「押井守監督の「勝つために見る映画」」

パト2は「何かを成したい中間管理職」必見の映画

「機動警察パトレイバー2」(1993年 押井守監督)

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2012年12月3日(月)

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中間管理職の自己実現こそ、パト2のテーマだ!

押井:そういう「中間管理職の自己実現」というテーマを描いた映画だから、この映画は社会人が見た方が絶対面白いと思ってたんだけど、結局そのとおりになったんです。社会人のほうが反応した。

編集Y:ああ、そうか。公開日に新宿の映画館で見てからずっと「面白い。だけど何が面白いのかわからん」と思っていたけれど、ようやく答えが分かりました。

押井:だけど女の子のファンとか泣いちゃったけどね(笑)。遊馬はちっとも出てこないし、野明は全然かわいくない。キャラクターまで変えちゃったから(遊馬=篠原遊馬、しのはらあすま。特車二課第二小隊の一号機の指揮担当。野明=泉 野明、いずみのあ。「パトレイバー」の主人公。特車二課第二小隊の一号機の操縦担当)。

「パト1」のときにキャラにほうれい線を入れて、一部のファンにえらい怒られましたよね(笑)。

押井:僕にとってはどうでもいいというか、それだと映画として成功しないから。それでも最初の「パト1」なんて2本目に比べたらかわいいもんじゃん。ちゃんと楽しいアクション映画になってるし。だけど2本目は監督が勝負する映画だから。僕が勝負しないと、勝っても負けても誰も幸せにならない。

メカ描写にしても「よほど制作期間がなくて、肝心のレイバー同士の戦いを描く余裕がなかったのであろう」との批評を読んだことがありますけど、最初のOVAの時と違って、レイバーを動かさなかったのはわざとですよね?。

押井:そう。最初からその気はなかったから。戦車とかヘリコプターを動かすほうが絶対大事だから。

ドラマは「何を犠牲にしたか」から生まれる

編集Y:確かに、ロボットの映画なのに戦闘ヘリがめちゃめちゃかっこよかったです。

押井:ほとんど全エネルギーを注ぎ込んだからね(笑)。レイバーはほとんど動いてない。最後だけはいちおう動かしてみせたけど、極端に言うと使用前と使用後しか見せてないんだよね。

突入前と、最後に蜂の巣になるだけですからね。

押井:あのロボットにはそれしかテーマがないんだもん。98式が勝っちゃいましたっていうのは「パト1」の零式(新型レイバーの先行試作機)相手のときにやったけど、実際には98式が勝ったわけじゃないんだよ。自らの機体を犠牲にして相手に勝っただけ。あれが勝っちゃったら嘘にしかならないんだもん。だって性能的に言って98式が零式に勝てるわけがない。

香貫花だって「勝てないから逃げろ」って言ってましたよね。(香貫花=香貫花クランシー、かぬかクランシー。アニメ版における特車二課第二小隊の二号機の指揮担当。レイバーの操縦技術も高い)

押井:勝ったのは零式の首の蓋を開けるために、自分のレイバーを捨てたからでしょ。野明がそれをやったから映画になったんだよね。自分の機体にペットネームまで付けて愛している女の子が、最後に自分のテーマ、勝利のために愛機を囮にした、捨て石にしたという。それがなかったらあのアクションにはコンセプトがないんですよ。

アクションにもコンセプトが必要ですか。

押井:もちろん。絶対に必要。それは「この戦いで、彼は、彼女は、何を犠牲にするか」ということです。「戦う」ということのテーマは実はそれしかないんだけどね。

犠牲ですか。何を得るかではなくて。


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押井 守(おしい・まもる)

1951年生まれ。東京都出身。大学卒業後、ラジオ番組制作会社等を経て、タツノコプロダクションに入社。84年「うる星やつら2 ビューティフル・ドリーマー」で映像作家として注目を集める。アニメーションの他に実写作品や小説も数多く手がける。主な作品に「GHOST IN THE SHELL攻殻機動隊」(95)、「Avalon」(2001)、「イノセンス」(04)「スカイクロラ The Sky Crawlers」(08)等多数。

野田 真外(のだ・まこと)

1967年生まれ。福岡県北九州市出身。CM制作会社、フリーランスを経て、2003年に有限会社グラナーテ設立。CMやTV番組など映像の演出をメインに活動。主な映像作品に「東京静脈」(03)「行くぞ!30日間世界一周」(08)等。1997年には研究本「前略、押井守様。」(フットワーク出版)を上梓。また毎年2月26日にトークショー「Howling in the Night〜押井守、戦争を語る」を主催している。グラナーテwebはこちら

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