九州新幹線:開業2年目で早くも正念場 利用客数が減少
毎日新聞 2012年11月01日 08時51分(最終更新 11月01日 10時31分)
全線開業2年目の九州新幹線が正念場を迎えている。前年を上回って推移していた利用客数は夏場を境に減少に転じた。開業人気の反動減に加え、東京スカイツリーに観光客が奪われているためだ。新幹線の乗客減少はグループ経営にも直結するだけに、JR九州は新たな割引切符を導入するなど、歯止めに懸命になっている。
同社が31日に公表した九州新幹線の利用実績によると、10月(29日までの速報値)の博多−熊本間の利用者数は対前年比95.3%(1日平均2万5700人)、熊本−鹿児島中央間は91.0%(1万4200人)にとどまった。唐池恒二社長は「前年が良すぎた。健闘している」と言うが、月間ベースの前年割れは、それぞれ4カ月連続、6カ月連続となった。
利用実績は同社の運輸取り扱い収入(JR他社管内の切符販売分も含む)に直結。12年4月からこれまでの総額は、対前年比3億円減の1203億円だった。九州北部豪雨災害で豊肥線が運休しているが、「新幹線の影響の方が大きい」(JR幹部)という。
背景には今年5月下旬に開業し、周辺施設を含めた9月までの来場者が2000万人を超えた東京スカイツリーに「旅行客の関心が移っている」(JR西日本幹部)ことがある。特に山陽新幹線と直通の「みずほ」や「さくら」で行き来していた関西・中国地方に住む人の動きが東京にシフト。同線の博多−新山口間の乗客数も、6月を境に対前年比で減少に転じた。
東日本震災直後に東日本への旅行が敬遠されたことによる「震災特需」も沈静化した。新幹線収益の大半が設備リース料に消えるJR九州は、九州外からの新幹線客に観光列車や商業施設も利用してもらい、利益を押し上げている。新幹線利用者の減少は、上場を目指す経営の根幹を揺さぶりかねない。
同社は10月26日から、福岡市内−鹿児島中央駅間が往復1万5000円となる「さくら早特往復きっぷ」の取り扱いを開始。7日前までの購入が条件だが、「正規運賃の5000円引き」が売り文句だ。在来線の定期券に数百円プラスすれば、同区間の新幹線に乗れる「専用回数券」も、9月から区間を追加した。唐池社長は「修学旅行生の利用も増えており、来年度以降も、今の数字を下回ることはない」と強気を崩していない。【寺田剛】