ところが、そうした可能性を指摘すると、社長は「えっ」と絶句した。そして、しばらくしてこう言った。
「考えたこともありませんでした。灰に何が含まれているかを自治体や元請けから知らされたことは一度もないんです」
それは昨年の福島第一原発事故以降も変わっておらず、明らかに放射能汚染があるはずの今年の受注でも同じだというのには驚かされる。
「作業の時はマスクをしてます」と社長が言うので、防じんマスクはしていたのなら安心だと思ったら、違った。
「風邪の時つける普通のマスクです」
このように、本来必要な曝露防止措置もしていなかった。当然、被曝量の管理など思いもよらないことだ。
すでに紹介したように、社長は排ガスとして出ていく放射能のことを口にしていた。消音器に残された焼却灰にも当然それが含まれることは想像がつくはずだ。だとすれば、ある程度の知識はあったのではないか。そうした疑問を口にすると、社長はこう答えた。
「厚さ6ミリの耐腐食性がもっとも高いステンレスに2年で穴が開いてこうなっちゃうんですよ。絶対普通じゃないとは思っていた。表面は鉄が腐食しているような、何十年もたってさびているような状態。そこについているさびみたいなものを触ったら表面は固いんですが、ぼろっと崩れて、中はサラサラ。すごい細かいパウダー状なんです。これはバグフィルターとかを通過してきたものだよね、とは思っていた。そのほこりをすくってみたら重いんです。それで重金属じゃないかと思った。今だったら、それに放射性物質も含まれているんじゃないかということくらいは、なんとなく感じていた。でも元請けからも何もいってこないので具体的には何も知りませんでした」
この会社が今年請け負った、消音器が設置されていた焼却施設の下水汚泥焼却灰の放射能濃度についても、むろん社長は知らなかった。
原発事故のことは知っていても、それがどのように自分の仕事に影響を及ぼしているかを知ることは容易ではない。今回のように測定データが明確にある場合ですら、情報を握っている発注側がそれを知らせない。そんな異常な状態が許されている。