受け入れられない騎士
「貴方……誰なの、よりによって「魔民」が喚ばれるなんて」
震える声で聞いてくる絶世の美少女。
隼人は内心大喜びをした。
(やった!!期待通りだ!美少女巫女に召喚されるなんて、物語どおりだな。いずれこの子とフラグがたって)
自然に笑いがこみあげてくる。アイリスの美しさに舞い上がっていた。
いつまでも答えない隼人に次第に苛立つアイリス。
周囲の貴族たちも最初の驚きが過ぎると、お互いにささやきあい始めた。
「うそ……『魔民』が喚ばれるなんて」
「どこの奴隷?」
「それより、アイリス様の運命の騎士が『魔民』なんて……」
ショックを受けている生徒たち。
「噓よ……うそよ。これは何かの間違いよ。そうだ!!服を脱ぎなさい」
いきなり隼人に飛び掛って服を脱がせようとする。
「い、いきなり何すんだ!!そういうのは夜に……」
「ふざけてないで!背中を見せなさい」
「わ、わかったよ」
観念して上着を脱ぐと、アイリスは背中を食い入るような目で見つめた。
「これは何?真っ黒なマークなんて。でも何かの文字には間違いないわ!そんな、本当に私の騎士が『魔民』なんて……」
背中の文字を確認してへたり込むアイリス。
ほかの生徒たちも背中の文様をみて顔をひきつらせた。
「あなたはどこから来たの?答えなさい!!!さもないと、警備兵に引き渡すわよ!!」
気を取り直したアイリスが厳しい口調で問いただす。
それを聞いて隼人もムッときた。
「俺は荒神隼人。日本から来た」
ぶっきらぼうに話す。
「『日本?』」
案の定首をかしげる。周りの生徒や神官たちもけげんな顔をする。
「たぶん、こことは違う世界なんじゃないか?俺たちの世界には赤髪や金髪はともかく、青い髪や緑の髪の変な人間なんかいるわけないしな」
周囲の人間をみて言う隼人。別に悪気があったわけじゃないが、それを聞いて激高する生徒がいた。
「我が青髪を侮辱するか!を侮辱するのか?いくら『魔民』の戯言としても、聞き流せぬぞ。この『清流』のブルーリン・ベリル、侮辱する者は許さない」
「ラドモーズ子爵家長女、『新緑』のパッセ・ラドモーズ、決闘を申込みます。あなたみたいな『魔民』がお姉さまの騎士なんて許せません」
青髪の貴公子と緑髪の小柄な少女が生徒たちから進み出て、隼人に指を突きつける。
思いもよらない事態に隼人はとまどった。
「お、おい。なんとかしてくれよ……え? 」
アイリスに向き直って話しかけた隼人の顔が硬直する。
彼女も激しい怒りを浮かべており、隼人をにらみつけていた。
「『魔民」の分際で貴族の髪を侮辱するなんて……。ブルーリン、パッセ。決闘は受けられないわ。私がこの手で制裁を下します。『シャインウイップ』」
呪文を唱えると、手に持っていた杖が光の鞭に変わっていく。
「お、おい、まさか!」
「死になさい!」
とてつもない速さで鞭を振るアイリス。
「ウギャァァァァァ!!いてえ」
地面に転がりまわって激痛にもだえる隼人だったが、アイリスは容赦しなかった。
二撃目で顔に当たり、鼻が砕ける。
三撃目が胴体に当たり肋骨が折れる。
思わずうつぶせになって頭を手で抱えるが、容赦のない鞭撃が背中に打ち付けられる。
その様子を見ていたブルーリンとパッセも思わず顔を背けた。
あまりの激痛に気絶する隼人。気を失ったのを確認して、アイリスはようやく鞭をおろした。
「痛みで気を失いましたか。無礼な『魔民』に対して見事な捌きでした。しかしなぜ闇の眷属たる黒髪の『魔民』が騎士としてよばれたのか……。このような前例があったか後で調べておきましょう。警備兵!この品物を神殿の物置に運んでおきなさい」
ミケーネの命令で、隼人の部屋にあったテレビや家具などが運び出される。
「さてと、大切な儀式の途中です。次の人、神法陣にはいってください」
大神官ミケーネの指示により、気絶した隼人は別部屋につれていかれ、儀式の続きが行われるようななった。
「僕たちの騎士はとちゃんとした平民だったのに」
「今まで光の神に恩寵厚いアイリスだと思っていたのに、実は神から嫌われているんじゃ?」
「……そうよね。私たちも付き合いを考えるべきなのかしら」
口々にそういってアイリスから離れていく生徒たち。
アイリスはその陰口をきき、ひたすら拳を握り締めて耐えていた。
(もう、なんなのよ。素敵な騎士が来ると思っていたのに、こんな不細工な魔民が来て。召還の儀式を皆に見られてしまったから奴隷として売り飛ばすわけにもいかないし……これからずっとつれて歩くのって恥ずかしいじゃない。こんな事なら実家で召還の儀式をすればよかったわ。なんとかしないと。こんな不細工な魔民なんて嫌よ)
気絶した隼人を見下ろしながら考え込む。
隼人をみる目はゴミでも見るようにつめたいものだった。
「アイリス嬢、この度は本当に不幸なことになって。心中お察しします」
すべての生徒たちが学園に戻った後、アイリスは残り、大神殿の談話室で大神官ミケーネと相対していた。
「ええ……。それで、もう一度召還の儀式をさせていただけませんでしょうか?」
上目遣いをして頼み込む。
ミケーネは同情する視線を向けたが、すぐには返事をしなかった。
「……確かに気に入らないからといって、もう一度召還の儀式をした例はあります」
「それでは!!」
ぱっと笑顔を浮かべるアイリス。
「しかし、その儀式を実行した段階で、その貴族は雷に打たれて命を落としました。神の采配に異を唱えた罪人として」
暗い顔をするミケーネ。
あまりに凄惨な末路に思わず息を呑むアイリスだったが、なおもあきらめない
「で、ですが、『魔民』ですよ!!かって魔王を生んだ忌むべき黒髪。そんな者を騎士とした貴族はいません」
涙を流して懇願する。
「黒髪魔王スサノオの伝説ですか……」
ミケーネもため息をつく。
かって5000年前にこの世界を崩壊寸前まで追い詰めた魔王の恐怖は、トーキン王国だけではなくすべての国に今なお伝わっていた。
すべての人類が神に祝福され、神の力である『神法』を分け与えられたこの世界において、唯一神に忌まれてなんの力ももてない黒い髪の民。それは、世界に反逆した魔王を生み出した神罰であるといわれている。
神法がすべてを司るこのジャポニア世界においては、社会の最底辺=奴隷という位置である。
黒い髪の子は貴族からはめったに生まれてこなかったが、平民の間からは頻繁に生まれてくる。彼らは神法も使えない穢れた民と思われているので、貧しい平民たちの間では黒髪に生まれた子供を奴隷商人に売り渡すといったこともよくあるのだ。
「よりによって……なんでこの私に……」
とうとう泣き出してしまうアイリス。
ミケーネもどう慰めていいかわからなかった。
いつまでも泣き止まないアイリスをさすがに不憫に思う。
「まったく……どうしたものか。死んでくれればやりようがあるのですが……」
思わず独り言をもらう。
その言葉に反応してアイリスがピクリと肩を震わした。
「死ねば……ですか?」
「え、ええ。騎士が死んだ場合はまた新しく召還できます。ただし、故意に殺したりすると罪に問われます。あくまで自然死か、あるいは自殺、または犯罪を犯して処刑されたなどの場合に限りますね」
戸惑ったように説明するミケーネの言葉を聞き、アイリスは目を輝かせた。
ーキン神法学園 女子寮
気がついた隼人はその寮の中でももっとも豪華な部屋に連れてこられた。
「それで、アンタはどこから来たの」
相変わらず冷たい目で睨むアイリスの前で、隼人は床に正座させられていた。
「日本だよ」
散々鞭で殴られたからか、びくびくしながら答える。
(まいったな……。フラグを立てるどころじゃないぞ。この女、本当に怪我をするまで鞭でなぐりつけやがった)
改めてみるアイリスは金髪の美少女で、天使のような気品すら感じる。
だからこそよりいっそう恐怖を感じていた。
「はあ?ニホンってどこよ」
「た、たぶん……異世界」
その言葉を聞いてますます険しい顔をする。
「異世界ですって? ふざけんじゃないわよ」
わなわなと震えて、再び杖に神力を集中させて光の鞭をとりだす。
「死になさい!!今すぐ自殺して!お願いだから!!」
鬼気迫る顔で隼人に迫った。
!(え、なに?どこからか鞭をだしたんだ「ビシッ」こいつ打ってきがった。痛い。。何度も打つな……。頼む、助けてくれ!!)
必死に土下座して頼み込むが、狂ったように打ってくる。
「た、助けてくれーーー!」
建物中に響き渡る絶叫を上げたが、どこからも助けは来ない。
しばらく鞭で打たれて傷だらけになる隼人
「……もういいわ。出て行きなさい!!」
「出て行けって言われても、どこへ行けば……」
隼人だってここにはいたくないが、ほかに居場所はない。
「ちっ なら、奴隷寮に行きなさい。二度と私の目の前に現れないで」
黒い髪の奴隷メイドを呼んで、部屋から追い出す、
隼人は、メイドにに連れられて奴隷寮に連れて行かれた。
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