橘玲の日々刻々
2012年11月27日 橘玲

作家・橘玲×増原義剛対談
改正貸金業法は失敗だった!
ポピュリズムに毒された政治の敗北

クレジット情報一元化の
整備は必須

 金利は借りる人のリスクで決まりますから、貸手は、その人のリスクが分からないと適正な金利がつけられません。日本の場合、クレジット情報の利用者が非常に限定されていて、これも一種の市場の歪みといえます。クレジット情報が一元化され、必要な事業者が広く利用ができるようになれば、市場は正常に機能すると思いますが、そういう問題意識はなかったのでしょうか。

増原 当然われわれにもありました。当時、登録されていた貸金業者は1万5000社ほどありましたが、その中で全情連といわれる情報センターに登録していた貸金業者は、わずか約2300社。一方で、クレジットカード会社は、キャッシングにおいては全情連に、クレジットにおいては業界独自の情報センターに登録していて、非常に非効率的な状況でした。法改正でそれらを一元化して業者の登録を義務付けし、現在進捗しているところだと思います。

 そもそも、今回のクレジット情報統合では除外されている住宅ローンも含め、ホワイトもブラックも合わせてすべてを一元的にカバーした総括的なクレジット情報を構築し、それを基に与信を行うことができれば、利息制限法なんていらないはずです。

 本の中では借地借家法のことにも触れられていましたが、アメリカの場合は、家主は、家賃支払い情報以外にクレジットの延滞情報にもアクセスできるため、ブラック情報のある人には、契約を断るなり、高い敷金を取るなり、何らかのリスクヘッジができます。しかし、日本の場合には借主のプライバシーが過剰に保護されているため、家主のリスクが極めて高くなっている。そのため市場に優良な賃貸物件が出回らなかったり、賃料が高止まりするなど、逆に弱者が安い家賃で優良物件を借りることを困難にしている。そういう問題も全部つながっているように思います。

臨時の資金需要に応えていた
事業者金融

 法改正の副作用として、事業者の資金需要に応えられなくなったと指摘されていますが、私は事業者向け融資にも大きな制度の歪みがあると考えています。私が個人の会社を登記している自治体では、信用保証協会の保証を条件に、1000万円まで実質年利0・37%で融資が受けられる制度があります。このように行政、自治体の補助政策を利用すると、かなりの金額まで超低金利でのファイナンスが可能になりますが、その一方で、事業者金融から29%の金利で借りる事業主もいる。

 つまり事業者の極端な二極化が進んでいて、金利補助を受けてほぼゼロ金利で資金調達できる事業者たちは業績が良好と評価され、信用金庫などからもっと借りてほしいと営業されます。ところが信用保証協会が使えなくなったようなハイリスクグループの事業者を、まともな金融機関はどこも相手にしません。

増原 おっしゃる通りです。

 つまりこれは、国家が過剰に中小企業を保護することで金利構造を歪めてしまい、経営の厳しい事業者を逆に市場から排除していく構造を生むことになるのではないですか。

増原 そうだと思います。ですから、銀行の中小企業向け融資に対する信用保証協会の〝100%保証”、これもちょっと待ちなさいということです。リーマン・ショックの時期くらいまで、一時、海外の好況を受けて日本も景気的に立ち直った時期がありました。その当時われわれは「信用保証協会が100%の保証を行うのはおかしい。銀行はノンリスクではないか。それでは銀行がモラルハザードを起こすことになる」と散々議論し、それぞれ9割、8割、7割といったランク別の保証を決め、銀行にもリスクを課しました。ところが今また100%に戻ったわけで、これでは再びモラルハザードを引き起こすことになるといえます。

 さらに、ヒアリングをしてみると、事業者金融には、「2週間後に入金があるから、それまでの2週間、1000万円貸してほしい」と、つなぎ資金として、今融資を受けたいという需要が結構ある。結局、信用保証協会の保証をいっぱいに使っているから追加融資が受けられないとか、取引銀行に持ち込んでも、手続きと審査に時間がかかり過ぎ、間に合わない。そういう事業者の緊急的な資金需要に応えていたのが事業者金融だったのです。

 そうした零細事業主の資金繰り事情をよく知っている先輩議員からは、「増原君、世の中は必ずしも杓子定規にいくものではない。だからいざという時の需要に応えるノンバンクもないと困るんだよ」とよく説教を受けましたよ。