『英文解釈教室』批評
PDFダウンロードはこちらから受験英語界のドンといわれた故・伊藤和夫(元・駿台予備学校専任講師)の名著『英文解釈教室・改訂版』(研究社) 全15章を、1章分づつ、取り上げてゆく。
この本を対象にしたのは、優れた英語指導書だからである。だが、どんなよい本にも瑕疵はある。細かいと思われるかも知れないが、その欠点をあえて指摘することで、この偉大な参考書がいつか再改定され、完璧なものとなることを望むものである。
記載は例文、伊藤の訳文、筆者(柴田)のコメント、の順。
浅学非才の身、あるいは指摘自体がおかしい部分も出てくるかと思う。読者の御叱正を乞う。
訳文の検討は、次の要領で行なう。
誤訳:明らかな解釈・語法の誤り。英文和訳の試験でも×になるもの
悪訳:原文と日本文で理解の差を生じさせるもの
誤差:正しくはないが英文和訳の誤差として許されるもの
修正訳:日本語で原文の意味が正しく伝わっているかどうかを問題にするため、伊藤訳を最小限訂正したもの
[第一章]
1.1.1
The freshness of a bright May morning in
this pleasant suburb of
伊藤訳:この@楽しいパリ郊外の5月の明るい朝のさわやかさが、A小がらな旅人Bに影響した。
@楽しい[悪訳]:遊園地か景勝地があってそこ(郊外)が「たのしい」場所みたいにとれてしまう。ここはenjoyable and making you feel happyの意味「気分をよくしてくれる」
A小柄な[誤差]:「小柄」ならsmallとかshortというだろう。littleは「かわいい、若い、小さい」の意味を併せ持つ美称ととるのが順当(以前アメリカ連続テレビドラマ『Syougun』で国際スターになりかけた島田楊子が、国際女子マラソンの優勝者、ゴーマン美智子に扮した映画『the little champion』のlittleがこの感じ)。だが日本語ではこの三つの意味を併せ持つ単語が見当たらない(か弱い、という意味も加えれば「いたいけ」になろうが)ので、満足はゆかないが意味が偏らない訳語を選ぶ→「ちいさな」
B影響した[悪訳]:例えばbelieve in himでのhimは「存在としての彼」「彼の内面」のうち、当然内面のほうで「彼のいうことを信じる」の意味だが、「彼を信じる」としてもよいのは「彼=彼の内面」と自然に理解されるから。effect は「〜に(on)結果を引き起こす影響・効果」だが「さわやかさが、…影響した」では、身体(存在)に影響したものととられてしまう。これはコロケーションの問題。ここでのeffectは心(内面)に及ぼすに決まっているから、言葉を補って(「の気持ちに影響した」)訳文の読み手を正しい理解へ導いてやらねばならない。意訳でも説明訳でもない、原文はそこまで書いてあるのだから。
freshness「すがすがしさ」bright「(日光などが)明るい」。itsは主部全体を指す。
修正訳:この気分のよいパリ郊外の5月の明るい朝のさわやかさが、そのちいさな旅人の気持ちに影響を与えた。
1.1.4
The element radium, discovered by the Curies, is probably the most remarkable substance in the world.
伊藤訳:キュリー夫妻が発見したラジウムという元素は、@おそらく世界で最も注目すべき物質@であろう。
@「おそらく…であろう」[誤差]: probablyは頻度でいえば「十中八九」。可能性はきわめて高い。
修正訳:キューリー夫妻が発見したラジウムという元素は、世界で最も注目すべき物質であろう。(「おそらく」を除いた)
1.1.5
The greatest American hobby today is photography. Every other person encountered at a vacation resort or seen strolling in a city park carries a camera.
伊藤訳:現在、アメリカ人の最大の趣味は写真である。@休日の行楽地で出会う人や町の公園Aを散歩しているのが見られる人のうち、2人に1人はカメラを持っている。
@「休日の行楽地」[悪訳]: resortはラテン語由来で、「しげしげと通う」の意味から、(1)盛り場 (2)行楽地。ここは名詞ながら形容詞的にはたらくvacation がつき、グローバル英和辞典にも「休日の行楽地」とあるが、この訳語自体がおかしい。対する平日の行楽地などといったものがあるようではないか。日本では行楽はおおよそ休日にするものときまっている(!?)のだから「リゾート地」「行楽地」でよいだろう。
A「散歩しているのが見られる人」[悪訳]: encounteredとseenはともに受身形でpersonに掛かっている。日本語訳もきちんとした日本語で能動か受動かに統一するのがよい。「…で見かける散歩を楽しんでいる人」。photographyは「写真撮影」
修正訳:現在、アメリカ人の最大の趣味は写真である。行楽地で出会う人や町の公園で見かける散歩を楽しんでいる人のうち、2人に1人はカメラを持っている。
1・1 例題(1)
A sensitive and skilful handling of the language in everyday life, in writing letters, in conversing, making political speeches, drafting public notices, is the basis of an interest in literature. Literature is the result of the same skill and sensitivity dealing with a profounder insight into the life of man.
伊藤訳:@日常生活において、つまりA手紙を書いたり、会話や政治演説をしたり、公式の通知を起草したりするときに、気をつけてたくみに言葉を使うことが、文学への関心の基礎となる。文学は、B同様な技巧と感受性が人間の生活に対するもっと深い洞察を取り扱うところから生まれるのである。
@「日常生活において」[誤差]:卑近なことを連想させる「日常生活」の例に「政治演説」「公式の通知」が挙げられるのはおかしい。このeveryday lifeは「実人生」「実社会」といった意味合い
A「手紙を書いたり…起草したりするときに、」[誤差]: inが三つ並んでいるが、1番目は2、3番目に対し上位概念(lifeのなかに、書いたり話したりがある)なので、「すなわち」とつづけるのはよいが、3番目のinのあと3つがひとかたまりで2番目のinと並列しているのに注意したい。つまりT, /U, V(3-1,3-2,3-3)の形の並列。ここでのように並列の逐一が重要なものでない場合、原文と同じ並列の格をそろえるより読みやすさ優先にするのは翻訳では常道だが、英文和訳の練習としては文法優先の訳をつけるべきだろう。このAの箇所のようにザクッと訳す所と@、Bのようにいわゆる直訳の箇所が何の基準もなく入り混じっているのが、この書に限らず英文読解本に見られる不満のひとつである。sensitiveは「感覚が鋭い」こと。
B「同様な技巧と…生まれるのである」[悪訳]:原文を忠実になぞれば、(文学は)「そういった気の使い方とたくみさが人間生活をもっと深く見通す状態を按配する成果なのである」
insight into 〜 「〜を見抜く(こと)」insightは可算名詞化され具体的なものに転化「見抜く/こと・物・状態・力など」deal with 〜 「〜を扱う」「〜を処理する」→「按配する」「論ずる」「云々する」→「行う」(→は意味を狭める印)
だが、このままではどうも日本語としてわかりにくい。そこではじめて英文和訳での意訳の意義が認められるのだ。
修正訳:社会生活で、手紙を書くときでも、談話や政治演説や公式通知の起草をするときでも、気をつけてたくみに言葉を使うことが、文学への関心の基礎となる。文学は、こうした技巧と感受性を以って人間の生活をより深く洞察しようとするところから生まれるのである。
1.2.2
Most of us when we have seen houses which were picturesquely situated, and wore a look of unusual beauty and comfort have felt a desire to know who were the people that lived in them.
伊藤訳:@絵のように美しい所にあり、まれに見るほどA美しく楽しそうな様子をしている家を見て、そこに住むのがだれか知りたいと思った経験を、たいていの人は持っている。
@「絵のように美しい所にあり」[誤訳]: situatedは形容詞化した他動詞「(〜に)位置して」。例:Her town is situated at the foot of Mt.
houses which were picturesquely situated をあえてわかりやすく一文にすると houses were situated in a picturesque way(家々は絵のように美しいあり方で位置していた)。つまりここは、「家のある場所が美しい」のではなく「家の佇まいが美しい」のである。
A「美しく楽しそうな」[悪訳]: beautyは前と同じ言葉がつづくのを避けるため「きれい」とする。まさか家自体が楽しんでいるわけではあるまい、comfortはbeautyと並列する訳語を選ぶ「快適」→「心地よさ」。wearは「〜を帯びている」
修正訳:絵のように美しい佇まいをみせ、まれに見るほどきれいで心地よさそうな様子をしている家を見て、そこに住むのがだれか知りたいと思った経験を、たいていの人は持っている。
1.2.3
Those who live nobly, even if in their day they live obscurely, need not fear that they have lived in vain.
伊藤訳:高潔な生活を送っている人々は、たとえ無名のまま人生を送っても、@人生が空しく終わることを恐れる必要はない。
@「人生が空しく終わることを恐れる」[悪訳] (誤訳に近い): obscurelyは「名もなく」。主文が現在形だから、真理に順ずる事実を示している。目的語となる節が現在完了形なので、「これまでそうしてきた」ことをあらわす。fear that 〜 は「〜してしまうのではないかと(恐れつつ)思う」。「人生の終わり方が空しい」ではなく、「空しいやり方で人生を送ってきた」と懸念するには及ばない、といっている。
修正訳:高潔な生活を送っている人々は、たとえ無名のまま人生を送っても、空しい人生を送ってしまったのではないかと思う必要はない。
1.3 例題
In choosing an occupation, you determine many things that involve your happiness and satisfaction in life. The home you make, the community in which you will live, the standard of living that you will maintain, the recreations you pursue, and the environment in which your children will grow up will largely depend upon your choice of vocation.
伊藤訳:職業を選ぶ@ときには、生涯の幸福と満足Aを含む多くのこと@が決定される。人の作る家庭、その住む地域社会、維持する生活水準、求める娯楽、子供の成長する環境は、大部分がどんな職業を選ぶかで決まってくる。
@「ときには、…決定される」[誤差]: in 〜ing, 主文 の場合、in以下の副詞節が原因、主文が結果をあらわす場合が多い。ここも因果を訳にだしたほうがいいところ。
A「を含む」[悪訳]:訳文では「幸福と満足は、多くのことに含まれる」のか「幸福と満足など多くのこと」なのかがあいまい。実はこの「含む」は「必然的に伴う」の意味なのだから、それをくだいて「…に関係する」→「…にかかわる」ぐらいの訳をつけるのが、英文和訳であっても望ましいだろう。
修正訳:職業を選ぶことで、生涯の幸福と満足にかかわる多くのことを決めることになる。人の作る家庭、その住む地域社会、維持する生活水準、求める娯楽、子供の成長する環境は、大部分がどんな職業を選ぶかで決まってくる。
1・4 例題(2)
Whether either the material or the intellectual changes in the past half century produced comparable changes in the American character is difficult to determine. The forces that create a national character are as obscure as those that create an individual character, but that both are formed early and change relatively little is almost certain.
伊藤訳:過去半世紀の@物質的または精神的変化のいずれかが、アメリカの国民性にそれと比較しうる変化を生み出したかどうかを決定することはむずかしい。国民性を作り上げる力は、個人の性格を作り上げる力と同じくらいA目立たぬものである。しかし、どちらの性格も早く形成され、比較的わずかしか変化しないことはほとんどB確実と言ってよい。
@「物質的または…どうかを決定する」[誤訳]:「いずれかが‥生み出したかどうか」では、「どちらかが‥生み出した」「どちらも‥生み出していない」の答えを予想させてしまう。Whetherとeither 〜 or がからみあってわかりにくいところだが、何ら説明はない。英文読解本には、本当に知りたいところが解説されていないことがよくあるが、ここも著者の伊藤がよくわからないので説明を端折ってしまったのかと勘ぐりたくなる。
代わって説明しよう。
まずWhether で始まる主節をitで置き換え読んでみるとわかりやすい。
It is difficult to determine whether either the material or the intellectual changes 〜
either A or B:A かB かどちらかの選択→まるごとでαと示す
whether:α or notが隠れている 。つまりαであるのかないのかの選択
αであれば、A もしくはB (がある)
αでない(A もしくはB であるということではない)というのは、二つ考えられる
・A でもB でもない
・A でもB でもある
以上より次の四つの可能性が述べられているのがわかる
(1)物質的変化が国民性の変化に影響を与えた
(2)精神的変化が国民性の変化に影響を与えた
(3)どちらも国民性の変化に影響を与えていない
(4)どちらも国民性の変化に影響を与えた
これが語法的な分析だが、文の流れから見れば「どちらも、少なくともどちらかは…与えた」感じであり、力点は、「与えたか」どうかよりも「決定するのがむずかしい」のほうだ。
それで(このような解説をきちんとした上で)修正訳のような訳文を提示するのがよいだろう。comparableは「‥と比較に値する、‥に匹敵する」ここは「the material changesまたはthe intellectual changesに見合った」
A「目立たぬ」[悪訳]:影がうすいわけではなく、わかりにくいのである。obscureは「不明瞭な、あいまいな」
B「確実」[誤差]:「確実」と「確か」は使われる場面がちがう。これは国語の問題。日本語の使い方が甘くては、いくら英語の意味を云々しても説得性がない。
修正訳:過去半世紀の物質的変化または精神的変化のいずれにしろ、その変化に応じてアメリカの国民性を変えたかどうかを決定することはむずかしい。国民性を作り上げる力は、個人の性格を作り上げる力と同じくらいわかりにくいものである。しかし、どちらの性格も早く形成され、比較的わずかしか変化しないことはほとんど確かと言ってよい。
文例自体が難しく、かつ訳文に頭を悩ます題材なのがよくわかっただろう。だからこそ、訳語の選定には慎重の上に慎重を重ねてほしかったところ。
「This is the house in which he lives.
『これはその中に彼が住んでいるところの家です』に類するような悪文が、翻訳だけでなく評論文などにも見られることの最大の責任は英語教師にあるのではなかろうか。」(『予備校の英語』)とまで言い切っている伊藤。この本は20年ぶりに大改訂している(死の直前まで校正していたのは感動的:1997.01.21.死去。1997.02.05.改訂版発行)のだから、時間がなかったとの言い訳はできまい。自分が「責任ある英語教師」の一人に含まれるのを、御本人は気づいていたのだろうか。
[第二章]
2.1.3
I have seen various places in Europe, and I never found myself the worse for seeing them, but the better.
私はヨーロッパのさまざまな場所を見てきたが、そのために@堕落したことは一度もなくかえって@向上してきた。
@「堕落した」「向上してきた」誤差:
「…見てきたが、for以下(ヨーロッパのさまざまの場所を見たこと)で、その分だけ悪くなる(the worse)のでなく、その分だけ良く(the better)なった」が直訳。
bad(ここでは、poor qualityの意味)の比較級worseを「堕落」、goodの比較級betterを「向上」と対比させる心掛けはよいが、意味が強すぎる。「悪くなる」:「良くなる」→「ダメになる」:「よくなる」→「マイナスになる」:「プラスになる」ぐらいで止めておくべきだろう。
修正訳:「私はヨーロッパのさまざまな場所を見てきたが、そのためにマイナスになったことは一度もなくかえってプラスになってきた」
2.1.4
I heard her singing a song.
私@は、彼女が歌を歌っているの@を聞いた。
@「は」「聞いた」誤差:
「聞いた」では、自分が意識して聞いたのか否かがあいまい。hearは、ひとりでに聞こえること。
修正訳:私には、彼女が歌を歌っているのが聞こえた。
2.1 例題
The civilization of the Egyptians is one of the oldest civilization on the earth. The people lived on the banks of the Nile and the small strip of fertile country on either side. This fertile land they cultivated, and …
エジプト人の文明は、地上最古の文明の1つである。人々はナイル川の@川沿いの地と、両岸に狭く細長く続く肥沃な地方に住んだ。
@「川沿いの地と、両岸に狭く細長く続く肥沃な地方に」悪訳:
もともとの原文も、 語義と並列があいまいな悪文。
「人々は [(甲)ナイル川のthe banks] and [(乙)両岸のthe small stripである肥沃なcountry]に住んでいた」だが、(1)andは()甲と乙(甲と乙は別々) ()甲かつ乙(甲と乙が重なる部分)
(2)the banksがきわめて多義 ()土手 ()岸辺 ()両岸 ()川と土手の間の土地 ()段丘 ()川沿いの地
(3)countryにも二義ある ()土地 ()地方
これらを組み合わせると2×6×2=24通りの訳が出来うるが、文脈と事実とをあわせ論理的に解釈してゆく。
平凡社百科事典にあたると、『ナイル川の浸食作用により形成された河谷および河口に、川が上流より運んできた肥沃な沖積土が堆積してつくりあげた土地(ナイル河谷2万2000平方キロ、デルタ約1万3000平方キロ)だけが、人間の生存と農耕に不可欠な水を得て、人間生活の舞台となった』とある。the banks of the Nileは「ナイル河谷」、the small strip of 〜 は「デルタ」(川筋がいくつにも分かれ、その間に細長い土地がある)、と読んでよいだろう。
修正訳:「エジプトの文明は、地上最古の文明の1つである。人々はナイルの岸辺、そして肥沃なデルタ地帯に住んでいた」
2.2.3
The appearance of a comet in the sky caused whole nations in former days to tremble with fear.
空にほうき星が現れると、昔は@国中が恐怖におののいた。
@「国中が」誤訳:
whole nations=entire areas of nationsで、「諸国」または「諸国民」。
「国中」なら、the whole nation
修正訳:「空にほうき星が現れると、昔は諸国(民)が恐怖におののいた。」
2.2.5
find things out for yourself instead of having a parent or a teacher tell you.
親や先生に言ってもらうのでなく、自分でものごとを@発見せよ。
@「発見せよ」誤差:
find outは、隠れているものを明るみに出すこと。「…の正体を見抜く」「…を案出する」「…の解答を出す」など。「(探して)見つける」の意味での「発見する」は、find。
修正訳:「親や先生に言ってもらうのでなく、自分でものごとを解決せよ(または理解せよ)」
2.2.7
Poetry is the greatest glory of our nation, though we don’t often find it mentioned in the history books.
歴史の書物の中で@詩について書かれていることは少ないが、詩こそわが国民の最大の栄光である。
@「詩について」誤訳:
itは「詩」ともとれそうだが、thoughは前文に対する補足・強調であり、かつ前文は主題がpoetry、焦点がthe greatest glory of our nation(英語ではふつう文末が強調される)なので、itはカンマの前の節全体を指すととるべき。書かれてないのは、「詩のこと」でなく、「詩が国民の栄誉であるということ」。
修正訳:「歴史の書物の中でこのことについて書かれていることは少ないが、詩こそわが国民の最大の栄光である」→「歴史の書物の中で触れられることは少ないが、詩こそわが国民の最大の栄光である」
2.2 例題(2)
We tend to think of this great invention of the sewing machine as being of use chiefly in the home. It was not this, however, that made the sewing machine of such value to the progress of mankind.
ミシンというこの偉大な発明品は、@主として家庭で用いられるものと考えられがちである。しかし、ミシンが人類の進歩にとってこれほど貴重なものになったのは、Aこのことのためではなかった。
@「主として家庭で用いられるもの」誤訳:
be of use=useful。「用いられるもの」はbe in use。
A「このことのため」誤差:
thisは、直前のこと(ミシンが主に家庭にあって便利である)を指す。
修正訳:ミシンというこの偉大な発明品は、主として家庭で役に立つものと考えられがちである。しかし、ミシンが人類の進歩にとってこれほど貴重なものになったのは、家庭にあって便利だから(生活の便宜のゆえ)ではなかった。
2.2 例題(3)
It is easiest to teach mathematics to very young children, for they have inquiring minds and they are self-reliant and they want to understand things for themselves.
@数学は非常に幼い子供に教えるのがいちばんやさしい。子供は探究心に富み、自信があり、独力でものごとを理解しようと望んでいるからである。
@「非常に幼い子供に」誤訳:
easiestは、同じものの中での、the easiestは異種のものとの比較に用いる。
例:He is the strongest of all.(彼がみんなの中で一番強い)
The rain was heaviest then.(雨はそのときが一番激しかった)
人間の、人生における時期を比べて言っているのが訳文からは読めない。
修正訳:数学は非常に幼い時に教えるのがいちばんやさしい。子供は探究心に富み、自信があり、独力でものごとを理解しようと望んでいるからである。
Parents sometimes talk to their children like this, and they often fail to notice that, in trying to keep themselves honoured, they are making it extremely likely that their children will fail in the same way. For a person who expects to fail does fail.
親は子供に時々こういう話し方をする。そして親は、自分の威厳を@保とうとしながら子供が親と同様なA失敗をすることをきわめて確実なこととしているのに気づかぬことがよくある。なぜなら、失敗するだろうと思っている人はそのとおり失敗するものだからだ。
@「保とうとしながら」悪訳:
in 〜ing,+本文 は、in以下と本文の同時性を示すが、『in以下することで、それで「どうなる」』に力点がある。「…しながら」の訳では、焦点があいまい。日本語としては「〜することで、−になる」とでもすべきところ。
A「失敗をすることをきわめて確実なこととしている」悪訳:
they are making it extreamely likely that their children will fail in the same way.で、itは、that以下(仮目的語と真目的語)。構文は、SVOC。「親は子供が同じようにして失敗することを極めてありそうにしている」→「起こりそうにしている」→「(無意識ながら)起こらせようとしている」
「確実なこととしている」では、現在なのか未来なのか、主体は誰なのかがわからない。
修正訳:親は子供に時々こういう話し方をする。そして親は、自分の威厳を保とうとすることで、子供が親と同様な失敗をするようにし向けているのに気づかぬことがよくある。なぜなら、失敗するだろうと思っている人はそのとおり失敗するものだからだ。
2.3.3
To hundreds of people, the most significant happenings in Europe had been the triumph of dictatorship. I had watched the bases on which European freedoms had seemed to rest, destroyed.
数百の人々にとって、当時のヨーロッパで最も重大な出来事は独裁制の勝利であった。ヨーロッパの自由@の基礎をなしていたと思われる基盤が破壊されてゆくのを私は見守っていた。
@「の基礎をなしていたと」誤差:
「基礎をなす基盤」はコロケーションが悪い。
European freedom had seemed to rest on the bases.と読む(ヨーロッパの自由はその基盤に頼っていたようだ→支えられていた)。
rest onは、…に頼る、当てにする。
修正訳:数百の人々にとって、当時のヨーロッパで最も重大な出来事は独裁制の勝利であった。ヨーロッパの自由を支えていたと思われる基盤が破壊されるのを私は見守った。
2.3.4
Too much travel, too much variety of impressions are not good for the young, and cause them as they grow up to become incapable of enduring fruitful monotony.
あまり旅行をさせすぎたり、あまりに多様な印象を与えたりするのは、子供のためにならない。そういったなかで育った子供は大人になったとき、@実りの多い単調な生活に耐えることができなくなる。
@「実りの多い単調な生活」悪訳:
この訳では、単調な生活に初めから実りが付随しているようにとれてしまう。
-fulは(1)多量 (2)性質 (3)傾向、のうち、ここは(3)。fruitfulは、「豊作をもたらす」。
修正訳:あまり旅行をさせすぎたり、あまりに多様な印象を与えたりするのは、子供のためにならない。そういったなかで育った子供は大人になったとき、やがて実りをもたらしてくれる単調な生活に耐えることができなくなる。
2.3 例題
People who lack confidence in their knowledge of good English would like to have each spelling, pronunciation, meaning, and grammatical usage decided for them, once and for all, so that they could know that one is right and another is wrong. They feel uncertain when choices are clearly permissible.
正しい英語の知識に自信が持てない人は、綴りや発音、意味、文法的用法をひとつひとつきっぱりと@決めてもらって、どれは正しくどれはまちがいかを知ることが@できたらと思い、いくつかの用法の中から選ぶことが明らかに可能である場合は不安になるのである。。
@「決めてもらって」「できたらと思い」誤差:
簡略化すれば、People would like to have A decided.(人々は、Aが決められるたらいいと思う)
so thatは(1)目的「…するように」 (2)結果「そして…する」
(1)なら、「…できるように、Aを決めてもらえたらいい」
(2)なら、「Aを決めてもらい、(その結果)…できるようになればいい」
どちらも可だが、流れのよいのはどっちだろう。
修正訳:正しい英語の知識に自信がもてない人は、綴りや発音、意味、文法的用法をひとつひとつきっぱりと決めてもらえば、どれは正しくどれはまちがいかを知ることが出来るのにと思う。
[第三章]
3.1 例題
There can be no denying that examples of an architecture entirely different from what our fathers were accustomed to have appeared on the scene during the last twenty years. The designers of modern architecture believe that in developing and perfecting it so as to answer this century’s problems and to be in turn with its outlook, they are helping at the revial of architecture as a live art. For it is a mistake to suppose that, because modern architects are particularly concerned to relate buildings more closely to the needs they have to serve, they are only interested in the practical side of architecture. They know that they are practicing an art and therefore are concerned with the pursuit of beauty.
我々の祖先が見なれていたものとはまったく違った建築様式の例が20年前から@実際に現れてきていることは、否定しえぬ事実である。現代建築の設計者は、建築を進歩A完成させて今世紀の諸問題を解決し、Bその外観にふさわしいものたらしめようとすることで、建築を生きた芸術として復活させるCことを助けていると確信している。現代の建築家が、建築物をそれが満たさねばならないD必要により密接に関連させることに特にE関心があるからといって、彼らが建築の実用面のみを考えていると思うのは誤りである。F自分の営みが芸術であることを建築家は知っており、それゆえに彼らは美の追求にも関心がある。
原文がかなりの悪文なので、修正することにあまり意味が無いようにも思えるが、悪い原文でも読める文にするのが翻訳だと思ってやってみる。
@「実際に」誤差:
on the scene(当該場面に、現場に)appeared(現れた)ととり、on the sceneを強調的に「実際に」と意訳したものと思われるが、appear on the sceneはイディオムで「姿を現す」。「実際に」は不要だろう。
A「完成」誤差:
「進歩完成」では意味がつかめない。動詞のperfectは、to make sth perfect or as good as
you can(完璧にする、とか、できるだけよくする)だが、英語は似たような意味の言葉を重
ねてリズムを出すことがよくある(日本語の熟語もそう「満足」「陰々滅滅」など)。ここも
同義語反復ととれるところであり、「進歩」と釣り合う言葉にしなければならない。「(進歩)
発展」「(進歩)改良」など。
B「その外観」誤訳:
outlookには「外観」の意味はない*。(1)(人生に対する)態度 (2)見通し (3)展望、のうち
ここは(2)。itsはmodern architectureでなくthis centuryととるのが、論理的→「今世
紀のあるべき姿」。
*7種の英和辞書中、リーダースにのみ「外観」の訳語があるが、「建物の外観」ではなく
「見通し」の意味で充てているのだろう。
C「ことを助けている」誤差:
helpは自動詞で「役に立つ」「手伝う」(「助ける」は他動詞) 例:He never helps at home.(彼
は家で役に立たない)
D「必要により密接に関連させる」悪訳:
意味不明。直訳「(建築家は建物を、)それが満たさなければならない要求に、より密接に
関係づけ(ようとしている)」→意訳「(建物を)その本来の目的と合致させる」
E「関心がある」誤差:
be concerned toで(1)「関心をもつ」(2)「しようと思う・努める」、のうち、(2)ととった
ほうが、「…からといって」(because)との対比が出て、よいのではないか。
F「自分の営みが芸術であることを建築家は知っており、それゆえ彼らは美の追求にも関
心がある」誤差:
know that とtherefore areをandが並列していると、とっている。形からはこうも取れ
るが、are practicingとtherefore areをandが並列している、ともとれる。前の「実用面
のみを考えているのではない」と合わさり、「芸術を実践し、美の追求にかかわっている」
建築家の自負の強調と、後者で解釈したほうがよいだろう。
修正訳:
我々の祖先が見なれていたものとはまったく違った建築様式の例が20年前から@現れてきていることは、否定しえぬ事実である。現代建築の設計者は、建築を進歩A発展させて今世紀の諸問題を解決し、B時代のあるべき姿にふさわしいものたらしめようとすることで、建築を生きた芸術として復活させるC役に立っていると確信している。現代の建築家が、建築物をそれが満たさなければならないD必要をより満たすことに特にE努めているからといって、彼らが建築の実用面のみを考えていると思うのは誤りである。F自分の営みが芸術であり、それゆえ彼らは美の追求にかかわっていることを建築家は知っているのだ。
3.2.4
The middle-class American isn’t, in his heart, sure that even the rebels are altogether wrong. Some, in fact, agreed that young people were not unduly critical of their country, and their criticism was actually needed.
中流階級のアメリカ人は、社会に反抗する若者はまったくまちがっていると@心に信じているわけではない。それどころか、若い人々が不当に自分の国を非難しているのでないこと、彼らの批判が実際に必要であることに、A同意した人たちもいた。
@「心に信じているわけではない」悪訳:
日本語がおかしい。「心の底ではそう思っていない」「心底そう思っているわけではない」ということ。
A「同意した人たちもいた」誤差:
agreeは契約を含意するので、過去形であっても、その結果は継続すると読むのが普通。日本語で「同意した」とすると、今はどうなっているかがわからないので、現在まで続いているのが分るような訳語のするのがよいだろう。
修正訳:
中流階級のアメリカ人は、社会に反抗する若者はまったくまちがっていると@心のなかでは信じていない。それどころか、若い人々が不当に自分の国を非難しているのではないこと、彼らの批判が実際に必要であることに、A同意している人たちもいる。
3.3.3
During the Middle Ages, astronomers had clung to the theory of a Greek philosopher of the second century A.D., named Ptolemy, that the Earth is the fixed center of the universe.
地球は宇宙の固定した中心であるという、紀元2世紀のギリシアの哲学者(名は@トレミー)のA説を、中世の天文学者は固く守っていた。
@「トレミー」悪訳:
地名、人名は現地語読みが原則。「プトレマイオス」。
A「説を、中世の天文学者は固く守っていた」誤差:
もう少し自然な日本語にできるだろう。
修正訳:
地球は宇宙の固定した中心であるという、紀元2世紀のギリシアの哲学者(名は@プトレマイオス)のA説に、中世の天文学者はしがみついていた。
3.3 例題(2)
Our notion of time as a collection of minutes, each of which must be filled with some business or amusement, is wholly alien to the Greeks. For the man who lives in a pre-industrial world, time moves at a slow and easy pace; he does not care about each minute, for the good reason that he has not been made conscious of the existence of minutes.
時間とは1分1分の集合体であって、そのひとつひとつを仕事や遊びで埋めなければならないという現代の考え方は、ギリシア人にはまったく無縁のものである。工業化以前の世界に生きている人には、時間は@ゆっくり気楽に経過していて、1分1分に気を使うことなどはない。というのは、そもそも分などという単位が存在することを意識するようになっていないからである。
@「ゆっくり気楽に」悪訳:
時間を擬人化しているわけであるまい。ここも同義語反復。一語で済ませてもよいところ。
修正訳:
時間とは1分1分の集合体であって、そのひとつひとつを仕事や遊びで埋めなければならないという現代の考え方は、ギリシア人にはまったく無縁のものである。工業化以前の世界に生きている人には、時間は@ゆるやかに経過していて、1分1分に気を使うことなどはない。というのは、そもそも分などという単位が存在することを意識するようになっていないからである。
3.4 例題(2)
It is now almost a century since a literate woman was sufficiently a curiosity to have the fact of her sex noted every time her literary activities were mentioned, and so authoress is going out of use. No one could have foreseen, fifty years ago, that woman were soon to do so much that men had thought they alone could do that to attempt to call attention to it would burden the language.
学問のある女性が非常に珍しい存在だったので、その文学活動が話題になるたびに女性であるという事実が注目を浴びた時代からもうおよそ100年もたっており、したがって「女流作家」という語は使われなくなろうとしている。@男にしかできないと男が考えていたことのうち多くを女性がAまもなくするようになるため、その事実に注意をひこうとすれば言語に無用の負担をおわせることになるとは、50年前には誰も予想できなかっただろう。
@「ことのうち多くを」誤訳:
直訳は「男だけができるものと男が(自分勝手に)思っていた多くのことを」。
much(名詞:たくさんのもの)の或る部分でなく、much全体を言っている。
「男にはたくさんのことができる」→(1)「そのたくさんのうち多くは女もできる」(2)「そのたくさんそのものを女ができる」、のうち(2)。
A「まもなくするようになるため、その事実に注意をひこうとすれば言語に無用の負担をおわせることになる」誤差:
「その事実」が指すものがわかりにくい。itは、文中で問題にしていること、を指す。ここでは「女であること」。
50年前の予想として述べているが、現在の事実として述べたほうが説得性がつよいだろう。また、fifty years agoは強調的に訳したほうが説得性が増すと思う。
修正訳:
学問のある女性が非常に珍しい存在だったので、その文学活動が話題になるたびに女性であるという事実が注目を浴びた時代からもうおよそ100年もたっており、したがって「女流作家」という語は使われなくなろうとしている。男にしかできないと男が考えていた@多くのことを女性がAするようになって、女を強調するのは言葉に無用の負担をおわせることになるだけだとは、50年前でも誰も予想できなかっただろう。
[第4章]
What do you think I mean to do when I grow up?
Do you know what it is?では主節が疑問文である。@この種の文では主節の動詞がthink, imagine, supposeなどの軽い動詞だと、疑問詞が先頭に出て、上の例文のような構成になる。
@説明が正しくない:誤釈
「軽い動詞だから」ではなく、「yes, noで答えられないから」。
→×Do you think what I mean to do when I grow up?とはいえない。
cf. ○Do you know what I mean to do when I grow up?(yes、noで答えられる)
よく理解できない人がいるかもしれないので、説明する。
4.1.4のWhatは疑問詞(何を)。×印の文を疑問詞として訳してみると「何をするつもりか思いますか」となっておかしいのが分かるだろう。
もう一つの説明としては、英語の情報構造は主題→焦点の順になる、ということ。4.1.4
ではWhat(何)が主題、do you thinkは挿入節、I mean to doが焦点[問い:私が何するつもりと思うか?→答え:…だと思う]。○印の文ではDo you know(知っているか)が主題、what I mean以下が焦点[問い:知っているか?→答え:yes, no 〜]
We must make a distinction between what we read for our information and what we read for our formation.
make a distinction= distinguish→10-3例D。2つのwhat節はいずれも前置詞betweenの目的語。なお、@この文のwhatは関係詞(読むもの)と考えても、疑問詞(何を読むか)と考えても結局は同じことになる。
@説明が大まか:誤差
細かくいえば、the thing whichと置き換えられるなら関係詞、そうでなければ疑問詞。
例:We must ask what we read.(○何を読むかを尋ねねばならない:疑問詞。×読むものを尋ねねばならない:関係詞)
4.1 例題(1)
The Greek civilization was the first, so far as we know, which was not ruled by gods and priests. In all previous civilizations, men asked what the gods wished them to do or say, before they did it; and the priests were there to tell them.
But in Greece, for the first time, men began to do what it seemed right or sensible to themselves to do, and to discuss among themselves why some things seemed right and others wrong, how the world had come to be what it was, and how it could be altered.
我々の知るかぎりでは、ギリシア文明は、神々や僧侶に支配されることのない最初の文明であった。それ以前のすべての文明では、人間は何をし何を言うことが神意にかなうかをたずねてから、はじめてそれを言行に移したのであり、またその問いに答えるために僧侶がいたのである。しかし、ギリシアにおいてはじめて人間は自分で考えて@正しいか賢いと思えることをやりはじめ、また、なぜ物事の中に正しいこととまちがったことがあるように見えるのか、世界はどのようにして現在の姿になったのか、世界を変えるにはどうすればよいかを、自分たちの間で論じはじめたのであった。
@「正しいか賢いと思えること」:誤差
これも広くは同義語反復。
sensibleは、「理性や経験に基づき然るべき判断ができること」。「賢い」では、個人の性質に読めてしまう。また「正しいか賢い」ではどちらかを選択することになってしまう。このorは譲歩を示す(…でも〜)。
修正訳:「正しいとか理にかなっていると思えること」
4.2.2
Once we begin to imagine what the world ought to be, we are apt to be blind to what it is.
ひとたび世界のあるべき[理想の世界]を@想像しはじめると、現実の世界Aに対して盲目になりがちである。
@「想像しはじめると」:誤差
imagineは「心に思い浮かべること」。「想像」は同じ意味だが、かなり重い感じ。
修正訳:
「考えはじめると」
A「に対し盲目になりがちである」:誤差
日本語の「盲目になる」は「(夢中で)ことの是非がわからなくなる」ことだが、(1)判断がつかない (2)信じきってしまう、の二義ある。ここもどちらかよく読まねば分からなくなっている。(1)であるのをはっきり訳に出すべき。
修正訳:
「がよくわからなくなりがちである」
例題(2)
In matters of science, we must learn to ask the right questions. It seemed an obvious question to ask how animals inherit the result of their parents’ experience, and enormous amounts of time and energy have been spend on trying to give answer to it. It is, however, no good asking the question, for the simple reason that no such inheritance of acquired characters exists.
When we come to what are usually referred to as fundamental truths, the difficulty of not asking the wrong kind of question is much increased. Indeed, the life of the less civilized half of mankind is largely based on trying to find an answer to a wrong question, “What magical forces or powers are responsible for good or bad fortune?”
科学上の問題については、@正しい問い方をすることができるようにならなくてはならない。獲得形質の遺伝は動物の場合どのようにして行われるかを問うことは、かつてはA当然のことと考えられ、莫大な時間と労力がその問題を解こうとすることに向けられてきた。しかし、そのような問いをすることは無益である。理由は簡単で、B獲得形質のこの種の遺伝そのものがもともと存在しないからである。
通常、C基本的真理と呼ばれているようなことが問題になる場合は、D解答不能の質問をしないことはずっと難しくなる。E事実、人類のうち文明の進んでいないほうの半数の生活は、大部分が、「どのような魔力が原因で幸運不運は生ずるか」というF誤った問いに答えようとすることに基づいているのである。
@「正しい問い方をする」:誤差
このrightは「適切な」「それにふさわしい」の意味。「正しい」でも間違いではないが、意味があいまい。
修正訳:
「適切な質問をする」
A「当然のこと」:誤差
何で当然なのかと思ってしまう。このobviousは「たいていの人がそう思って、それに同意している(こと)」→「お互いにそうして(問うて)当然と了解されている」。意味を狭めたほうがよい。
修正訳:
「あって然るべき質問」
.
B「獲得形質のこの種の遺伝」:悪訳
「獲得形質」のなかの「この種の遺伝」と読まれかねない(獲得形質の他の種の遺伝はあるのか?)。suchは、「そのような」と訳されることが多く、like(類似)と混同されがちだが、「そ」で示される対象そのもの(同一)を指すことに注意。ここのsuchは「親から子へ体験が引き継がれる(獲得形質)こと」。「上記で述べた(ごとき)獲得形質遺伝は、存在しない」とすんなり読めるようにしなければならない。
修正訳:
「こうした獲得形質の遺伝」
C「基本的真理」:誤差
truthは、(1)狭くは「真理」 (2)広くは「事実」、だが、日本語訳で「真理」とすると大げさになる場合が多い。ここもそう。
matter of scienceとwhat are usually referred to as fundamental truthsが対照されている。「科学(上)の問題(事柄)」←→「基本的事実といわれている問題(事柄)」( = 平たくいえば「(社会)通念」で、そのほうが対照の理解も進むと思うが、この語を採るとバランス上、全体の訳文を柔らかくする必要がでてくるので断念)。
修正訳:
「基本的事実」
D「解答不能の質問をしないこと」:誤差
ここは@のrightの反対語で、「不適切な」の意味。
力点がずれている。質問の前提となっている事実自体が間違っていたら質問自体が成り立たない、といいたいのだ。
修正訳:
「おかしな質問をしないこと」
E「事実」:誤差
indeedは、(1)肯定の前文を受け、さらに強調し「実に」 (2)肯定の前文を否定し「実は」
(3)否定の前文を受け、さらに強調し「それどころか」 (4)肯定の前文を受け、幅を狭め「もっというと」、の四つの意味に大まかに分けられるが、ここは(4)。
修正訳:
「現に」
F「誤った問い」:誤差
「誤った問い」では不鮮明。魔力の効用といった具体的なものに対し言っているので、ここは訳も踏み込んだほうがよい。
修正訳:
「答えようのない質問」
この文章の後半の論理が、伊藤訳では(修正したものでも)読み取りにくいので、私のかみくだいた理解を次に掲げる:
本当は正しくないのに自明のこととして通っている事柄は世に多く、そういったことに関しては、適切な問いを発すること自体がむずかしい。卑近な例を挙げれば、「どんな魔術を使えば幸せになれるか」といった問いは、そもそも認識自体が間違っているのだから本来問いの発しようがないはずなのだが、「魔術で幸せになれる」という認識が共通にある未開社会では大真面目に議論されているのだ。
4.3.9
Whatever may be said in dispraise of the telephone, there are few of us who would willingly be without it.
電話を非難してどんなことが言われようと、喜んで電話なしですまそうという人は少ない。
@「喜んで電話なしですまそうという人」:誤差
willinglyは、本心から喜んでいるのでない。とくに反対するいわれもないから、といった消極的同意を示す。
修正訳:
「電話なしでも構わないという人」
[第五章]
5.1.2
Rarely does a man love with his soul, as a woman does.
女性のように@全霊をこめて愛することは、男性にはめったにない。
@「全霊をこめて」:悪訳
広辞苑によれば「全霊」とは「精神力のすべて」のこと。英語では、devote oneself to
〜 とでもなろう。ちと大げさではないか。soulは、広くは「心」だが、知に対する「情」に力点があることば(例:He has no soul.彼には情がない)だから、「心をこめて」「情愛深く」といった意味が伝わる訳語を選ぶのがよいだろう。
修正訳:
「誠心誠意」
5.1.8
Only when we use our ingenuity and energies to give happiness to others regardless of reward may we achieve happiness ourselves.
@報酬のいかんを無視して他人を幸福にするため才能と精力を用いるときにのみ[用いるときはじめて]、みずからも幸福になることができる。
@「報酬のいかんを無視して」:悪訳
regardless ofは、(1)…を無視して。例:She is regardless of the doctor’s advice.(彼は医者の言うことを無視している) (2)…に構わず(省みず)。例:He went regardless of our objection.(我々の反対にもかかわらず、彼は出かけた)、のうち(2)。
修正訳:
「報酬のいかんにかかわらず」
5.2.4
At a quarter of a mile from the point at which the highway issued from between the banks was a stone post, marking the spot where three roads met and united in one.
公道が@堤防の間から出ている地点から4分の1マイル行った所に1つの石の道標があって、3本の道が出会って1つとなる地点を示していた。
@「堤防の間から」:誤差
訳文を読む限りでは破綻はないが、原文と照らすと、この訳語では複数の堤防(the banks)相互の位置関係とそこから道がどう出ているかがわからない。
前にもあったがbankは、微妙に多義。「川床」「堤防」「川岸」「川の両岸(複数形で)」「川沿いの土地」。この一文だけからはどれが適当かは判断できないが、banksと複数になっていることから、「川沿いの土地」ととるのが順当ではないか。例:They built house on the banks of the River Seven (= on land near the river).[OXFORD現代英英辞典]
修正訳:
「川沿いの土地から」
5.2.8
From a study of the production of the various presses of different countries can be determined, more or less accurately, the general requirements of the reading public.
各国のいろいろな出版社の刊行物を調べると、@その国の読者層の一般的要求がだいたい正確に推定できる。
@「その国の読者層」:誤訳
different countriesを構成する逐一の国を受けて、the reading publicを「その国の読者層」ととることはできない。その場合は、each country。ここのthe reading publicは、「読者層全体」を指す。
修正訳:
「読者層全般」
5.2.9
His health was never good at any time of his life, and coupled with this was the fact that all his life he was poor in financial circumstances.
彼は生涯、いつも健康がすぐれなかった。そして、@このことに加えるに、一生彼は経済的に窮乏していたという事実があった。
@「このことに加えるに、一生彼は経済的に窮乏していたという事実があった」:誤訳
ここを普通の文に書き換えると、The fact (that all his life he was poor in financial circumstances) was coupled with this. (thisは、his health was never good at any time of his life) つまり、厳しい経済状況と身体の弱さは不可分、ということ。ほかの例:Knowledge must be coupled with tolerance.(知識は寛容と結びつくものだ→ものを知るほど人は寛容になる)
「このことに加えるに」の訳語は、coupled withが前置詞的に使われた場合の意味(「…とあいまって」。例:The rise in unemployment, 〜 with low pay increases, is proving a drag on consumer spending.失業率の増大は、賃金上昇率の鈍化とあいまって消費者支出にブレーキをかけている)からの類推だろう。他山の石とすべし。
修正訳:
「このことは生涯にわたる窮乏生活とつながっていた」
5.3.2
He was honest, clean, and clever. But one very important quality in men of good position he had never learnt, and that quality was politeness.
彼は正直で@清潔で頭がよかったが、高い地位の人には非常に重要な1つの性質がどうしても身につかなかった。そしてその性質とは礼儀正しさであった。
@「清潔で」:誤差
一読すると「キレイ好き」なのかと思ってしまう。二読して「精神的にキレイ」なのか、とわかる。読者にちょっと不親切。三つの形容詞がでこぼこなく並列する訳語を選ぶ。
修正訳:
「高潔で」
5.3.8
We change and change vitally, as the years go on. Things we thought we wanted most intensely we realize we don’t care about.
歳月がたつにつれて、我々は@根本的な変化に変化を重ねてゆく。昔はどうしてもほしいと思っていたものが、今はどうでもよくなっていることに我々は気づく。
@「根本的な変化に変化を重ねてゆく」:誤差
意味がとりにくい。vitallyは、必須、活力、根本を示す形容詞vitalの副詞形(extremely; in an essential way)だから、「本質的かつ激しい様」をいうのがわかるように訳す。また動詞の繰り返しは強調。
修正訳:
「根本からの変化をどんどん重ねてゆく」
5.3例題(2)
No doubt throughout all past time there actually occurred a series of events which constitutes history in some ultimate sense. Nevertheless, much the greater part of these events we can know nothing about, not even that they occurred; many of them we can know only imperfectly; and even the few events that we think we know for sure we can never be absolutely certain of, since we can never revive them, never observe or test them directly.
@過去の全時代を通じて、Aある究極の意味でB歴史を構成するC一連の出来事が現実に発生してきたことはたしかであるが、それにもかかわらず、これらの出来事の大部分についてはD何も、Eそれが起こったということすら知りえない。多くの出来事については我々は不完全にしか知りえないし、確実に知っていると思う少数の事件についても絶対的確信を持つことは不可能である。それらを再現したり、直接に見て調べることは決してできないからである。
@「過去の全時代」:誤差
timeは(u)不可算名詞で「時間(なるもの)」「時(の流れ)」、(c)可算名詞で「時期」「時代(複数)」。ここは(u)「時の流れ」だが、そのまま訳すとしつこくなる。
修正訳:
「過去全体」
A「ある究極の意味で」:誤差
「どんな究極的な意味」なのか興味津々になってしまう。そんな思わせぶりな意味ではない。はっきり分かる言葉にする。someは可算名詞単数形につけた場合、aの代わり(不確かなものに使う)となる。例:some boy(少年が誰か)
修正訳:
「根本的な意味合いで」
B「歴史を構成する」:誤差
構成するでは硬い。歴史がいろいろな要素から出来上がっているということ。
修正訳:
「歴史を作り上げている」
C「一連の出来事が」:誤差
ことばづらはいいが、意味がわかりにくい。「連続して起こっている」ということがはっきりわかるように訳す。
修正訳:
「出来事が一続きとなって」
D「何も」:誤差
knowは、ここでは「知っている」をさらに狭めた「精通している」の意味で使われている。だからカンマ以下のいいかえで「起こったことさえ」が生きるのだ。「何も」と強く否定しては後が続かない。(muchは副詞で、比較級を強調するもの。)
修正訳:
「ほとんど何も」
E「それが起こったということすら知りえない」:誤差
カンマが言い換えであるのを訳に出すのが親切というもの。
修正訳:
「いやそれが起こったということすらよくわからない」
5.4.1
Slowly there grew up through the centuries the belief that nations should treat one another according to certain rules of right and justice.
国家はその相互関係においてある種の@正義の法則に従うべきであるとの信条が、何世紀かの間にしだいに生まれてきた。
@「正義の法則」:誤差
rightもjusticeも似たような意味を重ねる同義語反復。一語でまとめるのは構わないが「正義」にひっかかる。あまりに抽象的だからだ。ここはJustice have done.(審判《裁き》は下された)とおなじような使い方だろう。それが分かるように訳す。
修正訳:
「公正・公平の原則」
5.4.9
In large cities today the workers enjoy more comforts than did the workers of former periods of history.
現代の大都会では、労働者は昔の時代の労働者よりも@快適な生活を送っている。
@「快適な生活を送っている」:誤差
enjoyはここでは「よいものを持っていること」。comfortは、複数で可算名詞化され具体的な「慰めのもととなるもの」→「快適な生活設備」。
修正訳:
「快適な生活設備に恵まれている」
5.4.12
Edison tries thousands and thousands of ways to do a thing, and never quits, even should it take ten years, until he has either found a way or proved conclusively that it cannot be done.
エジソンは@あることをするのにA何千もの方法をためしてみて、方法を発見するか、その不可能を決定的に証明するまでは、万一10年かかっても、決してやめない。
@「あることをするのに」:誤差
このdoは「する」でなく「作る」(もっと狭めれば「発明する」)。例:do a book(本を書く) do a movie(映画を作る)
修正訳:
「ものを作るのに」
A「何千もの」:誤差
「何千もの」ならthousands ofだけでよいはず。数を重ねることで、多さを強調する。
修正訳:
「何千何万の」
5.4例題(1)
There may be said to have developed in the last few years a “revolt of the individual” against the conformity which an excessive regard for material objects has imposed on daily life. Behind this change is a sense that personal possessions now have lost their power to distinction.
物質的なものに対する過度の尊重のために、日常生活は誰の場合も同じようなものになってきているが、この種の一様性に個人が反逆する傾向がこの数年間に生じてきたと言ってよいかもしれない。このような変化の背後には、個人的な財物を持っていてもそれで他人よりすぐれていることにはならなくなったという考え方がある。
@「物質的なものに対する尊重のために、日常生活は誰の場合も同じようなものになってきているが」:誤差
このあたり直訳すると「物質的なものに対する過度の敬意が日常生活に押し付けた画一性(に対する『個人の反抗』)」。
意訳なら元のままでもよいが、他の箇所はだいたい直訳的になっているので、ここもそのように統一しないと、何故ここだけが意訳なのかと読み手は疑念を抱いてしまう。
修正訳:
「物質的なものに対する過度の尊重が、日常生活を画一的なものにしてきたが」
[第六章]
6.1.2 Few insectsAenjoy more fame than the glowworm, the curious @little animal who celebrates the joy of life by lighting a lantern at its tail end.
ホタルという、尾の先に提灯を灯して生の喜びを祝う珍しい@小動物ほど、Aよく知られている昆虫は少ない。
@「小動物」:悪訳
ここはplant(植物)に対するanimal(生物)として使われている。「動物」では、イヌ、サル、ゾウといったものが連想されてしまう。littleは広い意味をもつが、ここでは美称(ちっちゃな、かわいいい、ステキな)として使われているようなので、訳は省いてよいだろう。
修正訳:「生き物」
A「よく知られている」:誤差
これも意訳なのだが、なぜここだけ意訳したのか、なぜこの意訳になるのかがわからない。enjoyは、よいものを持っている→…に恵まれている(稀に悪いものを持つのに使われることもあるが。例:enjoy poor health体が弱い)。fameは、人々によく知られ話題に上ること。それでenjoy fameは、直訳すれば「名声を享受する」、意訳するなら「愛されている」「親しまれている」ぐらいだろう。
修正訳:「親しまれている」
6.1.3 You may have heard of that lovely land called Italy, the land of golden sunshine and @warm, soft air.
イタリアと呼ばれる、黄金色の日光と@暖かくやわらかい大気を持つ美しい国のことを聞かれたことがあるかもしれません。
@「暖かくやわらかい大気を持つ」:誤差
日本語として稚拙。warmは、日本語の「暖かい」とズレがあって訳すのがむずかしい。暑さの順でいえば、hot >warm> cold。温度でいえば、warmは16〜27度ぐらい。感じ方でいえば、warmは暖かい、場合により暑い(comfortably warm:心地よい暖かさ oppressively warm:暑苦しさ)。蒸し暑いは、siggyとかmuggy。
softは、気候に用いた場合、穏やかで心地よいこと。「暖かく」はこれでよいとして、「やわらかい」は大まか過ぎる。airは、「大気」「空気」ともとれるが、ここは「ゆるやかな空気の流れ」のことと私は感じる。フォスター作曲『金髪のジェニー』の歌詞を思い出す---「夢のジェニー、髪は黄金、真夏の陽炎にゆらめく。」真夏の陽炎に、はFloating like a vapor, on the soft summer air.の訳であったのだ。けだし名訳。といっても、英文読解指南書の訳には反映しにくい…。残念だが、たいした直しにはならない。
修正訳:「暖かく心地よい空気につつまれる」
6.1.5 “I am a citizen, not of Athens or Greece, but of the world.” These are the words of Socrates, the ancient Greek philosopher, and perhaps @the wisest man who ever lived.
「私はアテネやギリシアの市民でなく、世界の市民である」これは古代ギリシアの哲学者であり、おそらく@かつてないほどの賢者であったソクラテスの言葉である。
@「かつてないほどの賢者であった」:悪訳
日本語が不自然。直訳は「今までに生きていた一番賢い人物」。ever=at any time。
「…であった」とすると、今は違うのかと思われかねない。この過去形は、今を否定するのでなく過去に焦点をあてる使い方。
修正訳:「これまで一番の賢者である」
6.1.8 @Good health and physique, cheerfulness and a desire to help others, all play a big part in making happiness and prosperity.
@健康と立派な体格、快活さと他人を助けようとする願望、これらすべてが、幸福と繁栄を作り上げる上で大きな役割を果たす。
@「健康と立派な体格」:悪訳
直訳すれば「よい健康状態とよい体つき」→「健康と丈夫な体」。確かにphysiqueは「体格」の意味で使われるが、立派な体格ならstrong physiqueとかfine physiqueというだろう。healthとphysiqueが対比され、同じgood(よい→元気な、健康な、丈夫な)で修飾されているのだから、それが反映されるような意味で使っているはずだ(多義の形容詞が二つの名詞を修飾する場合、同じ意味を持つのが原則)。また文脈からしても「立派な体格」が「幸福と繁栄」の主要理由になるというのはおかしい。
修正訳:「健康でいて体が丈夫であること」
6.2.1 The especially human activities which distinguish man from other animals all Adepend upon the lessening of his bondage @to physical nature.
人間を他の動物と区別する特に人間的な活動はすべて、@物理的自然に対する人間の隷属をA減少させることとかかわりがある。
@「物理的自然に対する」:誤差
意味があいまい。「物理的」の意味を検討する。(1)体にかかわる (2)現実に存在するものにかかわる (3)自然の法則にかかわる (4)科学的研究にかかわる、のうち(2)→目に見える、感じられる、提示される。意訳になるが「自然の猛威」ではどうだろう。
修正訳:「自然の猛威に対する」
A「減少させることとかかわりがある」:悪訳
「かかわりがある」でなく、「…如何にかかっている」。そのままでは主語との結びつきが悪いので、つなぎの言葉を工夫する必要がある。
修正訳:「(人間的な活動の可否は…)減らせるかどうかによって決まる」
6.3例題
Man is one of the most adaptable of all living things, an honour which he perhaps @shares with his constant companions, the dog and the housefly. Man can maintain himself as a population high in the mountains, or in arctic wastes, or in tropical jungles, or in desert desolation. AIndividually he has penetrated the depths of the ocean and Bthe outer reaches of the atmosphere. Man is marvellously adaptable---Cexcept to man.
人間はあらゆる生物の中で最も適応性に富んだものの1つであって、その名誉を人間といつもいっしょにいる犬や家バエとおそらく@ともにしているのである。人間は高山でも、北極の荒地でも、熱帯のジャングルでも、荒涼たる砂漠でも、そこに住みついて生活してゆくことができるし、A個人としてなら大洋の深海やB大気圏の上層部にまで達している。人間は驚くほど適応性を持っているが、Cただ人間に対するときだけは別である。
@「ともにしている」:誤差
日本語が稚拙。
修正訳:「分かち合っている」
A「個人としてなら」:誤差
特定の個人が連想されはしまいか。
修正訳:「中には(大洋の深海や大気圏の上層部にまで達している)者もいる」
B「大気圏の上層部」:誤差
outerは「…の端」(伊藤の本文にも述べられているように「…の外」ではない)だから、上層部より訳をもっと狭めたほうがよい。
修正訳:「大気圏のはずれ」
C「人間に対するときだけは別である」:誤差
この文のオチが利くように訳して欲しい。
修正訳:「人間に対してだけは別なのである」
[第七章]
7.1.2
Probably in a modern city the man who can distinguish between a thrush’s and a blackbird’s @song is an exception. It is not that we have not seen the birds. It is simply that we have not noticed them.
現代の都会でツグミの@歌とクロウタドリのA歌が聞き分けられる人は、おそらくまれであろう。それらの鳥を見たことがないからではない。ただ、それらに気がついたことがないだけなのだ。
@A「歌」「歌が」:誤差
鳥の声を、比喩的に「歌」といっている。訳文に叙情が求められる場合なら「歌」でよいが、これは英文解釈指導本なのだ。意味を正しくとったほうが、読者の勉学も進むというもの。
修正訳:「さえずり」「さえずりを」
7.1 例題
In the violent conflicts which now trouble the earth @the active contenders believe that since the struggle is so deadly it must be that the issues which divide Athem are deep. I think they are mistaken. Because parties are bitterly opposed, it does not necessarily follow that they have radically different purposes. The intensity of their antagonism is no measure of the divergence of their views. There has been many Ba ferocious quarrel among sectarians who worship the same God.
現代の世界を悩ましている激烈な闘争の中で@活発に戦っている人々は、争いがかくも激しいものである以上、A彼らを対立させている問題は深刻なものであるにちがいないと信じている。私は彼らの考えは誤りだと思う。党派が激しく対立しているからといって、必ずしも、彼らが根本的に異なる目的を持っているということにはならない。敵対心の強さを、考え方の違いをはかる尺度にはできない。同一の神を崇拝する党派の間にも、これまで多くのB凶暴な争いがあった。
@「活発に戦っている人々」:誤差
このactiveは(1)活動的な (2)活動中の (3)活動力ある、のうち(2)。
例:active member (所属しているだけでなくて)現に活動しているメンバー
修正訳:「現役の活動家」
A「彼らを」:誤差
「…人々は」が主語なのだから、人称を主語の立場にそろえたほうがよい。
修正訳:「自分たちを」
B「凶暴な戦い」:悪訳
コロケーションが悪い。凶暴な「人・犯罪」(人間または個々の人間がかかわること)とは言うが、凶暴な「戦い」(人間とのかかわりよりも、大きな出来事として捉えている)とはいわない。
修正訳:「激しい争い」
7.2 例題
It has become usual to indicate the close relation between the particular problems studied by the scientist and the social conditions and technical requirements of his age. This certainly helps to dispel the false impression that the “pure” scientist works in a vacuum, completely unrelated to the conditions of the external world. It serves to emphasize that the scientist, however @abstract his subject, Ashould be regarded as an element in the social picture of his time. It does Bnot necessarily imply, what is obviously incorrect, that all the work done by scientists has resulted, however unconsciously on their part, from some pressing social need. It is clear from the number of major discoveries that have remained without possible application for many decades that the scientist’s free sprit of inquiry frequently precedes the needs of the community in which he lives.
科学者が研究する個々の問題と、時代の社会的状況や技術的要求の間には密接な関連があることを指摘するのが普通のこととなっている。「純粋」科学者は真空状態の中で仕事をするのであって、外部の世界の状況とはまったく関係を持たぬかのような誤った印象を一掃するのを、この傾向はたしかに助けているし、それはまた、研究課題がいかに@抽象的であっても、科学者はやはり時代の社会的状況の1要素とA見なされなくてはならぬということを強調するのに役立っている。しかし、そう言ったからとて、科学者のする仕事はすべて、科学者自身にとってはいかに無意識であっても、なにかさしせまった社会的要求から生まれたものだというような、明らかにまちがったことをB言っているわけではない。何十年間もまったく応用されぬままになっている大発見の数を考えれば、科学者の自由な探求の精神が周囲の社会の必要よりしばしば先行することは明瞭である。
@「抽象的で」:悪訳
このabstractはpracticalに対するもの。「抽象的な」→「具体的でない」→「観念的な」→「理論的な」→「純粋な」と意味が狭められる。
修正訳:「現実とかけ離れたもので」
A「見なされなくてはならぬ」:誤差
shouldを「…すべき」とみんな覚えるが、義務のshouldは実はそれほど強い意味ではない(shall> will> must> have to> need to> be to> had better> ought to> shoudがおおまかな強い順)
修正訳:「見なされるものだ」
B「言っているわけではない」:誤差
not+程度・頻度の副詞は、部分否定→必然的に…するわけではない。
修正訳:「示しているとはいえない」
7.3.5
It was not until the shadow of the forest had @crept far across the lake and Athe darkening waters were still that we rose reluctantly to put dishes in the basket and start on our homeward journey.
森の影が湖の@上に遠くまでのび、A暗さをます水面が静かになってはじめて、私たちは気の進まぬまま立ち上がって皿をバスケットに入れ家路についた。
@「上に遠くまでのび」:誤差
acrossは貫通を示す。「遠くまで」と曖昧に言うのではなく、向こう岸までたどり着いていることを示している。crept(動詞:行為) far(副詞:おおまかな位置) across(前置詞:具体的な場所)の形[這う→遠くに→湖を越えて]
修正訳:「むこうまでのび」
A「暗さをます水面」:誤差
watersと複数(強意複数:大きさ、広さ、量を示す)が使われているので、「水面」だけをいっているのではない。
修正訳:「暗さをます水」
7.3.9
It was my teacher’s genius, her @quick sympathy, her Aloving tact which made the first years of my education so beautiful. It was because she realized the right moment to impart knowledge that made it so pleasant and acceptable to me.
私が受けた教育の最初の数年間をすばらしいものにしてくれたのは、私の先生の非凡な才能、@その素早い共感とA愛情にあふれた技量であった。それは、先生が知識を与えるべき時を心得ていて、そのおかげで知識が私にはおもしろく受け入れやすいものとなったからであった。
@「その素早い共感」:悪訳
直訳すれば「機敏な共鳴」。自分の考えや行為にすぐさま反応し分かってくれること。
修正訳:「敏感にわかってくれること」
A「愛情にあふれた技量」:悪訳
lovingは、他動詞の現在分詞形の形容詞で「人を愛する」→「愛情あふれる」。tactは、「如才のなさ」。ここでは、相手を思いやってその場その場で臨機応変に対応すること。
修正訳:「思いやりあふれる対応」
7.3 例題(1)
It is not the rough and stormy sea that is most perilous to the ship. It is the dangerous rock-bound shore. When a ship is @safely laden and Afully manned, she is as safe on the sea as in a harbour. It is when she leaves the shore on departing and reaches it on returning, that she Bruns the risk of shipwreck.
船に最も危険なのは荒れた、嵐の海ではない。岩に囲まれた危険な岸である。船が@危険でない程度に荷が積まれ、乗組員がA十分に配置されている場合には、船は海上でも港にいるときと同じように安全である。船がB難破の危険をおかすのは、出発に際し岸を離れるときと、帰路岸に到着するときである。
@「危険でない程度に荷が積まれ」:誤差
safely「安全に」をどう訳すかだが、「危険でない程度に」では力点がずれる。
修正訳:「適正に荷が積まれ」
A「十分に配置されて」:誤差
fully「十分に」では(1)たっぷり (2)必要なだけ、のどちらかがあいまい。ここは(2)なので、それがわかるように訳す。
修正訳:「きちんと配置されて」
B「難船の危険をおかすのは」:誤差
「危険をおかす」では、自ら進んでするようにとられかねない。
修正訳:「難船の危険にさらされるのは」
7.3 例題(2)
The Englishman learns by his mistakes, when once he is convinced of them; but it is only @the brutal evidence of hard facts which will convince him, and, until Athese hard facts hit him in the face, his doggedness will make him hold on. It has been said that the English lose all battles and win all the wars; and it is only after he has lost Ba certain number of battles that the Englishman changes his tactics.
英国人はいったん自分がまちがっていると納得するとその誤りから学ぶが、英国人を納得させられるのは@きびしい現実の過酷な証拠だけである。Aこのきびしい現実に正面衝突するまでは、英国人はかたくなな性質のためやり方を変えようとしない。英国人は戦闘にはすべてやぶれるが、戦争にはすべて勝つと言われてきた。Bいくつかの戦闘にやぶれた後はじめて英国人は戦術を変えるのである。
@「きびしい現実の過酷な証拠」:誤訳
hard factsは「厳然とした事実」。brutalは「冷厳な」。ofは同格「…という」。
修正訳:「動かぬ事実という冷厳な証拠」
A「このきびしい現実に」:誤訳
上と同じ。
修正訳:「この動かぬ事実」:誤差
B「いくつかの戦闘」:悪訳
a certainは、不特定の「いくつか」ではなく「一定量の」の意味。
修正訳:「ある程度の数の戦闘」
7.3 例題(3)
It is generally accepted that every intelligent person Ashould know something about the history of the country---and if possible of the world--- in which he lives, of the literature which he reads, of @the trade or profession which he follows, of the religion he believes in. BWhy not, therefore, of the language which he speaks? It is in the belief that there is Ca real necessity for this, and that one of the most certain ways to ensure Dan intelligent use of any language is to study it historically, that the present book has been written.
知性をそなえた人は誰でも、自分が住んでいる国の、できれば世界の歴史、自分が読む文学の歴史、@従事している商売や職業、信奉する宗教の歴史について、ある程度A知っているべきだということが一般に認められている。では、自分の話す言語について、Bなぜそうであってはならないのか。この書物が書かれたのは、C言語の歴史について知識を持つことが真に必要であり、D言語の知的な使い方ができるようになるための最も確実な方法の1つは、その言語の歴史的研究であると信ずるからである。
@「従事している商売や職業」:誤差
「商売」は「職業」の一種であり、並列できない。このtradeとprofessionは同義語反復。ご丁寧にtheで一括りにされている。二語の差を訳出しようと苦慮する必要なし。
修正訳:「従事している仕事」
A「知っているべきだ」:誤差
これは義務というより、当然を示すshould。
修正訳:「知っていて当然」
B「なぜそうであってはならないのか」:悪訳
Why should he not know something about the history of the language which he speaks?の省略形。なぜ知性を備えた人はだれでも、自分が話す言語の歴史についてある程度知っていて当然ということにはならないのか。「…であってはならない」だと「…してはいけない」の意味になってしまう。
修正訳:「なぜそうならないのか」
C「言語の歴史について知識を持つことが真に必要」:悪訳
thisは前文の反語の内容を指す。つまり、Every intelligent person should know something about the history of the language which he speaks.「自国の」を入れないとまずいだろう。
修正訳:「自国の言語の歴史を知ることが真に必要」
D「言語の知的な使い方」:誤差
わかりにくいので、くだいて訳す。
修正訳:「言語をきちんと使いこなすこと」
[第八章]
8.1.1
It is a @plain and simple duty for those who wish to act rightly, and who have realized their limitations, to refuse great positions Ahumbly and seriously, if they know that they will be unequal to them.
自分が高い地位にふさわしくないと知っている場合、その地位をA謙虚かつ真剣に拒むことは、正しく行動することを願い自己の限界を知っている人の@明白単純な義務である。
@「明白単純な」:誤差
英語は似たような意味を重ねて言うのが好きな言語なのである。これも同義語反復。二語の意味の差に苦吟する必要はない。
修正訳:「明々白々な」
A「謙虚かつ真剣に拒む」:誤差
これも広い意味での同義語反復。「謙遜して真面目に拒絶する」ことを日本語では何というか。
修正訳:「固辞する」
8.1.3
There are opportunities for the boys and girls to do a great many useful things outside of the regular @school work.
少年少女には、決まった@学校の仕事のほかに、多くの有益なことをする機会がある。
@「学校の仕事」:誤差
仕事では、意味が広すぎる。このworkは、勉強のことだろう。
修正訳:「課業」
8.1.4
While the other still lay she went into the kitchen and lit the fire and made water hot for her husband and for her mother @to drink when they woke.
他の者がまだ寝ている間に彼女は台所に入って、火をたき、夫と母が起きてから@飲むための湯をわかした。
@「飲むための」:誤差
厳密にいえば「飲むための湯」ならhot water to drinkとなるはず(形容詞が前から名詞を修飾する場合に、永続的・分類的・一般的な意味をあらわす。後ろから修飾する場合は、一時的・個別的)。
ここは「drinkするためにwaterをhotな状態にmade」と読むべきところ(to不定詞の副詞的用法)。
修正訳:「飲めるように」
8.2.4
I fell asleep, @too exhausted to come to any decision that night, my mind full of doubt and perplexity.
疲れきっていて@その夜は決定を下せなかったので、心を疑いと困惑でいっぱいにしたまま、私は眠ってしまった。
@「その夜は決定を下せなかったので、心を疑いと困惑でいっぱいにしたまま」:悪訳
too exhausted以下の挿入句は、因果でなく付帯状況ととるべきだろう。またdoubtとperplexityの並列が大雑把。
修正訳:「その夜は決定を下せないまま、割り切れない気持ちいっぱいで」
8.2例題(1)
I like to think of university life as a comradeship between older and younger people, all of them @being students at heart, and holding all essential values in common, but with a great diversity of interest and personal qualities which they share with each other and contribute to Athe common good.
私は大学生活を年長者と若い人々の僚友関係と考えたい。そこではすべての者が@心の底では学生であり、あらゆる本質的価値を共有してはいるが、ただ関心と個性は非常に多様で、これを彼らはたがいにわかちあい、A共通の善のために捧げるのである。
@「心の底では学生であり」:誤差
日本語として、おかしい。
修正訳:「学徒の心を持ち」
A「共通の善」:誤訳
きわめてあいまい。the common good=the public goodで、「公共の利益」「公益」。
修正訳:「公共の利益」
8.2.8
@With the recollection of little things occupying his mind he closed his eyes and leaned back in the car seat.
@小さなことの思い出で心をいっぱいにして、彼は目を閉じ車のシートにもたれていた。
@「小さなことの思い出で心をいっぱいにして」:悪訳
「ちいさな思い出」というと、何か肯定的なことを暗示させるが、このrecollectionは良いことでも悪いことでもなく中立的な「記憶」。little thingsは「ささいなこと」の意味だろう。mindは「心」と訳せるが、heartの「心臓、感情、心持ち」に対する、「頭脳、理性、精神」。
修正訳:「いろいろなことがとりとめなく頭に浮かんできて」
8.2.例題(3)
When the World War of 1914 broke out in Europe, there was in America, at first, an almost universal agreement that the struggle was no business of the United States. Behind this lay the sentiment of isolationism and a desire for peace. But as the conflict developed, with America’s rights at sea in danger and @imperialistic Germany pressing dangerously toward victory, the public, while still against taking up arms, began to divide into two camps: pro-German and pro-Ally groups.
AConcern for democratic Britain and France, however, came to prevail, and when the United States itself entered the struggle, the people were united as never before in a time of national danger.
1914年の第一次世界大戦がヨーロッパで勃発した時、最初アメリカでは、この戦争はアメリカと関係がないという点で、ほとんどすべての人の意見が一致していた。この背後には孤立主義の感情と平和に対する願望があった。ところが戦争が広がって、アメリカの海上航行権が危機に瀕し、@帝国主義ドイツの危険な勝利がせまってくると、民衆は武器をとることには依然反対していても、2つの陣営、つまりドイツ派と連合国派とに分化しはじめた。しかし、A民主国家であるイギリスとフランスに対する不安の念が上位を占めるようになり、米国自身が参戦した時には、国民は国家の危機に際してかつてなかったほどの団結を示した。
@「帝国主義ドイツの危険な勝利がせまってくると」:悪訳
「危険な勝利」では、勝利することが危険、と読めてしまう。pressing dangerouslyは「危険なほどに突進して」。勝ち方を問題にしているのだ。
修正訳:「帝国主義ドイツががむしゃらに勝利に向かって突き進むと」
A「民主国家であるイギリスとフランスに対する不安の念が上位を占めるようになり」:悪訳
このconcernは、(1)関係 (2)関心 (3)不安 (4)気遣い、のうち(4)。prevailは、(1)勝る (2)流布する、のうち(2)。
修正訳:「民主国家であるイギリスとフランスに対する気遣いが広がるようになり」
8.4例題(2)
Affection of parents for children and of children for parents is capable of being one of the greatest sources of happiness, but in fact at the present day the relations of parents and children are, in nine cases out of ten, a source of unhappiness to both parties. @This failure of the family to provide the fundamental satisfaction which in principle it is capable of yielding is one of the most deep-seated causes of the discontent which is prevalent in our age.
親が子供に持つ愛情と子が親に持つ愛情は、幸福の最大の源泉の1つとなることができる。しかし、現代の現実では、親子の関係は十中八九まで、双方にとり不幸の原因となっている。@家族制度は原理的には根本的な満足感を与えることができるはずなのに、現実にはそれができずにいることが、現代に広がっている不満の最も奥深い原因の1つである。
@「家族制度は原理的には根本的な満足感を与えることができるはずなのに、現実にはそれができずにいることが」:悪訳
説明訳にしたつもりなのだろうが、くどくなってしまっている。
修正訳:「本来家庭生活が与えうる基本的満足を家族に与えられないでいることが」
[第九章]
9.1.1
@I know no statesman in the world who with greater right than I can say that he is the representative of his people.
自分が国民の代表であると、私よりも大きな権利をもって言うことのできる@政治家を私は世界中に知らない。
@「政治家を私は世界中に知らない」:誤差
あまりにも直訳的。I know that 〜 の形で、「〜という事実に気づいている」「〜ということをはっきり自覚している」の意味。
ここ、文の骨子はI can say with the greater right that I am the representative of my people.
修正訳:「政治家は世界中にいないはずである」
9.1.2
The modern American schools provide the young of all classes with @the common background that in an old, rural society is provided Aby tradition, by the daily life in each community.
現代のアメリカの学校はあらゆる階級の若者に@共通の生活体験を与えているが、それは昔の農村社会であれば、A伝統によって、つまり、それぞれの地域社会の日常生活によって与えられるものなのである。
@「共通の生活体験」:悪訳
このbackgroundは、「基礎知識、素養」の意味。例:have a background in music(音楽の素養がある)。
修正訳:「共通の素養」
A「伝統によって」:誤差
「伝統」では抽象的すぎて、「つまり」以下に続かない。もう少し具体的な訳語を選んだほうがよい。
修正訳:「しきたりによって」
9.1.5
@There are plenty of people who we know quite well are innocent of this crime.
この犯罪とは無関係であることを我々がよく知っている人が多数いる。=@我々がよく知っているところでは、この犯罪と無関係な人が多数いる。
@「我々がよく知っているところでは、この犯罪と無関係な人が多数いる」:悪訳
「知っているところでは」が、傍観者的に響く。be innocent ofは、罪を犯していない。=以下は意訳のつもりなのだろうから、語順も変え、もっと強く訳したほうがいい。
修正訳:「本件に関し無罪と我々が断言できる人が多数いる」
9.1.7
He was not excited over the prospect of marrying her, for she stirred in him none of the emotions of wild romance that @his beloved books had assured him were proper for a lover.
彼女と結婚すると考えても、彼は心がおどらなかった。@彼の愛読する書物によると恋する者にふさわしいと断言されている熱烈なロマンスの感情が、彼女を見ても彼の心には少しも起こらなかったからである。
@「彼の愛読する書物によると恋する者にふさわしいと断言されている」:誤差
proper forは「…に適した」だが、意味するところは「for以下が持っていてよいと認められる」こと。「ふさわしい」ではつなぎが悪い。
修正訳:「彼の愛読する書物によると恋する者にあって然るべきと断言されている」
9.2.3
Parenthood @is capable of producing the greatest happiness that life has to offer.
親であることは、人生が与えうる最大の幸福を@与えてくれることができる。
@「与えてくれることができる」:悪訳
「与えてくれることができる」はおかしな日本語。「誰に与えるの」かも不明確。元訳を少し変えるなら、「親になることは、人生が与えうる最大の幸福を人に与えてくれる」とでもしたい。直訳にしようか意訳にしようか頭の中ではっきりしないまま訳をつけた、という感じ。直訳ならば、修正訳のようになろう。
修正訳:「生み出すことができる」
9.2.9
The thing about her which I @knew I would never forget was the look in her eyes.
彼女のことで、決して私が忘れないと@分かっているのは、彼女の目つきだった。
@「分かっているのは」:悪訳
動詞がいくつか並ぶ過去の叙述についての訳は、ふつう文末だけを過去形にすればよいのだが、ここはknewを過去形で訳さないと「今わかっている」ように読めてしまう。それで「わかっていたのは」とすれば、状態動詞knewを正しく訳したことになるが、どうも強い感じになるので、修正訳のようにしたい。
修正訳:「思ったのは」
9.3.9
While the citizens of Great Britain and Northern Ireland are British, so are the citizens of other members of the British Commonwealth, @outstanding among which are Canada, Australia, and New Zealand.
グレート・ブリテンと北アイルランドの国民もブリティッシュであるが、他の英連邦構成国の国民も同様である。@他の構成国の中で特に目立つのは、カナダ、オーストラリア、ニュージーランドである。
@「他の構成国の中で」:誤差
その前の文で挙げられた以外に構成国があるわけではない。
修正訳:「それら構成国の中で」
9.3例題(3)
Beyond the red and violet of the spectrum lies a whole range of light waves to which @the senses remain insensible. But with the help of the ingenious instruments which he has contrived for himself, modern man has become aware of Aall sorts of light waves of the existence of which he would otherwise have been ignorant.
スペクトルの赤と紫の外にも、@感覚によっては知覚しえぬ光波の広大な領域が存在している。しかし、みずから作り出した精巧な道具の助けを借りて、現代人はあらゆる種類の光波について知るにいたったが、もしそれらの道具の発明がなかったら、Aそれらの光波の存在について人間は無知のままでいたであろう。
@「感覚によっては知覚しえぬ」:誤差
the sensesは「五感」(視覚、聴覚、嗅覚、味覚、触覚)。
修正訳:「五感が認識しえぬ」
A「それらの光波の存在について」:誤差
「それらの」があいまい。
修正訳:「それら存在している全光波について」
9.4.2
Although @the action of this novel begins when George the Fourth was still the King of England, we say to ourselves that this is the sort of thing we know life to be.
この小説に出てくる@活動は、ジョージ4世がまだ英国王だった時代にはじまっているけれども、我々は、これが我々が知っている人生そのままだと考えるのである。
@「活動」:悪訳
このactionは「筋の運び」のこと。
修正訳:「筋」
9.4.4
Science can give us things we want; or @things we do not know we want until it presents us with them.
科学は、我々がほしがるもの、@科学に与えられてはじめてほしいと思うものを与えてくれる。
@「科学に与えられてはじめてほしいと思うもの」:悪訳
意識下では元々ほしかった、そのことを与えられてはじめて気づいた、の意味。
修正訳:「科学に与えられてはじめてほしかったのがわかるもの」
9.4.9
Most of us @can remember the first time we heard or read something which seemed to throw a new light upon the world.
大多数の人は、世界に新しい光を投げかけるように見えるものをはじめて聞いたり読んだりした時を@思い出すことができる。
@「思い出すことができる」:誤差
can+感覚動詞は、(1)進行形の代用 (2)状態を表す (3)(そうしようとする)意志が入る、の3つの使われ方があり、かつどれともとれそうなことが多い(ここもそう)。
「…できる」一点張りの訳は、「能力」にとれてしまって、不自然になることがある。
修正訳:「思い出すのである」
[第十章]
10.1.4
Its purposes are to develop friendly relations @among all nations based on the principle of equal rights and duties.
それの目的は、@すべての国の間に、平等な権利義務の原則に基づく友好的関係を発展させることにある。
@「すべての国の間に」:誤差
「間に」では「発展させる」に連なることになり、コロケーションが悪い。
修正訳:「すべての国の間での」
10.1.11
There is no better opportunity than that given by daily conversation for @improving the quality of speaker’s thought and speech.
話し手の@思想や言葉を高めるための機会としては、日常の会話によって与えられる機会にまさるものはない。
@「思想や言葉を高める」:誤差
「思想」と「言葉」の並列は不自然。また「高める」とのコロケーションが悪い。大上段すぎる「思想」、月並みすぎる「言葉」のレベルをそろえるのがよい。
修正訳:「思考力や発言力を磨く」または「考える力や話す力を高める」
10.1.12
There is this remarkable difference between men and animals: that the latter are governed by nothing but their instinct and have very little @perception of past or future.
人間と動物の間には次のような顕著な差異、つまり後者は本能のみによって支配され、@過去や未来について知ることはほとんどないという差異がある。
@「過去や未来について知る」:誤差
「知る」の訳語があいまい。perceptionの意味「或るものの性質をはっきりと理解すること」を出さないと、説得性に欠ける。
修正訳:「過去や未来を認識する」
10.1例題(1)
@The very bigness of America has an importance in the formation of its tradition which it is not easy to overestimate. AIt creates the belief that America is different, is somehow exceptional, that there is reserved for its citizens another destiny from that which is to befall the Old World.
@アメリカの伝統の形成には、アメリカの大きさそのものが重要であって、この重要性はいくら重視してもしすぎることはない。Aそこからは、アメリカは他国とは違っており、なぜかは知らぬが例外的な国であって、旧世界に降りかかることになっている運命とは別の運命がアメリカ人を待っているのだというA信念が生まれてくる。
@「アメリカの伝統の形成には、アメリカの大きさそのものが重要であって、」:誤差
「形成には」は「重要」に連なることとなり、コロケーションが悪い。またimportanceが可算名詞化されているので、重要性がいくつかあるうちの一つを示唆する訳にすることが望ましい。
修正訳:アメリカの伝統を形成する上で、アメリカの大きさそのものが重要な要素となっており、」
A「そこからは…信念が生まれてくる」:誤差
英単語は多義であり、また幅が広い。beliefは、「信念」から「考え方」までの幅がある。ここ「信念」では強すぎるので、弱めた訳語にする。
修正訳:「そこから…強い思いが生まれてくる」
10.2.1
How can a united nation arise in @a country which is larger than the European continent exclusive of Russia,@ with a people of such diverse background and a history so short?
ロシアを除いたヨーロッパ大陸よりも大きく、@かくも多様な背景を持つ国民とかくも短い歴史しか持たぬ国に、どうして統一国家が誕生しえようか。
@「かくも多様な背景を持つ国民とかくも短い歴史しか持たぬ国に、」:悪訳
「国民」と「歴史」を並列させるのは、悪しき日本語。動詞を加えて、並列を自然なものとする。
修正訳:「かくも多様な国民がいて、かくも短い歴史しか持たぬ国に、」
10.2例題
There is no creature with which man has surrounded himself that seems so much like a product of civilization, so much like the result of @development on special lines and in special fields, as the honey-bee. Indeed, a colony of bees, with their neatness and love of order, their division of labor, their public-spiritedness, Atheir thrift, and Btheir complex economies, seems as far removed from a condition of rude nature as does a walled city or a cathedral town.
人間が身近に飼っている生物の中で蜜蜂ほど文明の所産らしく思われるもの、@特殊な方面や特殊な分野での発達の成果らしく思われるものはほかにない。それどころか、蜜蜂の集団が整然として秩序を愛し、分業を行い、公共心に富み、A倹約であり、B複雑な有機的組織を持っているのを見ると、それは城壁をめぐらした都市や大寺院のある町と同様に、未開の自然状態をはるかに脱却しているように思われる。
@「特殊な方面や特殊な分野での発達」:誤差
lines(方面)とfields(分野)は同義語反復で、訳しわけに苦吟するには及ばない。specialは(1)特別の (2)独自の、のうち(2)。方向性からしても領域からしても、独特の発展をした、といっている。
修正訳:「自己の領域を独特なものに発展させた」
A「倹約であり」:悪訳
「集団が」は「倹約であり」に連なるが、コロケーションが悪い。
修正訳:「倹約を旨とし」
B「複雑な有機的組織」:悪訳
「有機的組織」といって理解できるものだろうか。このeconomyは、秩序を維持する仕掛け、のことだろう。
修正訳:「複雑な機構」
10.3.5
In the eighteenth century, a new attitude of mind was spreading among @thoughtful people which was to influence every aspect of life.
18世紀には@思想家の間に新たな精神的姿勢が広まり、それが生活のあらゆる面に影響を及ぼすこととなった。
@「思想家」:誤差
「思想家」では、専門家のようだ。「思索にふける傾向のある人々」とわかるような訳語が望ましい。
修正訳:「思慮深い人々」
10.3例題
The will to learn seems capable of triumphing over @the most astonishing obstacles. It can triumph over fatigue. There is abundant evidence that one can go on and on with the most exacting mental tasks with astonishingly little decline in efficiency. Even after a job of work has become acutely distasteful, it still remains possible to go on doing it well. Indeed, Athe suggestion has been made in highly responsible quarters that there is no such thing as mental fatigue at all, in the sense of sheer inability to produce any more results as a consequence of continuous work. When we want to stop we soothe our consciences by saying that we can’t continue.
学ぼうという意志があれば@最も驚くべき障害にも打ち勝つことができるように見える。意志は疲労を克服することもできる。多くの証拠によれば、最も骨の折れる仕事をいくら続けても、能率が低下せずにいられるのは驚くほどである。ある仕事がひどくいやになったあとでも、なおそれを立派にやり続けることは可能である。それどころか、きわめて信ずべき筋のA発言によれば、仕事を続けたためにこれ以上成果を生み出すことがまったくできなくなるという意味での精神的疲労などまったく存在しないと言われている。休みたくなると我々は、これ以上は続けられないと言って良心を慰めるのである。
@「最も驚くべき障害」:誤差
これは比較の対象を含意しない絶対最上級。
修正訳:「どんな驚くべき障害」
A「発言」:誤差
「きわめて信頼すべき筋の」ときたら「言」と続くのがふつうだろう。
修正訳:「言」
[第十一章]
11.1例題(1)
We Americans are @traditionally a Ahopeful people. For most of us Bthe sense of emptiness is not a permanent mood. CDeep down in our hearts, in spite of frightening Devidence to the contrary, we refuse to believe that our era represents the end of rational life. Most of us Eare following the psychologically healthy course, going on with our customary work, planning, as normal men must, for a better, happier future.
我々アメリカ人は@伝統的に、A希望にあふれた国民である。大部分の者にとりB空白感は永続する気分ではない。おそろしいD反証があるにもかかわらず、我々は現代が理性的生活の終末を示していることをC奥深い心の中では信じようとしない。大多数の人はE心理的に健全な道をたどって、日常の仕事を続け、普通の人間であればそれが当然だが、よりよくより幸福な将来を目ざしている。
@「伝統的に」:誤差
traditionalとくると「伝統的に」と訳してしまうのが受験英語のくせ。十年前から近所にあるバーでも英語ではtraditional barということがある。つまり「従来からの」と訳したほうがよい場合が結構あるのだ。例:E-mail actually is super competitive with traditional communication methods.(Eメールは今従来の通信手段と激しい競争をしている)
修正訳:「元々」
A「希望にあふれた」:誤差
接尾辞-fulは(1)性質 (2)可能性 (3)状態、を示す。「希望にあふれた」は意味があいまいだし、「国民」とつながりにくい。ここは(1)。
修正訳:「楽天的な」
B「空白感」:誤差
何が空白なのか、と思われてしまう。「空虚感」としたいが、言葉として確立していないので、砕いた訳語にする。
修正訳:「空しさ」
C「奥深い心の中では」:悪訳
日本語があいまい。
ふつう、副詞+前置詞句は、副詞が大状況(おおまかな場所)、前置詞句が小状況(具体的な場所)を示す。例:She is out in France.(国の外にいる→フランスに。「彼女は滞仏中だ」)。だがここでは、deep downがイディオム化し、「…の下深く」。例:One translucent shrimp hovering deep down in the beautiful green water(美しい緑の水の中深く、漂よっている半透明の小エビ)
修正訳:「心の奥底では」
D「反証がある」:誤差
to the contraryは「それと反対の」だから「反証」(evidence to the contrary)としたのだろうが、ちょっとわかりにくい。意訳する。
修正訳:「証拠が示されている」
E「心理的に健全な道をたどって」:誤差
ちょっとわかりにくい。このhealthyは「(精神的に)有益な;自然の」(normal and sensible)の意味。
修正訳:「健やかな心で人生の道をたどり」
11. 2. 4
He had nothing that was @mean or parsimonious in his character.
彼の性格の中には、@けちで物惜しみするところはなかった。
@「けちで物惜しみするところは」:誤訳
[{(けち)かつ(物惜しみ)}でない]、と読めるが、原文は[(けちでない)また(物惜しみでない)]。not A or B=AでもBでもない。cf. not A and B=AかつBでない。
修正訳:「けちなところも物惜しみするところも」
11. 2. 6
@Man in general doesn’t appreciate what he has until he is deprived of it.
@人間は一般に、自分の持っているもののありがたさが、それを奪われるまでは分からない。
@「人間は一般に」:誤訳
成句的。例:people in general=一般の人。「人間は一般に」なら、Man generallyとなるはず。
修正訳:「一般の人間は」
11. 2例題
During the war, Stephen’s grandmother was evacuated to an hotel near Oxford, where she lived much the same life as in London, often cleaning out her own room, and in winter @distressing everyone by her unwillingness to have a fire. Once, on a bitterly cold winter’s day Stephen went to visit her. She was at the bus stop waiting for him in the snow, when he arrived. They walked to the hotel, but turned back when they had got there, to spend half an hour fruitlessly searching in the snow Aby the path on which they had come, for one of her mittens, which she had let fall.
戦争中スティーブンの祖母はオックスフォードの近くのホテルに疎開して、そこでロンドンにいた時とほとんど同じ生活を送り、たびたび自分で部屋をきれいに掃除し、冬には暖炉に火を入れることをいやがってみんなを@悩ました。ある時、ひどく寒い冬の日に、スティーブンは祖母を訪ねていった。彼が着いた時、祖母は雪の中をバスの停留所で彼を待っていた。彼らはホテルまで歩いたが、ホテルに着くと引き返して、祖母が落とした片方の手袋を見つけるために、2人が通ってきたA道のそばの雪の中を半時間もむなしく捜しまわった。
@「悩ました」:悪訳
口語ならこう言うこともあるかもしれないが、書き言葉ではキチンとした言葉遣いにしなければいけない。
修正訳:「悩ませた」
A「道のそばの」:誤差
by the pathは、(1)形容詞句としてthe snowに掛ける(byは「側の」) (2)副詞句としてsearchingに掛ける(byは「沿って」)、二つが可能。だがここは停留所からホテルまでの間をあてどもなく探し回るわけだから、(2)ととるのが順当。
修正訳:「道に沿って」
11. 3. 3
A great deal of @the bad writing in the world comes simply from writing too quickly.
世間の@悪文の大部分は、速く書きすぎることだけから生ずるものだ。
@「悪文」:誤差
the bad writingは、広義で(1)悪文(論理が通らなかったり、不完全だったり、やたらと難解な言葉を使ったり、といった) 狭義で(2)悪筆、と幅が広い。ここは(2)ととったほうが自然ではないか。「悪文」とはっきりさせたいなら、poor writingとでもなろう(poorは、品質の劣る)。
修正訳:「悪筆」
11. 3. 12
A good dictionary is a guide to usage Amuch as a good map tells you the nature of the terrain over @which you may want to travel.
すぐれた辞書が言葉の使い方への指針となるのは、よい地図が@旅行したくなることがあるかもしれぬ地方の地形を教えてくれるのとAほぼ同じである。
@「旅行したくなることがあるかもしれぬ」:誤訳
この日本語では、「これから旅行をしたくなる可能性がある」と未来のことにとれる。want は基本的には状態動詞なので、現在のことをいう。mayはこの場合、話者の推量(話者がyouのことを、そのようだと判断している)。
修正訳:「旅行したいと思っているかもしれない」→「旅行したく思っているような」
A「ほぼ」:誤差
完全に同じではないが、ほとんど同じ、ということ。「ほぼ」では、語感がそれよりずっと弱くなってしまう。
修正訳:「ほとんど同じ」
11. 3. 14
The matter is rightly left in England to @the good taste of writers.
英国ではその問題は正当にも、作家の@良識にゆだねられている。
@「良識」:誤訳
good tasteは「センス」の意味。ややこしいが「良識」は、good sense。
修正訳:「センス」
[第十二章]
12.1.3
Effort is as precious as, and perhaps more precious than, @the work it results in.
努力は、その成果として生まれる@仕事と同様に、いやおそらくそれ以上に貴重なものである。
@仕事:誤差
「仕事」では抽象的すぎる。このworkは(結果として生じた)「成果物」「作品」。前の、成果として、に合わせて訳語を考える。
修正訳:「もの」
12.1. 11
For some of us @when young it does not seem so important that we should be successful in a worldly sense as that we should try and become our true selves.
我々の中には、@若いとき世間的な意味で成功することは、真の自我を実現しようとすることとくらべた場合、重要でないと考える者もある。
@「若いとき」:悪訳
「若いときの成功は重要でない」と読めてしまう。「若いときには、世間並みの出世などどうでもいいと思っている」という意味が正しく伝わる訳にしなければならない。
修正訳:「若いときには、」
12. 1. 12
We are for the most part more @lonely when we go abroad among men than when we stay in our chambers.
たいていの場合、我々は、外に出て人々の中にいるときのほうが、自分の部屋にいるときよりも@孤独である。
@「孤独である」:誤差
たまたま知ったのだが、この原文がソローの『森の生活』であることからしても、lonelyは「孤独」より「さみしい」のほうが訳語としてよいだろう(lonely、alone、solitudeが微妙に違った意味で使われている)。「孤独」は、必ずしもさみしさを含意しないことがある(英語のsolitudeもそう)。例えば漢詩「独り座す幽篁のうち琴を弾じまた長嘯(口偏に蕭)す。深林人知らず名月来たりて相照らす」(竹里館、王維)は、孤独の楽しさを詠っている。
修正訳:「さみしいものである」
12.1.13
If you are walking over @a chasm on a narrow plank, you are much more likely to fall if you feel fear than if you do not.
@深淵にかかった狭い板の上を歩くときは、恐怖を感じない場合よりも恐怖を感ずる場合のほうが落ちる可能性ははるかに大きい。
@「深淵」:悪訳
「深淵」では抽象的。chamが可算名詞化されていることに注目。
修正訳:「谷あい」
12. 1例題(2)
It has so often been said that the English (though not the Scots, the Welsh, or the Irish) are an inartistic and unimaginative people, that the English have themselves come to believe the accusation. They are told that they have no vision, that they are more concerned about their pockets than about their minds and souls. Since they are a modest and a docile people, full of self-distrust and slow to give offence, @it seldom occurs to them to point out that the English have had not only the greatest poet of all time but also more great poets than all other countries put together.
イングランドの人間(スコットランドやウェールズ、アイルランドの人間はそうではないが)は、芸術性に乏しく想像力を欠く民族であると言われることがこれまであまりに多かったので、イングランドの人間自身もその非難が正しいと信ずるようになってきている。彼らは人から、ビジョンがなく、精神や魂のことよりも財布の心配をすることが多いと言われている。彼らは穏健でおとなしい民族で自己不信に満ち、なかなか人を怒らせないので、@めったに口に出そうとは思わないが、イングランドからは古今を通じて最も偉大な詩人が出ているばかりでなく、他の国々をすべて合わせたよりも多く偉大な詩人が出ているのである。
@「めったに口に出そうと思わないが、イングランドからは古今を通じて最も偉大な詩人が出ているばかりでなく、他の国々をすべて合わせたよりも多く偉大な詩人が出ているのである。」:悪訳
強調の方向が逆になっている。
@修正訳:「イングランドからは古今を通じた最も偉大な詩人が出ているばかりでなく、他の国々をすべて合わせたよりも多く偉大な詩人が出ていることを、めったに口に出して言おうと思わない。」
12.2.4
The leaves are now so thick that @one does not see so many birds as one hears.
今では木の葉が茂っているので、@耳に聞こえるより目に入る鳥の数のほうが少ない。
@「耳に聞こえるより目に入る鳥の数のほうが少ない」:悪訳
これも強調の方向が逆になっている。
@修正訳:「耳に聞こえるほど目に入る鳥の数は多くない」
12.2.8
We never believe we are @as fat or as thin and bony as other people say we are.
他人が言うほどには自分は@太っていない、またはやせて骨ばってはいないと我々は信じている。
@「太っていない、またはやせて骨ばってはいない」:悪訳
「または」では「太っていない」か「やせて骨ばっていない」のどちらか、ととられかねない。
ここ単純化すれば、We never believe we are fat or we are thin.つまりnot A or Bの変形で「AでもBでもない」
修正訳:「太ってもやせて骨ばってもいない」
[第十三章]
13.1.4
@The world-wide progress of countries toward independence is nowhere more evident than in Africa today.
@全世界にわたって国々が独立へ向かって前進していることが、現代のアフリカほど明瞭な所はない。
@「全世界にわたって国々が独立に向かって前進していること」:悪訳
「全世界にわたって」では、「アフリカの独立地域が、世界中に広がっている」みたいだ。
world-wideは「世界中に及んでいる」。progressは「前へゆく動き」のことだが、この場合、「前進」より「成り行き」「進展」とするほうが収まりがよいだろう。また、ここのcountryは「自然・文化・民族などの意味で一帯の地域」を言っているのに対して、日本語の「国」は「独立している」を含意するから、訳語に工夫が必要。
修正訳:「世界中に及んでいる独立への諸国・諸地域の進展」→「諸地域で独立を目指している世界的な傾向」→「全世界に及んでいる独立を目指す動き」
13.1.7
@We indeed hear it not seldom said that ignorance is the mother of admiration. A falser word was never spoken, and hardly a more mischievous one.
賞賛は無知から生まれるという言葉を@耳にすることが事実まれではないが、これほどまちがったことが言われたことはないし、またこれほど有害なことが言われたことも少ない。
@「耳にすることが事実まれではないが、」:悪訳
このindeedは、「事実」(現に)でなく強調「実に」。not seldomは、「まれでない」(割とある)ではなく、否定の否定→強い肯定「しょっちゅう」。
修正訳:「実にしょっちゅう耳にするが、」
13.1.12
I think I may say that I understand @the nature of life on this earth as well as any (other) man now living.
私は@この地上での生活がどんなものか、いま生きている誰にも劣らず理解していると言ってもよいと思う。
@「この地上での生活」:誤訳
「地下の生活」または「天上の生活」と比べているのだろうか? the nature of lifeを「生活」とするのは如何か(それならlifeだけでよいはず)。このlifeは「人間も含めた動植物(生きとし生けるもの)」→「命あるもの」→「生命」、natureは「本質」ととるべきだろう。
修正訳:「生命の本質」
13.2.9
In history @things do not happen suddenly and without preparation any more than they do Ain nature.
歴史の中で@事件が突然、準備もなく起こるものでないのは、A自然の場合と[自然の中で]@事件Aがそういう形で起こるものでないのと]同じである。
@「事件」:誤差
thingsは意味範囲の広いことばだが、「事件」とすると「自然」との釣り合いがとれなくなる。「物事」と広めにしたほうがよいだろう。
修正訳:「物事」
A「自然の場合と[自然の中で]」:誤差
(A)を納得させる例えとして(B)を持ち出している。形からは、ここ二つに読める。
(A)In history things do not happen suddenly and without preparation. (B)In history things do not happen in nature.
In historyは全文に掛かりsuddenly and without preparationとin natureが対照されている、代動詞doはhappenを受ける、と読む場合。
(A)In history things do not happen suddenly and without preparation. (B)
Things do not happen suddenly and without preparation in nature.
代動詞doはhappen suddenly and without preparationを受け、in historyとin natureが対照させている、と読む場合。
in natureが「自然に」の意味にとれるなら、(1)でよかろうが、これは無理。(2)が正しく、「歴史の法則」と「自然界の法則」が対置されている。伊藤訳の読み方は間違っていないが、訳が少し舌足らず。
修正訳:「自然界の場合と」
13.2.10
The nuclear test ban treaty is no more than a beginning step toward the @general and complete disarmament.
核実験禁止条約は、@一般的な完全軍縮への最初の歩みにすぎない。
@「一般的な」:誤訳
「一般的」では、「専門的」に対するかのようだ。
ここは「部分的」にたいする「全面的」「全般的」の意味。
修正訳:「全面的な」
13.2例題(1)
He was, so far as @I could judge, as free from ambition in the ordinary sense of the word as any man who ever lived. If he rose from position to position, it was not because he thrust himself on the attention ofAhis employers, but because his employers insisted on promoting him. BHe was naturally a man of creative energy, a man who could no more help being conspicuous among ordinary human beings than a sovereign in a plate of silver.
@私が判断しえたかぎりでは、彼はこの世に生をうけたどんな人々とくらべても普通の意味での野心がなかった。彼の地位が次々に高くなっていったとしても、それは彼がA主人に認められようと努力したからではなくて、A主人が彼を昇進させることを主張したからであった。B彼は生来の創造力が豊かで、平凡な人間の中ではどうしても人の目を引くこととなったのは、銀の皿の中の金貨と同様であった。
@「私が判断しえたかぎりでは、」:悪訳
この日本語では、時制がひとつずれてしまう。日本語では、文末を過去形にすることで、文全体が過去の意味になる。文中を過去形にすると英語の過去完了の意味にとられかねない。
修正訳:「私が判断しうるかぎりでは」
A「主人」:誤差
商店か封建制みたいだ。「地位が次々に高くなっていく」のだから、結構大きな集団(あるいはemployersと複数であるところから転職を重ねるのか)だろう。それらしく訳語を決める。
修正訳:「雇用主」→「社長」
B「彼は生来の創造力が豊かで」:悪訳
コロケーションがおかしい。「生来の創造力」とはいわない。「創造力が豊か」ともあまりいわないだろう(想像力ならいいが)。
修正訳:「生来、創造力があり」
13.3. 例題(2)
If we think we must not laugh, @this impediment makes our temptation to laugh the greater, and the inclination to indulge our mirth, the longer it is held back, collects its force, and breaks out the more violently in peals of laughter.
笑ってはならないと思うと、@この障害のためにかえって笑いたいという誘惑は強くなる。そしておかしさのままに笑いたいという気持ちは、長く抑えているほど力を加え、かえって大きな笑い声となって爆発する。
@「この障害のため」:悪訳
「この障害」では、どこか身体的欠陥があるみたいだ。
修正訳:「そのため」
[第十四章]
14.1.3
The New World has a large and rapidly increasing population of its own and, after more than a century of abuse, @not a little of its soil has lost or is in process of losing its fertility.
新世界ではそれ自体の膨大な人口が急激に増加しているし、1世紀以上にもわたる酷使のあとでは、@少なからぬ土壌も生産性を失ってしまったか、あるいは失いつつある。
@「少なからぬ土壌も生産性を失ってしまったか、あるいは失いつつある。」:誤差
「土壌も」の「も」が何に加えてなのかわからない。Fertilityは「肥沃さ」で、「生産性」とわざわざ意訳する意味はない。
修正訳:「少なからぬ土壌はその肥沃さを失ってしまったか、あるいは失いつつある。」
14.1.4
It is hard enough to know whether one is happy or unhappy, and still harder to compare the relative happiness or unhappiness of different @times of one’s life.
自分がいま幸福なのか不幸なのか知るだけでも容易なことではないのに、一生の中の異なった@時代の相対的な幸・不幸を比較することは、それよりはるかにむずかしいことである。
@「時代」:誤差
修正訳:「時期」
14.1.9
Queen Elizabeth introduced several reforms that were helpful to the nation, and guided her people step by step to prosperity and power.
エリザベス女王は、国民のためになるいくつかの改革を導入し、@国民を一歩一歩繁栄と強国へと導いた。
@「国民を一歩一歩繁栄と強国へと導いた」:悪訳
修正訳:「国民を一歩一歩繁栄と富強へと導いた」
14.1.10
You can hardly imagine a blind deaf girl holding a lively conversation, reading books, @writing letters, and above all, @enjoying life. But such is Helen Keller.
盲目で耳の聞こえぬ少女が活発な会話をし、本を読み、手紙を@書いているところを、特に@人生を楽しんでいるところは、ほとんど想像できません。しかし、ヘレン・ケラーとはこういう人なのです。
@「書いているところを」「人生を楽しんでいるところは」:誤差
修正訳:「書いているなんて」「人生を楽しんでいるなんて」
14.1.11
Through the tree @they look out across the fields and see famers at work about the barns or people driving up and down on the roads.
木の間越しに、@彼らは畑を越えて遠くを眺め、農民が納屋のあたりで働いているのや、人々が道にあちこち車を走らせているのを見る。
@「彼らは畑を越えて遠くを眺め、農民が納屋のあたりで働いているのや、人々が道にあちこち車を走らせているのを見る」:悪訳
修正訳:「彼らが畑の向こうを眺めると、農民が納屋のあたりで働いているのや、人々が道で車を走らせているのが目に入る」
14.1例題(2)
In the late summer of that year we lived in a house in a village that looked across the river and the plain to the mountains. In the bed of the river there were pebbles and boulders, dry and white in the sun, and the water was clear and swiftly moving and blue in the channels. Troops went by the house and down the road and the dust they raised powdered the leaves of the trees. The trunks of the trees too were dusty and the leaves fell early that year and we saw the troops marching along the road and the dust rising and leaves, stirred by the breeze, falling and the solidiers marching and afterward the road bare and white except for the leaves.
その年も終るころ、私たちはある村の、川と平野のかなたに山が見える家に住んでいた。@川床には小石や丸石が陽の光に白く乾いていて、A水路を流れる水はB澄んで速く青かった。軍隊が家のそばを過ぎてC街道を通り、木の葉はそのあげるほこりにまみれていた。木々の幹にもほこりがついていた。その年は木の葉が早く落ちた。私たちの目には軍隊がC街道を行軍し、土煙があがり、D微風にゆすられて木の葉が落ち、兵士が進み、彼らが通過したあとは道がE人気がなく白々として木の葉だけが残るのが見えた。
@「川床」:悪訳
修正訳:「河原」
A「水路」:悪訳
修正訳:「水流」
B「澄んで速く青かった」:悪訳
修正訳:「青く澄み、速く流れた」
C「街道」:誤訳
修正訳:「道」
D「微風」:誤差
修正訳:「風」
E「人気がなく」:誤訳
修正訳:「何もなく」
14.2.3
Somehow or other, life---in a play---seems even @finer with an unhappy than with a happy ending.
どうしてかは分からないが、劇中の人生は、幸福な結末に終わる場合よりも、不幸な結末に終わるほうがさらに@美しく見えるのである。
@「美しく」:誤差
修正訳:「仕上がりがよく」
14.2.7
No man wholly escapes from the kind, or wholly surpasses the degree, of @culture which he acquired from his early environment.
どんな人も、幼いころの環境から得た種類の@教養を完全に脱却したり、またその程度を完全に超えたりすることはできない。
@「教養」:誤差
修正訳:「文化」
14.2.8
The discoveries and inventions that mark man’s progress in civilization are the result of his @unquenchable thirst for knowledge.
人間の文明の進歩を画する発見や発明は、知識に対する@消しがたい渇望の所産である。
@「消しがたい」:誤差
修正訳:「抑えられない」
14.2.10
A great many of @the minerals are useful to and essential for proper health.
非常に多くの@鉱物は、健康に役立つだけでなく、絶対必要である。
@「鉱物」:誤差
修正訳:「無機物」
14.2.11
Some people tell fine stories of the use of atomic energy in industry, and @the economies which will result.
原子力を産業に応用することや、その結果として生ずる@経済機構について、結構な話をする人もある。
@「経済機構」:誤訳
修正訳:「効果」
14.2例題(1)
Most of those who are in the habit of reading books in a foreign language will have experienced a much greater average difficulty in books written by male than by female authors, because they contain many more @rare words, dialect words, technical terms, etc.
外国語で書かれた本を読む習慣のある人なら大部分がすでに経験していることであろうが、女性の筆者が書いた本よりも男性の筆者が書いたもののほうがはるかにむずかしい。男性の筆者の本のほうがはるかに多くの@珍しい単語や、方言、専門用語などを含んでいるからである。
@「珍しい単語や、方言、専門用語」:誤差
修正訳:「稀語、業界用語、技術用語」
14.3.4
If a visitor is told that a lady is not ‘at home’, @it may mean that she is feeling unwell, or for some other reason not receiving guests.
ある婦人を訪ねて、「お目にかかれません(=not at home)」と言われるときは、その婦人がぐあいが悪いか、何かほかの理由で客には会わないという@意味のこともある。
@「意味のこともある」:誤差
修正訳:「意味である」
14.3.6
The parlor @faced southeast, the sun went off it early, which made it beautifully cool in summer but in the afternoons at other times of the year a little sad.
居間は@南東に面していたので、陽は早くかげった。そのために夏は涼しくて気持ちがよかったが、他の季節には午後になると、少し陰気くさかった。
@「南東に面していたので」:誤差
修正訳:「東南向きで」
14.3.8
@In the whole nature the cat is the only animal which has solved the problem of living in close contact with human beings and at the same time of maintaining its freedom and conserving its own personality.
@自然全体の中で、猫は、人間と密接な関係をもって生活していながら、それと同時に、自由を失わず独特の個性を保ち続けるという問題を解決した唯一の動物である。
@「自然全体の中で」:誤訳
修正訳:「全種のなかで」
14.3例題(1)
Government can never in our large states be by the people in any true sense of the word; it may be ---and since we are democrats, should be---by their true representatives, those who represent their real interest, @the general interest of the community.
現代の大国家においては、政治は決して真の意味での国民によって行われることはできない。しかし、政治が国民の真の代表者、つまり国民の真の利益、すなわち社会の@一般的利益を代表する人々によって行われることは可能だし、また我々が民主主義者である以上、当然そうでなければならない。
@「一般的利益」:誤訳
修正訳:「全体的利益」
14.4.8
If the people are influenced chiefly by @public considerations, order is assured; if by private, disorder is inevitable.
人々が主として@公的な考慮に動かされれば秩序は保証されているが、私的な考慮に動かされるときは無秩序が避けがたい。
@「公的な考慮」:誤差
修正訳:「公に基づく考え」
14.4例題
Different philosophers have formed different conceptions of the Good. Some hold that it consists in the knowledge and love of God; others in universal love; others in the enjoyment of beauty; and yet others in pleasure. The Good once defined, the rest of @ethics follows; we ought to act in the way we believe most likely to create as much good as possible, and as little as possible of evil. The framing of moral rules, so long as the ultimate Good is supposed known is matter for science.
さまざまな哲学者が、「善」についてさまざまな考え方をしてきている。「善」とは神を知り愛することだと考える人もあるし、「善」とは万人を愛することだと考える人もある。美の享受が「善」だとする人もあるし、またさらに、快楽を「善」とする人もある。ひとたび「善」が定義されれば、@倫理学の他の部分はおのずから帰結する。つまり我々は、「善」を生み出すことが最も多く、悪を生み出すことが最も少ないと信じられるようなやり方で行動すべきだということになる。究極的な「善」の何たるかが分かっていると考えられるかぎり、道徳律の形成は、科学的に解決できる問題なのである。
@「倫理学の他の部分はおのずから帰結する」:悪訳
修正訳:「価値のほかの部分は自ずときまってくる」
[第十五章]
15.1.4
It is frequently said, and @with considerable justice, that some persons enjoy ill-health.
健康でないことを楽しんでいる人もあるということが、しばしば、しかも@かなりの正しさをもって言われている。
@「かなりの正しさをもって」:誤差
修正訳:「かなりの妥当性をもって」
15.1.12
In the mid-eighteenth century, novel-reading was still considered Arather a waste of time, if not @actually harmful.
18世紀の中ごろには、小説を読むことは、まだ@現実に有害ではないにしても、Aどちらかと言えば時間の浪費と考えられていた。
@「現実に」:誤差
修正訳:「実際に」
A「どちらかと言えば」:誤差
修正訳:「むしろ」
15.1例題(1)
Henri Rousseau worked as a minor official in the customs for about twenty years and then retired @on a tiny pension and painted to his heart’s content for another twenty-five years.
There may be modern states which would give such an artist a somewhat better pension, but only on condition that he conformed to some recognized standard or style. Rousseau was condemned to poverty, but at least he was free to realize his vision. He seems to have been a happy man.
アンリ・ルソーは税関の下級職員として約20年働いた後、わずかな@年金をもらって退職し、あとの25年間は心ゆくまで絵を描いた。現代の国家の中にはこのような芸術家にもう少し多額の年金を与える国があるかもしれないが、しかし、それはある公認の基準や様式に合致する絵を描く場合にかぎられている。ルソーは貧しい生活を送らなければならなかったが、少なくとも自分の画想を自由に実現できたのであって、幸福な人間であったと思われる。
@「年金をもらって」:誤差
修正訳:「年金を頼りに」
15.1例題(2)
The public library is taken for granted now as one of the citizen’s indisputable rights; if not altogether as free as air, at least a service which makes hardly greater claim on his purse than do the public parks he strolls in or the street lights to guide his steos. Yet he has enjoyed this right for little more than a century.
公共図書館は現在、国民の明白な権利の1つとして、当然のものとみなされており、空気と同じようにまったく無料とまではゆかなくても、少なくともひとつの公共施設であって、散歩する公園や足もとを照らしてくれる街灯以上の費用がかかることはまずないものと思われている。しかし、国民がこの権利を享受するようになってから、まだ1世紀をあまり出ていないのである。
15.2.3
AI had imagined, what @most pacifists contended, that wars were forced upon a reluctant population by despotic governments.
@たいていの平和主義者が主張したことだが、戦争は専制的な政府がいやがる国民に押しつけるものだと、A私も考えていた。
@「たいていの平和主義者が主張した」:誤訳
修正訳:「たいていの平和主義者も主張した」
A「私も考えていた」:誤訳
修正訳:「私は考えていた」
15.2例題(2)
His talents went into his hobbies, which were book-collecting and gardening; for his career he had accepted @a routine occupation and was quite content to be a bank manager in that town. His wife became irritated at his lack of enterprise, and was a little jealous and impatient of his hobbies which enclosed him in himself as hobbies do, and, so she thought, got him nowhere.
彼の才能は道楽のために用いられたが、それは書物の収集と庭いじりであった。生涯の職業としては、彼は@型にはまった職についていて、その町の銀行の支配人であることにすっかり満足していた。彼の妻は夫に積極性がないことにいらいらし、夫の道楽に少々嫉妬心を感じやきもきしていた。趣味があればそうなるものだが、趣味のために夫は自分の殻にとじこもっているのだし、彼女の考えでは、それは夫の役にまったく立たぬものだったからである。
15.3.4
Science, it is important to realize, does not consist in collecting what we clearly know and @arranging it in this or that kind of pattern.
明瞭に知られている事項を収集し、@それを思いつきの方針に従って配列することが科学ではないことを理解するのが重要である。
@「それを思いつきの方針に従って配列する」:誤訳
修正訳:「それを適当な枠組みの中に収める」
15.3.8
The child is not put into the hands of parents alone. It is brought at birth into a vast, we may say an infinite, @school.
子供は両親だけの手中におかれるものではない。子供は誕生のときに、広大な、無限と言ってもよいような@学校に入れられるのである。
@「学校」:誤差
修正訳:「修練の場」
15.3 例題(1)
A shy man’s troubles are always very amusing to other people; and have afforded material for @comic writing from time immemorial. But if we look a little deeper, we shall find there a pathetic, one might almost say a tragic side to the picture.
A shy man means a lonely man---a man cut off from all companionship, all sociability.
内気な人の悩みは、いつもほかの人には非常におもしろいので、遠い昔から@喜劇文学の材料になってきている。しかし、少し深く考えてみると、その情景には気の毒な、悲劇的とも言えるような側面がある。内気な人とは、さびしい人、あらゆる交友、あらゆる社交から切り離された人を意味するのである。
@「喜劇文学」:誤差
修正訳:「喜劇作品」
15.3例題(2)
I never travel without books either in peace or in war. Yet many days or months will go by without my using them. Very soon, @I say to myself, or tomorrow or when I feel like it. Meanwhile time runs by and is gone, and I am none the worse.
AFor you cannot imagine how much ease and comfort I draw from the thought that they are beside me, to give me pleasure when I choose.
私は平時でも戦時でも、旅行するときは必ず書物を持ってゆくことにしている。しかし、何日、何ヶ月たっても、それらの本を読まないことがある。もうすぐ、いや明日にでも、いやその気になったら読もうと、@私は心に考える。その間にも時は流れ過ぎ去ってゆくが、だからといって、私は別にどうということもない。Aというのは、書物が私のそばにあって、私がその気になれば喜びを与えてくれると考えることから、どんなに多くのやすらぎと慰めを得ているか、とても想像できないほどだからである。
@「私は心に考える」:誤差
修正訳:「私は心の中で言ってみる」
A「というのは」:誤差
修正訳:「なにしろ」