校長就任初年度のふりかえりと2年目への思い
いろいろなことが凝縮していた1年です、これまでの私の人生の中で、最も長く感じた1年でした。昨年の入学式が遠い昔に感じます。
そんな1年目を経ての2年目の今、1年目より緊張しています。というのは、昨年度の経験から危険予知能力というか、知恵がつき、入学式の式辞など「ここは絶対はずせない」というように、緊張感を持つポイントがわかったりしますからね。その点では、いい意味で1年目より緊張感を持って臨んでいます。逆にいうと、1年目の方がのびのびしていたといえるかもしれません。
校長就任1年目を一言で表すとどのような年で、また、2年目はどのような年になりそうですか?
1年目は、「エキサイティングな1年」。
2年目は「モアエキサイティング!な1年」にしたいです。(笑)
「よのなか科next」をふりかえって
前校長藤原先生からの[よのなか]科を引き継がれ、代田校長は「よのなか科next」と題して1年間授業を行われましたが、いかがでしたか。
私自身のビジネスの経験の中で、「こんなの伝えたい」と感じていたテーマがあり、そのテーマを伝えるにあたって、藤原先生がつくられたフォーマットに合うものに関しては、藤原先生のフォーマットで授業を実施しました。そのフォーマットに当てはまらないものは無理に当てはめずに、私の本音を伝えられるものとして私のオリジナルの「よのなか科next」の授業にしました。
大切にしたことは、「今だからこそ伝えたいこと」といった、時事的なテーマを多く取りあげたことです。例えば、オバマ大統領の演説が話題になった時には、オバマ大統領の演説を題材にして、「人種差別」というテーマを、北京オリンピックの時には、「2008北京オリンピックから2016東京オリンピックを考える」というテーマを取り扱いました。
前校長藤原先生からの[よのなか]科を引き継がれ、代田校長は「よのなか科next」と題して1年間授業を行われましたが、いかがでしたか。
生徒はアンテナや感受性が強いので、生徒の反応や感想は大人の想像以上ですね。ホンモノを投げかけると、必ず生徒の琴線にひっかかって、それが学びのモチベーションになるということがわかりました。その生徒の反応を見ている限り、先生方も「よのなか科next」についてマイナスの評価はしないのではないでしょうか。
2009年度「よのなか科next」
今年の「よのなか科next」の特徴は何ですか。
「よのなか科next全校授業」を実施します。
和田中学校では、昨年度まで、火曜の7限(※)を学校全体で国語の漢字練習や作文の時間にあてていたのですが、その時間で「よのなか科next全校授業」を実施することになりました。「よのなか科next全校授業」は、1年生から3年生までの全クラスで一つの新聞記事を読み、その記事に対する自分の意見や考えを書く、文章理解・文章表現の授業で、それを火曜日の7限目に各クラスの担任が一斉に行います。そして、その結果を通常の「よのなか科next」で、「1年生はこのように考えていたが、3年生はまた異なる視点で考えている」と他学年や他クラスの考えをフィードバックすることにより、自己の考えを深める機会にしようと考えています。
※火曜7限の授業:国語の基礎学力の向上を目指し、昨年度、毎週火曜日7限目に漢字練習や作文に取組む授業を全校で実施。
「家庭巻き込み版 よのなか科next」を実施します。
3年生を対象に月に1回定例化して体育館で、3年生の全クラスの生徒と保護者を対象にした「よのなか科next」を実施します。保護者も進んで参加したくなるような魅力のあるゲスト講師を招き、多くの保護者に参加していただいたり、また、参加できなくても宿題に協力してもらったりして、今年は「よのなか科 next」を全校に、家庭に、そして地域に広げることをめざしています。
「よのなか科next全校授業」とは、すごい進化ですね。新聞を読むことで「読解力」の育成につながり、自分の意見を書くことで「表現力」にもつながるという学習目的があるので、全校は無理でも、学年全体での国語的総合や朝読書に代わる取組みとして他校にも広がっていくかもしれませんね。「全校授業版」「家庭巻き込み版」以外の、各学年で実施する「よのなか科next」は、どのような内容なのですか。
昨年度、「よのなか科next」を実施してみて、本質的で哲学的なものを生徒に投げかけたときに、生徒はそれをきちんと理解し、大人の予想をはるかに超える反応をかえすことがわかりました。また、どのようなゲスト講師も本質的な話になると、「生きる」「いのち」というテーマに帰着し、それに対する生徒の反応も良かったことも感じました。そこで今年度は、「いのちの大切さ」という本質的なテーマをベースに展開していこうと考えています。
といっても、毎回の授業で「いのちの大切さ」を全面に出していくわけではありません。時事的なテーマや「いのちの大切さ」に直接的に触れていないテーマを扱ったとしても、隠しテーマとして「生きる」「いのちの大切さ」がしっかりと存在し、そのような授業を重ねていく中で、生徒がそれらの本質的なテーマを考えられるようなものにしたいと思っています。
「いのち」という本質的なテーマを、時事的なテーマや複数の切り口で生徒たちに触れさせ、最終的に「生」「いのち」についての考えを、深く引き出すということですね。
そのような「いのち」という本質的なテーマをベースにした「よのなか科next」を、具体的に各学年でどのように展開されるのですか。
1~3年生の全体に同じウエイトで「いのちの大切さ」を扱っていくわけではなく、最終的に3年生の時点で「生きる」「いのちの大切さ」を考えられることをゴールに設定し、1・2年生のプログラムを組んでいきます。「いのちの大切さ」について深く考えるために、1・2年生では、考える、意見をアウトプットする、ディスカッションするなどの手法を、時事テーマを取扱いながら学べるプログラムを実施していきます。
そのような体系的な取組みは、日本の教育に一番欠けていることですね。単元間の学びが分断されていたり、教科間のつながりがなかったり、本質的なテーマを日々の学習の中で考えていく機会がないので、そのような経験を積むためにも「よのなか科next」の取組みは有効であると感じました。代田校長のオリジナル視点での[よのなか科]ですね。
和田中学校の地域本部について
昨年からの文部科学省の取組みにより、全国的に広がっていて、今年は5,000ヵ所以上できるといわれている学校地域支援本部ですが、その元となる、和田中学校の地域本部の近況を教えてください。
藤原校長時代は、地域本部に関して藤原校長自ら決断し、自ら物事を進めていました。0から1を創る時には、藤原校長のように迷いもブレもなく、スピーディーに判断し、物事を進めるリーダーシップは、本当に大事だと思います。
私は、リーダーシップの取り方は良し悪しがあるというわけではなく、ベストなリーダーシップの取り方は、その時代に応じたリーダーシップがあると考えており、6年目に入る地域本部に対して校長がとるべきリーダーシップは「フォロアーシップ」であると考えています。
今までの地域本部は、会長や事務局長の選任も分掌化されておらず、会計・経理や規約の明文化や保護者の会との連携フロー化もされていませんでした。藤原校長の頭の中に地域本部の組織像や組織の動かし方がしっかりと描かれており、それを伝える指示系統があったため、明文化しなくとも問題なく地域本部を組織づくることができました。しかし、6年目を迎えた地域本部に対し「フォロアーシップ」で関わるためには、地域本部の組織自体を誰にとってもわかりやすいものにすることが必要になりました。
そこで「地域本部には透明性や公平性を保つことが何より大事だ」と考え、それを何度も地域本部にも伝えました。しかし、「透明性や公平性を保つ」という大きなフラッグやベクトルは校長として示しましたが、それをどのように行うかという道筋はあえて口をださないというスタンスで、地域本部の自治に任せました。すると、自ら規約づくりを行ったり、自分たちで考え決めるための会議体を持つ等の自主的な進化が見られました。
「公平性と透明性を保つ」という方針の一番の成果は何ですか。
地域本部に自分たちで考える、自分たちで決めるという良い習慣ができたことです。会議などでも、自分たちで考え、自分たちで決定するといった、意思を持った地域支援本部に進化したように思います。
事務局長にPTAの会長や地域の方がなられるのではなく、地域の枠を超えて選定、決定されたようですね。
初代と二代目事務局長は藤原校長が直前のPTAの会長を指名していたのですが、事務局長の決め方について「地域本部のメンバーから一番信頼されている人で、リーダーシップをとれる人が事務局長になることが本来望ましい」ので「公議で決める」という方針が決まりました。そこで和田という地域の人材に限定せずに和田地域の枠を越え、前述の人物像にふさわしいドテラ校長にて地域本部に尽力していた江藤氏が公議で選任されました。
和田中学校がまた、学校支援地域本部のあり方に、新しい波を起こしましたね。それ以外に、昨年度~今年度にかけて、もっとも大きく変わったことは何ですか。
自分たちで規約を作り、自分たちで会計をして、報告できるようになったことではないでしょうか。自分たちの会議体もつくり、校長の都合で会議をするのではなく自分たちで会議を行い、決定事項を実施していく組織体となったこと自体が大きな変化だと思います。 その反面、決定のスピードが遅れがちになってしまうことや、不況和音が生まれるなどの課題はありますが、今年はそれらの課題をクリアしながら、さらに成熟した組織体をつくりたいと思っています。また、地域本部の中に、キャリア教育や部活の支援本部など、新しい部を作ることも目標です。
ますます進化・発展する地域本部は、和田中学校にとってどのような存在といえるでしょうか?
欠くことのできない存在です。和田中学校を動かす、大きな車輪、大きな推進力になっています。
地域本部が意思を持ち、自らの意思決定による試行錯誤を積み重ねながら地域本部は成長していくのですね。今回のお話は今、全国で急増する学校地域支援本部の一歩先の姿をうかがえたと思います。
今年もまた、和田中学校と地域本部の活躍に期待しています。
代田 昭久 氏
1965年長野県生まれ。慶応義塾大学経済学部卒業後、株式会社リクルート入社。大学生向けの就職塾事業やスポーツ関連ビジネスなどを手がける。’03年に『13歳のハローワーク』(幻冬舎)の公式サイト運営を中心とする 株式会社トップアスリート を設立。教育事業の一環で和田中の活動にも協力。和田中地域本部の推薦と東京都教育委員会の採用試験を経て、’08年4月より杉並区立和田中学校校長に就任。
和田中学校の校長2年目がスタートしましたが、昨年は、代田校長にとってどのような1年でしたか?