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地下にマグマがたまり、噴火の恐れがあるとされる国内の活火山。様々な自然の恵みをもたらしてきた一方、いったん活発化すれば私たちの暮らしに甚大な被害を及ぼす。高まる「噴火リスク」の現状と対策をさぐった。
■箱根、相次ぐ群発地震 桜島は大噴火の恐れ
国内の主要47活火山の一つ、神奈川県箱根町の箱根山(標高1438メートル)。県温泉地学研究所によると、記録の残る1786年以降の噴火の記録はない。
一方、噴火の前兆現象にもなる群発地震は相次ぐ。研究所が1995年から昨年までに検知した地震は1万4千回。「噴火するのではないかとの通報がよく寄せられます」。先月末、取材に同行した主任研究員の萬年一剛さん(41)が話した。標高1044メートルの火口「大涌谷(おおわくだに)」近くでは、二酸化硫黄などを含む火山ガスで木々が立ち枯れていた。
2001年夏、大涌谷の斜面から高濃度のガスが噴出した。大涌谷に訪れる観光客は年約300万人。萬年さんは危険を感じたが、「観光地特有の多くの機関がからみ、入山規制も避難もできなかった」と振り返る。08年に周辺自治体などからなる対策協議会ができたが、噴火を想定した避難計画はできていない。
大涌谷観光センターの三山彰彦総務部長は「異常があれば安全を優先する。避難訓練もやっている」。だが、観光客の危機意識は薄い。売店で買い物をしていた女性(26)は「ロープウエーの車内アナウンスで箱根山が初めて火山と知った」と話していた。
昨年の爆発が996回に達し、3年連続で過去最多を更新した桜島(標高1117メートル)。先月30日にふもとの鹿児島市黒神町の集落であった避難訓練では、中学生が高齢者を車いすに乗せて漁港へ連れて行った。
桜島は1914年に「大正大噴火」があり、58人が死亡した。噴煙は高さ1万メートルを超え、溶岩流でふもとの集落が壊滅した。こうした大噴火を100〜300年ごとに繰り返す桜島。地下のマグマの蓄積量はあと10年ほどで大正噴火前の水準に達する見込みだ。
市消防団分団長の古別府彪さん(67)は危機感を強める。「ここ数年で火口が大きくなっている。寝ていると体が揺れ、地鳴りがする」(斉藤寛子、安田朋起)
■避難計画、2山のみ 専門家足りず対策遅々
見えない「噴火リスク」への備えは遅れている。国内には110の活火山があり、気象庁が24時間監視するのは47活火山。噴火時の対応を定めた「活動火山対策特別措置法」があるが、事前の対策のあり方に特化した法律はない。
47活火山がある22都道県や周辺自治体に取材したところ、08年に国の有識者会議が示した指針に沿って避難の方法や場所を明示した計画を作っているのは、47活火山のうち霧島山(新燃岳)と桜島にとどまる。
各都道県は周辺自治体や国の出先機関と合同で防災協議会を設けることも求められているが、22活火山は未設置だった。鳥海山と蔵王山がある山形県は「大規模な噴火が近年起きていない」と説明。長野県は乗鞍岳について「他の災害と比べ優先順位が低い」とし、100年単位の間隔で起きる噴火よりも、地震や豪雨災害への備えを重視していることを明らかにした。
火山によって噴火のタイプや噴火前の地震の起き方は異なり、各火山の特徴に精通した専門家がいないと十分な対策ができない。だが、国内の大学の研究者は少なく、その数から「40人学級」とも揶揄(やゆ)される。国立大学の法人化で予算が厳しくなるなか、観測網の維持も厳しくなっている。
北海道大の岡田弘・名誉教授は「各火山に周辺住民の事情や避難経路を把握した『ホームドクター』が必要なのだが……。準備が甘ければ、結果としてリスクは高まる」と指摘する。(赤井陽介、編集委員・黒沢大陸)
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〈活動火山対策特別措置法〉 1973年に施行された。噴火や降灰で大きな被害を受けるか、受ける恐れがある地域を指定。農林水産業への被害を防ぐ計画の作成▽降灰の除去事業▽研究観測体制の整備▽情報の収集、伝達、避難、救助に必要な警戒体制の整備――といった対策について定めている。
■溶岩流・降灰…大混乱の恐れ
噴火すると、火砕流や火砕サージと呼ばれる熱風が集落や街に襲いかかる恐れがある。噴火は地震や地殻変動で予知しやすいが、噴出場所の特定は難しい。00年の有珠山と三宅島では噴火予知は成功したが、場所は分からなかった。
「一番危ないのは大都市だ」と言う京都大名誉教授の石原和弘さんが広げたのは、東大地震研究所の前身「震災予防調査会」が作成した1914年の桜島大噴火時の降灰図だ。灰は西日本のほぼ全域に広がり、日本海側は福井県、太平洋側は岩手県の三陸地方まで降灰が観測されたという。
2010年4月のアイスランドの火山噴火では、欧州の各空港で閉鎖や欠航が続出。国際航空運送協会は噴火後6日間の航空会社の損失額が17億ドル(約1570億円=当時)以上にのぼり、米国の領空が閉鎖された01年の同時多発テロの影響をしのぐ、と発表した。日本はインフラや交通網、通信網など社会が高度に発展してから大噴火に見舞われておらず、降灰によって想定しきれない災害が起きる恐れがある。
石原さんがアイスランドの噴火の5〜10倍の規模だった、と指摘する「宝永噴火」(1707年)が最後の富士山。静岡県庁で先月あった対策会議では、専門家が「山体崩壊と岩屑(がんせつ)なだれ、津波も加えると65万人が被災する」とした最悪想定を示した。
富士山で大噴火が起きれば、東名・新東名高速道路や東海道新幹線が溶岩流にのみこまれる。首都圏は降灰による停電や交通網の寸断、健康被害などで大混乱に陥る。
県は6月、山梨、神奈川両県などと対策協議会を立ち上げ、広域避難計画の策定を急いでいる。(井田香奈子、大久保泰)