2009-10-02
■[鉄道系 ヒマネタ]参加者が伸び悩んだ会津鉄道「あいづコストレ」と地域活性化への「努力」
ここ2週間ほど、ずーっと僕の心を捉えて放さない臨時列車の企画があった。
その名は「あいづコストレ」(「「あいづコスプレ・トレイン」」とも)。会津鉄道が企画した列車だ。当該HP(http://www.costrain.com/index.html)だと、
とある。
というイベントなんだとか。
この企画。初めて聞いたときから、なんか怪しい臭いがしていた。
ナウなヤングの間で「コスプレ」なるものが流行っていて、しかも「鉄道ブーム」やら「歴女ブーム」やらで、なんか世間は盛り上がっているらしい。おらが鉄道の活性化のためにもぜひ「コスプレ・トレイン」をぜひ成功しなければならない。そんな企画者の意気込みだけは理解できた。
ただ、
- そもそもなぜ大都市から離れた会津でコスプレイベントをするのかよく分からない
- 手狭な鉄道車両でコスプレイベントって、振動や騒音で参加者にご迷惑をかけるだけでは
- しかも、コスプレの世界ではメジャーじゃない「時代物・和物系」というくくりでの限定ってどういう意味?
- そんな悪条件で、コスプレで参加2000円、撮影で参加3000円って高くないか?
とか謎も多い。
以下、その実態をまとめ。「鉄道むすめ」と「萌え」で誘客活動をしている三陸鉄道の不思議。 - とれいん工房の汽車旅12ヵ月に続き鉄道@オタク話です。
イベントの2日前に新聞で告知されても遅いですヨ
あいづコストレのHPを見ると、「2009.9.1ホームページ開設しました」とある。秋葉原のコスプレグッズ専門店や県内の鉄道の各駅にチラシを配布していたらしいが、あまりにも地味すぎる活動だったのだろう。
地元紙福島民友は9月4日に「27日に「コスプレ列車」運行 時代物姿で史跡巡り」という記事を載せ、大石直社長の「イベントを通じて世界的な文化となったコスプレの応援と会津の活性化に一役買いたい」というコメを載せているが、他紙は続かなかった。僕の巡回範囲で紹介されていた記憶はないが、「会津鉄道にコスプレ解放区誕生!? フリーきっぷ付き「あいづコストレ」開催 | 旅行 | マイナビニュース」とネットメディアでHPの内容そのまま紹介されていたらしい。
僕が知ったのはこの記事から。
コストレをPRする会津鉄道の社員 会津鉄道は27日、列車の車内や沿線の観光名所をコスプレ愛好者の撮影スポットとして開放するユニークなイベント「あいづコストレ」を始める。
利用客の落ち込みが続くなか、会津鉄道と沿線地域の活性化を図るのが目的。同社の大石直社長は「コスプレトレインと言えば会津、と言われるほどのイベントにしたい」と張り切っている。
コスプレ列車登場、沿線に史跡いっぱい会津鉄道読売新聞2009.9.25
会津鉄道(福島県会津若松市)は、戦国武将にあこがれる女性「歴女」らに意中の人物に扮してもらい、自慢の沿線の名勝を歩いてもらう「あいづコスプレ・トレイン」を27日に運行する。
「歴女」の散策、コスプレで 会津鉄道が専用車両朝日新聞2009.9.25
この2紙の記事を読んで驚いた。
続いて、9月25日夜にこのHPを見に行くと、
- 本日23時までに申し込めば登録料が半額になる
と一文があった。
ということなのか。
でも、直前になってプレスリリースして大手紙でアピールしても遅杉。金曜日に新聞やネットでこの記事を読んで、その日曜日に会津まで出かけようかという人がどれだけいるのか。コスの準備って時間がかかるし、急に思い立ってできるものではない。お役所系イベントにありがちな場当たり的対応である。
当日の結果はどうなったのか。非常に気になっていたのだけど、当日も翌日もなかなか新聞サイトでアップされなかった。ブログでの報告もない。大手掲示板などにも書き込みがない。
はたして、企画は成功したのか。参加者はいたのか……と、心配していると、
この日は、県内外から20人が参加。土方歳三や高杉晋作など歴史上の人物のほか、アニメのキャラクターやオオカミの着ぐるみなど様々な格好をした参加者が、駅前や大内宿で思い思いに撮影を楽しんだ。
新選組もオオカミも…「コストレ」で会津満喫読売新聞2009.9.28
「コスプレ」で会津の旅満喫 会津鉄道が専用車両福島民友2009年9月28日
20人か……。
懸命のアピールも効果なしだったようだ。
あまりにも無謀な企画だった「あいづコストレ」の目指すところ
この9月27日のイベント。書いた新聞記者自身が、どういう主旨のイベントか理解していないっぽいし、読んでいても分かりづらいところがあるが、
- 西若松―会津田島間でキハ8500系2両が3往復
- 2両編成のうち1両をコスプレ愛好者専用。「コスプレ解放区」とし参加者が区間内を自由に乗降できる
- 「コスプレ解放区」では鴫(しぎ)山城址や大内宿など4か所で撮影可能
- 特別列車の車掌アナウンスは、戦国BASARAで伊達政宗役の声優、中井和哉さんが務める
ということだったらしい。
HPの注意書きとかを見ていると、コスプレイベントの運営会社かスタッフに知恵出しを頼んでいたのかなあという雰囲気はある。わざわざ有名声優さんまでアナウンス要員として呼んでいるし、その点では完全なシロウト仕事ではなかったのだろう。撮影スポットについては、地元自治体のアレンジなんだろう。役所の人が休日出勤して整理にあたるのか。
もちろん彼らはボランティアではないだろう。商売なんだから、企画協力の会社と声優さんにはなんらしかのカネが会津鉄道から支払われるんはず。
でもなあ。
という組み合わせで、なんで成功すると思ったのか。理解に苦しむ。企画が目指すところがイマイチ理解できない。
上の新聞記事から読み取れるのは以下の通り。
- 昨年、トロッコ列車を使った仮装イベントを開いた際にファンから「愛好家が時代衣装で思いきり歩ける場所が欲しい」と相談された
- 「コスプレ」は以前から、活性化イベント案の一つにあがっていた
- でも、アニメのキャラクターやメイド服といったイメージが強く、鉄道との結びつけ方を具体化できなかった
- 伊達政宗を主人公にしたゲーム「戦国BASARA」や歴史好きの女性「歴女(れきじょ)」などの歴史ブームが到来
- 社長自らが「沿線には本物の史跡がたくさんある。歴史物のコスプレならぴったりなのではないか」と提案
嗚呼、思いつきでやったのか。
コスプレをある程度見聞きしているものなら、大都市以外で「時代物・和物系」限定のコスプレイベントをすること(しかも撮影に不向きな鉄道車両で)自体が無茶だと誰でも想像できる。そんな需要なんてどこにも存在しないから。
というか、コスプレイベントで300人も集まるのって、大都市以外でいくつあるんだろうか。 まあ、
- コスプレの王道であるアニメ・ゲームのキャラクターやメイド服といったコスチュームは鉄道会社の企画に馴染まない
- というか、アニメやゲームのコスプレをした人たちが一般車両を行き来するのに抵抗感があった
- 歴史物のコスプレならまだ許容範囲
というような議論があったんだろうな。時代祭風の歴史的な衣装をすることがオトナが理解できる限界だったんだろう。
当日の反応は、企画側の人がブログで報告していたのと、中の人の「ネコ駅長「ばす」の日記」で、
全く初めての試みで手探り状態、いろいろ不手際もありプレーヤーに真に楽しんでいただけたか心配であったが、帰り際には「また来ます」、「続けてください」と逆に激励を受けた。今回は20名程度と少なかったが、次回に向けロケスポットの選定、開催日、開催時間、報道規制、料金などなど全面的に見直し(後略)、あいづコストレ
とあったぐらい。料金は……やはり高杉だよなあ。
「報道規制」ってほどたくさんマスコミは来たのかもしれないけど、コスプレイヤーで部外者に写真を撮られたくない人っているもんなあ。そこからして何かがズレている。
鉄道マニアの間でも、コスプレ好きの間でもスルーされてしまったイベントなんだけど、読売新聞には「自分は鉄道が好きで、姉がコスプレ好き。ぴったりのイベントでした」と語る参加者が1人いたんで、まあそれは良しとしましょう。
「自分たちは地域活性化のために一生懸命努力しています」
と、いうわけにも行かないのは、企画をした会津鉄道の方だ。
当初、300人規模の参加者が、駅構内や列車内、そして街中4箇所を動き回るということになっていた。
それだけのイベントを動かそうとすると、会津鉄道側のスタッフでも専門で十人以上はいるし、ロケ地4箇所では地元自治体の役人とかもそれなりに配置しないとマズい。
しかも、コスプレ好きが見ても鉄道マニア的視点でも、もともと企画自体に無理があったこのイベント。上の記事によると、言い出しっぺは会津鉄道の大石直社長本人らしい。
社長自ら企画したとPRしたイベントが、率直に言って大失敗した。
民間企業なら、下調べの段階で企画倒れに終わってしまう。トップダウンでやったからこそ悲惨さがまた際だつ。
大石社長は
「会津地域の鉄道は、移動手段としての需要が少ない。だから、列車に乗ること自体を楽しんでもらうことで、利用客の増加につなげたい」
と語っている。その危機感から、他鉄道の二番煎じながら、ネコ駅長「ばす」を用意したり、トロッコ列車を走らせたり、会津鉄道サポーターズクラブを募集したり、生き残りを図っている。そして、ヨソにはないオンリーワンを狙って「あいづコストレ」を企画した。
その努力を評価する向きもあると思う。
地方紙やローカル局で紹介されたんだし、それでよし、と納得しているのかもしれない。
でもなあ。このイベント。
イベントをすること自体が目的化していたからこそ、20人しか集まらなかったのではないか。
まあ、今回、会津鉄道のコスプレ列車という企画がアレだったんで、ネタにさせてもらったんだけど、第3セクター鉄道が企画する集客策って、本来の目的である
- 観光客誘致
- 非定期客の掘り起こし
という文脈から外れた変化球が目立つんだよね。それは、萌えで鉄道活性化に繋げようとしている前回の三陸鉄道でもそうだし、他の所でもそう。お客さん集めよりも、
ということをアピールしたいだけなんだよね。
誰にアピールしたいのか?
そりゃあ、決まっていますよ。大赤字の第3セクター鉄道会社の存廃を決め、お金を出してくれる県庁のエライさんに対して。マスコミが取り上げてくれるぐらい注目を浴びることをやっていますよ、と。
その発想には、地元客も観光客も含めて、利用者は不在である。だから、こうしたミスマッチが生じてくる。
これは、別に第3セクター鉄道に限らない。商店街の活性化でも、観光スポットの集客でも、エコツーリズムでも、工業団地への企業誘致でも、なんでもそう。自治体系のイベントって、「努力」していることをアピールすることに終始してしまっている。「努力」が目的化している。目指す方向がなんなのかが置き去りにされている。財政破綻した夕張市なんて、まさにその象徴だよね。
そうしたところに人的資源や税金を投じるのって、やっぱりおかしいんじゃないのかなあ。
ちなみに、「あいづコストレ」。この後も「イベントは毎月続ける方針だ」というとこらしい。
その割りには、イベント後、会津鉄道のHPトップから「あいづコストレ」のHPへのリンクは切られている。二度目、三度目があるなら2、3ヶ月前から準備し、告知しないとマズいだろう(今回もイベントの3週間前に初めてHPに載せたというのは遅杉)。このまま幻のイベントとして消えていくのか、あるいは何か妙手を打って大成功へのきっかけとなっていくのか。ここらの場当たり的なところがお役所仕事だなあと思うのだけど、それはまた別の話。
<追伸>
戦国BASARAの政宗&幸村も!1万人が参加した京都・太秦戦国祭り - はてなブックマークニュース
こういうイベントをしたかったんだろうなあ。たくさん集まれば華はある。