川原礫さん原作のアクセルワールドというアニメ・ライトノベルがある。
今日はその作品についての記事を書いてみたい。
(ビジネス書ブログなのに、アニメの話?と疑念を感じられるかもしれないが内容はいたって真面目である。)

まず、いきなり核の話に入る前に、知らない人がほとんどだと思うのでどういった作品なのか概要だけ説明しておく。

(以下は引用)
【 2046年、ニューロリンカーと呼ばれる携帯端末を用いることで生活の多くが仮想ネットワーク上で行われるようになった世界。
だが、どんなに時代が進んでも「いじめられっ子」はなくならない……。
ハルユキもそんな中学内格差(スクールカースト)最底辺に位置する一人であった。
ローカルネットの片隅で、ひたすらにスカッシュゲームに打ち込むだけの暗く陰鬱な日々を過ごしていた彼だったが、ある日突然、校内一の有名人《黒雪姫》に声をかけられる。
「もっと先へ――《加速》したくはないか、少年」
彼女から謎のプログラム《ブレイン・バースト》を託され、《加速世界》の秘密を教えられたハルユキは、黒雪姫の『騎士』として戦うことを決意する……!! 】
http://ch.nicovideo.jp/channel/accel-world

簡単に言うと、ネットだけが異様に進化した近未来作品である。
現実と加速世界(仮想世界)を行ったり来たりしながら、登場人物が成長していく。
しかし、これはただのSFものでも、ロボットものでも、バトルものでもない。
非常に深く、考えさせられることの多い作品である。

より作品の世界を感じてもらうために、キャプチャ画像を数点もあわせて披露する。

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http://naverest.com/odai/62839

さて、そろそろ本題に入ろう。

主人公のハルユキは加速世界はじまって以来初となる「飛行アビリティ」という非常に珍しい特性を持っていた。
けれどその能力を悪役に奪われてしまう。
ハルユキは能力を奪還するための力を手に入れるため、修行を望んだ。

旧東京タワーの頂上で出会った師匠となるスカイ・レイカー(稀有の美少女)に教えを乞うハルユキ。
能力を奪われてしまって意気消沈の彼に、彼女がこういったことを言うシーンがある。

「あなたは羽があったから飛べたのではない。
むしろその逆、飛べるがゆえに羽を具現化したのです。」

スカイ・レイカーは足がないので車椅子に乗っている。
けれどその車椅子には、推進装置もコントロール装置もなにもついていない。
にも関わらず、素早く自由に動き回れっているので、ハルユキは「なんの力をつかっているのか」と尋ねた。

彼女は答える。

「意思の力、だけで動かしたのです。
あなたには、イメージ力と言い換えたほうがわかりやすいかもしれませんね。
私は二つの車輪が回転するイメージを強固に具現化、インカーネーションすることでこの車椅子を制御しています。」

イメージ力による制御の存在・・・。
これを”心よりいずる意思”。 作品内では「心意システム」と表現している。

心意はイメージの力のだ。

そして、スカイ・レイカーはさらに説明を加える。

「心意の要諦はたったひとつの言葉で表すことができます。
それはオーバーライド(事象の上書き)。
本来、補助にすぎないはずのイメージ制御系は意識からあまりにも早く、また強くイメージが発せられたとき、プログラムの制約を越え、心意が事象を上書きするのです。」

・・・と、ここまで書いてみたがどうだろうか?
なかなか難しいかもしれない。

アニメの絵だけ見ると可愛いのだが、その実はおそろしく深い神秘性と魅力を秘めている。

この「心意システム」というものについて、最近考えていた。
その結果、これは単なる作品内だけのフィクションではなくて、実在するものなのかもしれない、と思い始めた。

心意とは、すなわちイメージの力である。
このイメージ(想像)という頭のなかだけ行われる「はず」の作業が、私たちのリアル(現実)活動に多大な影響を与えることはすでにいまの科学で明らかにされている。

たとえば医学や心理学の分野に、昔から「プラシーボ効果」というものがある。
これはたとえば、ラムネの錠剤(ただのお菓子)などであっても「医者が薬ですよ」と言って処方すれば、それを信じた患者は本来はラムネというお菓子に過ぎないものを飲んで、病状を回復するという現象のことを言う。

要は「騙されている」のだが、患者本人はそれに気付いていないことがポイントだ。
「これはラムネですよ」と言って渡されても、なんの効果も出ない。
体に取り入れたのは同じでも「薬を飲むから大丈夫だ」強く信じていることによって、実際に体の悪いところが治癒される現象は存在するのである。

私もこれと同じことを小学生のときに母にされたことがある。
当時の私はもちろんプラシーボ効果なんて知らなかった。私はよくお腹を壊していて、胃の薬を頻繁に飲んでいた。
見かねた母がラムネではなかったが別のお菓子の錠剤を持ってきて、薬だと言った。
私は信じてそれを水で飲んだ。痛みはすっかり消えていた。
その次の日に、母から「あれは薬ではなかった」と告げられた。

私には実際にそういった体験があったのでプラシーボ効果は存在する、と言われても当然のように受け入れることができるが、初見の人は完全には疑いの気持ちを捨てれないかもしれない。
けれど、これは厳粛な事実なのである。

また、ほかにも心理学のテストにはおもしろいものがある。
以前、アメリカのある会社で遅れて出社してきた女性に向かって、ほかの社員が次々と会うたびに「顔色が悪いようだけど大丈夫?」と心配そうに尋ねたことがあったらしい。

その女性はまったく元気で、健康上の問題はなにも抱えていなかったのに、である。
最初のうちはその女性も「なに言ってるの。そんなことないよ」と笑っていたそうだが、あまりにもたくさんの人が同じことを尋ねてくる・・・。
そして、とうとう本当に高熱が出たかのように顔色が悪くなってしまって、覇気がなくなって、早退してしまったというのだ!

こういったこともある意味で「心意」だと言えよう。
自分は元気だと思っていたのに、まわりの人たちから「顔色が悪い」と言われて本当にそうなんだと思い込んで、実際にその心に思い浮かべたことが現実に反映されたのだ。

スカイ・レイカーは「オーバーライド(事象の上書き)」と表現したが、まさにその通りなのである。
(※危険な実験ですので真似はしないほうがいい。)

心意システムという言葉も、事象の上書きという表現も、なかなか聞き慣れない言葉なので違和感がある。
心意は、アクセルワールドの作品内では普通では数mしかジャンプできないのに、心意(イメージ)の力を使って何十mも飛距離を飛ばしたり、あるいはパンチによって金属を貫いたりといった成果を得ることができる。

「作品」なので、多少は誇張というか極端に描いている部分はあるが、これは現実世界ではあり得ないまったくおかしな作り話かと言うと、そうではない。
日本でよく知られた言葉で表現するなら、「火事場の馬鹿力」というものもそのひとつである。

日常の生活の場面では、絶対に成しえないような超人的なことが、命の危機にさらされた極限状態ではできることがある、というのは広く知られたことである。

神学、法学、哲学、薬理学を極めたジョセフ・マーフィー博士の『世界一かんたんな自己実現法』という本のなかに、非常に興味深い話が載っている。

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事件はサンディエゴのマウントカーメル聖母教会の前で起こった。
バータ・アマラルちゃんという当時8歳の女の子が車(キャデラック)に轢かれてしまった。
車はバータちゃんを600mあまり引きずり、しかも彼女の小さな体の上に乗り上げてしまった。

その場は凍りつき、だれもが絶望を感じた。
バータちゃんのお母さんは、車の下にもぐりこんで、必死に子供を助け出そうと手を伸ばしていた。
そしてたまたま近くにいて事件を目撃していたマーサ・ワイスさんという44歳の小柄な女性もすぐに救援に駆けつけた。
そして、なんとこの小柄な女性が、素手の力だけで、なんの道具も使わずに2t以上も重量のあるキャデラックを持ち上げたのだ!

以下は、マーサ・ワイスさんの新聞記者への回答の一部である。

「なんとかしなきゃと思い、わたしは駆け寄って車の全部をつかみました。
あの子は右前輪の下敷きになり、息もできないようすでした。
私は心のなかで神さまに助けを求めながら、全身の力を振り絞りました。
金属が指に食い込んできましたが、車はびくともしなかった。

足もとを見ると、車の下から苦しげな顔がのぞいていました。
とにかく車をどかそうと、また腕に力を入れました。
最初はなにも起こらなかったけれど、突然、体に力がみなぎってくるのを感じたんです。
そうしたら、見えない手が急に助けてくれたみたいに、車が持ち上がり始めました。

自分でも信じられなかった。
それでも、お母さんに向かって叫んだんです。
この子を引っ張り出してって。
お子さんの小さな体が車の下から出てくると、急に車の重みが指に食い込んできました。
それで手を離したんです。」

ものすごい力である。人間の(それも女性が成せる)業では当然ない。
その後、ワイスさんは警察から表彰され、子供たちからも「ワンダーウーマン」と呼ばれたそうだが、本当に超人ハルクのようなことを成し遂げたのである。

これなどもまさに心意の発動にほかならない。
つまり、オーバーライド(事象の上書き)である。

普段、2tの車を持ち上げれるかと尋ねられたらだれだってNOと答えるはずである。
また、ほとんどの人は実際にそれを試してみようともしない。
本気で取り組んでチャレンジする変わり者など、ひとりもいないだろう。

それは、なぜかと言えば私たちの頭の中には「人間の生身の力ではそんなもの持ち上げれない」という当然の考え、刷り込み、常識があるからだ。
これがあるために、私たちはやる前から(言葉はよくないが)諦めることができているのである。

これはなにも悪い意味ばかりではない。
言い換えれば、限界を知る、ということであるからだ。
自分が頑張ってできることと、どうあがいても無理なことの線引きはみんな持っている。
それがないと、ビルから飛び降りて空を飛ぼうとしたり、とんでもない行動に出てもおかしくない。

だが、この刷り込みが時として仇になって、自分の可能性を狭めているのもまた事実である。
システム自体に害はないのだが、問題は使い方なのである。
この「使い方」こそがもっとも大事なことなのだが、こういったことは学校でもどこの社会でも教えてくれるものではない。

話が少し逸れてきたので戻すが、さきほどのマーサ・ワイスさんにしても日頃から「キャデラックは頑張れば持ち上げれる」などとは絶対に考えていないのである。
日本の軽自動車ならともかく、相手は重量2t以上のアメリカ車である。

「絶対に無理」という考えを持ってはいても、幼い女の子が下敷きになって、その母親が懸命に救助しようと必死になっている、その姿を見てなにか心にメラメラと燃え上がるものがあったのだろう。
そして、そのとき「絶対に持ち上げれない」という制約や限界を破壊して、「絶対に持ち上げて助ける」という信念に変わったのである。

これこそが、オーバーライドであって、心意の本質である。
よって現実世界でも心意はあり得るものであって、決してSFフィクションの作品内だけの夢物語ではないのである。

(例として出した極端な話だけでなく、たとえばあの教授の物理のテストは難しいから満点は無理だ、という思い込みなど各自で身近なモノに置き換えて、考えていただきたい。)

アクセル・ワールド〈1〉黒雪姫の帰還 (電撃文庫)アクセル・ワールド〈1〉黒雪姫の帰還 (電撃文庫)
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