2011年07月16日(土)放送
今月24日の正午にアナログ放送からデジタル放送へと移行する日本のテレビ放送。この歴史的な変化を体験するのは視聴者だけではない。テレビ局にとっても大きな転換期となるのだ。そんな中、テレビの新時代を新たな挑戦とともに迎えるテレビ局がある。それは、三重県で280万世帯を対象に県域放送を行う独立UHF局「三重テレビ放送」。いったいどのような"挑戦"をおこなっているのか、現地で取材した。独立UHF局とは広域ではなく、県域で放送を行うテレビ局で、特定のテレビ局のネットワークには属していない。それゆえに今回の地デジ化にあたっても、設備投資資金などを基本的に自局で都合しなければならなかったという。三重テレビ放送・常務取締役 別所氏は「三重テレビの場合(地デジ化の設備投資に)45億円くらい必要としたので相当な苦労だった」「今後、この投資のメリットをどうやって享受するかが大事になってくるのです」と語った。聞くと三重テレビの年間利益は約1億円。つまり今回の地デジ化に向けて、45年分の利益にあたるほどの金額を投資していたのだ。
これほど巨額の投資を行った"地デジ"の機能をフル活用するために、三重テレビは「マルチチャンネル放送」という挑戦的な取組みを実施したのだ。
「マルチチャンネル放送」とは高画質映像やデータ放送、EPG(電子番組表)などと並ぶ地デジの特徴的な機能。通常1チャンネル分として割り当てられている地デジの電波を分割し、2つ目のチャンネルとして使用するのだ。つまり、1つの放送局が同時に2つのチャンネルを放送する仕組みといえる。この機能を活用することで、例えば野球中継の試合が延長になった場合、1チャンネル目ではもともと予定していた番組をそのまま放送し、2チャンネル目で野球中継を延長放送するといったことも技術的には可能となる。一見、良いことばかりに思える「マルチチャンネル放送」の実施。しかし、三重テレビ社内では"戸惑いの声"も…。「チャンネルが2つになれば、仕事量が倍になるのではないかという不安はある(アナウンサー・平田氏)」、「2チャンネル目の番組が、今後どのように編成されるのかと思う(業務局・世古氏)」。さらに街の人々からは"疑問の声"が…。「通販が多いので、三重テレビには見ようと思う番組がないです(10代・高校生)」「いつも通販をやっている。三重テレビは番組にお金をかける気がない(60代・主婦)」など、三重テレビで放送される番組に対して批判的な声が多いのだ。
確かに三重テレビの番組表を見てみると朝から夕方までズラリと並ぶのはいわゆる"通販番組"。メインである1チャンネル目ですら番組が充実しているとは言いづらい状態の中、2チャンネル目の放送を行うことに対し、三重テレビの編成担当・波多氏は「独立局としての経営を支えるためにテレショップが多いのは否めない事実」「しかし、今後は2つのチャンネルを持つことで視聴者が見たい番組をい見たい時間に放送する"あるべき姿"になる可能性が増すと思う」と語った。また、現在は天気情報や株式マーケット中継などを中心に三重テレビの第2チャンネルだが、10月以降は、災害時に役立つ知識や街の避難場所などを繰り返し放送する"防災情報"チャンネルとしての側面を持たせるのだという。第2チャンネルの防災への活用について三重テレビ・常務取締役の別所氏は「繰り返し、長時間、啓発をしていく番組ができるのが、時間の制約を取り払った第2チャンネルの特徴。興味があるところはじっくり見てもらい、それ以外は見飛ばしてもらうという放送で良いと思っている」とその目的を語った。
スタジオコメンテーターの法政大学・稲増龍夫教授は「マルチチャンネル放送を始めることでテレビ局のチャンスは2倍に広がる。しかし"何をどんな目的で放送するのか"という知恵が求められることにもなる」と語った。