平仮名:供宴呪術?解読難航 土器に大量の文字、和歌見当たらず−−京都
毎日新聞 2012年11月29日 西部朝刊
「貴族の館での供宴に使われたのでは」「呪術的な性格を感じる」−−。京都市中京区の平安貴族の邸宅跡から見つかった最古級の平仮名。大量の文字が書かれ、解読に当たった専門家の間では、その中身を巡って半年以上も熱い議論が交わされた。しかし解明できたのはごく一部。多くは謎のまま残ったが、28日記者会見した西山良平・京都大大学院教授(日本古代史)は「研究は急速に進むだろう」と期待を込めた。【榊原雅晴、五十嵐和大】
解読を担当したのは、西山教授や乾(いぬい)善彦・関西大教授ら歴史学と国語学の研究者6人。皿や高坏(たかつき)に書かれた文字を目にした乾教授は、「流れるような筆致にびっくりした」と話す。
だが、多くの資料が残る10世紀以降の平仮名とは崩し方が異なり、解読は難航。国宝や重要文化財級の古筆の写真集などを手がかりに一字一字検討し、古事記(712年)の記述を参考に「なかつせ」などの言葉を特定していった。
意外だったのは、和歌らしい言葉がほとんど見当たらなかったことだ。乾教授は「平仮名の誕生と和歌とは切っても切れない。五七五になるような読み方を探したが、うまくいかなかった。どうも呪術的な言葉ではないか」と推測する。
研究者を悩ませたのは高坏の脚部分に書かれた文字。1〜2ミリ角の細かい文字でびっしり埋め尽くされていたことから、解読グループ内では「耳なし芳一」と呼んでいたが、乾教授は「何が書かれているのか、お手上げだった」という。
しかし、9世紀後半の赤田(あかんだ)遺跡(富山県射水市)の調査に関わった鈴木景二・富山大教授(日本古代史)は、「平安貴族の館で供宴を開く際、皿に和歌を書いて楽しむことがあった。今回もそれに使われた可能性がある」と指摘。「古今和歌集(905年)を代表する六歌仙、例えば在原業平(ありわらのなりひら)(825〜880年)と同時代の教養人が、どんな字を書いていたかがうかがえる第一級の資料だ。解読に加われたのは学者冥利に尽きる」と興奮を隠せない様子で話した。