プレシャス!宝塚
2012年10月25日
昨年はバウ公演主演も経験した6年目、雪組の男役ホープ彩風咲奈が、新人公演「JIN−仁−」(今月30日=兵庫・宝塚大劇場)で、4度目の主演に決まった。新人公演の主役は1年9カ月ぶり。今回は、トップスター音月桂の退団公演で、前トップ水夏希最後の公演も新人公演で主演した。「皆さんが残していかれるものを、私はしっかり覚えて吸収して、次代に伝えていかないと」。本公演(11月12日まで=同)では、刺客役。日本物の殺陣に初挑戦している。東京宝塚劇場は12月6日。
先輩の“最後の思い”を伝承する運命にあるのか。「私はなぜか、先輩の節目の新人公演に携わらせていただくことが多くて…」。一昨年6月、雪組の前トップ水夏希の退団公演「ロジェ」、そして今回、音月のサヨナラ公演「JIN−仁−」の新人公演に主演する。昨年9月の「仮面の男」新人公演では同公演で退団した彩那音の役を、今年3月の「ドン・カルロス」では宙組へ組替えになった緒月遠麻が本役だった。
「ここまで続いたら、私は皆さんが残していかれるものをしっかり覚えて、吸収して、後輩に伝えていこうという気持ちです」
先人の技と心を伝承する役まわりのように感じ、使命感にも似た思いを抱く。
「ケイさん(音月)は、もともとエネルギッシュな方なんですけれど、倍増されています。いろんな事を伝えようとして下さっていて、それらを、ひとつ残らずキャッチしたい」
けいこ場では、音月の芝居への取り組み方、役作りはもちろん、演出家との会話まで見てきた。「ケイさんはとても柔軟な意識を持った方。(演出の)先生の言葉ひとつですごくお芝居が変わることもある」。
というのも、日本物は久しぶり。「あまり…でしたので。所作や美しい着物の着方などを勉強し直しているところです。ケイさんの日本物の格好良さを目の当たりにしています」。和物を得意とする音月は、最高の教科書だ。今作は、大沢たかお主演でドラマ化もされた人気漫画が原作。江戸の街にタイムスリップした脳外科医が主人公。本公演では、坂本龍馬をねらう刺客を演じている。
「洋剣での殺陣は経験あるのですが、日本物は初めて。(先輩から)手の格好いい位置など、ひとつひとつ、教えていただきました。腰が逃げてしまわないように。姿勢も、走り方も雪駄(せった)は難しい」
少しでも和物に慣れようと、けいこ着は和装にした。前トップ水の退団公演のときは4年目。「自分のことしか考えられなかった」と振り返る。彩風は昨年1月「ロミオとジュリエット」新人公演まで、3作連続の主演。直近2作は、脇を固める役柄に。そして、前作の「ドン−」で、異動前の緒月の役を演じたことが、大きな転機になった。
「緒月さんから『舞台は自分1人が良ければいいんじゃない。みんなが成功して、全員が良くてこそ成功なんだよ』って、おっしゃっていただいたんです」
個々の役柄が生きてこそ、主役が生きる−。緒月の言葉を胸に、演じてみると、視野も広がった。
「こうと思ったら、突っ走っていくタイプだったんですけど、いろんな方の意見を聞き、自分でじっくり考えるようになった。上級生の方を見て、どこが違うのか観察するようにも」
余裕が視野の広がりを生み、あまり縁がなかった時代劇も見るようになった。「坂本龍馬暗殺の場面がある刺客ものとか。(NHK大河ドラマの)新選組や、映画『十三人の刺客』も見ました」。視野が広がり、興味の対象も増えた。
「最近ではK−POPのDVDを借りて、研究しています。パフォーマンス、クオリティーの高さも、こういう形の格好良さもあると、知りました」
6年目。少年っぽさを残していた顔つきは精悍(せいかん)に、体格もシャープになった。「自然とやせました。サイズも変わりました」。大人へと、心身ともに変わる自分を感じる。
「意識もそう。今まで『楽しかった』で終わっていたところ、毎回、振り返るようになりました。セリフ、立ち居振る舞い、歩き方で人物像を見せたいとも」
主人公の仁は、タイムスリップした江戸時代で6年を過ごす。現代に戻ると、それは6日間だった。その月日が、自身と重なる。
「6年、6日で仁も成長していると思う。私も6年目。今の成長をしっかり見せたい。今回は、勢いでやってきた私とは違う。1本芯の通った『強い彩風咲奈』を見ていただきたい」
主人公同様、先人から多くを学び、次代のスターは強さ、たくましさを身につけていく。【村上久美子】
◆グランステージ「JIN−仁−」 シリーズ累計800万部を突破している村上もとか氏の漫画「JIN−仁−」が原作。09年、11年には大沢たかお主演でドラマ化されている。大学病院の脳外科医が、幕末の江戸時代にタイムスリップし、人々を救おうとする。宝塚版では、主人公・南方仁とヒロイン橘咲の純愛、坂本龍馬との友情を中心に描くヒューマン劇。
☆彩風咲奈(あやかぜ・さきな)2月13日、愛媛県生まれ。07年3月「シークレット・ハンター」で初舞台。雪組に配属。08年、阪急・阪神電鉄初詣ポスターのモデルに抜てき。10年「ソルフェリーノの夜明け」で新人公演初主演。第9期スカイフェアリーズを務める。昨年「灼熱の彼方〜オデュセウス編」でバウ初主演。173センチ。愛称「さき」。
「プレシャス!宝塚」は、日刊スポーツ(大阪発行版)に連載中です。
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