物事の起源をたどる旅にはロマンをかき立てられる。人類、宇宙といった壮大な始まりだけでなく、身近な文字でも同様である。先日「最古級の平仮名」と報じられた9世紀後半の墨書土器の発見が興味深い
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京都市の平安貴族の邸宅跡で出土した破片に、和歌とみられる平仮名の記述があった。平仮名が確立したのは「古今和歌集」などが編集された10世紀前半とされてきたから、約50年さかのぼることになる。六歌仙の在原業平(ありわらのなりひら)らが脚光を浴びた時代に当たる
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今の平仮名と片仮名の字体は1900(明治33)年の小学校令施行規則で決められた。もとは漢字の音を日本語の音に当てた万葉仮名に始まる。速く書くための草書体が和歌や書道の発展とともに美しく易しい平仮名へと進み、片仮名は漢字の一部を取った
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〈数え切れない人々の手を経て、えり分けられつくり出されてきた〉。小松茂美(しげみ)さんの「かな」(岩波新書)にある。小松さんは名筆の筆者を特定する古筆学を独学で築き、2年前亡くなった。作家井上靖が「満身これ学究」と評したほど研究熱心だった
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起源をたどる旅は同時に、どこへ向かうのかを考える旅でもある。これからの文字の形はネットの普及が大きく影響するに違いない。先日、ネット上での党首討論会で見た書き込み〈888…〉は拍手の意味だったとは。寒々とした気持ちになるのは年のせいか。