2011年3月の福島第一原発事故で降り注いだ放射性物質により、日本の相当な地域が汚染された。身の回りのさまざまな場所に降り積もった放射性物質は、雨水や汚水に入り込み、下水処理場に流れ込む。一方、生活の中から出るゴミにも放射性物質は紛れ込み、それらはゴミ処理施設に持ち込まれる。
そうして下水処理の残渣(ざんさ)である下水汚泥やゴミを燃やす焼却炉、さらに高温で溶かしてしまう溶融炉は放射性物質の集積地点となった。こうした社会インフラに放射性物質が移動することは、普段の生活の場から放射性物質が排除されるため、住民にとってありがたい話だ。
ところが、前出の社長の証言からも分かるように、焼却処理や溶融処理で出た焼却灰は、バグフィルターをすり抜け、私たちの生活空間へ再び舞い戻ってくる。それは、焼却灰に含まれている放射性物質の一部が、その地域に拡散するということだ。
環境省の欺瞞
昨年5月以降、汚染地域の下水汚泥の焼却施設やゴミ焼却施設の焼却灰から放射性セシウムなどが高濃度に検出される事例が相次いだこともあって、下水・ゴミ焼却炉による放射性物質の再飛散が問題になってきた。
昨秋以降、岩手・宮城の被災地の震災がれきを全国で広域的に処理する方針を政府が強く推し進めるようになって、各地で反対の声が上がった。「放射能汚染が拡散するのではないか」「被曝が増えるのではないか」と、その安全性に疑問の声が上がっている。
とくに震災がれきの量が大幅に減って、広域処理の必然性が少なくなってきたにもかかわらず、強引に広域処理を進める行政の姿勢に北九州市や大阪市、静岡市などで反対運動が続いている。
こうした住民の疑問に対する行政側の反論が、冒頭のバグフィルターや電気集じん機といった排ガス処理設備の有効性だ。
ゴミを焼却して出る有害な焼却灰は、ほとんど炉の下に落ちる主灰だが、一部は排ガスとともに飛んでいく。排ガスといっしょに流れていく焼却灰を飛灰という。飛灰は主灰に比べても、ダイオキシンや重金属が濃縮されており、より有害性が高い。下水汚泥の場合は、「流動床式」という焼却炉を採用しており、炉の構造上、ほぼすべての焼却灰が排ガス側に流れていく。飛灰も主灰も混ざった状態といってよい。