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力の断片
隼人が寝静まった後、寝たふりをしていたアイリスが目を開ける。
(コイツが死ねば、新たな騎士をよべる……)
震える手で鉄のナイフをつかみ、寝ている隼人に近づく。
(だ……だめよ!主人が騎士を故意に殺したら、神罰が下るかも……)
ナイフを振るおうとする手を反対側の手で必死に押さえつける。
(こうなったら、みんなに協力してもらって、自殺に追い込もう)
酷いことを考えているアイリス。
夜は静かにふけていった。

次の日の朝
「いつまで寝てんのよ。さっさとおきなさい!!!」
ビシッ ビシッ ピシッ。
いきなり顔面鞭で叩かれた。朝一番から傷を負う。
「まったく、ご主人様より目覚めが遅い奴隷なんて、生きている価値ないわね。着替るんだから出ていきなさい」
寝起きで状況が理解できない隼人に対して、容赦なく鞭をふるい、部屋から追い出す。
鼻血を抑えながらも必死に絶える隼人。。
(我慢だ。我慢だ……まだ何もわかってないのに逆らえない。でも……)

アイリスが部屋をでると、廊下に同じようなドアが並んでいた。その内の一つが空いて、中から鮮やかな緑色の髪をした女の子が現れた・
「アイリスお姉さま!!おはようございます。。昨日はご無事でしたか?」
とろけるような甘い笑顔でアイリスに抱きつく。
「しつけをしていただけよ。おはよう、パッセ」
「鞭を振るう音が私の部屋まで聞こえましたね。どうやらこの騎士は相当にろくなもんじゃないみたいですね」
ゴミでも見るような目で隼人をにらむ。
「そうなのよ。ところで、その子が貴方の騎士?可愛くていいじゃない」
パッセの後ろに控えている黄色い髪の少年を見て微笑む。
「ライム公爵令嬢様、お初にお目にかかります。この度、パッセ様に使えることになりましたノームと申します。今後ともよろしくお願いします」
朝からピシッとした執事服を着こなし、膝を突いて一礼をする。
「……うらやましいわね。貴方、貴族に対して礼儀作法を心得てるわ」
感心したようにいう。
「はい。私の神力は子供の頃からかなり高く、いつか必ず貴族さまの騎士として呼ばれると父母が申しておりました。幼い頃からその為の教育を受けております」
完璧な礼節を保って答える。
「そう……貴方のご両親は?」
「はい。 貴族様相手の商会を経営しております。わが主、パッセ様のラドモーズ領でもお世話になっております」
「それじゃ、まさか……」
「ええ、パッセ様とも幼い頃から親しくさせていただいています」
わずかに頬を染める美少年。隣ではパッセも真っ赤になっている。
「男嫌いのパッセが騎士召還に反対しないと思ったら、そういうわけだったのね」
深く頷くアイリス。
「騎士召還」で呼ばれる騎士は、主人にふさわしい者を神が選ぶといわれている。。
その性質を利用して、有力者の平民は神力が強い子供を騎士とするために貴族の遊び相手にするように頼み込むことが多かった。
召還する貴族にとってもなるべくなら気心が知れた幼馴染が騎士になるほうが都合がいい。
幼馴染を召還した貴族と騎士のカップルは最高の絆で結ばれるとされていた。
(待って?だとしたら、この薄汚い『魔民』が私の騎士にふさわしいと選んだのも神の意思?いや!そんなの認めないから!!)
急に不機嫌になって再び隼人をにらみつけた。

神法学院の食堂にて

朝食の場は学生たちでにぎわっている。300人はいるだろう。
食器やスプーンなどが全部鉄でできており、そこからおいしそうな匂いが立ち上っている。
大勢の黒髪執事やメイドが忙しそうに働いていた。
隼人は昨日から何も食べてないのを思い出し、急に空腹感を感じる。
アイリスの隣に腰をかけようとすると、いきなり蹴り倒された。
「何座ろうとしてるのよ。奴隷の分際で生意気な。床に座りなさい」
見ると床に申し訳程度に小さな肉のかけらが浮いたスープと、小さなパンが純金の皿に置いてあった。
あまりの貧弱な食事にさすがにキレて言い返す。
「こんなのじゃ足りない。昨日の昼から何も食べてないんだ」
口答えをすると、アイリスの顔が醜くゆがみ、再び鞭をとりだす。
ビシッピシッピシッピシッピシッ。顔に腕に赤い線が走り、鼻から血を吹く。
「あんたいい加減に奴隷の身分を自覚しなさい。恥をかかせないで!!!!!」
「奴隷になった覚えはない。ちゃんとメシくらい食べさせろ」
騒然となる食堂だが、周囲からクスクスと笑いが巻き起こる
「アイリスったら、騎士に反抗されてるよ」
「餌くらいあげればいいのにね--。もしかして公爵家のくせに貧乏なのかしら」
学園のアイドルだったアイリスが魔民を召還したことで、今まで妬んでいた者たちがここぞとばかり陰口をたたく。
そんな声にますますヒートアップするアイリス。
「うるさいわね。奴隷のしつけは最初が肝心なの。それが嫌なら死んでもらうわよ」
(何なんだコイツは。俺をマジで人間としてみていない・・恐ろしい)
自分をまったく人間として扱ってくれないアイリスに恐怖する隼人。
このままでは本当に殺されかねない。
一か八か反抗しようと思ったが、ユリスが来て仲裁してくれた。
「まあまあ……隼人さん。後で台所に来ていただければ、賄いくらい出せますから。ライム様に謝ったほうがいいですよ」
「そうしなさいよ。残飯でも食べてなさい。奴隷には貴族の残飯でも贅沢だわ」
(・・・・コイツマジで殺す)
心の中でアイリスへの殺意をたぎらせながら、表面上は頭を下げる隼人だった。

その後、台所に行き、ユリスに賄いをもらった。
「なんなんだよあの態度。残飯を食えだって・むかつく」
頭から湯気がたちそうなほど怒りを募らす。
「それが貴族様として普通なんです。まあ、私たちも食べきれないメニューを作って、わざと残すように仕向けて残り物をいただいていますけどね。そうでもしないと食事が貧弱になりますから」
屈託なく笑うユリス。
「ユリスはそんなんでいいの?」
「仕方ないんですよ……貴族様や騎士様には逆らえませんから。でも、私達神法学園つきの奴隷って、この国ではもっとも待遇がいい奴隷なんですよ。美味しいもの沢山たべられますし。奴隷のなかじゃ一番価値があるとされた人が集められてますからね」
そんな事を言い出す。
「もっとも価値がある奴隷……?」
「ええ、健康で容姿が優れているとされる者があつめられているのです」
そういわれてよく見ると、学園の使用人は全員黒髪ながら容姿がすぐれている者ばかりだった。
「でも……いいことばかりでもないですけどね」
ちょっと暗い顔をする。
その意味を隼人が知るのは少し先の話になるのだった。

またアイリスが台所に入って来る。
「いつまで残飯がっついているのよ。さっさと来なさい」
また鞭で打たれる
「くっ……」
屈辱を感じながらもアイリスに付いて行った。
トーキン魔法学校。教室にて

隼人とアイリスが中に入っていくと、先に教室にやってきていた生徒とその騎士が一斉に振り向き笑い始める。
「ブサイクな魔民だな」
「私の騎士の足元にも及ばないわね」
貴族たちが隼人をみて笑い声を上げる。
その隣にいた騎士たちも同じようにあざけっていた。
アイリスの顔が屈辱にゆがむ。魔民を召還したことで、自分の評判がどんどんと落ちていっているのを肌で感じていた。
無言でアイリスが一番隅の席に着くと、隼人も石の床に座った。また席に着くと殴られそうだからである。
「オイ奴隷騎士。ちゃんと餌もらったか?」
近くの騎士がからかいの声がはいる。
いちいち反応するのにも疲れてきたので無視した。

扉が開いて中年の女の人が入ってきて、授業が始まった。
「皆さん、いろいろな騎士を召還できましたね。大変仲よさそうで結構なことです。おやおや、ミス・ライム。変わった騎士を召還したものですね」
教室中がどっと笑いに包まれた。
「コネサンス先生、今後は『召魔』のアイリスとよぶようにしましょう」
「魔民を召還するなんて、前代未聞だよね」
「あの魔民と深~い絆で結ばれるってありえない」
「そういえば、さっき餌くれ~って喚いていましたよ」
周囲から笑いとからかいの声にますます顔が赤くなっていくアイリス。
今すぐにでも隼人を殺したそうな顔をしてにらみ付けた。

「はいはい。それぐらいで。では、最初の授業を始めます。皆様と騎士たちの自己紹介をお願いします」
コネサンスとよばれた女教師の言葉に教室のくすくす笑いが収まる。
「はい。オール男爵家、カトリーヌです。隣は騎士マリエール」
黄色い髪のおとなしそうな少女。その隣には赤髪の少年。
「それでは、見本を見せてもらいましょう」
コネサンスの言葉に二人は顔を見合わせて頷き、手をつないだ。
マリオールと呼ばれた騎士が杖を振ると、何もない空中に火の玉が現れる。
「はい、成功しましたね。お見事です」
教室中から拍手され、二人は頬染めた。
「はい、次の方……」
二人ずつ教室の教壇にのぼり、騎士がそれぞれの神法を披露する。
「……なあ、アレ何やっているんだ」
おそるおそるアイリスに聞いた。
「……主と心が通じ合えば、騎士はより強い神法を使えるといわれているわ。どれだけ相性がいいかを披露しているのよ」
ブスっとした顔で言い放つ。
「それじゃ……」
「私とアンタも求められるわね。だけど、アンタなんか顔も見たくないわ。それ以前に魔民なんか神法が使えないから、何も起こらないでしょうね」
隼人のほうを見ることもなく言った。
「次はミス・ライムと……貴方は?」
「荒神隼人です」
自分の名前を名乗る。
「それでは、お二人にしてもらいましょう」
教師に求められてしぶしぶ教壇にたち、手をつなぐ二人。
「先生、無駄なことは止めて下さい。魔民は何も神法がつかえないんだから」
「無能な騎士ががんばったって恥をかくだけだぞー。そんなのをよんだ光の巫女さまにまで恥かくぞー」
男子生徒の茶化しに笑いに包まれる教室。
(なんで……なんで国一番の光の巫女と呼ばれたこの私が……)
悔しさのあまり、ありったけの神力をつないだ手にこめる。

(なんだ……?何かが手を伝わって入って来る。この感覚は……)
アイリスの手を通して何かがどんどんと体内に入っていく。
体内を循環し、力が満ち溢れてくる。気持ちがいい。
隼人はその力を貪欲に求め、ますます体内に取り込もうとした。
さあ、神力を分けてやったわ。何かして見なさい」
「何かって……」
「何でもいいわよ。なんか出来るでしょ」
アイリスに言われるままに意識を集中させるが、何も起こらない。
「ねえ、何でも良いからしなさいよ。あんた、騎士として呼ばれたんでしょ。せめて何か動かすとか、それくらいはしなさいよ。さもないと」
再び杖を鞭に換えて迫るアイリス。
(動かせだって? ならお前のスカートでも捲ってやるよ!!アイリスのスカートよ、動け!!)
思わず隼人がスカートをめくりあげるように思った瞬間、背中の文字が輝く。
「キャーーーーーー!!」
次の瞬間、アイリスの絶叫が教室に響き渡った。
「あれ?」
気がついたら隼人はアイリスのスカートを握り締めていた。
「おおーーー!!」
「すげえ!!」
「純白!!」
思わずテンションがあがる男子生徒たち、隼人を軽蔑した目でにらむ女子生徒たち。
「あんた、死ぬ覚悟はいい?」
隼人が最後に覚えていたのは、アイリスの怒り狂った顔だった。
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