重い障害ある子の入学先 文科省が「原則」を見直しへ
普通学校で学びやすく 本人と親の意向を尊重
障害のある子や親が「地元の学校でみんなと学びたい」「学ばせたい」と願っても、普通学校への入学は難しい場合が多い。国の決まりが、重い障害のある子は「原則、特別支援学校に行く」としているためだ。文部科学省は本年度中にも、この原則を見直す。子と親の願いがかなうかどうかをみた。 (世古紘子)
「京ちゃん、おはよー」
9月中旬の朝、名古屋市瑞穂区の住宅街。堀田小学校1年の林京香ちゃんに同級生の女の子が駆け寄った。京香ちゃんは筋肉が衰える脊髄性筋萎縮症で、人工呼吸器が欠かせない。母親の有香さん(37)が、京香ちゃんが横たわるベッド型車いすを押して通学路を一緒に歩いた。
京香ちゃんは今春、地元の学校に入った。障害児向けの学級ではなく、普通学級ですべての授業を受けている。クラスの一員として棒を使って窓を閉める係や給食当番を務める。1学期には体育で車いすから手作りの投球台でボールを転がしたり、父親の智宏さん(37)が支えて学校のプールで泳いだりした。
京香ちゃんのように障害のある子が地元の普通学校に通う例は多くない。学校教育法の施行令では、基準となる障害の種類と程度に当てはまる子は、特別支援学校に行くという原則があるためだ。希望しても普通学校へ行けるのは、市町村の教育委員会に設けられた就学指導委員会が「例外」と認めた場合などに限られる。親の付き添いが条件になることもある。
市民団体「名古屋『障害児・者』生活と教育を考える会」の川本道代代表(53)は「泣く泣く諦める保護者もいる」と明かす。
しかし、文科省の「原則」見直しで、これからは就学指導委員会に代わり、教育関係者や医師らでつくる「教育支援委員会」が入学先を判断する。
障害の程度や受け入れる学校の状況などを見ながら、本人と親の意向を最大限尊重するという。子と親にとって、普通学校は特別支援学校と同じ選択肢の1つになる。早ければ2014年度の新入生から適用する。
見直しの背景には、日本が批准を目指す国連の障害者権利条約がある。条約は障害のある子も無い子も共に学ぶ教育をうたう。国連に加盟する193カ国中、119カ国が批准しており、障害者の教育に詳しい筑波技術大の一木玲子准教授は「世界的な流れ」とする。
昨年度、特別支援学校に行くとされた小学1年生は約7700人。普通学校へ行ったのは、そのうち3割の約2200人だった。中央教育審議会で入学先を決める仕組みを検討した東洋大の宮崎英憲教授は「今より普通学校に行く子が増える」と見通す。
ただ、一木准教授は教育委員会が決める仕組みが残ることを懸念する。「これからも本人や親が直接、学校を決められないのは今と同じ」と指摘する。
普通学校に行く子が増えれば、学校の受け入れ態勢も大切になる。文科省は学習を手助けする教員の増員や、バリアフリー工事の費用を来年度予算案の概算要求に盛り込み、学校を後押しする。
周りの理解も欠かせない。「名古屋『障害児・者』生活と教育を考える会」には「普通学校に入っても先生の協力を得られず、子どもが疎外感を覚えた」という相談が寄せられている。なじめずに特別支援学校に移る子もいる。
京香ちゃんの場合、名古屋市は学校に看護師を置き、校舎にスロープを付けた。教頭は「不安は大きかったが、予想以上にスムーズに学校生活を送っている」と話す。それには担任の教員や教務主任らが週1回、京香ちゃんの親と、学級生活の工夫や体調について話し合うという取り組みに得るところも大きい。
堀田小では、子どもたちが車いすを押し、京香ちゃんに話しかけることが普通の風景になっている。智宏さんは「障害のある子が普通学校にいるのが当たり前になれば、違う人間を排除する気持ちは少なくなるのでは。そこから、だれもが共に生きる社会が育つだろう」と考えている。
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