中央道トンネル崩落:脱出の人たち 恐怖と怒りで声震わせ
毎日新聞 2012年12月02日 23時50分(最終更新 12月02日 23時55分)
崩れ落ちるコンクリート、炎上する車、充満する煙、「助けて」と叫ぶ声−−。山梨県大月市の中央自動車道「笹子トンネル」で2日起きた天井崩落事故は、死者・行方不明者が出る大惨事となった。「トンネルががれきで埋まった」「もう怖くてトンネルを通れない」。車を乗り捨てて命からがら逃げ出した人々は、恐怖と怒りで声を震わせた。「取り残された人がいる」という情報にも、2次災害の恐れから救出作業は難航した。なぜ天井が落ちたのか。点検は適切だったのか。管理する中日本高速道路は「大変申し訳ない」と謝罪したが、安全への信頼は崩れ落ちた。
甲府市の主婦(37)は、夫の運転する乗用車で山梨県富士河口湖町へ向かっていた。前の車が急ブレーキをかけたので車を止めると、約10メートル前方でトンネルの天井が落ち、ハッチバック式の乗用車1台が完全に潰れていた。「一面がれきの山で、とても誰かを助け出せるような感じではなかった。すぐに白い煙がその車から出てきた」という。
潰れた車のボンネットから炎が出た。真っ暗でがれきの中は見えなかったが、クラクションの音が鳴り響いていた。「誰か、助けてください」。叫び声が何度も聞こえた。
がれきの下の車から脱出した28歳とみられる若い女性が「彼が! 友達が!」と泣き叫びながら裸足で煙の中から現れた。口の周りは血だらけで、両手をやけどしていたようで血も付いていた。スプリンクラーの水でずぶぬれだった。女性は「何が起きたんですか? 何が起きたのか全然分からないんです」と繰り返した。主婦の夫が「車に何人乗っていたの?」と聞いても、取り乱した様子の女性は答えることができず、「消防や警察が助けてくれるよ」と励ました。
主婦は自分のブーツを女性に履かせ、夫と若い女性の3人で出口(トンネル西側の入り口)の方へ逃げた。途中から別の女性も加わった。止まっていた観光バスで若い女性をいったん休ませたが、すぐに「やっぱり避難した方がいい」と再び歩き出した。車で逆走して避難する男性が同乗させてくれ、ようやくトンネルの外へ。負傷した女性を救急車に乗せることができた。難を逃れた主婦は「『誰か助けてください』という声が、今も耳の奥にこびりついていて離れない」と振り返った。【春増翔太】