世界が変われば価値も変わる
ごはんを奴隷寮で食べる隼人。その側ではユリスが甲斐甲斐しく面倒をみてくれた。
「別世界か……しかも強力な神法を使える貴族が平民や奴隷を押さえつけている中世社会か。これからどうすればいいんだろう」
頭を抱えてうなる隼人。
最初は美少女に召還されて喜んだのだが、何度も鞭で打ち据えられてすっかりこの世界がいやになった。これなら日本でホームレスした方がマシに思える。
「貴族様に逆らいさえしなければ大丈夫ですよ。それに、騎士様ですし」
せいいっぱい慰めるユリス。
「でも、ご主人がアレだからなぁ」
頭を抱える隼人。日本でも辛い思いをしたが、この異世界でも前途は辛いようである。
「とりあえず、ご主人様のご機嫌をとって、信頼されることですよ。何年も奴隷をつづけて信頼された『魔民』は、それなりによい待遇を与えられることもあるんですよ。結婚を許されたり、奴隷身分から開放されたり」
悲しくなるような慰め方だが、ユリスにとっては夢のようなことでもある
「ありがとう。なんとかやってみるよ。慰めてくれてありがとう」
「どういたしまして。隼人さんって何か親戚みたいで、親近感がわくんですよね。きっとライム様もいつかはうけいれてもらえますよ」
異世界どころか日本でも孤独だった隼人の心に暖かい思いが染み込む。
ユリスというやさしい少女に惹かれていった。
「それにしても、奴隷と言われながら、結構豪華な物をつかっているね」
隼人が食べ終わった皿やフォークを弄びながら言う。
なんと、すべて純金で作られていた。
「え?ただの黄砂で作られた安物の食器ですよ」
ユリスは隼人の言葉を聞いて笑った。
「安物? そんなバカな。これって本物の金じゃないのか? 」
ユリスの言葉に納得できない隼人。
「ジャポニア世界では、黄砂で作られた品物が一番価値がないんです。黄砂は月からつねに地上に降り注いでいますので、安価で大量に手に入ります。柔らかくて加工しやすいので、食器や日用品に使われていますね」
ユリスの説明を聞いて驚く隼人。
「金の価値が一番低いだって?それじゃ価値がある物って?」
「鉄ですね。土の神力を大量に使って錬鉄するので、少量しか作れません。次に貴重なのが銅で、通貨に使われています」
ユリスの話を聞いて、隼人に笑みが浮かぶ。
「なんとか日本と行き来できる方法をみつけだそう。そうしたら大金持ちだ!!」
喜ぶ隼人だったが、、そんな喜びばすぐに吹き飛ぶことになった。
「何やってんのよ。ごはんを食べる暇があったら、さっさとご主人様のところに来なさい」
いきなりアイリスが乱入してくる。
「でも、二度と私の目の前に現れるなって……」
「口答えしない!」
杖を突きつけてくる。
喜んでいるところを邪魔されて腹が立ったが、とりあえず従おうと低姿勢になる。
「はい、すいません。起きたばっかりだったので」
「さっさと来なさい。ビシッ」
顔面に鞭を入れられて赤い線が走る。
「くっ……はい」
「あんたは騎士という名の奴隷なんだからね。貴族の私にとって生かすも殺すもすべて私しだいなのよ。わかったらさっさとくる」
(絶対に逃げ出してやる)と決意を新たにする隼人だった。
アイリスの部屋にて
「んで、あんたは何ができるの?魔民だからあんまり期待してないけど、役にたったら使ってやってもいいわ」
偉そうに腕を組みながらたずねる。
ちなみに隼人は床に正座である。
(そういえば高校は普通科だったし、派遣の仕事は単純作業だったな。俺って特技なんにもなしか?)
「一応学校で勉強していたのですが……」
「あんた読み書きができるの?それならまあ使えるか。だったらこれ読んでみて」
投げつけるように一冊の本をわたす。当然この世界の文字は読めない。
(言葉は日本語に聞こえるんだがな。あの鳥居を通ったときに何かあるのかな?)
そんなことを考えてボーっとしていたら、容赦なく光の鞭を叩きつけられる。
「何よ。結局読めないじゃない。嘘なんかつくんじゃないわよ」
ビシッ。ビシッ。何度も鞭で撃たれ、体にミミズばれが浮かぶ。
(コイツ……殺してやりてぇ)
ありったけの憎悪を目にこめてにらみつけるが、アイリスは平然としている・
「何よその顔は。言っとくけど、私は公爵子女。あんたなんか魔法ですぐ殺せるんだからね」
脅しをかける。
(ここでは何の立場もないし、本当に殺されるかも)
見知らぬ異世界に飛ばされ、何の身分の保護もないということがこれだけ恐ろしい事とは思わなかった。本当にアイリスがその気になったら、殺されてしまうのである。
「・・・・・・はい。失礼しました」
土下座をして謝る。
「まあいいわ。それなら、アンタがきたときに一緒についてきた変な物、あれを持ってきなさい」
「変な物?」
「こんな奴よ」
そういってボールペンを見せる。
「これは確かに俺の物だけど、なんでアイリス様がもってるんですか?」
首をかしげる隼人をみてアイリスが笑う。
「当然でしょ。奴隷の物はすべて主人のもの。全部商人に売り飛ばしてやったわ」
高笑いをするアイリス。隼人の顔が真っ青になった。
王子から異世界の珍しい物の話を聞いた後、、すぐ学園出入りの商人に連絡を取り、神殿に保管されていた隼人の持ち物を売ったのだった。その結果5000カッパーという大金がアイリスに支払われた。
(まあ、これなら存在を認めてやってもいいわね。あくまで奴隷としてだけど)
大金を得てホクホク顔のアイリス。一般的な平民の10年分の収入にあたり、大貴族の子女とはいえ学生のアイリスにとっても大金である。
(何に使おうかしら~ドレス買って。宝石買って。最高級の香水もいいな。お父様やお母様、姉さまにもプレゼントして褒めてもらおうっと♪ )
大金を得てご満悦だったアイリスだが、当然ながら隼人は激怒する。
「お前、何勝手に人のものを売り飛ばしてんだよ。どうしてくれるんだよ!!!」
アイリスに怒鳴りあげる隼人。
気がついたらあっという間にすべての持ち物を奪われていて、さすがに堪忍袋の緒がきれたのだった。
「あんたは私の奴隷でしょ。あんたの物はすべて私のもの。よかったわね。卑しい魔民が私の役に立って。褒美に生かしておいてあげるわ」
口に手を当ててあざ笑うアイリスに激怒する。
「ふざけんな!!!」
怒りのまま殴りかかる隼人だったが、アイリスが持っている杖から光が発せられ、隼人に当たる。
早とは激痛のあまり部屋を転げまわった。
「あんたもそろそろ学習したら?神法をつかえない魔民は、貴族にかなわないってわかるでしょう?」
「ふじゃけんな こにょどろぼう・・」
口が切れて満足にしゃべれない隼人。
「まだお仕置きが足りないみたいね」」
鞭を取り出し、10回ほど撃ちつける。
「ふふ、どこに逃げても無駄よ。痛い目にあいたくなければ私に従いなさい。あんたの世界のもの、高く売れるのよね~。これからも売れそうな物を持ってきなさい」
床に10枚程度の銅貨が投げ出される
「そうすれば奴隷部屋の利用と残飯あさりを学園に掛け合って認めてもらうわ。まああんたに選択肢はないけどね」
フッフッフ・・と実にいい顔で笑うアイリス。その顔はアイドル顔負けの美少女ながら、この世でもっとも醜い顔に隼人には見えた。
「ふん。もってこいも何も、日本に帰る方法があれば、俺が知りたいくらいだ」
反抗的にそっぽを向く。
「あらそう。なら、やっぱり役立たずの奴隷ね。今日から雑用しでもしてなさい。そうね、手始めに今日中にこの部屋を全部掃除しなさい。チリ一つでも残っていたら容赦しないわよ」
「・・・はい(奴隷扱いかよ・・派遣の仕事でも人間扱いされていたぞ)」
「じゃあ、これ洗濯しておいて」
いきなり脱ぎだして下着を投げつけられる。普段なら美少女の肢体を見れて嬉しいと思うはずが、なぜか全然惹かれるものがなかった。
結局、隼人は日中ずっとこき使われ、ムチで何度も殴られた。
「今日はこの部屋の玄関で寝なさい。番犬がわりにね」
汚い毛布が投げつけられ、寝室のドアの鍵がかけられる。
しかたなく隼人は毛布にくるまって豪華な部屋の入口の床でねることにした。
外には巨大な金色に輝く月が浮かんでいる。地球の月の数倍の大きさをもち、圧迫感が感じられた。
(本当に異世界なんだ・・これからどうなるんだ。奴隷待遇だし。日本に帰っても居場所がなくてホームレスだし。唯一の救いはユリスか。しかし『魔王』って……)
いろいろ意識を集中してみるがも魔法の魔の字も使えない。
背中に浮かんだ文字以外に何も変わったところはなかった。
(なんとか大過なくすごして、この世界に受け入れてもらうか・・・)
傷の痛みに耐えながら、ゆっくりと眠りに落ちていった。
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