平成23年5月3日

柴山昌彦

2012年05月03日 14:37

今日は憲法記念日です。戦後の日本が自由を謳歌し、世界にまれに見る豊かな国となる礎ができたことは現憲法の功績であり、きちんと評価しなければいけません。

 しかしこの憲法は、制定当時の理想主義的な色彩が強かったのみならず、占領軍の対日政策という思惑をかなり含んだものでした。自由民主党は、この憲法が日本の国情に必ずしも合わない側面があることや、押し付けられたものであることなどを理由に、憲法改正を党是としてきました。

 ここで大議論を展開するつもりはありませんが、結論から言って、私はたとえ押し付けられた側面があるとはいえ現憲法が無効であるという立場は取りません。形式上明治憲法の改正手続にのっとり、以後主権者とされた国民の意識に支えられ、定着し、上記のとおり大きな功績を有してきた憲法です。

 しかしあまりに改正が困難であるがために、冷戦終結と地域紛争の激化・グローバル経済の進展など激動する世界情勢や、急速な少子高齢化・行き過ぎた個人主義の弊害といった国内情勢に機敏に対応できないものとなってしまっています。各国の憲法が何度も改正されているにもかかわらず、日本は明文の改正ができないために、無理な解釈改憲を重ね、憲法が本来持つべき「権力の制限機能」がかえって失われる事態になっているのです。

 私は司法試験受験生・あるいは法曹として、また、国会議員となって衆議院憲法特別委員会などのメンバーを務める中で、憲法と長年向き合ってきました。そしてこの憲法は早急に改正されなければいけないと確信し、いくつも提言を行ってきました。(ホームページの議事録で一部ご覧いただけます。)平成17年の際にも、今回も、自民党改正憲法草案の条文作成に関わらせていただきました。

 折しも今年はサンフランシスコ講和条約が発効し、日本が主権を回復してから60周年の節目にあたります。そしてその記念日である4月28日に実施された主権回復記念日国民集会に私は出席しました。前日に最終決定した自民党改正憲法草案もこの場で正式に発表されました。

 主権回復記念日をお祝いするとともに、一日も早く、主権者たる国民の手で、憲法改正が行われることを期待しています。

[憲法改正の要点]

 今回発表された自民党改正憲法草案は、平成17年案の時から含め、膨大な検討の結晶となっており、それを逐条説明すると分厚い本ができてしまいます。ここではほんのさわりだけ紹介します。

 まず問題となったのは緊急事態条項です。
 平成17年時には国民保護法など事態対処法の活用・拡充により、憲法改正までは必要ないという結論だったのですが、今回の震災や海外の事例などに鑑み、国民の権利が必要最小限の制限を受けるのみならず、法律にのっとり公的機関が出す指示に国民が従う義務を生じさせたり、統治機関の特例を設けたりするために必要な章立てを行いました。事後の議会による承認手続など歯止めを明文化しています。

 前文は憲法の基本理念を示す大事な部分です。国民主権・基本的人権の尊重・平和主義のいわゆる三原則は堅持しながらも、日本の歴史や文化、家族や国など共同体の尊重にも意を用いるべきことを謳っています。

 報道でクローズアップされている天皇の元首性については、純粋な法的論議に基づき、たとえ現在天皇が国政に関する実質的な決定権を持たなくてもその対内・対外的立場からして元首と言えると結論付けました。他の国民主権国家でも同様の位置付けとなっています。

 9条に関しては議論が白熱した部分です。自衛隊が海外では軍と扱われていることから欺瞞的な名称をやめ、軍と正面から位置づけるとともに、自衛権行使と国際平和維持活動、災害救援などの生命・自由保護の活動を任務として明確に定めました。田中防衛大臣が混乱した文民統制の規定も明確となるよう改め、軍事審判(特別裁判所にはあたりません)を設けました。

 集団的自衛権については概念が成熟していないことから今回の案には取り込んでおらず、自衛権の解釈となります。また、軍の名称は私は「自衛軍」を主張していたのですが(党の第一次公約にもこの名称が使われています)、英語にすると「Self-Defense Forces」となってあたかも軍が自らを守るかのような錯覚を呼ぶとの異論が出て、総裁裁定で「国防軍」と改まりました。

 国旗・国歌の規定についても諸外国では憲法の位置付けがあるもの、ないものがあって見解が分かれましたが、総裁裁定で憲法上書き込むこととなりました。

 基本的人権については、障害者の差別を禁止したり、犯罪被害者の権利やプライバシー権、環境権などの新しい権利を書き込みました。ただ、いわゆる国家からの自由を定める権利と国家に対して請求する権利を条文上書き分け、後者については国の責務という形で定め直しました。現行憲法が個人の尊重を至上価値としたため解釈が困難となった「公共の福祉」については、「公益及び公の秩序」と改めました。パターナリズムに基づく制約(深刻な、あるいは発達段階にある青少年の、自己加害の制限)、社会通念により形成された秩序への配慮などを読み取れるようにしたものです。

 在外国民の保護や選挙権の国籍要件なども定めました。

 なお、政党の活動の公正や政治活動の自由を定め、憲法尊重擁護義務の対象に明示的に全ての国民を含めたことは、今度の憲法草案が徹底した(アナーキズムを含めた)価値相対主義には立たないことを意味しています。寛容は必要ですがそれが破壊につながることに一定の警鐘を鳴らす必要があると考えます。

 内閣総理大臣が欠けた時の権限代行を規定したり、総理大臣の衆議院解散決定権や行政各部の指揮・総合調整権を明定したり、大臣が海外出張など職務遂行上特に必要がある時は国会出席しなくてよいなどの規定を整備しました。

 予算単年度主義の緩和、健全性の確保や、地方自治の規定の充実化と国・自治体の役割分担と協力関係も定めました。分権や道州制については条文上は盛られませんでしたが、今後進めていきたいと考えます。

 憲法改正要件については、その本質が主権者の国民投票であることから、その機会を極力確保するため発議要件を衆参それぞれの過半数と緩和することとしています。

 この他、判例上条文の明確化や実質上の修正が行われている部分についてはそれを取り入れました。政教分離の規定、公務員の労働基本権、裁判官の報酬の減額、私学助成の合憲化などです。

 このようにかなり詰めた検討をしてきましたが、首相公選制や二院制の問題については心残りがあります。
 前者については、国の実質的な代表である総理大臣が民意を背景に力を持ち、4年間なら4年間、腰を据えて職務に当たれる環境を整えることは必要だと思いますし、私の前回の選挙でもそれに極力近づけることを公約の一つに掲げていました。ただこれは当面党の総裁選挙のあり方などを工夫し、一般党員票の比率を高めるなどによって対応することを目指します。
 後者の二院制については私は堅持を主張していますが、権限も選出方法も衆参がほぼ同様の今のあり方には相当違和感を抱いています。ねじれ国会の解決や参議院の一票の格差論議とも関係します。例えば道州を基本とした中選挙区を検討したり、法案再可決要件を緩和して衆議院の優越性を強めること(ここは憲法改正案件)も是非踏み込んで欲しいところでした。

 いずれにせよ、他の野党も改正案を出しています。国会でしっかり議論をし、憲法改正要件の緩和など優先度の高いものを是非実現させたいと思います。

[改革とグローバル経済の灯]

 4月26日の創生日本の会議で、グローバル経済に異論を唱えているという京都大学大学院の中野剛志准教授の講演とディスカッションに臨みました。

 事前に同姓の柴山佳太氏との対談に目を通して臨んだのですが、さすがに分析が詳細で納得できる部分は多かったと思います。氏は構造改革とグローバル経済自体を悪と主張しているのではなく、デフレ下にあっては取るべきではないと述べておられたのが印象的でした。

 確かに高橋是清も恐慌の時に財政出動を行った後、景気が回復した局面では歳出削減を行っていましたし、米国でも不況時に民主党が政権を取って、財政出動と富裕層課税、保護貿易化を進め、好況時に共和党が政権を取って減税策を進めるのが常となっています。
 必要なのは、いつもこの欄で訴えているように、時代の変化に応じて国民が政策パッケージを掲げた政党を選べるようにすることであり、一つの政党が政権を取り続けて時代に応じて自らの判断で政策モデルをコロコロ変えることではないのです。

 私は労働組合の支持を受けている日本の民主党が、米国の民主党や英国の労働党のように、大きな政府を志向する政党となり、自民党は改革とグローバル経済を志向する効率的な政府を目指す政党になるべきだと考えます。無論、具体的には各種政策の検討の結果その中庸に落ち着くことが多いのだと思いますが、基本的な筋は見失ってはいけません。

 中野先生に「いつまで先生の政策を取り続ければよいのですか。」とお尋ねしたところ、「物価、失業率、長期金利、為替などを総合的に勘案することが大切です。プライマリーバランスなどで判断してはいけません。」と答えられました。実際の局面転換にはやはり選挙の洗礼が必要となるのでしょうが、しっかり細部にわたって検討していきたいと思います。

[大井、三芳の自民党支部総会]

 4月30日には自民党大井支部の、今夜は自民党三芳支部の総会が相次いで開催となります。政権奪還を目指し、地元から力強くエネルギーを発揮していだだけることと思います。ゴールデンウィークにもかかわらずご参加の皆様に心から感謝申し上げます。

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