シンポジウム:動物園に「国立」構想 「野生種の保護拠点必要」−−東京大・本郷キャンパス
毎日新聞 2012年10月04日 東京夕刊
「国立動物園」の設立を考えるシンポジウム「動物園は野生動物を守れるか」がこのほど、東京大の本郷キャンパス(東京都文京区)で開かれた。日本に初めて動物園が設立されて、今年で130年。「国立」構想にとどまらず、未来の動物園の姿はどうあるべきか、議論が交わされた。
「国立動物園を考える会」(代表=小菅正夫・北海道大客員教授)の主催。全国の動物園数は1999年の98園をピークに、2012年は86園と、減少傾向にあるという(日本動物園水族館協会加盟園)。動物の生態を見せる「行動展示」を打ち出した旭山動物園(北海道旭川市)の前園長である小菅さんは、「(入場者数のみで評価される)現状のままでは、今後動物園は存在しうるか難しい」と指摘。「大学など研究機関との連携も希薄だった」として、国立動物園を設立し、全国の園の総合的学術拠点とするべきだと話した。
一方、東京大の木下直之教授(文化資源学)は、博物館の成り立ちを研究してきた立場から講演。動物園は博物館法で規定されているものの、日本の古美術が博物館の中心を占めるようになるにつれ、“お荷物扱い”されるようになったと紹介した。加えて「博物館法の条文には『動物園』という言葉は存在しない」と話し、法的にも動物園の目指すべき姿が曖昧であることを指摘した。
啓発装置、珍獣の見せ物としての場、子供向けの娯楽施設−−。1882年の開園以来、動物園はその姿をさまざまに変えてきた。シンポジウムでは、ヤンバルクイナや、オオサンショウウオなど地域の動物の保護・繁殖に取り組むNPOや地方の園の活動について、「これこそ動物園の仕事」(岩野俊郎・到津の森公園園長)との声が上がった。全国で必ず見られるゾウでさえ「我々のコントロール下で繁殖できない。それは彼らの本当の暮らしを知らないからだ」という小菅さんの発言も重い。