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異世界の価値
隼人が月を見上げて呆然としていると、奴隷寮の治療室のドアが開く。
20代前半ぐらいの凛とした金髪の美女と、隼人と同じくらいの青い髪をした美青年が入ってきた。
「お、王子様……このような場所になど」
ユリスがいきなり跪いた。
その様子をみて隼人が青年に話しかける。
「あなたは……?」
「気安く話しかけるな!魔民!」
いきなり高飛車にいってくる。
「……」
「わが主ソレイユ王子様に感謝するのだな。本来なら魔民ごときが騎士として呼ばれるのは言語道断。処刑されて当然のところを、王子がかばっていたただけたのだ」
「それくらいにしておきなさい。ビーナス」
ド青髪の美青年がおだやかに制する。
今までの貴族たちと違い、隼人にも優しげな視線を向けてきた。

「初めまして。このトーキン王国王子、ソレイユ・サン・トーキンです。あなたのお名前を教えてくださいますか?異世界の騎士よ」
隼人の問いにもおだやかに答える。
王子と聞いて身構えたが、ほかの貴族と違う雰囲気にすこし警戒心がほぐれた。
「俺は荒神隼人といいます。日本の出身で19歳・・・無職です」
「ふむ。タケダ殿。まず最初に、アイリス嬢がひどいことをしたことをわびよう。彼女には私から話をしておく。すまなかった。」
王子なのに偉ぶらず頭を下げる。
隼人は謝罪されるとは思わなかったので、幾分印象を改めた。
「ところで、そのニホンとかいう国は聞いたことがないのだが、君と一緒に来た荷物はいろいろ珍しいものがあるな」
「どうやらこの世界とは別の世界のようです。」
「なんと・・・いや、信じがたいが、いろいろ複雑なカラクリをもつ物をみると、そうなのかもしれん。これはその中の一つだが、なんだかさっぱりわからない」
携帯電話を隼人に渡す。
「これは携帯電話といって、離れた所の人と話す機械です。他にいろいろ情報をとりだすこともできます」と画面を操作する
「そういうアイテムなのかね・・・いや、驚いた。」
「神法ではなく電気の力で動く機械です。」
カメラ機能でソレイユを撮影すると、驚く王子。
「一瞬で姿を映してとりこめるのか・・しかも神力を使わないのか。いやそういえば、こういったものが「場違いな工芸品」と呼ばれて、貴族の間で高値で取引されているな。私は今まで見たことがなかったが・・・」
好奇心まるだしで携帯をいじるソレイユ。しばらくして返してくれた。

「もしかしたら、君は特別な魔民かもしれないな。異世界と行き来できないか、試してもらえないか?」
「試すって……」
「それが君の能力かもしれない」
わくわくした目で見つめる王子。
「わかりました」
意識を集中させて、元の部屋に帰りたいと思う。しかし、何も起きなかった。
「……駄目みたいです」
「まあ、当然の結果かもしれん。魔民が神法に似たものを使うという伝説はあるが、どのようなものかはっきりとは伝わっていない。なにもできないのかもしれない」
ソレイユの言葉に落ち込む隼人。
「……まあ。私に任してもらえないか?アイリス嬢には私からよく言っておく」
「ありがとうざいます」
親切にしてくれる王子に隼人は深く頭を下げた。

アイリスの部屋にて

「なによなによなによ……最悪だわ。あんなブサイクな魔民が召還されるなんて。しかも騎士を殺したら罪に問われるし……。こうなったら休学届けを出して、領地で事故に見せかけて始末しようかしら。そうすれば学園にはばれないし……」
そうアイリスが考えていると、ドアがノックされた。
「どうぞ」
「こんな時間ですけど、お邪魔しますよ」
ソレイユ王子が入ってくる。
「お、王子、いや、こんな格好で……」
まさか学園の寮にいきなり王子が訪ねてくるとは思っていなかったので、パジャマ姿で真っ赤になる。
「夜分すまない。どうしても君と話がしたかったりです」
「お、お話ですか?」
ドキッとするアイリス。もじもじと上目遣いで見上げる。
(こ、これはまさかプロポーズ。ソレイユ王子様と結婚して、王子を王位につけるようにお父様に働きかけてもらって、将来は王妃に……)
バラ色の将来を思い浮かべて真っ赤になるアイリスだったが、王子は今までに見たこともないほど饒舌に話し出す。
「いや~君の騎士はすばらしいですね。魔王かどうかはわかりませんが、まったく新しいタイプの騎士です」
興奮した表情であの黒髪の奴隷について話し出す。
「何をおっしゃっているのですか?あんなの何もできないただの奴隷ですよ」
とたんに不機嫌になる。

「いや、彼と話していて、彼が異世界から来た者であることがわかったのですよ」
「・・・・熱でもあるのですか?」
「信じられないだろうが事実です。その証拠に彼と一緒に召還されたものを見てください。どれもこれもジャポニアにはない物ばかりです」
持ってきた雑誌を見せると、アイリスの目が見開かれた。
「確かにこんな材質の本はありませんね……こんなに綺麗な絵もありますし」
グラビアページをみて考えを改めた。
(確かに珍しいわね・・学園に出入している商人に見せたら、価値があるものかわかるかしら)
異世界の珍しい物を見て、急に欲に駆られるアイリス。
「とにかく、彼を通じて見知らぬ世界が見られます。魔民だと見下さないで、騎士として認めてあげればどうでしょうか?」
「……その点については、もう少し考えさせてください」
(本当に価値があるものを持ってこれるならいい小遣い稼ぎになるわね。死ぬほどこき使ってやるわ)
そう思ってニヤリと笑うアイリスだった。


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