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2012年12月2日(日)付

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沖縄と安全保障―普天間をなぜ語らない

 青い空と海が溶け合う沖縄県・尖閣諸島沖。中国の海洋監視船を、海上保安庁の巡視船が並走して警戒する。

 連日、こんな光景が繰り広げられている。いつ不測の事態が起きても不思議はない。

 悩ましいのは、大国化した中国との向き合い方である。

 それだけではない。韓国とは竹島をめぐって対立し、ロシアとは北方領土問題が残る。金正恩(キムジョンウン)体制になった北朝鮮の動きも、気がかりだ。

 日本の外交・安全保障の行方を問う選挙戦が始まる。

 政権交代後、米国との関係がぎくしゃくした。民主党が日米同盟の深化、自民党がその強化を公約に掲げる背景には、その立て直しが急務だとの問題意識があるのだろう。

 だが、政治は肝心なことから目をそらしていないか。

 日米同盟の根幹をなす沖縄の基地問題である。

■日米のアキレス腱

 沖縄県民の怒りが、かつてない高まりを見せている。

 米軍普天間飛行場(沖縄県宜野湾市)の返還に日米両政府が合意した96年から、普天間問題は日米の抜けないトゲとして残ったままだ。

 動かぬ普天間に、今秋、米軍の新型輸送機オスプレイが舞い降りた。県民大会に10万人が集まり、反対の声をあげたのを押し切っての配備である。

 普天間は住宅密集地の真ん中にある。仲井真弘多(ひろかず)沖縄県知事は、事故が起きれば全米軍基地の「即時閉鎖撤去」を求めると警告する。そうなれば大規模な反基地闘争につながり、日米同盟は根幹から揺らぐ。

 米兵による暴行などの事件も後を絶たない。こんな状態で、なにを強化するというのか。

 沖縄が日米安保のアキレス腱(けん)になっている。そのことを政治は直視すべきだ。

 ところが総選挙が間近になっても、沖縄の基地問題はほとんど語られていない。

 普天間を沖縄県内の名護市辺野古に移設する日米合意。民主党は前回のマニフェストで「(米軍再編は)見直しの方向で臨む」と意気込んだが、今回は「日米合意を着実に実施する」と後退した。自民党も「沖縄をはじめとする地元の負担軽減を実現する」と素っ気ない。

■危機感乏しい政治

 日米安保が大事だと言いながら、普天間問題には目をつぶる。これでは、あまりに無責任ではないか。

 とりわけ民主党の罪は重い。

 鳩山政権時代に「最低でも県外」を掲げ、辺野古案は宙に浮いた。迷走の末、代わりの移設先が見つからず、断念した。失敗に懲りてか、野田首相は辺野古移設が「唯一の有効な方法」の一点張りだ。

 かつて日米合意を受け入れる決断をした地元住民も、今は県外移設を唱える。首長の反対や、巨額の財政負担を考えても、辺野古移設はもはや現実味を失っている。

 このまま辺野古にこだわれば、結果的に普天間の「固定化」につながる。いつ起きても不思議ではない事故の危険性を抱えたまま、日米安保は薄氷を踏むような状態が続く。

 自民党の安倍総裁は、民主党政権の「外交敗北」を批判する。だが、その自民党も、辺野古以外の案を示しているわけではない。このままでは、仮に政権に復帰しても早晩、行き詰まるのは目に見えている。

■地域安定の構想を

 普天間返還に日米が合意した96年当時と比べ、東アジアの安全保障環境は大きく変わった。

 中国は、海洋権益を求めて強腰の外交を展開している。アジア太平洋重視を掲げるオバマ米政権は警戒を強めている。

 日米安保の重要性は、かつてより増しているとも言える。

 だからといって、その負担を沖縄だけに押しつけていいというものではあるまい。

 仲井真知事は、本土への「分散移転」を唱えている。重く受け止めなければならない。これは、一人ひとりの有権者に突きつけられている問題だ。

 米軍嘉手納基地への統合案など、これまで多くの案が浮かんでは消えてきた。

 平時は普天間を休止し、有事だけ基地の使用を認める案を唱える専門家もいる。自衛隊と米軍との共同使用による基地の整理統合案も浮かんでいる。

 いずれも簡単な話ではない。

 それでも、辺野古案の難しさを直視するところから議論を出発させるしかない。

 4日の公示を前に、憲法改正や国防軍構想といった威勢のいい安保論が飛び交う。

 だが、そんな議論の前にやるべきことがある。

 地域の平和と安定を保つための大きな構想を示し、沖縄の基地問題解決のために米政府と向き合う。それこそ、本来の政治の責務ではないか。

 普天間問題の混迷から抜け出すべき時である。この総選挙を打開への契機としたい。

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