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国内110の活火山のなかで、気象庁などが地震計や望遠カメラなどを使って24時間監視している火山は全国に47あり、そのうちの10カ所が東北地方にある。岩木山、岩手山、秋田焼山、秋田駒ケ岳、栗駒山、蔵王山、鳥海山、吾妻山、磐梯山、安達太良山だ。
噴火が起きると、溶岩の流出や火砕流、火山灰と熱風が高速で吹き付ける「火砕サージ」、火山灰を含んだ土石流、雨や融雪による火山泥流が発生する危険性がある。降灰で交通機関がまひしたり、停電が起きたりしかねない。木造の建物は倒壊の恐れもある。
そうした被害を想定し、住民の避難場所などを定めたハザードマップ作りが、火山ごとに進められてきた。さらに火山活動に応じて、「避難」「入山規制」など防災機関や住民がとるべき行動を5段階で定めた「噴火警戒レベル」が、岩手山や磐梯山など5カ所で導入されている。
東北地方で最も警戒されている火山の一つが、福島市から約20キロ西にある吾妻山だ。昨年3月11日の東日本大震災の2日後、地中から噴出した硫黄ガスが燃える発光現象が火口の一つで見られ、約8カ月間続いた。今年3月には周辺からも新たに蒸気が噴出。噴火の兆候は確認されていないが、地下深くでマグマが動いていることを示唆する火山性地震が、いまも1日4〜5回の頻度で起きている。
11月には国土交通省と福島県が中心になり、噴火した場合の10通りの被害想定と対策をまとめた。最大規模のマグマ噴火が積雪期に起きた場合、JR福島駅周辺に最大で高さ1〜3メートルの泥流が1〜2時間後に到達する。堤防のかさ上げでは対応できず、早く避難するしか手立てはないという。福島市は「これまであった被害想定を大きく超えている」として、住民の避難経路を作り直す方針だ。
吾妻山の近くには安達太良山と磐梯山があり、三つの火山はほぼ同時期に噴火するなど活動に関連性があると見られている。このため国交省は、磐梯山と安達太良山についても最大規模のマグマ噴火の被害想定を作る計画だ。
岩手山も、盛岡市の北西約15キロに位置する。1995年9月に火口東側で、97年12月末ごろからは西側でも地震が多発。さらに98年には火山性のガスや水蒸気が頻繁に観測されるようになり、「水蒸気爆発の可能性がある」などとして防災対策への機運が高まった。
ハザードマップでは、山の西側で水蒸気爆発、東側では1686年にあったマグマ噴火と同規模の被害を想定。被害を受ける可能性が高いのは盛岡、雫石、滝沢、八幡平の4市町村で、約38万人が生活する。火砕流が到達するのは山頂から7キロほどまでだが、積雪期が心配だ。雪が熱で解けて火山泥流が発生、南側なら盛岡市内の雫石川に達して両岸の住宅地を巻き込む恐れがある。東側の滝沢村、北東側の旧松尾村(八幡平市)も被災するとされる。
青森県の岩木山も、噴火すれば都市部に影響が出そうだ。2002年に県が作成したハザードマップによると、100年に1回程度の頻度で起こるとみられる水蒸気爆発の場合、18万人が暮らす弘前市の中心街近くでも灰が降る。さらに数千年に一度とみられるマグマ噴火の場合、弘前市中心街を火山泥流が襲う可能性が指摘されている。
青森地方気象台によると、17〜19世紀に数回の噴火を繰り返しており、1970年1月に発生した地震後、山麓(さんろく)の温泉の温度が上がるなどしたために観測態勢が強化された。だが、異常が感知された場合の警報や避難場所の指定など、対策は遅れている。
また、県内にはほかに八甲田山、恐山、十和田湖の三つの活火山があるが、まだハザードマップは作成されていない。
秋田県は県境に六つの火山を抱える。そのうち活動度が高く、直近では74年に噴火した鳥海山、97年に噴火した秋田焼山、71年に噴火した秋田駒ケ岳でハザードマップができている。
秋田、山形県境にまたがる鳥海山は、ハザードマップで複数の噴火口を想定。山形県では遊佐町、秋田県ではにかほ市を中心に火山泥流や土石流による被害を予想している。さらに国や両県などでつくる「緊急減災対策砂防計画検討委員会」が、ハザードマップには記されていない「火砕流」による被災予想範囲などを示すなど、「減災」を図ろうと協議を重ねている。
秋田焼山についても今年度、有識者会議が発足。噴火警戒レベルを導入し、被害想定や防災対策を見直すための協議が進む。
山形、宮城県境にある蔵王山は、美しい湖面が観光名所になっている「御釜」が火口だ。
過去2千年で最も規模が大きかったとされる1227年と同程度の噴火が起きれば、火山灰が偏西風に乗って東側に運ばれ、仙台市でも1センチ程度積もる可能性がある。また、土石流は宮城県側では蔵王町や村田町などの役場近くに、山形県側では上山市の山形新幹線の沿線まで達する恐れがあると見られている。
一方、栃木県にある那須岳も、東北地方に影響を与えかねない火山だ。発生した泥流が東北道近くまで到達すると予想されているほか、10センチ以上の降灰が想定される範囲が福島県白河市の中心部まで広がっており、東北新幹線の運行も妨げられそうだ。
主要な道路が通れなくなり、公共交通機関もまひすれば、物流は滞り、影響は火山の周辺だけにとどまらない。