同人ゲームの潮流(2) に行って来ましたよ。
同人ゲームの潮流(2) ~「ひぐらし/うみねこのなく頃に」に見るコンテンツとコミュニティ~ (DigraJ公開講座08年10月期)講師
竜騎士07(07th Expansion、シナリオ、グラフィック)
BT(07th Expansion、HP管理運営、スクリプト)討論者(質問者)
・有馬啓太郎(マンガ家、同人サークル「日本ワルワル同盟」主宰。代表作『月詠』)
・高橋直樹 (汎用ゲームエンジン「NScripter」制作者)
・七邊信重(東京大学大学院情報学環 特任助教)
・三宅陽一郎(ゲーム開発者、DiGRA JAPAN研究委員)司会:
・井上明人(国際大学GLOCOM 研究員/助教)
以下、メモを元にまとめました。質問の順序は適宜変更してあります。
また、回答者は竜騎士07氏とBT氏の両方が混ざっています。
内容の正確性は保証しませんが、転載などはご自由に。
■07th Expansion のスタッフの役割分担は?
主なメンバーは、竜騎士07、BT、八咫桜、dai、の 4 人。
それぞれの役割は
竜騎士07 : 代表、シナリオ、グラフィック
BT : Web、スクリプト、立ち絵表示差分
八咫桜 : メインスクリプト
dai : 音楽
■竜騎士07 氏の経歴&07th Expansion の歴史
1973 竜騎士07氏誕生
1985 中学校のパソコン部で BASIC を学ぶ
1988 高校入学。インターラクトクラブ入部。
1991 専門学校入学。CG を学ぶ。ゲーム会社の書類選考に落ち、学校を中退して民間企業に就職。
1993 公務員になる。同人活動開始
1998 同人サークルに所属。ファンタジー・青春物のゲームを作るが、サークルが潰れる。
2000 声優学校声優科の卒業講演を見て、それに感化され舞台脚本「雛見沢停留所」を書く。
07th Expansion を旗揚げし、Leaf Fight のオリジナルカードを頒布する。
その後、計 7 作品を出す。その経過で、4U 氏、BT 氏がファンになる。
2001 八咫桜氏が月姫を通じて NScripter の存在を知る。
2002 1 月に 07th Expansion Web サイト開設。担当は 4U 氏と BT 氏。
Expansion というのはカードゲームの拡張パックのことで、同時ハマっていた
マジック:ザ・ギャザリングの影響。
■BT氏の経歴
大学時代に TRPG のサークルに入部し、冊子を作って発表する目的でコミケに参加した。
その頃から Leaf Fight にハマり始める。
たまたま竜騎士 07 氏のイラストが目に入り、サークルスペースを訪ねたがカードは売り切れだった。
後日送ってくれるということで、その場で住所を教えて送ってもらった。
そして、やりとりをしているうちに、竜騎士07 氏のサークルの手伝いをするようになった。
当時の Leaf Fight 系のサークルの中では、かなり目立つ存在だったと思う。
■日常生活の体験がゲーム作りに影響している?
非常に影響している。特に大人のキャラには、モデルがいたりする。
ひぐらしの大石 蔵人は、職場の先輩がモデルだった。「よいお年を」が口癖だった。
公由 喜一郎についてもモデルがいる。
■ノベルゲームを作ろうとした理由は?
Leaf Fight などのカードゲームの活動はそこそこ楽しめたが、次に何をやろうかと考えていた。
その頃、八咫桜が月姫にハマっており、自分たちでもノベルゲームを作りたいと言い出した。
雛見沢停留所のボリュームを分厚くすれば、サウンドノベルになるのではないかと考えて作り始めた。
■ヒットしたという実感の分岐点は?
Web で体験版を公開した後。そこから急に評価されるようになったと感じた。
頒布数は、C62 の鬼隠し編が 50 部、C63 の綿流し編が 100 部、C64 の祟殺し編が 200部。
2003 年冬コミ(C65)で 500 部完売。その次の暇潰し編は頒布部数が読めなかった。
竜騎士07 氏は 1000 部で十分と言い、BT氏は 2000 部は必要と主張。
結局、間を取って 1500 部、のはずが何故かちょっと弱気になって 1400 部にした。
暇潰し編(2004年夏)の後で、ホビボックスの高宮プロデューサが、
ひぐらしをドラマCDにしたいと言って名刺をくれた。
当時は「どうせ、他のサークルみんなに名刺を配ってるんだよ」と本気にしなかった。
他のメーカから声をかけられるようになったのは 2004 年冬~2005 年春あたりなので、ホビボックスが突出して早かった。
■選択肢の無いひぐらしはゲーム? 竜騎士 07 氏にとってのゲームの定義は?
ゲームとは、コミュニケーションツールであるべきだと考えている。
その考えに則れば、インタラクティビティが無くてもゲームとして成立する。
例えば、小説は最後まで読めば答え(犯人)が分かるが、ひぐらしは最後まで読んでも答えがわからない。
ゲームは、ユーザ同士で考えの違いを語ることができるネタでなければならない。
たとえアクションゲームであって、誰がプレイしても「正解」が一つであればゲームではない。
RPG であれば、ラスボスを倒すためのパーティがある固定メンバーでなければならないのであれば、
友人との議論の余地が無いのでゲームとは言えない。
■ひぐらしをコミュニケーションを中心に据えた「ゲーム」にすることは最初から意図していた?
意図していた。
ひぐらしに影響をあたえたのは「八つ墓村」と「ブレアウィッチプロジェクト」であり、
特に後者は映画だけでは完結しないのが特徴。
■どのようにしてコミュニティを形成しようとしたか?
ゲーム中のお疲れ様会・お茶会の中で「あなたの推理をBBSに書き込んで下さい」といった具合に誘導している。
また、その中でリンクをクリックすると Web サイトに飛ぶようになっている。その仕様は最初から意図されたもの。
■コミュニティの管理・運営について
一番力を入れたのはBBS。
ユーザが気持ちよく議論できるようにした。
また、ユーザからのイベントの提案などを取り入れたりしていった
■複数のBBSがあるが?
既存の掲示板のシステムを改造している。
イラスト描きと文字書きでお互いのコンテンツにリンクしたいなどの要望にも応えていった結果、
ユーザ同士の交流が盛んになった。
■コミュニティの運営においてトラブルはあったか?
細かいトラブルは多い。
ただ、作品が好きで集まった人たちなので、多少のトラブルがあっても拡大するといったことはなかった。
■コミュニティの人数・質について
コミュニティのユーザの人数、アクティブユーザの割合などは把握していない。
規模が大きくなると、同人に詳しくないユーザが増える。
「うみねこの新作はお父さんに買ってもらうことになっています」という書き込みを見て衝撃を受けた。
■最初に作品を発表した際に、どこまでの展開を考えていたのか?
ひぐらしは、最初は一年で完成させるつもりだった。当時は自分の執筆速度を過信していた。
実際には、綿流し編の後あたりから終わりが見えてきた。
■ヒットしてプレッシャーになったことはあるか?
もちろんプレッシャーはあるけど、嬉しいことのほうが増えた。
一番辛かったのは目明し編の頃。
その頃に初めて、完成前に同人ショップが予約を取るということを始めたので。
予約開始時には未完成だというのが、プレッシャーになった。
■作品の完成と締め切りについて
作品を作る上で大事にしていることが二つある。
それは「クオリティ」と「納期」。
良いものを作るためには時間を浪費してもいいという風潮があるが、
良いものをコンスタントに出し続けるというのが大事だと思っている。
そういう意味では、C65 で新作を落としたのは今でも残念。
落としてしまったので、同人専業にしないとダメかなと思った。
逆に、ひぐらしの後で休養せずに、うみねこを出せたのは誇らしいと思っている。
コミケで毎回出すことが大事。
ユーザは、コンスタントに作品が出てくることを期待している。
間が開いてしまうとユーザも情熱をキープできないのではないだろうか。
マンガなどは連載で定期的に出るから成り立っている。
単行本のみだと、次の単行本が出る頃には内容を忘れているかもしれない。
■締め切りのためにクオリティを下げざるを得ない場合も考えられるが?
クオリティを下げなければいけなくなった時点で、納期設定に問題があると言える。
時間と予算が無限にあれば、クオリティが上げられるかもしれないが、
だからといって、そのほうが良い結果が出るとも限らない。
瞬間火力と継続火力という二つの考えが必要。
コミケでも、体験版を発表するが完成版が出来ないというサークルは多い。
それによって、ユーザも「完成したら買う」という態度を取らざるを得なくなる。
ひぐらしが(頒布している物が体験版ではなく)連載物である、と認識されるまでにもかなりの時間がかかった。
■竜騎士07 氏にとって、同人とはどういったもの、どういった場所か?
同人と商業の違いは、外から見ても識別するのは不可能に近い。
それらの違いは、コンテンツそのものではなく、作る過程・出発点の違い。
どういうことかというと、商業なら当然ながら売れることが第一目標であるが、
同人は面白いから作る。つまり、優先順位が逆。
自分が作りたいから作る、といったように自己主張が強いのが同人である。
出来上がった作品だけ見て区別するのは無理。
作品だけじゃなくて、掲示板の運営も含めて楽しさが第一。
同人の場合は、飽きたらやめてしまうこともある。
また、同人ソフトは同人誌即売会などのイベント、あるいは同人ショップでしか手に入らないので
商業に比べると、入手の敷居が高い。
基本的には、作ったらそれでおしまい。
どうやって売るのかは考えてないし、積極的な宣伝もやらない。
営業や流通といった概念はあまり存在しない。
■コミケがあるから流通に力を入れなくてもいいということか?
十年前などと比べると同人ソフトは、かなり流通しやすくなっている。
コミケや同人ショップのおかげで、入手は格段に容易になった。
ただ、営業する暇があったら、新作を作りたいという開発者もいるので、
そもそも流通に力を入れるつもりがない場合もある。
■同人誌と違って(立ち読みでは)中身がわからないものをどうやって頒布していったのか
同人ソフトの場合、Web 上で体験版を頒布することができる。
ベクターなどの、フリーソフトの配布サイトにアップロードしておけばよい。
ただし、ひぐらしは、最初の 3 本が完成するまでは体験版を公開していなかった。
Web 体験版を頒布するまではほとんど反応がなかったが、
BT氏が Web 上での体験版の公開を勧めた。
そしてブログなどの口コミで広がっていった。
仮にひぐらしが出るのが 10 年前でも 10 年後でもこんなにヒットしなかったはず。
ネットのおかげで、たまたま現在時流に乗ってヒットしたのではないか。
■一般に同人ゲームサークルはどういった経緯で結成されるのか?
個々のサークルそれぞれで経緯は違うのではないか。
昔は、近所の仲間同士で結成されることが多かったと思うが、
最近は、ネットを利用してサークルが出来ることもあるようだ。
■同人の場で学んだことは?
「愛のある二流は、愛のない一流に勝る」ということ。
愛がないと面白いものは作れない。
初対面の人に会った際には、その人の過去の実績よりも情熱を重視している。
同人の世界は情熱で成り立っている。
もちろん、中には情熱だけで能力が無い人もいるが......。
■商業と同人で口コミの影響力は違うか?
正直、よくわからないが、おそらく違いはないのではないか。
ただ、同人は事前の宣伝告知がないので、割合として口コミが高くなるのではないか。
■同人は創作欲求主導なので、買い手も応援したいという気持ちが強くなるということか?
どうだろう?
自分が好きなゲームがマイナーだと、友人に話す・教えるのが楽しい。
大ヒット作品だと、面白さを語っても「そのゲームが面白いのは知ってるよ」といった具合に話が進まない。
「○○っていうゲームが面白いよ?」「何それ?」といった会話で広まっていく。
■コミケには他にヒットした同人ゲーム・面白い同人ゲームは存在するのか?
コミケに行って実際にスペースを見てみれば、ひぐらしや東方を越えるような作品はある。
極端な言い方をすれば、たまたま、ひぐらしや東方などがヒットしただけとも言える。
知名度が低いせいで、他の同人ゲームが「つまらないのかもしれない」とユーザに思われるのは悲しい。
一部の大ヒット作品以外が蔑ろにされるというのは、インターネットによって価値観が統一されすぎたことによる悲劇かなとも考えている。
下手をすると、ゲームに触れずに「今このゲームが面白いらしい」という情報だけが独り歩きしがち。
こういった、情報・価値観の集約が起きているが、自分の足でコミケなどの新作を見て回って欲しい。
■同人ゲームと商業ゲームのプレイの体験の違いは?
同人は、個人の機嫌だとか好みで作品の出来が左右される。
プレイヤーからの感想は欲しい。初期は送られてきた感想の全てに返信していた。
うみねこでは、ユーザの推理を受けて次の作品で反論するという形でコミュニケーションを行っている。
■同人と商業の分岐点は?
数字(売上)の問題ではない。仮に 100 万本売れても、同人として作っていればそれは同人である。
■職業同人という言葉があるが
個人的には、好きなものを作るのが同人なので、たとえコミケで発表していても、
売上が第一目標であって、自分の好きなものでないもの作っているのであれば、
それは職業同人なのではないか。
■ひぐらしと同様のヒットの流れを再現することは可能か?
難しいのではないか。
確実にヒットするやり方があるのであれば、むしろ教えて欲しい。
■同人ソフトジャンルはビジネスの視点をもった人が多いか?
ある一定以上の頒布数になると、同人ショップの事前予約が行われたり、
プレス工場のラインを確保してもらったり、といったことが発生する。
その結果、社会人としての振る舞いが求められる。
ひぐらしデイブレイクで一緒に活動した黄昏フロンティアも自己管理が出来ているサークルだった。
スケジュールなどもしっかり立てている。
逆に、そこまでの域に達していないと、作品を発表できないのではないのかもしれない。
大きな夢だけではなく、社会人並みのスケジュールが求められている。
■NScripter について
07th Expansion にはプログラマがいないが、NScripter のおかげで BASIC 程度の知識で
サウンドノベルを作ることができた。
NScripter のおかげで、月姫で行われていた演出を、自分でも実現可能ということが分かって
いたのでひぐらしを製作することができた。
今度は、みなさんに、NScripter を使えばひぐらしと同様の演出が出来るんだと分かってもらって、
ノベルゲームを作ってもらいたい。
■ベーシック・マガジンについて
当時はファミコン禁止だったが、父親がパソコン好きだった。
ベーマガと PC8001 で遊んでいた。
自分にとって、ゲームは遊ぶものではなく、作るものだった。
当時の信長の野望は、マシン語と BASIC で作られていたので改造が容易であり、
それらの改造しながらプログラムを覚えていった。
■NScripter に求める機能はある?
スクリプトバグがあっても、それを無視してゲームを継続するような機構があると嬉しい。
■サウンドノベルについて
これまでは、作品を発表したくても技術が無いせいで発表できないことが多かったと思う。
現在では、昔に比べるとより多くの才能のある人が発掘されるようになった。
サウンドノベルは、ゲーム・アニメ・漫画・小説の中間の新しいメディアなのではないかと考えている。
既存の娯楽のいいとこどりをした、一番作りやすいメディアなのではないか。
残念ながら現時点では、サウンドノベルという媒体はそこまでの注目は受けていないが、
いつか、新しいメディアとして確立するのではないかと考えている。
■サウンドノベルのボリューム
ひぐらし一編のテキスト量は、当時のライトノベルの 3 冊分程度らしい。
なので、ひぐらし全体だと、20 冊以上の分量ということになる。
最近のサウンドノベルは、ボリュームが多いのが良いとされていて、短い作品を出しにくい。
■サウンドノベルのボリューム・インフレは、奈須きのこの影響を受けている?
Leaf/Key の時代からだと思う。
TYPE-MOON だけがボリュームインフレーションの戦犯ではない。
ただ、ビジネスの観点から言うと、現時点では、短編の作品の値段付けは難しいかもしれない。
まだそのあたりは模索段階だろう。
■新規スタッフを募集するならどういった人が欲しいか?
情熱が一番大事。次に、社会経験が 3 年以上ないとダメ。
自己主張ばかりしていて、組織として動けない人はダメ。
案外、自分が何を好きなのかということは分かっていない人が多い。
「ゲームが好き」と言っても、「ゲームをプレイするのが好き」なのか
「ゲームを作るのが好き」なのかの違いがある。
本当にゲームを作るのが好きなら、ゲーム会社に入社する前に自らゲームを作っているはず。
ゲームを作ることよりもプレイするほうが好きなら、普通の会社で働いたほうがいい。
■ユーザに希望することは?
ひぐらしや東方などの有名作品以外はやらないというユーザが多いが、もっといろんな作品に触れて欲しい。
コミケで「ひぐらしだけのためにコミケに来た」と言われると、逆に寂しい。
壁サークルだけはなく、島中を巡って欲しい。
同人だけではなく、商業作品も同様のことが言える。
ゲームの中で冒険するだけではなく、面白いゲームを発掘するという冒険をして欲しい。
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