原発事故による放射能のリスクから子どもたちを守るため、福島県内では、屋内に遊び場を作ったり、外遊びの時間を制限したりする幼稚園や保育所がある。県内外に転居したりして、学校や生活の環境が激変した子どももいる。
放射能の影響への政府や行政の不十分な対応によって、子どもたちをはじめ、女性や高齢者、障害者など社会的弱者といわれる人々、被災した人々の人権が侵害されているとし、先月、国内外に拠点を置く複数のNGOや市民グループが、問題点を具体的に指摘するレポートを作成、国連の人権高等弁務官事務所(OHCHR)に提出した。いずれも、福島の被災者本人が議論に加わったり、被災者の聞き取り調査や実地視察調査をしたりしてまとめたものだ。国連に対して震災後の福島県民の人権の状況と、「福島の声」を直接伝える内容になった。
「20ミリシーベルト問題」を指摘
今回、レポートを提出したのは、国際NGOセーブ・ザ・チルドレン・ジャパン と子どもたちを放射能から守る福島ネットワーク(略称:子ども福島)などを中心に、95団体が賛同・連携したグループ。そして国際人権NGOヒューマンライツ・ナウ の両グループだ。
セーブ・ザ・チルドレンらのレポートでは、「20ミリシーベルト問題」を指摘した。国際放射線防護委員会(ICRP)のコメントに従って昨年4月、文科省が学校活動の暫定基準を年間20ミリシーベルトに引き上げた問題を取り上げ、「子どもと大人の放射能に対する感受性の違いという身体的差異を考慮しておらず、その意味で、国連子どもの権利条約が定める最善の利益(第3条)および子どもの生命・生存・発達の権利(第6条)を尊重していない」と厳しく批判した。
2011年暮れにセーブ・ザ・チルドレンが実施したインタビューで、親や教師、地域の人たちが放射能問題を巡って混乱している現状から「(自分自身が)疲れすぎて、放射能とそのリスクについて考えることができない」と相当数の子どもが話していたことを挙げ、「放射能リスクに関する異なった意見と中央・地方政府の曖昧な政策よって、困惑し混乱しているように思われた」と説明。不安を話せば対立や差別が生まれることへの恐れから、不安を表すことが難しい現状を述べている。
さらに、福島の子どもに影響を与える課題として以下の3つを挙げた。
(1)子どもの放射能被曝に関する日本の国家基準は、福島の子どもたちの最善の利益、子どもの生命・生存・発達の権利および健康への権利に基づいていない
(2)日本政府は、福島の子どもたちの生命・生存・発達の権利および健康への権利を保護するために必要な立法措置、行政措置、その他の措置を講じていない
(3)日本政府は、原子力発電所事故に関する防災情報を提供するうえで、子どもの最善の利益と健康に関する適切な情報を利用することができる権利を十分に考慮していない
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