では、現在問題になっている放射性セシウム134と同137はどうか。セシウムは沸点が671℃のため、放射性セシウムの一部も気化したり、液体となって排ガスとともに流れていくことになる。これを焼却炉の外に出さないよう、バグフィルターや電気集じん機といった集じん設備が取り付けられている。これによって排ガス中の焼却灰や飛灰を除去する。
昨年6月以降、環境省は「バグフィルターで99.9%の放射性セシウムを除去できる」と説明してきた。8月以降はバグフィルターでの除去後の排ガスの放射性物質や他の有害物質の測定結果がほとんど「不検出」だったことから、「周辺環境への影響はない」と断言した。
同11月にはこれが「99.99%」とさらに高性能との説明になった。広域処理や汚染地域での焼却処理の安全性をめぐる議論がいまも続いているわけだが、放射性セシウムを含む焼却灰が外に出ているのか、それがどの程度かという、集じん設備の有効性が焦点の一つとなっている。
すでに述べたように消音器は、バグフィルターや電気集じん機といった焼却炉の排ガス処理設備よりもさらに後、煙突の直近に取り付けられる。つまりバグフィルターなどできれいになったはずの排ガスだけがそこを通る建前だ。
消音器の修理を手がけるこの会社社長は、冒頭で示したように、そんな議論を現場の感覚で一蹴した。そしてこうも話すのである。
「消音器にくっついているのはほんの一部のはずです。排ガスが流れると消音器に静電気が発生する。それでごく一部がへばりついているだけなんです。消音器の内部に溜まっているのは排ガスとして煙突から放出しているほんの一部で、大部分は大気中に放出しているのです。放射能が外に出ているってことですよ」
この会社が今年修理した消音器は下水汚泥の焼却施設に設置されていたものだ。会社が特定されてしまう可能性があるため詳細を明かせないのだが、東日本の放射能汚染がそれなりにある地域で、下水汚泥焼却灰の放射性セシウム濃度は1キロあたり数千ベクレル単位である。決して少ないものではない。
この社長はゴミ焼却炉の煙道に消音器のメンテナンスで入ったこともあり、その経験からこう語る。
「消音器の内部や煙突手前の煙道に焼却灰が10キロは溜まっています。新設の焼却炉でも1年でこうなるんです。そこから考えると、煙突から放出している焼却灰は実際にはその何十倍にもなると思います」
知らされぬ放射能汚染
すでに述べたように、この会社が今年になって修理した消音器は原発事故後少なくとも9ヵ月は焼却炉に設置されていた。その焼却炉の焼却灰からは事故からいまに至るまでつねに1キログラムあたり数千ベクレル単位で放射性セシウムが検出されている以上、消音器にもそうした汚染灰が付着していたり、積もっていただろうことはまず間違いない。その修理では直接消音器に触れて作業することになる以上、放射性物質による外部被曝のみならず、内部被曝の可能性も高い。