今回もよろしくお願いします。で、お題は?
押井:何にしようか。実は思いつかなかったんだけど。誰も知らなすぎる作品もまずいでしょ。
構いませんよ。むしろマイナーな方がお得感もありそう。
押井:ビジネスマン向きのテーマと言うか、リアリズムを追求したという意味で言えば、アメリカ映画、特に冷戦前後の作品に集中するんですよ。「組織の中でいかに個人としてテーマを持つか」という話。
それは偶然じゃないと思うんです。やっぱりあの時期のアメリカ映画の主要なテーマだったから。最近そのテーマをまた蒸し返してる映画がいくつか出てきてるけど。
日本の映画にはそういうテーマはないんですか?
押井:残念ながらあまりないんです。
日本映画というのはある時期まで「家族で見るもの」だったし、日本には「冷戦」に替わる「戦後」という強力なテーマがあったからね。つまり日本の映画は長いこと「戦後映画」だったわけです。
では、戦後が終わったらどういうテーマが取って代わったんですか。
押井:「ファミリー」を除けば「愛」だらけになっちゃった感じだよね(笑)。でもはっきり言って、仕事を持ってる人間にとっては「愛」がテーマの映画は何の役にも立たない。
どうして役に立たないんですか?
サラリーマンが見て役に立つアニメ、あります
押井:「愛」をテーマにした映画というのは「愛が実現すること」がテーマだから、そのための戦術も戦略もなにも描いてないんですよ。ウチの師匠(鳥海永行氏)が言ってたんだけど、「相手が出てきた瞬間に主役と惚れ合っちゃって、そこから始まるのが恋愛映画。だから、実は恋愛そのものを何ひとつ描いていない」んだよね。
では、アニメはどうでしょうか? それこそサラリーマンが見て役に立つアニメーション映画ってないんですかね。
押井:「サラリーマンが見て役に立つ」ですか。う〜ん、社会派である必要はないんだけど、ある状況の中の個人をリアルに描く、というか、個人が現実に拮抗するような形をドラマとして描いた作品だと思うんです。だからアニメーションにはほとんどないんですよ。ありそうに見えるけど実はあまりない。
とはいえ押井監督の作品はサラリーマン的な登場人物が結構いますよね。
押井:サラリーマンというより中間管理職かな。
「機動警察パトレイバー2」(以下、「パト2」)なんてそういう意味でまさに中間管理職の映画だよ。僕は後藤(喜一・警部補)という隊長に一番興味があったし。あるいは(南雲)しのぶ(後藤と同格の小隊長)という人間はなぜ隊長たり得なかったか、というそういう話しかないんだもん。でも日経読んでる人向けなのに「パトレイバー」でいいの?
編集Yさん、どうですか、ロボットアニメはNGとか?
編集Y:いや、大丈夫ですよ。その辺はあまり気にしなくていいので(笑)。というか「パト2」だったら個人的に大歓迎です。
押井:だけど自分の映画の話をここでやるのはちょっとなあ(笑)。あまりにもストレートなんだけど。
今回は、ネタを準備されてなかったペナルティということで(笑)。