WEB特集
バイオ燃料に新たな可能性
11月29日 14時45分
植物を原料として作る燃料で、再生可能なエネルギーの「バイオエタノール」。
サトウキビやトウモロコシなどから作るのが一般的ですが、意外な原料からバイオエタノールを作ることに、岐阜県のベンチャー企業が成功しました。この技術、東日本大震災の被災地からも注目を集めています。
岐阜放送局の島田武ディレクターが取材しました。
原料は“雑草”
環境にやさしい燃料として各地で普及への取り組みが始まっているバイオエタノール。
そのバイオエタノールを作る新しい技術を開発した岐阜市のベンチャー企業には、全国から見学に訪れる人たちが後を絶ちません。
その理由は、原料にあります。
一般的なサトウキビやトウモロコシなどではなく、近所で刈り取ってきた「雑草」なのです。
しかも、新技術では、使える原料が雑草だけではありません。ゴルフ場で刈られた芝や、オフィスから出る紙くずなど。植物の成分、セルロースが含まれていればエタノールを作ることができます。
注目される「小型化」
ベンチャー企業を訪れた人たちを驚かせていたのが、製造装置の大きさ。コンパクトなことでした。
広さ30平方メートルほどの工場に置かれたその装置、原料を処理する能力は1日に100キログラムほどです。
雑草などからエタノールを作る研究には、国も取り組んでいますが、そのプラントの多くは巨大です。敷地面積2千平方メートル以上、原料の処理能力が1日に60トンに上る巨大プラントもあります。
なぜ、従来の技術ではプラントが巨大化したのか。その背景には、雑草などからエタノールを作る効率の悪さがあります。
例えば、すでに実用化されているサトウキビの場合は、含まれる糖を発酵させてエタノールを作ります。一方、雑草などは糖を含んでいないため、セルロース成分を分解していったん糖に変えてから発酵させる必要があります。
このため、できあがるエタノールの量は少なく、巨大なプラントで大量生産せざるをえません。
秘密は特殊な酵素
では、なぜ、このベンチャー企業は小規模でエタノール生産が可能なのでしょうか。
秘密は、セルロースを分解する特殊な酵素です。分解効率が高く従来の数倍ものエタノールを作ることが可能です。
この酵素を見つけたのは地元・岐阜大学の高見澤一裕教授。岐阜特産の枝豆の皮を分解してリサイクルするために、20年に渡って有効な酵素を探し求めるなかで見つけ出しました。
その成果にベンチャー企業が目を付け、産学協同でエタノール事業に乗り出したのです。
この酵素を使えば、設備が小規模で済み、設備費だけでなく、人件費や維持費も抑えられます。また、原料は、近場で調達すればよいので輸送費なども圧縮できます。
コストを大幅に抑えた結果、国のプラントは1リットル当たりの生産に平均150円ほどのコストがかかるのに対し、この会社のプラントでは50円ほどで生産しているといいます。エタノールの採算ラインは1リットル当たり100円と言われていて、半分ほどに抑えられるのです。
この会社では、今後、全国各地に、地域の雑草などを利用する小さなプラントを建設していきたいと考えています。
目指すは、“地産地消のエネルギー”です。
被災地も注目
取材を進めると、この技術を応用した新たな取り組みが、原発事故で被害を受けた福島県飯舘村で始まろうとしていました。放射性物質に汚染された森林の除染に役立てようというのです。
ことし6月から9月まで、その効果を確かめる実験が環境省の事業として行われました。
実験では、汚染された草木を刈り取り、細かくします。それを酵素で分解し発酵させます。蒸留してエタノールをとりだすと、残りの茶色い液体に放射性物質が集まります。茶色い液体に薬品を入れて、放射性物質を固め、中間貯蔵施設に持ち込みます。
一方、バイオエタノールからは、基準値を超える放射性物質は検出されませんでした。
生産コストも採算が合うといいます。
森林組合の期待
飯舘村の森林組合は、プラントができれば、除染に役立つだけでなく、およそ800人いる組合員の新たな働き口になると期待しています。村では、来年にも試験プラントを立ち上げ、村に合った利用方法を探っていくことを検討しています。
除染とエタノール生産という一石二鳥を狙ったこの試み。
飯舘村の森林で生まれたバイオエタノールを地元で消費するための販売方法や需要の有無など課題もありますが、今はほとんど手つかずの森林の除染を進めるきっかけになるかも知れません。