Updated: Tokyo  2012/11/28 09:14  |  New York  2012/11/27 19:14  |  London  2012/11/28 00:14
 

【コラム】安倍氏のフェイスブックに「やだね!」ボタンを

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  11月28日(ブルームバーグ):自由民主党の安倍晋三総裁は、日本の産業界の象徴的存在であるソニーとパナソニックのジャンク級(投機的水準)への格下げに遭っただけでは不十分なのだろう。来月の衆議院選挙で首相に選出される可能性が高い安倍氏は、円相場でも同じことをするかもしれない。

それが日銀に無制限の緩和を迫る安倍氏の願望の行き着く先だ。だが、日銀に金融政策上での聖戦じみたことを迫る安倍氏の狙いは利益よりも害をもたらすだろう。

世論調査では12月16日の衆院選後に安倍氏が政権を奪還してもう一度チャンスを得る見通しが示されている。安倍氏が2006-07年に首相に初めて就任した当時の政権運営は平凡で、重点は教育と防衛問題に置かれていた。再び首相に就任すれば、デフレ終息に狙いを定めるだろう。安倍氏にとってそれは金融の蛇口を無期限で開くことを意味する。

安倍氏は日銀に革命をもたらすだろうが、それは役に立たない方法によってだ。首相就任となれば、日銀トップ3人を選ぶ機会も得ることになり、白川方明総裁をもっと従順な総裁に交代させるだろう。ただ安倍氏は一連の発言の中で、無知の一線を越えて財政上無責任とされる領域に踏み込んだ。

国債利回り急上昇

インフレ醸成に関心を示す安倍氏の姿勢は、先進国で最大の公的債務残高という日本のジレンマを無視している。安倍氏の望み通り日銀が素早く3%のインフレ目標をを達成したとしよう。日本の頼みの綱である超低水準の借り入れコストは押し上げられ、がたつく金融システムをつなぎ留めていた1%未満の債券利回りが急上昇すれば、日本経済は壊滅し、円は投げ売りを浴びる恐れがある。

急速に高齢化が進み、中国の台頭で競争力が衰え、官民ともにリスク回避ムードが広がる日本にとって、それはひどい結末だろう。円が無秩序に急落すれば誰の利益にもならない。昨年の大震災後の原子炉運転停止で石油輸入を増やす必要に迫られる日本政府にとってはなおさらだ。

日銀の世界に対する影響力も既に疑わしい。新たな景気刺激策を追加するなどしても、トレーダーはあくびする。中国人民銀行(中央銀行)のように、日銀が政治家に支配されるものにしてしまうことは解決策ではない。

逆行

安倍氏は少しペダルを逆に踏んでいる。政府の支出を支えるために日銀に建設国債の買い取りを求めたが、多くの日本ウォッチャーと衝突し、フェイスブック で真意を明確にした。これは日本の政治家としては異例の行動で、金融についての安倍氏の考えをフォローする多くのエコノミストに「いいね!」ボタンをクリックさせている。

安倍氏の提案に彼らが必ずしも実際に賛同したわけではない。鋭く反論した人たちの中には民主党の藤井裕久元財務相もいる。第2次大戦中の狂気と荒廃の中で育った数少ない政治家の1人である藤井氏(80)は先週、日銀が政府の戦費を賄うために国債を引き受けたことで、政府が愚かな戦争をすることを可能にしたと指摘。安倍氏が日銀法改正を望んでいることについて藤井氏は、改正することは中銀を政府の道具と位置付けていた1942年制定の旧日銀法の復活を意味するものだと付け加えた。

金融刺激策だけでは日本は再生しないと安倍氏と自民党は考えなかったのだろうか。デフレ は20年にわたる日本経済の低迷の原因ではなく症状であるという認識がほとんどないようだ。財政政策と税制を見直せばはるかに良い状況になろう。日本のバランスシート不況を終わらせるには、あらゆる方向から需要が増えるような新戦略が必要だ。

再び厳しい年

今後1年も世界経済にとって再び厳しい年になるだろう。欧州危機には終わりが見えず、米国の景気回復は鈍いペースで、中国は成長の下支えに苦慮している。2013年になれば、これほど不安定な環境で消費税を引き上げた野田佳彦首相は何を考えていたのかと首をひねるエコノミストも出てくるだろう。

日本の次の財務相と日銀総裁を一緒に部屋に入れて新しい道を要求してみてはどうか。日本の債務は既に経済規模の2倍強の水準にあり、巨額の公共投資で成長を生み出す時代も、金融刺激策が経済を窮地から救う時代も終わった。金融をてこにする方策は見直されなければならないし、経済の規制緩和についても同じことが言える。

安倍氏が休日に経済学の入門書を手に取れば、日銀を乗っ取ることを考え直すかもしれない。どう控えめに見ても、安倍氏の金融政策への執着は、不正確なアイデアを持って首相に再び就任するという厄介な問題の前触れだ。安倍氏のフェイスブックに「やだね!」ボタンがあればいいのだが。(ウィリアム・ペセック)

(ウィリアム・ペセック氏はブルームバーグ・ビューのコラムニストです。このコラムの内容は同氏自身の見解です)

原題:Facebook Needs a Dislike Button for Abe’s Ideas: WilliamPesek(抜粋)

記事に関する記者への問い合わせ先:東京 Willie Pesek wpesek@bloomberg.net

記事についてのエディターへの問い合わせ先:James Greiff jgreiff@bloomberg.net

更新日時: 2012/11/28 08:00 JST
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