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【愛知】

添沢温泉「雲泉閣山の家」解体進む 設楽ダム水没エリア

重機を使って撤去される添沢温泉の看板=設楽町田口で

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 設楽ダムの水没エリアに立つ添沢(そえざわ)温泉「雲泉閣山の家」(設楽町田口)で、最後まで残っていた看板が撤去された。昨年十月に営業を停止し、十月から建物の解体工事が進んでいた。ダム計画に翻弄(ほんろう)され続けた老舗温泉旅館は、百二十年以上の歴史にひっそりと終止符を打った。

 「残念だけど個人の力ではどうしようもない。国策には勝てません。多くのお客さまに愛していただき、感謝の気持ちでいっぱいです」。十一月二十一日に看板を外した四代目の主人、村松義行さん(62)は話す。

 大学を卒業し、ホテル専門学校の旅館コースで学んでいた一九七三年、新聞で設楽ダム建設計画を知った。翌年Uターンし、旅館を引き継いだ。「以来四十年間、ダム問題との格闘の日々でした」

 先行きが不透明で新規の設備投資もままならない。玄関と調理場、浴場はリニューアルしたものの、全二十室の各部屋にバス、トイレを付けたいという夢はついに果たせなかった。

 神経痛やリウマチに効き、美肌効果があるという「低張性アルカリ性冷鉱泉」。七千平方メートル以上の大庭園に総ヒノキ張りの浴場。奥三河ではここだけという百畳敷きの大広間。四季を通じ、多くの人が添沢温泉を訪れた。

 いつまで営業を続けたものかと思い悩んでいた村松さんを決断させたのが、昨年三月の東日本大震災。「設備投資を控えていたため耐震性に不安があった。お客さまに万一のことがあったら取り返しがつきません。それで廃業を決めました」

 昨年十月で営業をやめ、従業員の再就職先を見つけてから解体工事に着手。だれにも知らせず、気付かない町民も多かった。

 「デパートの閉店セールのようなイベントはしたくなかった。老舗は老舗らしく、静かに幕を引こうと…。本当にお世話になりました」。村松さんは深々と頭を下げた。

(鈴木泰彦)

 

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