HARAKIRI 1990 GameArts(C) 5’2D FDD 4枚組 |
……このHARAKIRIワールドでは、皆、この様な絶叫と共に切腹して果てて行く。
天下統一に至るまでに、嫌でも何度も聞かされる(見させられる)シーンだ。
勝てば相手が、負ければ自分が切腹。花見のイベントに参加できなかった事を恥じて切腹。
さらに、自分の部下すら任意で切腹させることが可能(部下に拒否する権利はない)で、
やたらと切腹に拘ったそのゲームシステムは、まさに「HARAKIRI」と言う看板に偽り無しである。
阿鼻叫喚のHARAKIRIワールド |
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さて、このHARAKIRI……表向きはアメリカの日本文化研究家、
J.S.スタインバーグ氏によってデザインされた、戦国シミュレーションゲーム……なのだが、
その実体は「偏った日本観による勘違いサムライゲーム」である。
取り敢えずストーリーを確認してみよう。
事 の 始 ま り |
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サムライの統領であるショーグンは、毎年全国の有力ダイミョーを呼び集め、ハナミを開いていた。 ハナミにくるダイミョーは皆、ネングという貢ぎ物を差し出さねばならないため、 ハナミは、ダイミョーの勢力拡大を行わせないためのショーグンの策略でもあったのだ。 そして元禄十四年三月十四日の正午、日本で第二の実力者アソノは、 エドのキンカクジに向かう途中、黒帯ニンジャに襲われ、 ミカドから預かっていたチャノユの道具を壊されてしまった。 アソノは、これが自分を陥れようとするショーグンの陰謀であることを見破り、ショーグンを糾弾しようとしたが、 逆にショーグンから「このチャノユの道具一つ預かることのできない田舎ダイミョーめ!」 と全国から来たダイミョーたちの前で罵られてしまう。 アソノは、あまりのハジに堪えきれず、その場でハラキリをして果てた。 第一の家来、カローであるオーイシ以下、アソノに使えた四十七人の家来は、 アルジであるアソノが理不尽な理由からハジを受け、ハラキリをして果てたことを知り、 ブシドー精神に基づき、城を出てきたショーグン・ヨシムネを襲ってアルジの仇をうった。 これが世に言う「四十七人の変」である。 跡継ぎがいないうちにショーグンが死んだため、 全国の有名なダイミョーたちはショーグンの座を狙って争い始めた…… |
……と、言うかストーリーはもうどうでも良いだろう。
「時代背景を無視した、SAMURAIとNINJAによるHARAKIRIゲーム」だと理解して貰えればそれで良し。
要はありがちな戦国歴史シミュレーションをベースに、信長や家康などのお馴染みのキャラクターの他、
ザビエルやフロイスと言った、時代背景的には間違って無くても、武将としては間違ってる連中や、
ショー小杉とか、子連れ侍とか、
黒船のペリーとか、時代や虚構・現実の境目を無くして、
好き勝手にキャラクターをぶち込んだゲームなのだ。
近年のゲームでは、
Throne of Darknessなんかがイメージ的に一番近いかも知れない。
※Throne of Darkness 米SIERRA社制作のDiablo型オンライン・アクションRPG 日の昇る国ヤマトに、いまだ「カミ」と呼ばれる霊的存在が生きていた頃。 時のショーグン「キラ・ツナヨシ」が古代の悪鬼「ザンシン」に肉体を奪われ、暗黒将軍「ダーク・ウォーロード」となり果てた。 彼に率いられた魑魅魍魎の大軍がヤマトの地を蹂躙し、天下に流血の嵐が巻き起こる。 しかし、かろうじて魔獣の猛攻をしのいだダイミョーのひとりが、配下の精鋭7人に命を下した。 異形の軍勢によって十重二十重に守られた敵の本拠に切り込み、武勇と知略の限りを尽くして、邪悪に染まったショーグンを討ち取れ、と! ↑ストーリーはこんな感じで、 出てくる敵は、侍などの人型以外にもカッパとかゲイシャとかスモウレスラー(種族名はDEBU“デブ”)がいたり、 事もあろうに、そのDEBU系の敵名称が「Musashimaru」とか「Kitano-Umi」とか言うバチ当たりな設定だったりする。 怪しげな洋ゲーが好きな人にはたまらない作品。 |
ただ、米国製の『天然』な勘違いサムライゲームと異なり、このHARAKIRIは、
最初からバカゲーとして狙って企画されたゲームのようである。
『日本文化研究家・スタインバーグ氏』は架空の人物で、別にクリエイターに外国人が関わっているとか言う事はないらしいのだ。
確かに、本作では『天然バカ』な部分は余り感じられない。
華麗なるHARAKIRI絵巻 |
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HARAKIRIで目を引くのは、システムよりも前にそのグラフィックスである。
こんなタワケゲーム如きに何故ここまで……と驚きを通り越して呆然とする緻密な画像が使用されているのだ。
オープニングはいきなり
切腹 → 介錯 のアニメーションから始まる。 |
HARAKIRIは8ビット機であるPC-8801シリーズ用のソフト。
PC-8801シリーズは基本的にファミコン 〜 スーパーファミコン程度レベルのマシンであり、
その性能の限界から、画面には最大でも8色しか表示できないと言うハンデがあるのだが、
たったの8色しか使わずにこのレベルのCGである。(ただし、この画像は元の画像よりも縮小してある)
技術の限界を極めたと言っても良いグラフィックだが、無駄な努力という気もする。
だが、そういった馬鹿馬鹿しい事に全力を注いでしまう無駄な努力こそがハラキリの全てであり、存在理由なのだ。
ちなみに、言うまでもないがこれはアソノ氏が向かった「エドのキンカクジ」である。
全く恥をかかせおって……な、ゲームシステム |
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基本的に、HRAKIRIのゲームシステムはそこいら辺に転がっている歴史シミュレーションゲームと何ら変わりはないのだが、
ただ一つ、本作では戦でどんな酷い損害を受けようが、一騎打ちで負けようが「討ち死に」と言う結末が存在しないのが特徴である。
本作で武将が死ぬ要因は「自国が完全に滅亡して敵に捕らえられた場合」「年齢による寿命」と「ハラキリ」だけである。
これは恥を重視した侍の生き様を忠実に表した、HARAKIRI独自の恥システムによるもので、
この世界では、武将が生きるか死ぬかは、全ては恥の有無にかかっているのである。
武将には「恥」と言うパラメーターが設定されており、 |
↑「戦闘」とか「忠義」は良いが、一際怪しげな項目「恥」が…… |
← こうなる訳だ。 |
また、最初っから大恥をかいている武将も数多く存在し、
例えば信長でゲームを始めると、
開幕と同時に家老の平手が切腹して果てたりする。
このように、ハラキリ以外の要因で人が死なないシステムなので、
当然「暗殺」等のコマンドは無いが、それに代わって、敵国に忍者を送り込んで、
敵の武将に恥をかかせると言う破壊工作がある。
これに成功すると、敵国の武将の「恥」パラメーターが上昇。
恥が高まれば、後は勝手に腹を切って自滅……と言う寸法である。
むしろ、暗殺より余程えげつない策略と言えるかも知れない。
なお、武将達による自発的なハラキリ以外にも、主君自らが部下にハラキリを命じることもできる。
部下を殺す事に何の意味が? と思われるかもしれないが、
このゲームでは、大名が召し抱えられる武将の数は最大で20名(結構少ない)と決まっており、
しかも、「武将を解任する」とか言うぬるいコマンドは存在しないため、
不要な武将を切り捨てたくなった場合には、
「切腹を命じる」以外の選択肢が無いのだ。
そのため、豊臣秀頼などは、跡取り息子であるにもかかわらず、
武将の20人枠を圧迫する無能な邪魔者として、ゲーム開始早々あっさり切腹を命じられることになる。
HARAKIRIワールドは LIFE OR DEATH な漢気に溢れる世界なのである。
武士は二君に仕えず。退団は死をもってのみ。まさにBUSHIDOを極限まで体現したシステムと言えよう。
……と、まぁ、一見すると無茶苦茶に思えるゲームだが、実際にやってみると結構面白い。
コマンドも単純で、4人までのパーティプレイが可能であるし、
独自の「恥」システムのお陰で、戦に負けてもそう簡単に
「討ち取られて打ち首」だのと言った終わり方もないので、初心者でも結構長く楽しめる。
光栄の歴史シミュレーションになれている人なら、一種のパロディとしても楽しめるだろう。
〜 有終の美を飾った作品 〜
ちなみに、ゲームアーツ社のPC88ゲームはこのHARAKIRIが最後で、
以後はPC98用にプロ麻雀連盟認定の麻雀ゲームを数本出した後、コンシューマーゲームの開発に移っていった。
つまり、PC88ハードの売り上げを倍増させたとも言われる、伝説のゲーム「テグザー」を発売し、
その後も88ゲーム界を牽引していた栄光のソフトウェア・ゲームアーツが、
そのPC88市場から撤退する、最後の記念作として世に送り出したのがこのHARAKIRIなのである。
そう考えてみると、感慨深い物があるのでは無かろうか?
(いや、そうでも無いか……)