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日本維新の会が、衆院選での公約となる「骨太2013〜2016」を発表した。A4判で4ページ。民主、自民両党と比べ、簡略ぶりが際だつ。石原代表と橋下代表代行は「政治家は方[記事全文]
「危機的状況に陥ったわが国の『教育』を立て直します」自民党が政権公約に掲げた。そして、「自虐史観偏向教育は行わせない」「教職員組合の政治的中立を確保する」と訴えている。[記事全文]
日本維新の会が、衆院選での公約となる「骨太2013〜2016」を発表した。A4判で4ページ。民主、自民両党と比べ、簡略ぶりが際だつ。
石原代表と橋下代表代行は「政治家は方向性を示せばいい。具体的な工程表はあとで官僚に作らせる」と強調する。
確かに、メッセージだけである程度わかる項目もある。「公共工事拡大路線とは異なる経済成長」「国の役割を絞り込み、究極は道州制へ」などは、そうだろう。
しかし、あまりに漠然としている項目が少なくない。代表例が社会保障だ。
高齢化で社会保障の給付は毎年3兆円ずつ膨らみ、連動して国の一般会計からの支出が1兆円前後増えていく。
民主、自民、公明の3党は消費税率を10%に引き上げ、社会保障にあてることを決めた。私たちも社説で、「国民全体で支える社会保障には、幅広い世代が負担する消費税が望ましい」と主張してきた。
これに対し、維新は「消費税の地方税化」を掲げる。消費税は地方の財源とし、国が地方に配っている地方交付税を廃止する。税率のメドは11%という。
地方の自立は大切な課題だが、では、社会保障の財源をどう確保するのか。
公約には、平均余命を勘案し、年金制度を再構築▼税金の投入は低所得層の負担軽減、最低生活保障目的に限る▼社会保険料、所得税を公平公正に徴収▼広く薄い年金目的の特別相続税を創設、などが並ぶ。
年金を支給し始める年齢を引き上げたりして給付を減らし、所得や資産のある人を中心に保険料や税金を上げて財源にする考えのようだ。
橋下氏が言うとおり、消費税率を10%に上げても財源不足は解消しない。相続税の強化にも賛同する。給付の削減も避けては通れない。
だが社会保障で肝心なのは、どこでどれぐらい給付を削り、負担を増やすのかという具体策であり、それで帳尻が合うかどうかである。
想定される政策を箇条書きにしただけで、大まかな数字も示さず、具体的な設計は政権を取ってからというのでは、白紙委任を求めているのに等しい。
社会保障と税への有権者の関心は高い。維新の公約は今の税体系を根本からひっくり返す提案でもある。
このままでは有権者は是非を判断できない。政権を狙うからには、選挙戦を通じて肉付けし、国民に示すことが責務だ。
「危機的状況に陥ったわが国の『教育』を立て直します」
自民党が政権公約に掲げた。そして、「自虐史観偏向教育は行わせない」「教職員組合の政治的中立を確保する」と訴えている。
だれかを敵に仕立てるより、訴えるべき「危機的な状況」がほかにあるのではないか。
切実で解決の難しい問題を、現場は抱えている。
3年前の国際学力調査で、日本の子どもたちの成績は改善した。しかし、成績の高い層がふえた一方で、低い層も多いことが問題点として指摘された。
全国学力調査では、家庭の年収が高い子どもほど成績が良いという傾向がみられる。
問題は、学力格差が大きく、しかも家庭の経済力の格差と結びついていることだ。
先進国の中で日本は教育への公的な支出の割合が低く、家計の負担が重い。そのことが格差を生む要因になっている。
子どもの学力がばらつき、家庭環境も多様になった。いじめにも目を光らせなくてはならない。一人ひとりに目の届くきめ細かい教え方が必要になる。
日本の先生は、他の先進国に比べて一人でたくさんの子をみる。他の専門スタッフが少ないため事務作業や親への対応に追われ、勉強を教えることに専念しにくい。
先生の定数や仕事のしかたを見直さなくてはならない。
民主党政権は、格差を是正しようと、高校の授業料を無償化し、大学生らの奨学金の充実に取り組んだ。少人数学級化も、実現したのはまだ小1、小2までだが、進めた。
自民党も教育投資の充実を訴えている。教員の定数の見直しや、格差の縮小に効く就学援助などの政策を掲げている。
教育に金と人を投資すべきだという方向性は一致している。総選挙で追求すべきは、古めかしい右左の違いより、こちらではないか。
高齢者の社会保障費が膨らむ一方、教育は受益者たる子どもが減っている。それに、投資しても効果はすぐには見えない。
だから、教育への投資は理解を得にくい。けれども、放っておけば、さきざき私たちみんなにツケが回る。
いま、企業は国際競争力の低下に悩んでいる。他方、この春卒業した大学生の2割は進路が決まらないか非正規で働いている。少子化によって、社会保障の担い手も細っていく。
人を育てることに投資しなければ、社会の活力が失われる。それこそが教育の危機だ。