教育業界ネットワーク

教育共感インタビュー

企業が連携したコンソーシアムの意義とは?
若江

近年、教育に貢献したいという企業がたくさんあります。わたしたちキャリアリンクは"教育コーディネーター" としてさまざまな企業の教育貢献プログラムづくりのサポートや国の研究事業、教育委員会主催の教員研修を行っていますが、最近、CSR(企業の社会的責任)の一環としての教育プログラムの開発依頼が急増しています。ある時、企業の担当者の方から「ここの企業の個別の取り組みに加えて、複数の企業が協力し合って"ニュートラルな立場"で教育貢献をする仕組みがつくれないだろうか?」というご相談を受けました。折しも、教育委員会の研修担当者からは、学校現場ですぐに使える教材やプログラムの情報、なかでも企業との連携プログラムの必要性があることを聞かされていましたし、さらには公教育の立場から1社だけのものではなく、複数あるものの中から自分たちの興味のあるものを選んで使えるというのがありがたいという要望もつかんでいました。

その双方のニーズを満たすしくみづくりとして、2006年に「キャリア教育プログラム開発推進コンソーシアム」 設立に至りました。私たちが講師を務めた教員研修会に参加いただいた先生方からのアンケートでも、「企業の出前授業、教育プログラム、教育イベントなどの情報はどこで手に入るのか教えてほしい」というご要望を数多くいただきます。このような企業の声、教育現場の声をもとに、真剣に教育貢献活動に取り組もうとしている、また取り組んでいる企業が連携して、現場の先生方に価値のある情報を提供していくことがとても大切で、意味のあることだと考えました。


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教育現場が企業の教育貢献活動に求めるもの
若江

教育現場が企業の教育貢献活動に求めるものとして、提供される教材や教育プログラムの「教育的価値」が重要な要素となります。ひとつの例ですが、環境をテーマにした教材などで、企業の環境活動を紹介しただけの一歩的な情報提供スタイルのものが多くみられます。これでは学校現場に企業PRをしているととられても仕方ありません。このような観点からの教材やプログラムは教育現場には受け入れられないことに気づいてない企業が多すぎるのです。

大切なことはその教材やプログラムを通して子どもたちに価値ある学びが提供できているかということなのです。


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学校に求められるプログラムとは、楽しく学べるしかけのあるもの
若江

藤原さんは、校長先生時代から[よのなか]科として中学生に対して授業をおこなっていらっしゃいますが、実践者として、学校に求められる学習プログラムとは、どんなプログラムだと思われますか?


日渡

そのプログラムが

私も、[よのなか]科 の実践を通して試行錯誤してきた中で、そのプログラムが“面白い”か“面白くないか”ということが一番大事だと思っています。優れた教材は、教材自体に力があります。力のある教材とは、主体的に生徒が学びを満喫できるしかけのあるものです。いくら最新の情報をもとにつくられた教材でも、ただ情報を伝えるだけの教材は、知ることだけが目的になってしまいます。一方、“考えるしかけ”のある教材は、生徒が自ら学び、考え、自分の意見を発信することを促します。

今の子どもたちは“成熟社会”を生き抜いていかなければなりません。正解が一つとは限らない世の中の諸問題には、自分の持っている知識、技術、経験を動員して組み合わせ、自分なりの解答を導く力が必要となってきます。万人にとっての正解ではなく、自分なりの納得解を状況に応じて出し、それを生かせる力が必要です。

この力を「情報編集する力」すなわち「情報編集力」とわたしはよんでいます。実際、[よのなか]科の授業でも、子どもたちが、自分の問題として考える手法として、ロールプレイング、シミュレーション、ディベートなどを使い、情報編集力を育む取り組みをしています。企業から提供される教材は、ほとんどが実社会をテーマにしたものでしょうから、子どもたちが自分のこととして考えるようなしかけを考えてもらえればと思います。その意味からも、コンソーシアムで普及させていく教育プログラムは、きちんと上記の視点でプログラム評価を行い、楽しく学べる仕掛けのある“力のある教材”を選定していくことが重要です。


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良いプログラムを普及するために教員研修を活用する
若江

藤原さんも、文部科学省の事業の一環として[よのなか]科的な授業手法や考え方を伝えていくために全国各地で教員研修をされましたが、教員研修はどうあるべきとお考えですか?


日渡

3年間で3000名を超える授業見学者が来ています

現在、和田中学校で実践している[よのなか]科では、授業をオープンに開き、3年間で3000名を超える授業見学者が来ています。全国の教員が和田中学校に足を運んで授業を実際見た上で、実践をしようという動きが出ている中、その取り組みを書籍にして内容を公開しています。授業を外に開いていくことによる生徒への効果、具体的な授業イメージや考え方をつかんでもらうことが、さらなる実践のためには必要だと考えました。特に実際に行った研修では、ワークショップスタイル中心で、参加者同士が教材や授業ビデオを活用しながらともに学びます。

授業実践のイメージを自分で作り上げていくことで、[よのなか]科の授業からだけではなく、参加者のアイデアや手法を取り入れて自分の実践につなげていくことができました。良いプログラムや手法を共有していくためには、"ワークショップスタイルの教員研修"が有効なんですね。若江さんは、教員研修についてどのようなアイデアをもっているのですか?


若江

学校ですぐに使える研修にしたい

わたしたちも、教育委員会が主催する情報教育、キャリア教育などの教員研修を過去10年ほど実施していますが、最近、教育委員会の企画担当者からの要望で多いのは、「理論だけではなく、ワークショップ形式で参加者がともに楽しく学びあいながら、かつ学校ですぐに使える研修にしたい」というものです。

藤原さんがおっしゃるように、わたしたちも、「楽しい」「おもしろい」「参加者同士の学び」「教材からの学び」をコンセプトに研修内容を企画しています。そして何よりも実社会を題材にするということにこだわり続けてきました。研修に参加いただく先生からは、とにかくいろいろな分野の教材や教育プログラムの情報がほしいという意見が必ずアンケートのトップにきますが、大切なのはそれを活用してどのような授業をするかなのです。

つまり、教員の授業スキルを向上させる研修が不可欠で、その研修スタイルには企業で使われているノウハウをふんだんに取り入れています。良質のプログラムによる良質な研修で、教育的な狙いが学校現場で求められるものであれば、企業が提供するプログラムであっても研修として導入したいという教育委員会は多くあります。

一方、真剣に教育貢献を考え始めている企業では、一方通行の教材提供や出前授業などの単発的な人材提供だけではなく、子どもたちが楽しく学べる教育的要素の高いプログラムや教材提供、つまり学校のニーズにあった内容で、いかに学校で使ってもらえるかに関心が高まっています。教育プログラムの告知方法についても、従来の教育委員会や学校に教材を一斉送付するというやり方では、必要としないところにまで届き、多くの学校では開封もされないまま廃棄されることもあり、コスト的にも資源的にも非常に無駄が多かったのです。

そこで、その無駄を改善するために、良質な教材やプログラムを効果的なワークショップスタイルで、そのテーマに対して関心と意欲を持っている教員に対して研修をし、授業を実践するためのプログラムや教材は無料で提供するというしくみが有効なのです。一方的に教材を発送する方法に比べると非常に手間と時間がかかりますが、結果的にはこのやり方が教員、教育委員会、企業の要望を満たすものであると考えています。


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企業の教育貢献に必要な視点とは?
若江

今後企業の教育貢献活動の一環としての教育支援は、ますます学校からも社会からも求められるはずです。そのときに、提供する教材やプログラムで大切なことは、そのプログラムによって伝えたい社会的、教育的なメッセージが明確であることです。それは教育現場に受け入れられるものなのか、そのプログラムを教員や子どもたちが"おもしろい"と感じるのか?そのプログラムで一体どんな知識を学ぶのか?という"教育的視点"にもとづいたプログラム、教材開発が必要だと思っています。先生方の一助となるべく"視点はいつも子どもたちに・・・"を合言葉に産業界と教育界の架け橋となることがわたしたちの願いです。 最後に藤原さんからメッセージをお願いします。


日渡

企業から提供される"社会"を題材にした教材やプログラムは、教員にとって、そして何よりも子どもたちにとって刺激的で有効なツールであるはずです。21世紀に必要なリテラシーを育むためにも、教育現場が待ち望んでいた支援の実現を大いに歓迎します。


「キャリア教育プログラム開発推進コンソーシアム」会報誌[FutureForecast]より再掲

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元 東京都杉並区立和田中学校 校長
藤原 和博 氏

未来をつくる教育とは?

1955年生まれ。'78年東京大学経済学部卒業後、株式会社リクルート入社。東京営業統括部長、新規事業担当部長などを歴任後、ヨーロッパ駐在、同社フェローなどを経て、'02年からビジネスマンと兼務で杉並区教育委員会・参与を務める。小中学校での教育改革にかかわり、自ら開発した[よのなか]科の実践が話題となり、'03年4月から杉並区立和田中学校校長に就任。都内では義務教育分野で初の民間人中学校校長。


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