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【宋光祐】岐阜、長野両県にまたがる北アルプスの活火山・焼岳のふもとで、噴火に備えた取り組みが進んでいる。昨年の東日本大震災の直後に周辺で地震が頻発し、地域は危機感を強めている。
「煙の量が異常だった。噴火すると思った」。焼岳西側の岐阜県高山市奥飛騨温泉郷の連合町内会長を務める端下(はばした)忠さん(65)は、昨年の東日本大震災後の山の様子を振り返る。
岐阜地方気象台によると、焼岳周辺では、昨年3月11日の東日本大震災発生の約10分後に最大震度4の地震が発生。3月末までに震度1以上の地震は49回を数えた。
地震は4月には収まり、火山活動に結びつくものではないとされたが、ふもとの温泉地では建物や露天風呂にひびが入ったり、お湯が止まったりした。端下さんは、今も焼岳の煙を確かめるのを日課にしている。「地域でも火山による災害に目を向けるようになった」と話す。
気象庁は昨年3月、火山活動の状態に応じて「入山規制」や「避難」などの防災対応を定めた「噴火警戒レベル」の運用を焼岳で開始。高山市は岐阜県や長野県などとつくった協議会を通じ、火山活動のレベルごとに避難地域などを定め、新たに噴火を想定した訓練を始めた。
今年11月11日にあった2回目の訓練には、山に最も近い市立栃尾小の児童と教員ら約90人も初めて参加した。同校は8月にも大規模な水蒸気爆発を想定し、児童を学校から約20キロ離れた同市上宝支所までバスで避難させる訓練をした。佐名木一浩教頭は「震災で危機感は強まった。万が一噴火した時にどう避難するか、シミュレーションしておく必要がある」と話す。
■観光客避難 手段は場所は
一方で、課題も明らかになってきた。奥飛騨温泉郷観光協会によると、昨年1年間の温泉の宿泊客は60万8千人。長野県側には全国有数の観光地の上高地もある。大勢の観光客をどう避難させるのか。避難経路や移動手段の確保など、具体策の検討はこれからだ。
避難場所の確保も難題の一つ。火山の噴火はいつ終息するかわからず、避難が長引く傾向がある。しかし、高山市上宝支所の川上富之・地域振興課長は「公用地に仮設住宅を建てることになるだろうが、踏み込んだ検討はできていない」と打ち明ける。
市が対応を迫られている火山はほかにもある。2005年2月に周辺9町村を編入合併したため、焼岳のほかに乗鞍岳、白山、アカンダナ山、御岳山の計五つの活火山を抱えることになった。昨年4月には新たに危機管理室を設けて防災対応を充実させたが、火山対策は岐阜県のほかに長野県や石川県などとも連携して取り組む必要があり、焼岳以外にハザードマップがあるのは御岳山だけだ。
■足りない観測網 山の現象で判断
気象庁の観測体制も万全とは言えない。焼岳のふもとにある地震計は3カ所のみ。京都大学防災研究所付属地震予知研究センター上宝観測所長の大見士朗准教授は「観測点が山を均等に囲んでおらず、岐阜県側に偏っている。気象庁が事前に必ず警報を出せるとは限らない」と指摘する。
粘り気の強い溶岩を出す焼岳のような火山の大噴火では、マグマが地下を移動する際に頻発する地震を正しく捉えることができれば、予測はある程度可能とされる。しかし、観測網が不十分だとマグマの動きを捉えきれない恐れがある。さらに、小規模な水蒸気爆発は予測が難しく、近くに登山客がいれば、けがをする可能性もある。
大見准教授は「山で起きている現象を見ながら、適切な対応を判断する必要がある。普段から自然と対話する姿勢を持ち続けて欲しい」と訴える。