【フィギュアスケート】NHK杯優勝の浅田真央。フリー失速にも取り戻した自信
webスポルティーバ 11月27日(火)11時43分配信
今季初戦のグランプリ(GP)シリーズ第3戦の中国杯で実に4季ぶりのGPタイトルを手にした浅田真央が、ファイナル進出が懸かったGP最終第6戦のNHK杯でも4年ぶり3度目の優勝を手にした。シーズン前には「少し不安」と口にしていたが、今季GP2勝を挙げてGPファイナル進出を果たした。
フリーで4つのジャンプでミスを連発しながらも、トップの演技構成点をマークして逃げ切り、フリーで自己ベストの126.62点を出して1位だった鈴木明子をわずか0.05点差 でかわしての優勝だった。浅田本人は「悔いの残る試合」と振り返ってファイナルに向けてまた宿題を作った形だ。
一方、佐藤信夫コーチは「今回はミスが続きましたが、かなり練習を積んできましたし、またこれがいい刺激になったと思います。もう1度、一からたたき上げていけば、少しは形になっていくのではないかと思っているので、いい勉強になったかと思います」と手応えを口にしていた。
昨季までの2シーズンは、ジャンプの修正をはじめ、スケーティングスピードをつけるなど新たなことにも取り組んだことで思うように調子が上がらず、世界選手権は2年連続で6位に終わっていた。大好きなスケートを一時は辞めようとさえ思ったというが、このシーズンオフにはスケート人生で初めて長期間リンクから離れて心身の休養にあててリフレッシュし、「やはり自分にはスケートしかない」と再びスケートに向かう気持ちを取り戻した。
そして迎えた今季は、一番輝いていた自分を取り戻すべく「向上を目指す」というテーマを掲げてスタート。ここまでの2戦を振り返ると、「スピードをつけながらジャンプをクリーンに跳ぶ」という課題が浮き彫りになった反面、佐藤コーチとともに取り組んできたことが成果となって表れつつあるようだ。
本人もその手応えをしっかりと見極めていた。 今、歩んでいる道のりを登山に例えてみたらどこかと尋ねたところ、浅田はしばらく考えてからこう答えた。
「5合目ですね。前の2シーズンは自分の結果も演技も技術もなかなか不安定なままで、納得いく演技ができなかったんですが、ようやく今シーズンになってまずまずの滑り出しでちょっと復活してきたかなという兆しが見え始めているところです。今シーズンはこうしてファイナルに行くことができているし、自分がやってきたことが力になっていると思っているので、そういった部分でそう思います。ソチ五輪までのもうあと半分、自分の技術を取り戻す完全復活まではもうちょっと時間がかかるかなと思っています」
指導して3シーズン目となる佐藤コーチも同じ考えだった。
「スピードに乗ったまま大きく立派なジャンプを跳ぶようにしようと努力していますが、過去からの習慣で、スピードを殺して何とかまとめようとして回転が不足ぎみの状態で降りてくるので、それだけは絶対にしないように、何とかクリアなものにしていきたいです。ただ、この課題を克服するにはまだまだ道半ばかなと思っています。スピードが出れば出るほどちょっとした狂いが表面化してきますから、スピードを何とかしようと無理に頑張らなければいけないという心理的な影響からミスが出て、ジャンプで俗にいうパンクという状態(不発)につながってしまう。自分で感覚的には分かっているつもりでも、自分で自分に裏切られることがあるので、もう少し繰り返し、繰り返しの練習が必要だと思います」
NHK杯で見せた浅田の滑りは、確かにこれまでに比べるとジャンプを跳ぶ前のスピードが落ちなくなっていたように思う。本当にソチ五輪までに浅田や佐藤コーチが目指すジャンプが仕上がれば、演技構成点で高得点を計算できる浅田にとっては、台頭するロシアの有望な若手勢らとの勝負にも簡単には負けないはずだ。実際、中国杯では昨季世界ジュニア女王でロシアの新星ユリア・リプニツカヤに、ショートプログラム(SP)でトップを譲ったものの、フリーの演技構成点で7点近い大差をつけて逆転優勝をさらっている。
NHK杯でも、SPでは上位勢が3+3回転の連続ジャンプを跳んできているのに対して、浅田は武器のトリプルアクセルはもちろん、他の選手が得点稼ぎで跳ぶ3+3回転の連続ジャンプも跳ばずに、技術点も演技構成点もただ1人30点台をマークして今季世界最高の67.95点の高得点を叩き出している。
これは安定したジャンプに加え、ステップやスピンもレベル4という高い評価を受けたからだ。これには、これまで浅田がこだわって跳び続けてきたトリプルアクセルを跳ばないという選択をしたことも影響しているだろう。あまりにもトリプルアクセルに固執しすぎたせいで、他のエレメンツ(要素)が疎かになっていたことを見直した策でもある。
浅田もそのことについてこう語っている。
「トリプルアクセルを入れないことで、この2試合はSPで安定しているので、このベースは崩したくないと思っています。もちろん自分としては、やっぱりトリプルアクセルに挑戦したい気持ちはあるので、今シーズンどこかの試合で間に合わせて早く跳べたらいいと思っています」
浅田自身は跳びたいという気持ちを持ち続けてはいるが、15歳の時のような完璧な状態になるまでは、今後もおそらく試合には組み込まないだろう。佐藤コーチの下で22歳になった浅田は、勝負にこだわる戦い方がどういったものなのか、そしてフィギュアスケートの本質が何かを学び、大人の判断ができるようになった。もう「真央ちゃん」と呼ぶよりも「真央さん」と呼ぶほうが相応しい。
12月6日から始まるGPファイナルには、勢いに乗っているワグナー(米国)とコルピ(フィンランド)に、トゥクタミシェワとリプニツカヤのロシアの若手2人と、ソチ五輪のプレ大会を思わせる顔ぶれが集う。五輪を占う一戦にもなりそうだ。
「NHK杯と同じ失敗は繰り返さないようにする。SPとフリー、ジャンプとスケーティングと、ファイナルでは両方ともそれぞれきちんとやりたい」
失っていた自信をやっと取り戻したシーズンになりそうだ。
辛仁夏●文 text by Synn Yinha
最終更新:11月27日(火)11時43分
記事提供社からのご案内(外部サイト)
ロンドン五輪総集編&速報 |