
29日で停電3日目を迎えた登別市内。依然として、温泉街をはじめ、企業・商店では不自由な操業状況を余儀なくされている。きょう30日にも復旧する見込みの送電線の仮鉄柱建設工事と電線架線の様子を含めルポした。
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谷を覆う木々の着雪はすっかり融け、道路はほとんど乾燥。すっかり穏やかな表情を取り戻した登別温泉に足りないのは電気と観光客だけだのようだ。
午後1時半の地獄谷展望台。意外なことに外国人客を乗せた観光バスが1台止まっていた。駐車場係の伊勢浩一さん(66)によると「朝から10台くらい」という。
大停電などの災害で、急きょ宿泊先を別地域のホテルに振り替えても、スケジュールの関係で実際に観光する場所は変更しないことが少なくない。
札幌のバス運転手、前田美穂さん(38)=札幌=に聞くと「予定の場所に行かなければクレームが入ります。特に外国人は納得しません」と教えてくれた。
人通りがない極楽通りを進み、登別観光協会に到着した。ホテル関係者や協会職員数人が雑談していた。「来るのは取材陣ばかり」という。
会話は「明日にも通電開始の見通し」に及んでいた。喜んでいるのだろうと耳を澄ますと、「心配が絶えない」とのトーンだった。
通電後に行う作業は多い。風呂の清掃、エレベーターなどの点検、調理場の殺菌、食材調達―。温泉で浴槽を埋めるのにも一定程度の時間が掛かる。
ホテルゆもと登別の三浦邦章さん(42)は「週末はほぼ全ホテルが満館。キャパは6千人。業者は各ホテルの一斉発注に耐えられるだろうか」とつぶやいた。
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工場が集積する新栄町にある麺類製造販売業・望月製麺所。泉田覚会長(58)は「あす(30日)復旧するのだろうか。してもらわないと困る」と願う。
3日前、製麺ライン操業中に停電に遭った。麺の原料の小麦粉は計4千食分以上が廃棄処分になり、従業員約20人は自宅待機。望月一延社長(49)らは取引先との連絡に追われる。
29日には取引先から“お見舞い”で贈られた石油ストーブも届き、ようやく暖がとれた。白老の知人から借りた発電機も届いた。望月社長は感謝しながら「停電前の電力には遠く及ばないですよ」と漏らし、復旧を切望する。
工場は土曜を除く日〜金曜日がフル操業。30日午後に通電しても、機械のならし運転が必要で、フル操業はよくて12月2日。一部の納入先は「他社商品に切り替えたよう」(泉田会長)。停電の間接的影響も生じ、「一秒でも早い通電を」と祈る。
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国道36号に面する幌別町のコンビニエンスストア・サンクス幌別2丁目店。店内は照明がつかず、ホットドリンクに肉まんなど冬に重宝されるメニューの提供は不可能だが、停電以降は食料を求める市民の利用は多い。
弁当を温める電子レンジも使えない。29日の昼食時。店番をしていた島田寿栄店長は、弁当を購入する市民がカウンターに来るたびに「すいません。温めることができません」と頭を下げた。多くの市民は「いいですよ。弁当が食べられるだけでありがたい」と感謝する。中には「あと少し。お互い頑張りましょう」と言葉を掛ける人も。
冷たいホットドリンクコーナーを前にした島田店長は「(電力の)再開が本当に待ち遠しい」と語る。
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倒壊した鉄塔の復旧現場。作業員延べ100人が停電解消を急ぐ。総延長750メートルの送電線3本を仮鉄柱2基を経由させて無事だった送電鉄塔に接続、通電させる必要がある。作業員は寒さや送電線に絡みつく枝に悩まされながら鉄塔間の雑木林を切り倒し、送電線経路の確保に悪戦苦闘する。
作業員はチェーンソーを持って木々を切り倒した後、仮鉄柱―鉄塔間の送電線を通すが、木の枝が邪魔してうまく進めない。日没後も、ロープを使って枝を折るなどの地道な作業が続いた。
片倉町の男性(70)は「ただ我慢するしかない」と話し、厳しい寒さと電気のない不便に耐えて3日目。「待つしかないが急いでほしい」と作業を見守り、上着のファスナーを首元まで上げ、祈るようにつぶやいた。
(鞠子理人、松岡秀宜、吉本大樹)
◆―― 「早くお風呂に入りたい」
暴風雪による登別市内の大規模停電は3日が過ぎた。市内ではいまだに200人を超える市民が避難所で復旧を待っている。最大で3日停電するとされた片倉町住民の拠点となる市民会館(富士町)を29日訪れた。避難者は長引く避難所生活に疲れをにじませていた。
「みんな平等だから1個しかあげられないの」
午前7時半、朝食が足りなかった小学生男児が缶詰のパンのほか非常食の「カレー」も欲しいと交渉していた。市職員はパンと交換する必要性を説明し、食べてしまうと「カレーはあげられない」と断っていた。
児童は「まだ食べたかった」と話した。近くで様子を見ていた男性が持っていたおにぎりをプレゼントすると「ありがとう」と笑顔を見せ大ホールに走っていった。
停電の復旧状況を知らせる地図が各部屋に掲示されると、一部の住民が帰宅を始めた。千歳町に住む70代男性は「来る時は知人に送ってもらったが、(その知人は)28日夜に帰ってしまった。歩いて帰るしかない」と交通手段がないため元気なく避難所を出て行った。
食後に暖房と照明が設けられているロビーで母子がくつろいでいた。母親は「急な環境の変化で子どものストレスが心配」。膝に座る長女の頭をなで、心配そうに見つめた。
長引く避難生活にお年寄りの体調のケアも行われていた。道浦誠医師はテレビのニュースを見て札幌市から市民会館に駆け付けた。「動かない人がいる。閉鎖的な空間で運動不足になっている」と心配していた。
1階の和室で夕刊を広げ停電ニュースを読んでいた榊和子さん(82)。「座布団を枕と敷布団代わりに休んでいる。足腰が痛くて疲れがたまってきた」と言う。「もう疲れはピーク。お風呂にも入りたい。あした本当に復旧するのか」と不安な心境を明かした。
市によると、29日午後3時までに同会館には145人が避難している。北電によると、きょう30日午後に市内全域が復旧するとしている。
(粟田純樹、吉本大樹)

◆―― 登別3校、授業再開
大規模停電の影響で27日から臨時休校となっていた登別市内の小中学校13校は28日、富岸小(八田敏史校長)と青葉小(奥崎彰裕校長)、緑陽中(石垣則昭校長)が給食なしの午前授業で再開。校舎内には3日ぶりに児童生徒の歓声が戻った。
緑陽中は1時間目を学活とし、アンケート形式で体に不調を来したり、停電によって心理面で不安を抱えていないかなどを確認。2〜4時間目に授業を行った。
石垣校長は「生徒たちは笑顔で登校し、いつも通りの学校になった。生徒はもちろんのこと、教職員も安心している」と胸をなで下ろしていた。
登別市教委によると、きょう30日は引き続き3校が給食なしの午前授業、他の10校は臨時休校となる。全校で通常授業となるのは12月3日の予定。
28日まで一部の小中学校が臨時休校となっていた室蘭市は29日、全26小中学校で給食なしの午前授業を実施した。きょう30日から通常授業となる。
(有田太一郎)
【写真=照明がない中、弁当などの食料をそろえるコンビニ=登別市幌別町(上)、3日ぶりに授業が再開された緑陽中学校(下)】
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