています。各リボンは積み重ねられ、矩形に整頓されてスタックと呼ばれるものになります。このスタックがルースチューブに入れられ、2層のポリエチレンでカバーされます。各ポリエチレンの層には鉄線が補強材として入っています。



      図9 屋外多芯ケーブルの断面





     図10 リボンケーブル

9.ケーブルの特性

(1) 長さ
 ケーブルはだいたい1kmまたは2kmの単位で、リールに巻いて供給されます。シングルモードファイバーの場合はもっと長い単位でも供給されます。

(2) カラーコード
 ファイバーのコーティング、バッファーチューブあるいは両者がカラーコードされ、識別しやすくなっています。

(3) 許容引張荷重
 許容荷重には敷設時の短期荷重と敷設後の長期荷重があります。短期荷重は敷設作業中に、ダクトやコンジットの中を引張ったり、角を曲がるときなどにかかる動的荷重を含みます。長期荷重は長期的に使用するときの荷重で、自重などの静的荷重が主体です。通常、長期許容荷重は短期許容荷重よりも小さくなります。


[出典]
1. 光ファイバーネットワーク構築入門:ドナルド・スターリング,リックテレコム(1999-11)
2. 石原:実務に役立つ光ファイバー技術200のポイント,電気通信協会(2001-6)

 伝送媒体である光ファイバー及びケーブルの基本事項については一通り記述しましたので、次回はその両端に設置される機器である光源、受光器、送受信機などについてまとめる予定です。



【技術講座(光ファイバー2)】               (2001/08/31作成)

 前回に引き続き、光ファイバー・ケーブルの両端に設置される機器である光源、受光器、送受信機などについてまとめました。

10.光源

(1) 発光ダイオード(LED)
 LEDは、順方向バイアスがかかったときに発光するPN半導体です。順方向バイアスでは、電子はn型材料に注入され、P型材料から抽出されます。P型材料からの電子抽出は、その材料への正孔を作ることになります。

 図11にLEDとバイアスの概略を示します。順方向にバイアスをかけると、電子と正孔は空乏エリアを越えて移動し、結合する過程で光を発します。バイアスを取り除くと結合は終わり、空乏エリアによって発光が停止します。ただし、このLEDは均一接合のデバイス(1種類のPN半導体)であり、接合端と全表面から発光するため輝きは低く、パターンも大きすぎて光ファイバーのコアに入る光はごく一部分になります。


      図11 発光ダイオード(LED)

 そこで、光ファイバー技術に使用するLEDは不均一接合のデバイスを使用します。これはよく似た結晶構造を持つが、エネルギーレベルと屈折率の異なった材料でPN接合させたものです。不均一接合の構造では、チップの活性層にキャリアを閉じこめ、屈折率の違いを利用して導波し、指向性を持った光を出力することが可能になります。

 LEDの材料によって発光の波長が変わります。第1の窓である820〜850nmの発光をするLEDは、通常ガリウム、アルミ、砒素です。1300nmの長波長のデバイスには、ガリウム、インジウム、砒素、燐酸塩またはV族及びX族の組み合わせを使っています。

(2) レーザー(LASERS)
 レーザーは、Light Amplification by the Stimulated Emission of Radiation(誘導放出による光の増幅)の略です。レーザーはLEDのような自然放出ではなく、誘導放出です。レーザーは、チップの中に光を発振するための空洞を持っており、空洞は両端が向かい合った反射鏡のように仕上げられていて、ファブリペローの共振器と呼ばれます。

 駆動電流が増加し臨界レベルを越えると誘導放出が始まります。低電流で自然放出される光子がファブリペローの共振器に閉じこめられ、2枚の反射鏡で反射され、誘導放出を引き起こしながら増幅されます。光子刺激による自由電子の再結合で新規に発生した光子は、オリジナル光子と同一の波長、位相、進行方向を持つ複製です。増幅過程の連鎖により大量のコヒーレント光が放出されます。レーザーの特徴は「殆ど単色」、「コヒーレント」、「高い指向性」です。

 図12にレーザー及びLEDにおける駆動電流と光出力の関係を示します。レーザーの臨界域よりも低い領域では、LEDの光出力の方がレーザーよりも高くなっています。臨界域を越えるとレーザーの光出力は急激に増大します。



    図12 駆動電流と光出力の関係


 図13にレーザーとLEDの光の出力パターンを示します。光がチップから外へ出ると光は広がり、実際にファイバーに入るのはその一部です。良い光源の条件は、発光の直径が小さくNA(開口数)も小さいことです。



    図13 発光のパターン

 
 光源の直径がファイバーのコア径よりも大きいとき、ミスマッチによる損失は下記の式で与えられます。

     Loss(dB)=10log10(Df/Ds)2

   ここで、
      Df:ファイバーのコア径
      Ds:光源の直径

 光源のNAがファイバーのNAよりも大きいとき、ミスマッチによる損失は下記の式で与えられます。

     Loss(dB)=10log10(NAf/NAs)2

   ここで、
     NAf:ファイバーのNA
     NAs:光源のNA

(3)スペクトル幅
 光源は単一波長ではなくある範囲の波長の光を出しており、波長スペクトルに伴う速度差によって分散を生じ、帯域を制限することになります。スペクトル幅とは、ピーク波長の最大振幅の50%における波長範囲のことです。

 図14にレーザーとLEDのスペクトル幅を示します。レーザーのスペクトル幅は2〜5nm、LEDのスペクトル幅は数十nmとレーザーの方がかなり狭くなっています。100MHz以下のスピードで、数kmの光ファイバーリンクの場合、スペクトル幅による分散は特に問題になりません。これがシステムのスピードを決定する主要因になるのは、シングルモードの高速・長距離システムの場合です。そのため、信頼性の高い単一波長レーザーダイオードの開発が進められました。



       図14 レーザーとLEDのスペクトル幅


 最近のデバイスは、中央の波長を助長し、周りの波長を抑制する構造になっています。例としてdistributed feed backレーザー、cleaved coupled cavity(C3)レーザーがあります。前者は空洞内部に格子を設け、二つの壁の反射で共振して一つの波長になる光子を制御することにより、すべての誘導放出を同じ波長とするものです。後者は、小さいギャップを設けてレーザーダイオードチップを二つのセクションに分割し、別々に発光する二つのセクションの光の相互作用で一つの波長の光を助長し、その他の波長の光を抑制するものです。

(4)スピード
 光源は、システムの帯域の要求に応える速度で点滅できなくてはなりません。光源の速度は、パルスの立ち上がり時間と降下時間で規定されます。立ち上がり時間と帯域の関係は下記の式で与えられます。

     BW= 0.35t

   ここで、
      BW:帯域(Hz)
      t:立ち上がり時間(s)

 レーザーの立ち上がり時間は1ns以下であり、上記の式に代入すると帯域は350MHz以上となります。LEDの立ち上がり時間は数nsで、5nsとすると70MHzとなります。

11.受光器

 受光器は光源とは逆に光エネルギーを電気エネルギーに変換します。その代表的なものはフォトダイオードで、光ファイバー技術でよく使用されるものとして、ピン・フォトダイオード(PIN)とアバランシェ・フォトダイオード(APD)の2種類があります。

(1) フォトダイオードの基本原理
 ダイオードに吸収された光子は、電子を刺激して価電子帯から伝導帯へ移動させます(真性吸収)。その結果、電子―正孔のペアができて、これらのキャリアがバイアス電圧によって材料の中を移動し、外部回路の電流となります

(2)PNフォトダイオード
 図15にPNフォトダイオードを示します。このタイプの受光器はあまり使われていませんが、半導体の光検知の基本原理を理解するには適しています。PINタイプやアバランシェタイプは、PNタイプの限界を越えるために開発されました。



   図15 PNフォトダイオード


 PNフォトダイオードに逆方向バイアスをかけると、電界がキャリアを接合エリアから追い出し、PN接合面の両側に空乏エリアを作ります。この状態で入射光子がダイオードに吸収されると、価電子帯の電子が伝導体へ移動し、自由電子と正孔を作ります。強い電界下にある空乏エリアでは、これらのキャリア(自由電子と正孔)は素早く分離して両端のデバイス電極に集まり、電子が電流として外部回路に流れることになります。

 空乏エリア以外では電界の影響がなく、キャリアはゆっくりと空乏エリアに拡散移動し、再結合を免れた一部のキャリアが外部電流となります。移動速度が遅いために光が消えた後でも電流が流れ、スローテール反応と呼ばれる遅延反応を示します。
 PNフォトダイオードは、空乏エリアが相対的に小さく、吸収される光子の多くは外部電流にならないこと、スローテール反応のため中高速用としては遅すぎることから、光ファイバー用としては殆ど使えません。

(3)ピン・フォトダイオード
 図16にPINダイオードの構造を示します。p型層とn型層の中間に、不純物を殆ど混ぜないi(intrinsic:真性の)層を設けています。i層には自由なキャリアがないので抵抗値が高く、内部の電気力も高くなり、相対的に空乏エリアが大きくなります。従って、入射光子の吸収効率が良く、多くのキャリアが外部電流に早く変換します。しかし、i層が厚いとキャリアの移動時間が永くなり応答速度が遅くなりますので、効率と速度の兼ね合いで最適なダイオードを設計する必要があります。



     図16 ピン・フォトダイオード


(4)アバランシェ・フォトダイオード(APD)
 図17にAPDの構造を示します。空乏エリアの一部に強力な電界を作っているのが特徴です。吸収光子によって作られた一次キャリアは電界によって加速され、数電子ボルトの運動エネルギーを得ます。この高速のキャリアは中性の原子と衝突して、電子を価電子帯から伝導帯へ移動させ、自由電子と正孔(二次キャリア)を作ります。このプロセスを衝突電離(collision ionization)と言います。二次キャリアはさらに新しいキャリアを作り、これが次々に連続して起こるプロセス全体を光電子倍増(photo-multiplication)と言います。



   図17 アバランシェ・フォトダイオード


 APDの倍増係数は、吸収された光子1個に対して外部回路に流れる電子の数の統計学的平均値を表し、バイアス電圧によって変化します。バイアス電圧はAPDの降伏電圧より少し低い値を用います。バイアス電圧が高いほど出力効率は上がりますが、暗電流(吸収光子なしで生じる自由電子と正孔による電流=ノイズ)も増加することがあります。

(5)ショットノイズ
 光子の到達と吸収、およびキャリアの発生は、無作為なプロセスの一部であり、完全な均一の流れではなく、個別に発生するものの継続です。従って、実際の電流は、あらゆる時点で電子―正孔のペアの数より多くなったり少なくなったりして、変動しています。ショットノイズは下記の式で与えられます。

     Isn2 = 2qiB

    ここで、
      Isn:ショットノイズ(A)
      q:電子の電荷(1.6×10-19クーロン)
      i:平均電流(暗電流及び信号電流を含む)(A)
      B:受信機の帯域(Hz)

(6)熱ノイズ
 熱ノイズは、ジョンソンノイズまたはナイキストノイズとも呼ばれ、電子の熱運動による受光器の負荷抵抗の変動に起因します。熱ノイズは下記の式で与えられます。

     Itn2 = 4kTB/RL

    ここで、
     Ith:熱ノイズ(A)
      k:ボルツマン定数(1.38×10-23 J/k)
      T:絶対温度(°k)
      B:受信機の帯域(Hz)
      RL:負荷抵抗(Ω)

(7) 応答性
 応答性は、ダイオードの出力電流の入射光力に対する比であり、アンペア/ワット(A/W)で表します。PINダイオードは通常0.4〜0.6A/W、APDは通常75A/Wです。応答性は波長によって変化するので、性能規定は最高の応答性となる波長または使用波長で行います。
 波長800〜900nmではシリコン受光器を使い、応答性のピークは900nmで0.7A/Wです。1300nmや1550nmの長波長用フォトダイオードの材料は、主としてGe、とInGaAs(インジウム・ガリウム・砒素)です。InGaAsのPINダイオードの応答性能曲線は、広くフラットで、900〜1650nmの範囲で応答性が0.5A/W以上あります。

(8) 量子効率
 量子効率とは、一次電子―正孔のペアとダイオードに入射する光子との比率です。量子効率は一次キャリアだけに適用され、二次キャリアには適用しません。典型的な量子効率は70%前後です。応答性は下記の式により量子効率から計算されます。

     R = ηeλ/hc

   ここで、
     R:応答性
     η:量子効率
     e:電子の電荷
     λ:波長
     h:プランクの定数
     c:光速

(9) 暗電流
 暗電流はダイオード中に熱で発生する電流で、熱ノイズの一番低いレベルのものです。暗電流は温度が1℃上昇する毎に10%増加します。短波長で使われるシリコン・フォトダイオードの暗電流は、長波長で使われるゲルマニウムやインジウム・ガリウム・砒素のフォトダイオードに比較して、はるかに低い値です。

(10)検知可能な最低入力
 検知可能な最低入力とは、信号として検知しうる最低レベルの入射光力です。信号電流の最低レベルは、暗電流などのノイズとの関係で決まります。最低検知可能入力レベルの目安になるピンダイオードのノイズフロア(最低限の常駐ノイズレベル)は、ノイズ電流と応答性の比で計算されます。

     ノイズフロア=全てのノイズ/応答性                            

 ダイオードを簡単に評価するときは、暗電流だけを使ってノイズフロアを見積ります。

(11)反応時間
 反応時間とは、フォトダイオードが光の入力を受けてから外部電流が発生するまでに要する時間です。反応時間は普通、パルスの振幅が10%から90%に立ち上がるのに要する時間で規定されます。立ち上がり時間は、キャリアが空乏エリアを移動する速度と関係し、速度はバイアス電圧の影響を受けます。つまり、バイアス電圧が高いほど立ち上がり時間は短くなります。
 反応時間は使用できる帯域(BW)とも関係し、BWは下記の式で与えられます。

     BW =0.35/t

   ここで、
      t:立ち上がり時間

 また、BWはRC時定数の制約を受け、回路のBWは下記の式で与えられます。

     BW =1/2πRLCd

   ここで、
      RL:負荷抵抗
      Cd:ダイオードのキャパシタンス

 上式より回路の立ち上がり時間は下記の式で与えられます。

     t = 2.19 RLCd

 図18にピンダイオードの等価回路のモデルを示します。これは抵抗とキャパシタによる低域フィルターのように見えます。この回路によって、3dB(50%)減衰するカットオフ周波数以上の周波数は除去されます。ピンダイオードのキャパシタンスは主としてp層,i層,n層の接合で発生する接合キャパシタンスと、パッケージ取り付け構造に起因するキャパシタンスです。



 図18 ピン・ダイオードの等価回路モデル


(12)集積受光器/前置増幅器(Integrated Detector/Preamplifier:IDP)
 IDPはピンフォトダイオードに代わるものです。ダイオードと受信機の第一段階の間におけるノイズ源を減らすために、トランスインピーダンス増幅器を受光器の半導体チップに組み込んだものです。トランスインピーダンス増幅器は、電流を検知して増幅し、電圧に変換する機能を持っています。
 IDPの特徴は、出力が電圧であることで、応答性はボルト/ワット(V/W)で示されます。典型的な応答性は40V/W近辺です。

12.送信機と受信機

(1) 送信機の基本的概念
 図19に送信機の基本的構成を示します。ドライバーへの入力は機器からの信号で、ドライバーからの出力は光源を作動させるための電流です。



  図19 光送信機の基本的構成


 ディジタルシステムでは、採用する論理回路の種類によって1,0を表す高、低のレベルが異なります。現在最も一般的なディジタル論理はTTL(Transistor-Transistor Logic)です。TTLは低の信号に0.5V、高の信号に5Vを使います。さらに高速の論理であるECL(Emitter-Coupled Logic)は、低の信号に−1.75V、高の信号に−0.9Vを使います。図20にTTLとECL論理回路の信号レベルを示します。



         図20 TTLとECLの信号レベル


 その他のよく使われている論理は、CMOS(Complementary Metal Oxide Semiconductor)です。CMOSの消費電力が非常に小さいために、TTLは急速にCMOSに変わりつつあります。ほとんどのCMOS回路は、TTLと同じ電圧レベルを使用しています。
 ドライバー回路は、論理回路の信号レベルを受入れて、光源を作動させる電流を供給します。

(2) 変調コード
 変調コードとは、ディジタルデータを伝送するための符号化の方法です。図21によく使われる変調コードを示します。コードにはクロック内蔵タイプと非内蔵タイプがあります。



             図21 変調コード

● NRZ(nonreturn-to-zero)コード
 信号は1のとき高く、0のとき低い。1が続くと信号は高いままで、0に帰らない。0が続くときははずっと低い。

● RZ(return-to-zero)コード
 0のときはずっと低い、1のときはビット期間の前半分で高くなり、後半分で0に帰る。

● NRZI(nonreturn-to-zero,inverted)コード
 0がくるとレベルを変化させ、1がくるとレベルを変化させない。1または0のデータとコードの高低が全く関係がない。

● マンチェスターコード
 各ビット期間の中間でレベルを変更する。1は各ビット期間の前半が高く、後半は低い。0は各ビット期間の前半が低く後半は高い。
● ミラーコード
1がくると各ビット期間の真ん中でレベルが変わる。0が1の後にくると変化しない。0が0の後にくるとビット期間の初めで変化する。

● 2相Mコード(バイフェーズ-M)
各ビット期間はレベル変化で始まる。1の場合、追加のレベル変化がビット期間の中央で起こる。0の場合は追加の変化はない。従って、1はビット期間の中で高低両方を持ち、0はビット期間中高か低のどちらかである。

● 4ビット/5ビット及び4ビット/8ビットのエンコーディング
ほとんどのLANで使うのはマンチェスターコードですが、光のLANでは使用しません。理由の一つは、マンチェスターコードはデータレートの2倍のクロックレートを必要とすることです。NRZIは1が連続するとレベルが変化しないので、クロック情報を内蔵できません。

 多くの高速光ファイバーシステムでは、一定長のビットデータを単位として符号化するグループ・エンコーディングを採用しています。4ビット/5ビットエンコーディングとは、4ビット毎のグループを5ビットの符号として伝送することです。これにより、1が三つ以上連続することがなくなります。また、マンチェスターより小さい帯域で済み、伝送速度は20%増加します。FDDIはこの方法を採用しています。
 4ビット/8ビットシステムは、4ビットを5ビットの符号にするか、または8ビットを10ビットの符号にするシステムです。

(3) デュティーサイクル
 デュティーサイクルとは、変調されたコードの中の高いシンボルと低いシンボルの割合のことで、全シンボル数に対する高いシンボル数の比(%)で表します。また、デュティーサイクルは受信機に到着する入力レベルのピークに対する平均レベルの比(%)をも表します。

(4) 受信機の基本的概念
 図22に受信機の基本的構成を示します。出力回路は(a)クロックとデータの分離、(b)パルスの修復とタイミングの調整、(c)外部回路と適合させるためのパルスレベルの調整、(d)受光パワー、温度、電圧などの変動に対して増幅レベルを一定にするための利得調整などの機能を持っています。



      図22 光受信機の基本的構成


(5) 受信機の感度
 受信機の感度はμWまたはdBmで表されます。パッケージされた受信機の感度は、絶対最低限度(ノイズの上限)またはBERのレベルなどの性能レベルについて規定されています。受容できるパワーの最低レベルと最高レベルの差を動作範囲(Dynamic Range)と言います。最低レベルは感度によって決まり、感度は受光器の性能で決まります。最大レベルは、受光器または増幅器によって決まります。最大限度を超えたパワーレベルは受信機を飽和状態にし、信号を歪ませます。
 図23に典型的な受信機のBER、データレート、受信パワーの関係を示します。



 図23 典型的な受信機のBER、データレート、受信パワーの関係


(6) 増幅器
 光受信機の伝統的な設計では、低入力インピーダンス増幅器かトランスインピーダンス増幅器を使用します。図24に増幅器の回路を示します。



図24 低入力インピーダンスとトランスインピーダンスの回路


 低入力インピーダンス増幅器の帯域は、回路のRC時定数で決まります。

     BW = 1/2πRC

 トランスインピーダンス増幅器をもつ受信機の帯域は、増幅器の利得に影響されます。

     BW = g/2πRC

    ここで、
      g:オープンループの利得

(7) 受信機のデュティーサイクル
 いくつかの受信機ではデュティーサイクルを基準として"しきい値"を設定する設計になっており、通常デュティーサイクルの真ん中にしきい値を設けます。このとき、デュティーサイクルが50%から離れてくると、信号の高低を誤認する可能性が高くなり、BERが高くなります。
 これを回避するのに二つの方法があります。一つは、デュティーサイクルを常に50%に保つことです。4B/5Bではデュティーサイクルは40〜60%まで変化します。マンチェスターおよびバイフェーズ-Mコードは、常に50%のデュティーサイクルになるよう定義されており、この要求条件に合致します。しかし、データレートの2倍の帯域を必要とします。
 もう一つの方法は、しきい値がデュティーサイクルに影響されないよう、別回路でしきい値を設定するような受信機を設計することです。

(8) トランシーバーとリピーター
 トランシーバーとは、トランスミッター(送信機)とレシーバー(受信機)を一つのパッケージにして、送信と受信の機能をまとめたものです。リピーターは、送信機能をもった受信機で、受信信号を増幅し、パルスの形を整えて再び送信します。


[出典]
1. 光ファイバーネットワーク構築入門:ドナルド・スターリング,リックテレコム(1999-11)
2. 石原:実務に役立つ光ファイバー技術200のポイント,電気通信協会(2001-6)

 次回は光ファイバーケーブルの接続、分岐に関連するコネクター、スプライス、カプラーなどについてまとめる予定です。

 

[技術分野■ADSL■無線■光ファイバー■衛星通信■CATV■伝送技術■交換技術■データ通信■ネットワーク技術■ルーティング技術]