2012年10月28日放送
思考力を育む 商品開発の授業に潜入!
東京都内にある品川女子学院。中高一貫校で、全校生徒1260人。大正時代から続く、伝統ある私立学校です。この学校のユニークな授業のひとつ。それが、6年前から始まった「企業コラボレーション総合学習」です。中学3年生が毎週、総合学習の時間を使って、商品開発のヒントを学びます。この日のテーマは、若者に人気のコーヒーチェーン店の企業戦略。「どっちで飲みたい?」「スタバ」「なぜ?」「おしゃれだから。」コーヒー店が、店の明かりや壁紙といった"雰囲気"にも付加価値をつけていることを気付かせます。こうした授業は1学期にはじまり、2学期には企業とコラボ、3学期になるといよいよ商品を開発するのです。
これまでこの学校の生徒が生み出した商品は、新潟の菓子メーカーと一緒に作ったスナック菓子や、食品メーカーと共同開発したカップラーメン、製薬会社とコラボした眠気覚ましのハードグミなど。それに...「♪牛乳に相談だ♪」このフレーズ、聞き覚えがありませんか?ある農業団体と広告代理店が作ったCM。このラジオバージョンのシナリオを品川女子学院の中学生が担当したのです。それにしても一体なぜ、中学生が商品開発を?「なるべくたくさん失敗も苦労もさせて、自分でそれを乗り越えるトレーニングをさせたい。そのためには"教える"んじゃなくて、"自分達が勝手に学ぶ場所作り"を大事にしたい。」校長の漆紫穂子さんはこのような思いから、商品開発の授業を取り入れたのです。
企業コラボを始めてから生徒に変化も。中学3年の桑原里奈さんは、社会を見る視点が変わったといいます。例えばスーパーに行くと...「お菓子とトイレットペーパーが同じコーナーに積まれている、なんで一緒にあるんだろう?」とか「何でスーパーなのに、雑誌が置いてあるんだろう」など、普段見慣れているはずの光景が、全く新しいモノとして目に映るようになったと言います。「(授業によって)今まで知らなかった社会の事とかが身近になったので、視野が広がった。普通に見過ごしていたものも、自分の中で考えるようになった。(桑原さん)」
毎週日曜日に開かれる、ある温泉街の朝市。ここでも、地元の高校生たちが大活躍!売っているのは、地元企業とコラボして開発した飴や、洗顔クリームなど。学校の授業の一環として、商品の開発から販売までを、手がけているんです。佐賀県立杵島商業高等学校。ここでは、2年前から、3年生の選択授業で、実演販売の他に、インターネットで地元企業の商品を売るサイトを運営しています。お店の名前は「がばいよか・きしま学美舎」。この授業を選択する生徒およそ30人が、それぞれ、営業部やシステム部などの担当に分かれ、擬似的に会社を運営しています。
企業コラボの現場をのぞいてみると...、地元の味噌メーカーのインスタント豚汁のネーミングとパッケージのデザインを任されていました。ここで高いハードルがっ。実はこの豚汁、去年、先輩たちが挑んだものと同じ。その時、メーカーから要求された顧客のターゲット層は"受験生"でしたが、今年は"育ち盛りの子供を持つ主婦層"にっ。どうすれば主婦に受けるのか?高校生には見当もつきません。そこで、子どもを持つお母さん先生たちへの聞き取り調査を開始。結果、母親ならではの愛情と「わが子には、いつもたくさん食べてほしい」という純粋な親心を感じました。...2週間後。メーカーに提案したネーミングは『がっつり食べんしゃい』。部活から疲れて帰ってきて食欲がない子どもにもしっかり食べてもらいたい...そんな親心をくすぐるネーミングです。メーカーもご満悦でした。
「がばいよか・きしま学美舎」の授業を選択する生徒の1人、極度の人見知りがお悩みの溝口賢洋さん。知らない大人と話すことが大の苦手です。すぐ上の兄と8つも歳が離れている溝口さんは、ご両親によると...「ポツンと生まれた子だったもんですから、可愛くて仕方なかった。」「引っ込み思案な子どもが自分から前に出てっていうのが、今まではなかった。」とのこと。そんな溝口さんは「自分を変えたい!」と、自ら進んでこの授業を選択しました。この日は、町役場に電話をすることに。しかし周到な準備をしていても、緊張してなかなかうまく話せませんでした。
そんな溝口さんが今、挑戦しているのは、翌週開かれる朝市でのある試み。溝口さんの担当は、企業ではなく個人の農家。サイトの維持費など、月5000円ほどを支払い、学校に協力している農家の淵野大輔さんの家を訪ねました。売り物は、無農薬の雑穀。しかし淵野さんは、最近、ネット販売の売り上げが伸び悩み、学校と組んで商売するメリットを感じられなくなっていました。そこで溝口さんが考えた売り上げ改善策は、朝市での試食サービス。みずから調理して持って行くというのです。しかも溝口さん自ら交渉して試食を三品に増やしました。...帰り道。同行した先生からはお褒めの言葉が。「しゃべったじゃん。いつになくしゃべった!頑張ってますよね。今までで一番良かった。」
でも、試食サービスって一体、どうやればいいのか?溝口さんには、早速試してみたいことがありました。学校での試食の予行演習です。「きちっとした食感もあれば、もちもちとした食感もあり」「美味しい!」予行演習は上々。はたして、溝口さんの起死回生の一撃、試食サービスは成功するのか?朝6時。溝口さんの試食サービス、当日の朝をいよいよ迎えました。雑穀米は溝口さんと2人の友達が炊き上げました。「いらっしゃいませ~うるち玄米をブレンドした商品です!」「うまい」「これひとつでいいですか。」この日の試食サービスは大当たり!淵野さんの商品はわずか1時間で過去最高、約1万円を売り上げました。
木下優樹菜さん(タレント)
私も、知らない大人の人と自分が会話しているところは見られたくなかったんですよね、何か、恥ずかしくて。ちゃんとしている自分をお母さんとかに見られるのがすごく嫌でした。すごく恥ずかしいんですよ、分からないんですけど。溝口さんも絶対そうだと思うんですよね。(例えば打合せの場に母親が来ていていたら?)逆に溝口さん、あそこまでちゃんとしゃべれてなかったと思います。
藤原和博さん(前・杉並区和田中学校校長)
親子、先生と生徒というのは縦の関係で、友達同士は横の関係なんですけど、親や先生じゃない大人、まあ、"斜めの関係"と言うんですけども、斜めの関係で、もまれればもまれるほどコミュニケーションの力が付いていくんで、やっぱりすごく大事なことなんですよ。とりわけ中高生って、自分の親とか先生に対しては反発していたと思うんですね。その辺の世代から"斜めの関係"で、お兄さん、お姉さん、おじさん、おばさん、おじちゃん、おばちゃんモードで接したほうが育つというところがある。これはすごく大事です。