新・命を削る:心の負担/中 がん治療でうつ病に 支援体制、病院で差

毎日新聞 2012年11月25日 東京朝刊

 患者がうつ病を発症すると、本来の病気の治療が難しくなる。がん患者なら、手術や抗がん剤投与を苦痛に感じるなどして、治療から逃避したい思いに駆られるためだ。一方、食欲不振や不眠などの症状は、通常のがん治療でも出るため、うつ病に気付くのは難しい。

 埼玉県狭山市の主婦、山下きよみさん(44)は09年夏、右の乳房にしこりを見つけた。早期の乳がんだった。埼玉医大(埼玉県日高市)で翌年、手術などの治療を受けた。放射線治療で毎回5000円、抗がん剤治療が月4万円かかった。高額療養費制度を使ったが、自営業の夫の収入が頼りで「経済的に厳しく家族に心配もかけ苦しかった」。

 食べられず、眠れない。不安が募る毎日。抗がん剤治療が終わるころから、心の不調が表れ始めた。主治医から院内の精神腫瘍医を紹介された。うつ病だった。医師は、毎回約20分かけて会話から状態を読み取り、薬を調節。今春回復できた。山下さんは「うつが悪化していたら、がんの治療に影響があったかもしれない。いい先生に出会えてよかった」と振り返る。

 乳がん患者を多く治療している佐々木康綱・昭和大病院(東京都品川区)教授は「患者自身が心の変調に気付いて受診することはまれ。だが、心に重い負担を抱える患者への対応ができる病院はまだ少ない」と話す。

 がん医療の体制充実を図るがん診療連携拠点病院は埼玉医大など全国に397カ所あり、それぞれ患者の体と心の痛みを和らげる「緩和ケアチーム」を持つが、チームに常勤の精神科医がいるのは7割程度。それ以外の病院では「心のケアの要員を配置する人的余裕も、患者と向き合う時間もない」(都内の総合病院の医師)。

 病院全体で患者の変調に目配りしているのが、順天堂医院(同文京区)だ。病気の告知の際、緩和ケアセンターの看護師や医師が同席、入院患者についても「テレビを見なくなった」など「変化」の情報を病棟から集める。奥野滋子センター室長は「医療者のやりとりを深めることで、早めの対応が可能になる。メンタルサポート(精神面の支援)抜きのがん治療はありえない」と言い切る。

 山下さんのうつ病の治療にあたった大西秀樹・埼玉医大教授は「別の病院で抗がん剤の副作用とされた患者について、うつ病の治療をし、がんの治療が進んだ例は多い。主治医は早めに患者の異変に気付き、専門医につないでほしい」と話す。

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