イチローイングリーンスタジアム神戸
「ブーマー?」
「ブーマーかいな。珍しくないな。ブーマーは外国人の代理人、またはOB戦なんかで、度々来日しとるわ」
「でも、ノリの見るブーマーは、すでに60の齢に届きそうなおっさんのブーマーでしょ? もしも、あの時の、そう、三冠王に輝いたブーマー。三冠王といえば、落合さん、バース以来25年は出ていませんが……」
「あほいうな、2004年に松中が取っとるわ」
「2004年? 僕が向こうで世界記録を更新したとき、日本ではそんなことがありましたか。それはさておき、ブーマーさん、カモン……いや、ここは、グリーンスタジアム神戸。DJキムラ風に行きましょうか……。オリックスブルーウェーブの攻撃は、3番、ファースト、ブーマーウェルズ!!」
イチローのコールとともに、大柄長身の男が、昭和40年会の並み居るメンツを押しのけ一塁側のダックアウトから、のっしのっしと出てくる。
「たしかに、ブーマー。そして、よく見かけるでっぷりと肥えたブーマーやない! 腹は出とるが、肉つきは現役時代のもんや!」
ブーマーは、阪急ブレーブスのユニフォームを現役さながらに着こなしている。かついだバットを投手の渡辺久信に向けると、
「ヘイ! ヒサノブ! またホームランね!」
さっそくのホームラン予告だ。
「なんだと、ブーマー……。今のお前に打たれるわけがない! オレは今でも135キロは出るんだ!」
イチローが、渡辺久信とブーマーの間に割って入る。
「はいはい、こういうありきたりな展開を僕は好まない。僕が好むのは、スピーディーな展開です。渡辺久信投手が打たれないと思うなら、ブーマーさんが一発打てると豪語するなら、勝負すればすぐにわかることでしょ?」
「そりゃそうだ、60のでぶのおっさんにオレが打たれるわけがない。オレは工藤さんより二歳も若いんだ」
イチローが進行役だと、話は早い。中村紀を押しのけ、ブーマーが打席に入る。あの独特のユニフォームを下から順番に触るクセを交えて。
投手の渡辺久信はブーマーとイチローの鼻っ柱を折るために、初球から全力投球。やや早い掲示の出ることで有名なグリーンスタジアム神戸のスピードガンは135キロを記録した。しかし、このボールをブーマーは軽々と、グリーンスタジアム神戸の左中間最深部に打ち込む。
「な、なんだと」
「あの時のように、160m飛ばそうとしたけど、ヒサノブ、球遅すぎね~ 150キロ、どーぞ」
「でるわけないだろうよ、今のオレに150が……。しかし、ブーマー。あなたのスイングは、現役時代さながらだ。どうしてですか? トレーニング?」
ブーマーは首を横に振り、なにも答えない。日本語がわからないわけではないが、イチローが助けぶねを出す。
「だから、いったでしょ? 現実を見せるって? 今のブーマーさんの現実をみて、まだ理解できないんですか? いくら、ブーマーさんだからといって、60近い体でグリーンスタジアム神戸の最深部は打ち込めませんよ。ではなぜ打ち込めたか? それは最盛期に時間を戻したんです。心と知識はそのままで、体だけ、三冠王を獲得したあの時に……」
「まさか……なあ、古田?」
「そうや、ヒサノブのいうとおりや。体の時間を戻す? そんなんすぐに信じられるかちゅうんや。ブーマーのそっくりな男を独立リーグあたりからひっぱてきたのが、トリックの種やろ? 独立リーグなら、135キロの棒球をあそこまでも飛ばせる者はいくらでもおるやろうからな」
「そうですか、ヒサノブさんはまだしも、古田さんならすぐに分かってくれるとおもったんですけどね……。それでは、実証、二人目を披露しましょうか……ジョニー! ジョニーこと、黒木知宏が現実を証明します」
イチローは、鯉を呼び寄せるように、手をたたきジョニー黒木の名前を呼んだ。
「ジョニー? あほな、ジョニーは肩痛の怪我で投げれんはずや」
三塁側の昭和48年会のベンチにいた黒木が、ウインドブレーカーを脱ぎ捨てすっと席を立つ。
「もう、イチロー、試合の途中で、万全の姿を見せて、驚かせようと思ったのに」
「しょうがないだろ、ジョニー。みなさん、疑い深いんだから」
黒木の持ち前の闘志に自信のオーラがこびりついている。度重なる故障ですっかりと消え果てた闘気をみなぎらせながら、黒木はマウンドに走っていく。
「ノリ。打席に入れよ」
「130も出んお前を現役のオレが打ってもなあ」
「いいから、立てよ」
「まあ、ノリ、付き合ってやれよ。そうでないと試合が進まん」
「そうですね、古田さん……」
黒木がゆっくりとモーションに入る。故障が完治しないまま引退した黒木から打っても面白くないと、ノリはやる気ではなかったが、この黒木のフォームの始動が全盛期のままと気がつくと、
「なんやと……こりゃもしかして!」
急いで、現役モードに入り、黒木に相対す。そして黒木の解き放ったストレートはまっすぐどまんなかに古田のミットに飛び込もうとしたが、ノリのフルスイングがこれの邪魔をする。
「打ちのは忍びないが……しゃーない」
左中間に飛んでいく長打コースの打球だが、ノリは走ることもしない。
「どこがや、どこが、ぜんせい……うん? 146?」
グリーンスタジアム神戸のスピードガンは今の黒木のストレートを146キロと表示していた。
「ちょっと待て、146キロいえば、ジョニーの現役最高速に近いやないか! なんで故障したままのお前がそのボールを投げれるんだ!」
「ノリ、いくらどまんなかでも、146を打てるとは、お前もまだまだやるじゃないか!」
「お世辞はええ、ジョニー、なんで、お前、146キロを……スピードガンを誤魔化した?」
「いや、ノリ。それはない。コースこそ大甘がボールは走ったたぞ」
「古田さん……」
「もしかすると、もしかする! イチローのいっていることは現実かもしれんな。オレたちは、とんでもない奇跡を目の当たりにし、とんでもない試合に放り込まれようとしているかもしれんぞ……」
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