ISU グランプリファイナル 2012 2012.12/6(Thu)~12/9(Sun)

大会のみどころ

男子は4回転、女子は個性アピールを
文・野口美恵(スポーツライター)
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ソチ五輪の会場で開催
貴重な6人のエントリー

グランプリシリーズ6大会の上位6人による最終決戦「グランプリファイナル」。シーズン前半の世界一決定戦でもあり、各選手がしのぎを削る。今大会は、2014年ソチ五輪と同じ会場で開催されることもあり、例年のグランプリファイナル以上に重要な大会だ。五輪を目指す選手にとっては、氷の質、会場の雰囲気、ロッカーやトレーニング室の場所、街並みなどを確認できるチャンス。髙橋大輔や浅田真央は、シーズン前から「絶対グランプリファイナルに出て、ソチの会場を体験したい」と話していた。

その貴重な6枚の切符をつかんだのは、なんと男子6人のうち4人が日本人。女子も、浅田と鈴木明子が出場を決めた。世界の男女シングルは、日本がリードしていると言って過言ではない。しかし今大会の面白いところは、日本勢が簡単に表彰台独占とは行かないほど、魅力ある海外選手がエントリーしていることだ。
男女別に見所を見ていこう。

男子シングルは日本人が4人 4回転2本、熾烈なジャンプ争い

男子は、かつてない4回転ジャンプ時代を迎えている。2010年バンクーバー五輪で「4回転を跳ばない」五輪王者を出したのが、つい2年前とは思えない。すでに4回転1本では足りず、「2本または2種類」がトップの条件となっている。

まず雄大な4回転トウループの現世界王者といえば、パトリック・チャン(カナダ)。質が高くプラス評価を狙える4回転トウループを、ショートで1本、フリーで2本組み入れる。また、基礎力が卓越した彼は、スケート技術を生かした表現力が底支えとなり、常に演技構成点で高得点を叩き出す。今季は、新しい振付師と共に持ち味を広げ、演技構成点はさらに進化。外国選手だからと敵対視するのではなく、彼の素晴らしいスケートを純粋な気持ちで堪能して欲しい。

2種類の4回転を持つのは、ハビエル・フェルナンデス(スペイン)と羽生結弦。2人は、キム・ヨナを育てたコーチ、ブライアン・オーサーの同門生だ。フェルナンデスの4回転サルコウは、流れ、回転速度、飛距離などすべての点において芸術的な美しさ。羽生は「ハビエルの4回転サルコウを間近で見て刺激を受けた」と言い、今季初に至った。
羽生はショートで4回転トウループを1本、フリーではトウループとサルコウの2種類を入れる。フェルナンデスは何とフリーで「トウループ2本とサルコウ1本」を入れ、試合全体で4回転を4本跳ぶ、至極の技を目指す。

バンクーバー五輪経験者で、すでにベテランとも言える髙橋大輔と小塚崇彦は、効率の良い綺麗な4回転トウループを披露する。髙橋の場合は、かつては足のパワーに頼った4回転を跳んでいたが、26歳となりケガも経験した彼は、スピードとタイミングを生かして、なるべく力を使わずに跳ぶ4回転を目指している。フォーム改造から1年。今季は練習でもフォームが安定し、あとは試合の場で力を発揮できるかどうかだ。ショートで1本、フリーで2本を予定する。
小塚も同様、試行錯誤の末に助走を変化させ、4回転の成功率を高めてきた。4回転の初成功はバンクーバー五輪だったが、今季はショート1本、フリー2本という攻めのプログラムにまで進化させている。

そして今季の台風の目といえば町田樹。肉体改造と精神面のモチベーションを高めることで、4回転トウループの確率は一気に高まった。自分のスタイルを模索し続け自信を付けたことも大きいだろう。フリーで4回転トウループ1本を予定している。
かつてない4回転時代の男子シングル。人間の身体能力の限界値を突き破っていく、6人の戦士にエールを送りたい。

女子は浅田と鈴木が出場 個性あふれる演技で魅了

女子は、日本2人、ロシア2人、アメリカ1人、フィンランド1人と、強豪国からバランス良くエントリー。2014年のソチ五輪の前哨戦といったメンバーが出揃った。女子の場合は、基礎点が10.5点もある4回転サルコウのような“決定打”のジャンプ勝負というよりも、それぞれの持ち味を最大限に出す、戦略勝負となりそうだ。連続ジャンプをバンバン決める「ジャンプ作戦」か、スピードとエッジワークを生かした「演技作戦」か、または全体をミスなくまとめて加点をもらう「積み上げ作戦」か。その組み合わせにより、どこまで個性的な演技をできるかが重要となる。

浅田真央はここ2シーズン、佐藤信夫コーチの元で基礎力から磨きなおしたことで、「演技作戦」と「積み上げ作戦」が出来る選手へと進化した。かつてはトリプルアクセルを代名詞としたが、今はトリプルアクセルが無くても勝てる選手だ。「ショートはちょっと子どもっぽく、フリーは大人の表現を」と浅田も話しているとおり、様々な表現力の使い分けが見所だろう。

鈴木明子は、総合力で勝負する。27歳にして、「ダブルアクセル+3回転」「3回転+3回転」の確率を高めており、成功すれば大きなポイント。さらに定評があるエッジワークを生かしたステップで、演技にメリハリを出すことも出来る。ソチ五輪を目指すことをまだ公言していないが、「ソチ五輪の会場に行くことで、何か気持ちに変化があるかも」と話しており、彼女のモチベーションに火がつくような試合を期待したい。

ロシアからは、天才少女2人がエントリー。それぞれジュニア時代から、小柄な体を生かして「3回転ルッツ+3回転トウループ」や「ダブルアクセル+3回転トウループ」を確実に決めてきたジャンプ派だ。まだ2人とも、演技面やスケーティング力といった部分はジュニアの滑りのため、演技構成点はこれからの成長に期待したいところ。14歳のユリア・リプニツカヤは2012年世界ジュニア女王で、脅威の柔軟性を売りに、オリジナリティ溢れる演技を披露。15歳のエリザベータ・トゥクタミシェワは、昨年よりは体型が大きくなったものの、ジャンプ力に陰りはない。得意とするキレのある踊りで、観客をひきつける。

パワフルさで秀でているのは、アシュリー・ワグナー(アメリカ)。猛スピードで助走し、ダイナミックに跳ぶジャンプは、大きなプラス評価を狙える。力強さをアピールできるプログラムを準備したことで、演技力も彼女の滑りとマッチ。フィギュアスケートの「スポーツ」の要素で圧倒的な魅力を感じさせる。
そしてシニア9シーズン目で悲願のグランプリファイナル出場となったのは、キーラ・コルピ(フィンランド)。柔らかい滑りと、艶やかな演技、そして1つひとつ美しいポジションが魅力的な24歳だ。滑った跡のトレースまで美しく、彼女の滑りはまさに正統派。全体的に少しずつプラス評価を受けていく積み上げ作戦で、高得点を狙う。

女子は、本当に様々な持ち味の選手が出揃った。勝敗ももちろん重要だが、それぞれ個性的な演技に酔いしれるのも、楽しい観戦になるだろう。

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男子も女子も、表彰台がまったく予想できないほどの熱戦。各選手は、この五輪会場で何を感じ、どんな演技を披露し、そして何を得るのか。1年半後の五輪へ向け、秘めた闘志のぶつかり合いを期待したい。

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