医療・年金制度の最大の問題点は若い人ほど保険料や税負担が重く、将来の給付水準は高齢者に比べて恵まれていない世代間格差だ。各党は衆院選でこの格差をどう緩和するかを競うべきだ。それが医療・年金制度への国民の信頼を取り戻す近道と考えるからだ。
しかし国政選挙の投票率は高齢層が若者層より高いこともあり、与野党ともに高齢者の負担引き上げや給付抑制を真正面から打ち出そうとしていない。
高齢者医療に税投入を
改革を先延ばしすれば制度の持続性は損なわれ、近い将来さらに大きな負担を国民各層に強いることになる。欧州の債務危機をみるまでもなく、それは明らかだ。
医療改革の課題は高齢者医療の財源確保だ。年13兆円(2012年度)の75歳以上の給付費のうち、約半分は公費で支えているが、その大半は国債を発行して負担を先送りしている。4割は企業の健康保険組合などの保険料、1割は高齢者の保険料で賄っている。
大企業の社員らが加入する全国約1400の健保組合をみると、保険料収入の46%は高齢者の医療費に召し上げられている。民主党政権は、財政難の中小企業が主体の協会けんぽを支援するために企業健保に新たな負担を求める制度を導入した。これによって企業健保の財政は急速に悪化し、約9割が赤字に陥った。
このままでは健保組合の存続が危ぶまれる。各党は現役世代の負担を和らげる策をもっと積極的に示してほしい。
民主党は75歳以上を対象とする「後期高齢者医療制度」(後期制度)の廃止を旗印にするが、財源問題を解決することにもっと力を注ぐべきだ。たとえば社会保障・税一体改革による消費税率の引き上げで増える税収を、高齢者医療にどう配分するのか、根本から考え直すべきではないか。
自民党は「消費税収を後期制度の公費負担拡大に充てる」と政権公約に明記した。病気やケガをする確率が若い人より高い後期高齢者の医療費は、保険料より税財源で賄う方が理にかなっていることを考えると、この方向は正しい。
民主、自民両党への注文は特例で1割に据え置いている70~74歳の窓口負担を本則の2割にすることだ。08年の制度導入時に1割への据え置きを決めたのは、当時の自公政権であり、民主党政権もそれを漫然と踏襲してきた。
野田政権は13年4月から5年かけて2割にする方針だが、逼迫する保険財政を考えると悠長なことをしている余裕はない。来年4月に全対象者を2割にすべきだ。
年金改革も世代間格差の緩和が重要な論点になる。
民主党が一貫して政権公約にしてきた最低保障年金と所得比例年金との組み合わせ案は、いまだに財源調達や所得把握の具体策に不明確な点がある。いつまでも曖昧な設計で選挙戦に臨むのは許されない。再三にわたり私たちが指摘してきた疑問点を拭ってほしい。
自公両党は04年の年金改革のうたい文句「百年安心プラン」を謙虚に反省すべきだ。04年の改革は実質的な給付水準を毎年、小刻みに切り下げる仕組みが売り物だが、実際は一度も発動していない。この制度欠陥をただすには高齢者に痛みを求める努力から逃げるわけにはいくまい。
国民会議で議論深めよ
世代間格差を緩和するという点で、日本維新の会が維新八策に年金の財政構造を積立方式に移行させる案を示したのは目を引く。今の賦課方式は、現役世代が払う保険料の引退世代への移転が基本だが、積立方式は現役時代に自ら「貯蓄」しておくやり方だ。少子化や長寿化に強い。
ただし積立方式に移行させる過程では、賦課方式の年金が抱えている数百兆円単位の積立不足を埋める必要がある。積立方式が理想だと考える識者は多いが、この穴埋め負担が障害になり、実現性に乏しいと指摘されてきた。説得力ある移行策を示してほしい。
政府が設ける社会保障制度改革国民会議の委員は、民主党と自民、公明両党の推薦をふまえて人選した。選挙戦の中で立ち上げ、議論を委ねるからには、与野党ともに互いの改革案の欠点をあげつらうのは自重すべきだ。
持続性が高く、若者の信頼を呼び戻す方向性を共有し、改革に取り組んでもらいたい。
保険料、年金、高齢者、12衆院選 政策を問う
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