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朽ちるインフラ 根本祐二著 膨らむ更新投資、選択と集中を説く

2011/7/24付
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 橋の崩落、水道管の破裂、堤防の決壊、市役所の倒壊。東日本大震災の話ではない。本書がプロローグで描写するインフラ崩壊の予想図だ。まさかと思うかもしれないが、日本国中でインフラの老朽化が無視できないほどに進んでいるという。

(日本経済新聞出版社・2000円 ※書籍の価格は税抜きで表記しています)

 3月11日に千代田区・九段会館の天井が崩落し、死者の出る惨事となったことは記憶に新しい。だが、この惨事は決して地震のせいではなく、施設の老朽化が主因だ。1936年の二・二六事件の際に戒厳司令部が置かれた九段会館は実に築70年を超す老いた施設だった。

 震災とちがって、老朽化はゆっくりとインフラを蝕(むしば)む。著者はインフラの朽ちていく過程を「ゆるやかな震災」と呼ぶ。老朽化が進むと、機能を維持するために更新投資が必要となるという意味で、震災復興投資に似た現象が生じるからだ。

 驚くべきは、その更新投資の規模だろう。筆者の推計によると、今後50年間で必要なインフラの更新投資総額は330兆円に達する。

 だからといって、著者は公共投資を増やせばよいという立場には立たない。厳しい財政状況を考えると、選択と集中が重要だと主張する。必要性の高いインフラを選択し、更新投資を集中させる必要があるのだ。

 アメリカでは、すでに80年代にインフラの老朽化が大きな社会問題となっている。そのような現実を反映して、80年代終わり頃にアメリカを起点としてインフラの経済分析が流行となったことは経済学の世界では有名な話だ。

 ところが、60年代後半から70年代にかけて日本の経済学者がインフラの経済分析で先行していたことはあまり知られていない。インフラ研究発祥の地として、老朽化への対処を誤ることは何としても避けたい。

 老若男女を問わず、居住地域を問わず、多くの読者が本書のプロローグに書かれた悲惨な将来に驚愕(きょうがく)することを望む。エピローグには、更新投資に成功した明るい未来が描かれているが、成功のシナリオには反論もあるだろう。だが、いま行動が必要なことは間違いない。残された時間はあまり多くない。

(明治大学教授 畑農鋭矢)

[日本経済新聞朝刊2011年7月24日付]

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